イベントレポート

上田晃司さん&コムロミホさんが写真上達のポイントを解説

書籍「こういう写真てどう撮るの?」刊行記念イベント

上田晃司さん(左)とコムロミホさん(右)。書籍「こういう写真てどう撮るの?」を手に

小社インプレスは書籍「こういう写真てどう撮るの?」を11月8日に刊行しました。本書の内容は、カメラの基本や撮影のテクニックについて解説するというものですが、すべての解説がマンガになっており、内容を“見て理解”できるようになっています。

11月25日と26日には、本書の刊行にちなみ、書籍で先生役を務めた上田晃司さんとコムロミホさん2名による出版記念イベントが開催されました。平日夕方の開催でしたが多くの参加者に恵まれた本イベント。25日の回の模様をお伝えしていきます。

はじめはストラップのつけ方から

本イベントは、まず上田さんとコムロさんによる座学からスタートしました。自分がイメージする写真を撮るためのポイントや、縦位置・横位置の使い分けなど、カメラ初級者向けの本ながら、かなり実践にふみこんだ内容です。

それもそのはず。そもそも本書は、“写真が思い通りに撮れないことに悩む”イラストレーター、森下えみこさんが書いているのです。どうしたら自分のイメージした通りの写真が撮れるようになるのか、そんな率直な疑問を、楽しみながら解決していってもらおう、というのが本書の核にある、ということなんですね。

そんなちょっと難しそうなテーマに対して、上田さんとコムロさんの解説はまったく難しそうなイメージを与えません。2人は会話のキャッチボールのように疑問とその答え、ポイントを解説していきました。

座学を始めるにあたって、2人は参加者にどのようなカメラを持ってきたのかを尋ねていました。今回のイベントでは、座学のあとに実際の撮影も予定されていたためです。中には、買ったばかりのカメラを持ち込む参加者の姿も。座学がスタートする前にストラップのつけ方についてポイント解説がありました。

これが大反響。撮影会でストラップが外れてカメラが落ちてしまった人の例が紹介されると、ストラップのつけ方についてチェックが始まります。大切な機材を落として壊してしまうのは、とても悲しいことです。しっかりと固定できて、撮影時にも邪魔にならない、いわゆる「ニコン巻き」と呼ばれる取り付け方がレクチャーされました。

ストラップのつけ方は本書でもしっかり解説されています

失敗写真と成功写真とは

写真を撮って再生画面で確認したときに、このカットは“失敗した”と感じるシーンは、多くの方に経験があるのではないでしょうか。上田さんは「何をもって成功とするか、失敗とするか」は考え方次第だと話します。

「自分がイメージしている写真ではない写真になったとき、これを私は失敗の定義にしています」(上田さん)

撮影した写真が自分のイメージにマッチするものかどうか、それが判断の別れ目だと上田さんは続けます。一例として上田さんは1枚の写真を提示。都市の夜景を写しとめた写真ですが、道を横断する人々の姿がブレています。

これについて、上田さんは「動きを表現したかったから、人をブラして撮影した」のだとコメント。この意図のもとでは成功写真となるのですが、人を静止させたいと思っていたのであれば、失敗写真だといえるのだと解説します。

このように、意図したイメージどおりの結果を得るためには、カメラ任せで撮影するのではなく、きちんとカメラの仕組みを理解して、自身の手で操作できるようになる必要があるのだと、2人は解説をつづけます。

「カメラが難しいと思うのは、数字を扱わなければならないことも原因になっているのだと思いますが、カメラは数字でしか理解してくれません。ですので、ある程度は理解する必要があるんです」(上田さん)

ここでひとつ会場から質問が。内容は撮影後のデータを2人はどのように管理しているのか、というものです。

この質問について「デジタルカメラならではの疑問ですね」とコムロさん。ご自身と上田さんの管理方法について紹介してくれました。

コムロさんは、撮影した年月日や撮影した場所、撮影で使用したカメラの名前でフォルダをつくって管理しているのだとか。撮影の度にフォルダをつくって管理するのは面倒なことだと思いがちですが、後から写真を探す際の手間を考えると、結果的に効率的な管理方法になるのだと説明します。

