イベントレポート

世界最大の映像機器展示イベント「NAB Show 2024」レポート

シネマカメラがブロードキャスト対応に 個人デバイスもIP対応などで進化

NAB2024は世界最大級のコンベンションセンターであるLVCCで行われた

全米放送事業者協会(National Association of Broadcasters)が主催する「NAB Show 2024」が米国ネバダ州ラスベガスコンベンションセンター(LVCC)において4月13日(土)~17日(水)に開催された。同コンベンションは映像関連機器が一堂に集う世界最大の放送機器展となっている。

今回のNAB Showは、残念ながらLVCCが工事中で、ノースホールとサウスホール上下の奥半分を省いた変則的開催となった。開催面積としては昨年の3分の2程度。その分、セントラルホールやサウスホールを中心に、みっちりと詰まった中身の濃いコンベンションとなった。

残念ながらLVCCは工事中で、通常の2/3程度の開催面積であった

とはいえ、そもそもLVCCは世界最大のコンベンションセンターの1つであり、多少開催面積が減ったとしても、1日では回りきれないとんでもない規模である事には変わりが無い。

各ホールの内訳は、セントラル、サウス上、サウス下、および中央通路がクリエイティブ関連、間の広場が機材実演、ウェストホールが放送伝送機器類とネットワーク機器類という構成で、1,300ブースを超える企業参加があり、事前登録で約6万人規模の人々が世界中から集まった。

久々に屋外展示も再開されたが、まだごく一部の実演展示と昼食スペースに限られており、コロナ禍からの本格復帰はもう少し先になりそうだ。

屋外展示もコロナ禍から復活! とはいえ、主に売店がメインで、それに加えて事前申請で一部の機材の実演が出来るという扱いであった

コンベンション全体の雰囲気としては極めて良好で、去年までの皆がコロナを我慢して無理矢理に開催している雰囲気はまったく無く、ごく自然に笑顔が溢れる展示会となっていた。去年の秋口まで街に蔓延していた大麻もすっかりなりを潜め、大麻特有の臭いはごく一部の治安が悪い場所でのみ嗅ぐ状況となっていた。

シネマ機材のブロードキャスト応用

今回の最大のムーブメントはシネマカメラのブロードキャスト対応で、以前からこれに取り組んでいたSONYの大判センサーシネマカメラ「VENICE2」を初めとして、Blackmagic Designのフルサイズシネマカメラ「Blackmagic URSA Cine 12K」「PYXIS 6K」、ARRIの「Alexa 35 Live」、Angenieuxの低価格帯シネマレンズ「EZ3」など、多くのシネマカメラやシネマ機材がNAB2024に展示されていた。

また「Cine Central」と題したシネマ機材専用の広大な実演展示エリアを用意するなど、NAB公式としてもこのシネマ機材のブロードキャスト応用については強くサポートをしている状況が見られた。

Cine Centralは新しい試みのブースだ。各社からのミニブースが並び、実機を試しながらの機材展示となっていた
SONYブースは活況で、シューティングスペースには例年通りにVENICE2などのシネマ機材も用意されていた

特にBlackmagic Designは同時に2台のシネマカメラ「PYXIS 6K」「URSA Cine」をリリースしてきたことで、その本気度が窺い知れた。

なお「PYXIS 6K」には同社が賛同するLマウント対応があるのにもかかわらず、上位機種の「URSA Cine」には無い。これはLマウントのフランジバックが20mmしか無く、URSAが備えているNDフィルターと干渉するためだという。想定する装着レンズに併せて2台のシネマカメラを出せる同社の体力にはただただ敬服するほかない。

なお同社は、より大きな17K対応65mmセンサー機の登場も予告していた。

Blackmagic Designブースでは、新型シネマカメラ「URSA Cine」が展示されていた。マウント交換式で、PL、LPL、EFに対応。手前には将来発売の65mm超大判センサーの展示も見える
「PYXIS 6K」はLマウント対応。個人所有をターゲットとしているシネマカメラだ

また最大のニュースとして、NikonのRED Digital Cinema社買収が話題をさらっていた。買収直後ということもあってまだ新製品などは無かったが、NikonブースにRED機材が展示されていたのはなんとも衝撃的であった。

NikonブースにREDが!!
Angenieuxの低価格帯シネマレンズ「EZ3」。19,300ドル。日本円で300万円前後で買える本格シネマズームレンズだ。筆者も触らせて貰ったことがあるが大変に美麗な絵を出力するレンズだ

