イベントレポート

ニコンミュージアム展「コレクション展2」

水陸両用カメラ「ニコノス」シリーズの歴史や、1930年代製造のレンズなど

東京・品川のニコンミュージアム(東京都港区港南2-15-3 品川インターシティC棟2階)では、企画展「コレクション展2」を開催している。会期は2021年1月30日まで。

開館時間は10時00分~17時00分。月・日・祝日は休館。なお、年末年始は12月27日~1月4日までが休館日となっている。入場無料。

本企画展では、同館および同社の倉庫などで収蔵されていた資料から選出された約60点ほどを展示している。

水陸両用カメラ「NIKONOS(ニコノス)」

本展示のコーナーは、同社が誇る水陸両用カメラ「NIKONOS(ニコノス)」シリーズからスタートする。1963年から約40年にわたって販売されたカメラシリーズで、発売当時、水中で撮影できるカメラは貴重な存在で、一眼レフカメラとともに同社のカメラ事業を支える存在だったという。

会場では暗がりに青白く浮かび上がる水槽が出迎える。その水槽の中には、歴代のニコノスシリーズが展示されている。ニコノスが初めて登場した際も、同じように水槽を用意して展示したのだというが、本展ではなんと海水が使用され(当時は淡水だった)、過酷な環境に置かれたカメラの状態を再現している。そのカメラたちのすぐ近くをきれいな魚たちが悠々と泳ぎ回る様子は、なんとも不思議な光景だ。

水槽に入れられたカメラは定期的に清掃をしているという。
歴代のニコノスが並ぶ。
ニコノスI型のカタログをパネルにして展示。

ニコノスシリーズのモデルとなった「Calypso PHOT」が展示されている。このカメラはフランスの潜水用品メーカーであるスピロテクニーク社が1961年に開発した水陸両用カメラ。ニコン(当時:日本光学工業)は1962年に同社と提携し、ニコノスの製造を開始した。

Calypso PHOT(1961年)

1963年に全天候カメラとして発売された初代の「NIKONOS」。O(オー)リングを使用した完全防水仕様のカメラ。後継機と区別するために「ニコノス I型」と呼ばれている。装着しているのは発売当時から改良を重ねながら、35年以上にわたり販売されたニコノス用のレンズ「W NIKKOR 35mm f/2.5」。

ニコノス I型(1963年)

1963年に発売された「NIKONOS WHITE」。型は初期型と同様だが、海底に落とした際でも発見しやすいようにと外装ゴムの色が白に変更された。

NIKONOS WHITE(1963年)

シリーズを通して一番のロングセラーモデルとなった「NIKONOS V」。1984年から2001年10月まで販売されていた。機能としてはマニュアル露出モードを搭載し、露出決定方法の自由度を高めたのだという。オレンジとモスグリーンのボディカラーがラインアップされた。

NIKONOS V(1984年)

1992年に発売された「NIKONOS RS」は、世界初のオートフォーカス搭載一眼レフ水中カメラだった。従来のニコノスシリーズは耐水深50mだったのに対し、本機は耐水深100mを実現していたのだという。他の機種と比較しても、ボディサイズが一回りほど大きいのが印象的だ。

NIKONOS RS(1992年)

水中用のフラッシュユニットが展示されている。ランプ部分がむき出しにみえるが、このまま水中で使っていたというのだから驚きだ。

ニコノス RS専用のケースも展示されていた。プロの道具という感じがする。

「NIKONOS RS」を全パーツに分解した展示。電子基板やマウント部など、詳細に一つ一つのパーツを確認することができる。ニコノスのマウント部分にはFマウントも取り入れられており、Oリングを付けて防水仕様にしていた。

展示品のレンズを外して見せていただいた。

ニコノスにかかわる展示の中で、今回一番驚きだったのはテスト用ボディの展示だ。当時の開発者たちの名札が付いた生々しい試作ボディと、試し撮りをする当時の状況写真が並べられている。当時の様子を記録した、素晴らしく、そして貴重な資料だ。この当時の写真のみを集めた写真展を開催してほしいぐらい。

当時の状況写真には、前述の水中フラッシュを使用する様子も。

双眼鏡の歴史

日本で初めて民間で双眼鏡を製造した「藤井レンズ製造所」が製造した双眼鏡「天祐号」「旭号」「日本号」が展示されている。1913年頃に製造されたものだが、100年以上も前に、すでにカタチが完成されているように見えるのが驚きだ。

漁船、船舶航海などの用途で使用された大型の双眼望遠鏡も展示されている。「20×120 II」は1965年に発売されたモデルで、後継モデルとなる「20×120 V」は現在も販売されている。

大型双眼望遠鏡 20×120 II(1965年)
大型双眼望遠鏡 15×80 II(1978年)

写真用レンズ

1930年代に製造されたレンズも展示されている。精機光学工業(現キヤノン)の引き伸ばし機で使用するために製造したレンズ「Hermes 5.5cm f/3.5」や、日本光学工業初の35mm判カメラ用標準レンズとして製造された「Nikkor 50mm f/3.5」(試作品)などが並ぶ。どれもケースやレンズキャップまで綺麗な状態だ。

Hermes 5.5cm f/3.5(1939年)
Nikkor 50mm f/3.5(試作品)(1934年)

特殊機器

航空写真用レンズとして1938年に製造された「Tele-Nikkor 70cm f/5.6」。当時、航空撮影は飛行機ではなく気球で行われていたという。

Tele-Nikkor 70cm f/5.6(1938年)

「6cm f/0.85」は、医療機関からの要請を受けて製造した16mmシネカメラのX線撮影用レンズ。1937年に製造された。

6cm f/0.85(1937年)

1936年に製造された分光計。プリズムなどの精密な角度測定と、光学ガラスなどの屈折率測定を行っていた。

分光計(1936年)

目標の位置を把握し、方向および距離を算出するための手動計算機。複雑な計算式が紙に記されている。距離を算出するまでに時間がかかりそうに見える。

標定計算機(1945年)

砲や対空火器の制御に用いる機械式のコンピューター。飛来する航空機の未来位置を予想して、砲の旋回角、射角などの数値を算出する。2万点を超える部品で構成されており、重量は約450kg程。10人がかりで操作したという。

高射装置(1937年)。所蔵されていた外装パネルと一部パーツを製作して復元。

壕や溝の中に身を潜めて、周囲を監視するための単眼鏡。こうしたマネキンを利用した展示も行われている。

潜望式単眼鏡 6×20 Helicon(1942年頃)。
66センチ測距儀(1944年)。100~2,000mまで測ることができる航海用短基線長測距儀。

光学製品の歴史を知る企画展

本企画展は、ニコノスシリーズの歴代モデルをはじめとして、同社(日本光学工業株式会社時代)が初期に製造した貴重なレンズの数々のほか、多様な用途で使われた光学製品が展示された。

冒頭に述べたように、これらの資料はすべてニコンミュージアムおよびニコンにて所蔵されていたもの。しかし、眠ったままとなっている品々は依然として多くあり、今後も定期的に企画展などで展示していきたいという。

こうした展示には同社の歴史を学べるだけでなく、いわゆる“光学製品“がどのように活躍・発展して今に至るのかを感じることができる。今回の記事で紹介しきれなかった品々についても、実際に会場で見てみてほしい。次回はどんなお宝が展示されるのか、今から楽しみだ。

本誌:宮本義朗