また、上田さんの例では、データ転送のコツが披露されました。それは、撮影したデータをカメラからパソコンのHDDへすぐに移すのではなく、外付けのSSDに一度集約し、SSDの容量が一杯になったらまとめてHDDへ移すというもの。この方法であれば衝撃に弱いHDDを持ち歩く必要がないこともポイントになるのだと話します(SSDはHDDのように内部に機械的な駆動部品をもたないので、落下衝撃や振動に強いという特性があるため)。

イメージセンサーの高画素化にともない撮影データは日に日に大きくなってきていることもあり、データの管理は参加者にとっても悩みのタネのようです。

またデータの管理に関連して、撮影直後にモニターで確認して、失敗したと思ったらすぐにデータを消してしまう人はいますか、とコムロさん。数人の手があがりましたが、「やめましょう」とコメント。それというのも、後日撮影した写真をあらためて見た時に、視点や考え方が変わることがあるためなのだといいます。そんな可能性が残っているのに、すぐに消してしまっては「もったいないですよ」とコムロさん。

思い通りのイメージで撮るために

撮影会などで参加者から受ける質問で最も多いのが、「写真てどうやったら上手くなるの?」なのだとコムロさんは話します。この疑問について、「何を撮りたかったのか」や「撮って、何が必要かを考えるようにしている」と上田さんはコメントします。コムロさんからもカメラを構える位置をアイポジションにするか、ローポジションにするかで変わってくるというコメントも。目線の位置を変えたり、縦位置・横位置での撮影で、写真は変わってくると2人は続けます。

カメラアングルの例

縦位置と横位置の使い分けについては、「縦位置は見せたいものを見つけていることが多いのに対して、横位置はアイデアがまとまっていない状態であったり、情報量で見せたいときに使われることが多い」と上田さん。横位置はカメラを普通に握った状態であるだけに、多くの場合で、縦位置にすることなく撮影してしまっている人が多い、と指摘します。

この縦位置と横位置の使い分け方について、自分の中で「ブームがない?」と上田さんに質問を投げかけるコムロさん。映像を撮っていた上田さんは、この質問に対して「映像って横しかないから、静止画では縦位置で撮っていた時期があった。けれども今また横位置が多くなってきている」と答えます。

「ひとつの被写体に対して、縦・横いろいろやってみるといいです」(コムロさん)

横位置と縦位置で、印象がどのように変わるのかも具体的な例をもとに解説してくれました。

撮影実習:テーマはテーブルフォト

座学も後半となり撮影実習の時間が迫ってきました。ここで今回のお題が発表。内容は「おしゃれなテーブルフォトを撮ろう」です。

テーブルフォトを素敵に仕上げるため、2人が紹介したポイントは大きく分けて3つ。1つ目は「アングル」。被写体に対するカメラとして構え方は真俯瞰、斜俯瞰、水平と、3とおりの持ち方が紹介されました。

真俯瞰の場合
斜俯瞰の場合
水平の場合
水平位置から撮影した場合の例

2つ目のポイントは「コーディネート」。被写体の配置だけでなく、被写体との距離のとりかたや、布をしくなどアクセントを用いるコツなども紹介されました。広角レンズよりも望遠レンズを用いたほうが背景を整理しやすい、とコムロさん。望遠レンズをつかってボケをいかした構成のしかたなどをレクチャーしました。

上田さんからは、被写体との距離のとり方についてアドバイスが。手前側に被写体を配置し、さらに奥側の物体と距離を離した、ボケや画面の立体感コントロールについて解説してくれました。