個人運用デバイスの充実

また、進歩が目立つ分野としては、個人用撮影デバイスの充実が挙げられる。

まず1番のビッグニュースに挙げられるのが、Blackmagic Designのアプリ「Blackmagic Camera App」のAndroid対応だろう。既にiPhoneなどのiOS向けには幅広く使われている同アプリだが、ついにAndroidにも対応とのこと。同社の展示実機としてはGoogle「Pixel 8 Pro」、Samsung「Galaxy S24 Ultra」が実働展示されていた。機能的に対応機種が限られるかもしれないが、非常に楽しみだ。

Samsung「Galaxy」に搭載された「Blackmagic Camera App」。ついにAndroid対応!

DJIの小型ドローンや超小型ジンバルの発展も特筆すべきだろう。こうした小型カメラデバイスが放送クオリティに対応しているという事は、一般ユーザーにとってもメリットは大きい。

小型ドローンの「Avata 2」は377gながらスーパーワイド4K対応、FPVと呼ばれるバーチャルコックピット対応で、大変に未来的なデバイスだ。日本では法規制で運用が限られるであろうことが残念でならない。

また、「RS 4」などの個人向けジンバルも非常に強力だ。

「RS 4」は540ドル。7万円を切る価格ながら、4.5kgのカメラまで対応しており非常に強力なデバイスだ

個人向けデバイスで言うと、これは有料アップデートとなるのだが、SONYの「α7 IV」「α7S III」「α1」の北米市場向け「Custom Grid Line」アップデートも興味深い。Adobe Photoshopなどで簡単にカメラ内のグリッドラインを作れる機能で、これにより、スタジオやシーンなどの特別なフレームに特化した撮影を容易にできる。これは大変に便利に感じたので、日本でも是非対応して頂きたいところだ。

「Custom Grid Line」はαシリーズの使い勝手を大きく変える素晴らしいアップデートだ。スタジオカメラを想定した場合、フォーカスポイントや立ち位置は固定されており、その専用のグリッド(モニタ枠)が自在に表示されるのは使用感を格段に増す
グリッド部分を拡大

また、同社の個人向けクラウドサービス「Creators' Cloud」で提供するというアプリ「Monitor & Control 2.0」も先行展示されていた。ショートフィルムやドキュメンタリーなど、小規模なチームで撮影する映像クリエイター向けに特化したアプリだ。スマートフォンやタブレットの画面で、対応カメラのワイヤレス映像モニタリングや、フォルスカラー・波形モニターなどを活用した精度の高い露出決定のサポート、直感的なフォーカス操作を実現する。

対応カメラも「BURANO」「FX6」「FX3」「FX30」「α1」「α9 III」「α7S III」と幅広く、非常に有効性は高いだろう。ついに個人レベルでもこうしたクラウドベースの強力な撮影補助の恩恵にあずかれる時期が来たという事で、大いに歓迎したい。

総じて、今回は非常に個人向け機能が大きく伸びたNAB Showであったと言えるだろう。特に個人でも使えるシネマカメラの充実と、そのサポート機器類、特にIP機能の充実は特筆に値する。また、アプリ連携が各社更に増したのも素晴らしい。

なお、余談ではあるが物価の高さと円の暴落には本当に困らされた。飲み物が1本3ドル50セントであり、実勢物価では1ドル85~86円程度が妥当と思われるが、その倍に近いレート(開催当日の公的レートで1ドル154円、現地実勢為替で163円)でのドル円為替であった。割高なコンベンションセンター内売店では、まさかの、バナナ1本とソーダ1本で、9ドル99セント≒1,600円近い価格であり、当然に日本からの来客は極めて少数となっていた。プレスルームも3日目には日本人が私1人となってしまい、トイレに行くのにも荷物を見て貰う人がおらずに苦労する有様であった。

明らかに実勢に合ってない為替レートはこうした生活面のみならず、機材輸入で業務を阻害して本当に困るので、なんとか改善を望みたいところだ。

バナナとコーラで8ドル67セント。VISAクレジットカード換算で約1,366円。あまりに高すぎる

1973年生。クリエイター集団アイラ・ラボラトリ代表。東京農業大学動物生理学出身という異色の映像クリエイター。CGを中心に、武道動画、映画エフェクトなどの制作企画、実製作まで行う。