イベントレポート
世界最大の映像関連イベント「2023 NAB Show」を振り返る
スチル機のプロ機材応用とクラウド化、AI支援編集技術が大きく進む
2023年4月27日 08:00
「2023 NAB Show」が「CELEBRATION 100 Years of Innovation」と題し、米国ネバダ州ラスベガスコンベンションセンター(LVCC)において4月16~20日に開催された。
同コンベンションは全米放送事業者協会(National Association of Broadcasters)が主催する年次大会で、映像関連機器が一堂に集う世界最大の放送機器展となっている。
NAB100周年となった今回は米国が昨年末にコロナ禍明けの気風となったこともあり、世界最大級を誇るLVCCのサウスホール以外を全て使うコロナ禍以前に迫る規模での開催。本年は、セントラル、ノース、ウエストの3ホールのメイン会場のうち、ウエストは主に放送伝送機器類とネットワーク機器類を、ノースが編集機器類と一部光学撮影機器類を、セントラルが光学撮影機器類と小規模事業者のイノベーショナルなブースを主に扱う構成となっており、事前登録だけで6万5,000人を超える参加者(内、国際参加者が1万7,500人前後)を迎える盛り上がりとなった。
コロナ禍前までのNAB Showはドローンや大型機材車、自動運転車の実証運転、果てはヘリコプターや戦車までが展示されるダイナミックな機器展であったが、今回は屋内開催ということもあって、比較的「真面目」な放送機器を中心とした展示会となっている。
もちろん機材車の提案はいくつか存在していたが、そのいずれもが小型自動車を利用したダウンサイジング少人数スタイルでの機材提案であり、コロナ禍で急速に進んだ少人数撮影時代への変化を象徴していた。
今年はネット配信とVRに大きなウェイト
今年の特徴としては、ネット配信系への対応が大きく取り扱われており、例えば「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」においては、本ブースの他にウェストブースの空きスペースを使ってサッカーコーナーを作って、そこでのプレイシーンをいかに自動化して配信するかというエンタメ的な実用展示を行っていた。
また、リアルタイムに画像を変化させられる超大判LEDモニタを使った書割が大きく取り扱われており、多種多様なブースに同様の展示があったのも特徴だ。
「Sony」ブースにおいても、定番のシネマカメラ「VENICE」などをはじめとする業務用カメラ群や、ネットワークライブソリューション群などの従来のプロ向け機材コーナーの他、「Creators' Cloud」やVlog用カメラ「VLOGCAM ZV-E1」の展示もしていた。
特に「ZV-E1」はフルサイズセンサー搭載のEマウントカメラながら、動画配信者を主なターゲットとしており、動画に最適化された画素数のセンサーを用いることによって、低照度にも強い高画質な動画撮影を可能としている。
また、同カメラの動画手ぶれ補正機能は上位機種「α7R V」などの機能をさらに進化させた機能を受け継いでおり、筆者の感覚的には小走り程度までならジンバル無しでの実用的な手ぶれ補正を実現していた。
また同カメラは先述の「Creators’ Cloud」のスマートフォン向けアプリに対応しており、撮影した動画をスマートフォン経由でクラウドサーバーに上げて加工に入ることができる。クラウドサーバー側ではソニー製品であればカメラやレンズ情報まで管理することができるため、少人数で記録用のアシスタントが置けない撮影状況であったとしても撮影情報の混乱を防げる仕組みにもなっている。
いずれにしてもクラウド技術などを活用した制作の自動化・効率化が大きなテーマとなる展示であり、コロナ禍後の少人数自動化撮影のニーズが大きく期待できるものであった。
一気に進むAI支援制作環境
「2023 NAB Show」のもう一つの注目点はAIの活用であった。とはいえ、昨年末からの日本での盛り上がりをさておいて、ChatGPTのようなネットクロール型の著作権的にグレーゾーンなAI展示は一切存在せず、いずれのAI利用も、ソフト内、あるいは自社管理データベース内での制作支援AIとなっているのが大きな特徴だ。
中でも特に注目されていたのが、「アドビ」と「Blackmagic Design」のAI支援制作環境競争だ。
「アドビ」ブースにおいては、「Premiere Pro」向けのテキストベース編集「文字起こしベースの編集」が発表され大変な注目を集めていた。
これは音声をAIで自動認識し、それをテキスト化してタイムコードと連動したテロップソースとして保存したものを、カット&ペーストでテキスト編集することで、連動する映像も同様にカット&ペーストされて粗編集が行えるという画期的なシステムだ。
アドビの「Premiere Pro」は本機能のリリース当初から日本語に対応しており、日本の編集現場でもリリース当初からの利用が可能となる見込みだ。また、異なるカメラLUTを自動的に切り替える「自動トーンマッピング」機能にも対応した。
アドビブースではこの他にも「After Effects」の新しいプロパティパネルや、マスクレイヤーの自由化、ACES OpenColorIO Management Systemへの対応など、気になる機能を発表していた。
「Blackmagic Design」ブースでは、こうしたアドビの動きに対応するかのように「DaVinci Resolve」における「テキストベース編集」を発表していた。
こちらも「Premiere Pro」同様のAI支援による音声からの自動文字起こしと、そのテキストファイルの編集による映像編集を可能にした最新機能だ。
Blackmagic Designらしく、英語版の該当機能に関しては当日リリースのベータ版から既に対応をしていた。ただし日本語対応は後日、ということであった。
また、Blackmagic Designにおいては「Fusion」のバージョンアップも果たしており、ついに「After Effects」並みの制度のレイヤー構造を持つ「MultiMerge」機能を搭載し、カメラマップから簡単なバーチャル書割を作成する「Merge3D」機能などと併せてついに実用最先端に躍り出てきた感がある。同社はクラウド化も一気に進めてきており、今後が楽しみだ。
また、Blackmagic Designブースにおいては、同社製シネマカメラ群の縦型撮影対応など、新機軸の機材展示も行っていた。
「Premiere Pro」における言語の認識率は、筆者の実感としては英語で90%以上、日本語で80%程度といったところであり、テキスト自体の校正編集が欠かせないが、タイムコードは元々のテキスト位置にリンクしているため、その位置の変動さえなければテキストを校正編集しても「文字起こしベースの編集」機能自体には問題無く対応することができていた。新機能リリース当初からの日本語対応といい、現在はアドビのAI技術が先行しているようだ。
こうした激しい開発競争はユーザーメリットが大変に大きいため、両社のAI支援機能の今後の発展に大きく期待したい。