表現テクニックとして、大きなボケを得るためのヒントも。まず、ボケ量のコントロールでは絞り値(F値)を任意の設定にできる、絞り優先AEモードを使いましょうと上田さん。さらに、コムロさんが紹介してくれたように、レンズの広角と望遠域の違いを意識することもポイントと強調。さらに撮る側が被写体に近づいたり遠ざかったりして調整するのも有効だと続けます。

ただし、注意点が。被写体に近づけば近づくほど被写体周辺のボケは大きくなりますが、レンズによっては、最短撮影距離(またはワーキングディスタンス)の関係でピントが合わなくなることもあるので、手元の機材をしっかり確認してほしいとコメントしました。

3つ目のポイントは「光の向き」。被写体に当たる光について、順光、サイド光、逆光の3パターンでの違いを具体的に解説してくれました。順光は色がでやすいので風景などに向くと上田さん。そのほか、サイド光は立体感や陰影を表現したいとき、金属などの重厚感を出したいときに有効だと続けます。逆光のような条件では露出補正を明るめにすることで、やさしい雰囲気に仕上げることができるとのアドバイスも。

いざ実習

短い時間ながら、たっぷりとイメージのつかみ方やテクニックが紹介された座学の時間。とにかく、撮ってみましょうということで、撮影実習がスタートしました。

今回はテーブルフォトということで、上田さんとコムロさんはたくさんの小物と布類を用意してくれていました。小物といっても、ミニチュアの世界は、こんなにも奥が深いのかと思わせるほどの充実ぶり。参加者の手もあれやこれやと迷います。

ひとつの小物を配置場所を変えたり手持ちで捉えることに挑戦する人や、複数の小物を組み合わせて小さな世界をつくりだす姿も。参加者は、思い思いのアプローチでテーブルフォトに挑戦していました。

実習中、上田さんとコムロさんは参加者と交流しつつ撮影方法のアドバイスをしていました。

中には、レンジファインダーカメラで撮影にのぞむ参加者も。どうしても最短撮影距離が長くなってしまうこともあり、工夫しながら挑戦する姿がみられました。その工夫たるや、上田さんとコムロさんも驚くような場面も。近づけないのなら拡大すればいいじゃない、といった具合にハヅキルーペをレンズ前で前後させて被写体をクローズアップしてみようとする参加者や、真俯瞰からご自身の靴などを入れこんで小物と背景を組み合わせたカットを撮影する参加者の姿も。レンジファインダーだとテーブルフォトは難しいのでは、なんて思い込みを吹き飛ばすような工夫がみられました。

ハヅキルーペで被写体に迫る参加者。考えてみれば、テレコンバーターも同じ理屈だと妙に納得

ほかにも、ブックエンドを活用して背景に敷いた布をラウンドさせたり、布の柄を見立てに使ったりなど、創意工夫にあふれる実習となりました。

参加者どうしで撮り方を相談しあう場面も。短時間ながら、カメラを通じての交流が生まれるのも、こうした撮影会の楽しみのひとつです。

今回のテーマはテーブルフォトでしたが、撮影のアプローチはさまざま。参加者はミニチュアの世界にひきこまれるようにしてシャッターを切り続けていました。

撮影スタイルもそれぞれでしたが、参加者の持ち込んだカメラもそれぞれ。M型のライカ(デジタル)やLUMIX S1、LUIMX G9、ニコンZ 50といったミラーレスカメラのほかにも、ライカQ2やRX100、X30といったコンパクトタイプ使用者の姿もみられました。

サイン会も実施

当日はサイン会も実施。残念ながら著者の森下えみこさんは不在でしたが、かわりに手書きのポストカードが配布されました。一枚一枚すべて絵柄が異なるこだわりようで、ここでもどれにしようか迷う場面も。和気あいあいとした雰囲気で、この日のイベントは終了となりました。

ちなみに、今回紹介のあったストラップのつけ方は上田さんとコムロさんが主催するYoutubeのチャンネル(写真家夫婦上田家)でも配信されているとのことです。

本誌:宮澤孝周