イベントレポート

北海道で毎年行われる「写真甲子園」とは?

2018年のエントリーから本戦までを解説

1994年から開催25回目を迎えた、全国高等学校写真選手権大会「写真甲子園」。2018年も北海道東川町を中心に本戦が行われた。ここでは写真甲子園に出場するまでの手順と、実際に2018年の本戦大会に同行したレポートをお届けする。

写真甲子園のエントリー条件は?

高校生3名でチームを編成し、8枚の組写真(テーマ不問)をひとつの作品として応募する。1校1チームの範囲であれば参加は「写真部」からに限定されず、例えば美術部の活動として出場している学校もある。

エントリー時の提出作品の条件は、学校に所属する本人が入学後に撮影した写真で、画像加工がなく未発表の作品であること。Webで入手できる応募票とともに、規定サイズのプリントおよびCD/DVDでJPEGデータを提出する。

2018年は5月18日必着でエントリーを受け付けていて、513校が応募した。

エントリー後の大会の流れは?

ブロック(地域)ごとに応募作品の審査が行われ、80校がブロック審査会に進む。2018年は6月9日〜6月17日にかけて各地でブロック審査会が行われ、19校の本戦出場校が決定した。

2018年は6月18日に本戦出場校が決定。19校が北海道東川町に招聘され、7月31日に開会式、8月3日に表彰式・閉会式が行われた。

現地の様子は?

2018年の本戦は7月31日〜8月3日。本戦出場の選手達は7月30日に現地入りし、大会ルールや使用機材に関するオリエンテーションを受ける。「初めて飛行機に乗った」「初めて北海道に来た」という選手のコメントもあり、より特別な経験になったことだろう。

7月31日の夕方に、東川町で本戦開会式と歓迎夕食会が開催。初日はホームステイで1泊となるため、ホストファミリーとの顔合わせもここで行われる。このホームステイ先で撮影した写真も、本戦の組写真に活かせる。

開会式で挨拶する審査委員長の立木義浩氏。外は暑いので、短時間で撮れるように「ゆっくり急げ」の心構えで作戦を立てるようアドバイスがあった。
歓迎夕食会では、地元の方々から料理が振る舞われる。

開会式と歓迎会の翌日から、いよいよ本番。ファースト(8月1日)/セカンド(8月2日)/ファイナル(8月3日)の3ステージで撮影・組写真制作・審査会が行われ、3日間に得た審査員からの合計得点で優勝校が決まる。

写真甲子園はキヤノンおよびキヤノンマーケティングジャパンが特別協賛しており、2018年の共通使用機材は次の通りだった。このほか、サンディスクのSDカード、マンフロットの三脚を使用できる。
・EOS 9000D
・EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM
・EF-S55-250mm F4-5.6 IS STM
・EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STM
・EF-S60mm F2.8 Macro USM
・EF50mm F1.8 STM
・スピードライト430EX II
・PIXUS TS8130
・光沢 プロ[プラチナグレード]2L・A4サイズ

撮影エリアと各ステージのテーマは毎年変わる。ルールは今年の取材時点のもので、次回以降も同じという保証はない。2018年の各撮影ステージは次の通りだった。

ファーストステージ:上富良野町・美瑛町

朝8時から撮影。小雨〜曇り空から始まったが、後半には晴れた。この日の公開審査会で発表する組写真のテーマは「色」(カラー写真限定)なので、それに合う写真を撮っていく。

ただ、この日に撮影した写真を翌日以降の組写真テーマで使うこともできたため、前夜のホームステイや歓迎会の時点から競技が始まっているようなところもあった。

上富良野町
選手達は専用の巡回バスで撮影エリア内を回る。

ひとつのエリアで撮影が終わると記録メディアは回収され、次の場所に移動する。各エリアの撮影は2時間前後。タイムスケジュールはルールとして細かくが決まっており、記録メディアの提出に遅れると1分ごとに点数がマイナスとなる。作品撮りが可能なのは、記録メディアが手元にある時だけだ。

時間までに集合場所へ戻り、記録メディアを提出する。
美瑛町
撮影で立ち入ってよいか、撮った写真を発表してよいかなど、コミュニケーションをしっかり取っている。
地元の人々も協力的だ。

撮影後は、その日の公開審査会で発表する組写真を制作する「セレクト会議」。マイクロソフトSurface上でキヤノンの画像管理ソフト「Digital Photo Professional」を使い、同じくキヤノンのPIXUSプリンターで出力する。レタッチは不可なので、場合によっては露出をバラして撮っておくことも有効。

セレクト会議の部屋。

公開審査会では、組写真のタイトルと制作意図を選手自らがプレゼンテーション。審査員の講評を受けて、翌日以降の撮影に反映させていく。

公開審査会の様子。
本戦の審査員。左から野勢英樹氏(北海道新聞社写真部次長)、小髙美穂氏(フォトキュレーター)、長倉洋海氏、立木義浩氏(審査委員長)、鶴巻育子氏、公文健太郎氏。

セカンドステージ:旭川市・東神楽町(夕刻)

2日目には、珍しく夕刻の撮影が組み込まれた。

朝の撮影エリアは旭川市。7時20分から旭川駅周辺を撮影した。人通りが多くない時間帯の街をどう撮るか、各チームがそれぞれに取り組む。

旭川駅前。
街ゆく人に声をかけ、撮らせてもらう。

夕方の撮影を前に、セレクト会議と公開審査会を実施。セカンド公開審査会のテーマは「光」(モノクロ写真限定)だった。

17時30分から東神楽町で撮影を開始。斜光は写真をドラマチックにするので期待が高まる。日没の19時に撮影完了。この日はこれで終了となる。

東神楽町
美しい夕景を見られた。

ファイナルステージ:東川町

最終日の撮影ステージは、写真甲子園を主催する"写真の町"東川町。撮影は、3人で動くところもあれば、全員がバラバラに動くところもある。筆者が2年前に訪れた時は曇天〜大雨が続いていたので、今年は好天に恵まれて何よりだった。

メイン会場がある東川町。
地元の人々と交流しながら撮影。
店などの中で撮らせてもらうシーンが多く見られた。

この日はセレクトと公開審査会を経て、閉会式で優勝校が発表される。最終日とあって会場は熱気に満ちる。仕事終わりに駆けつけたホストファミリーなどもいたことだろう。夜の閉会式には立ち見も出ていた。

最終日の会場。後ろの壁まで立ち見が出ていた。

既報の通り、2018年の優勝校は写真甲子園2017に続き2連覇となる和歌山県立神島高等学校。審査委員長の立木義浩氏によると、今年は日ごとに順位変動があり、逆転につく逆転だったという。初日の高得点が逆転されるケースはこれまであまりなく、珍しい展開だったそうだ。

壇上で優勝インタビューを受ける和歌山県立神島高等学校の選手。
優勝校の最終日作品。

優勝校の作品については、これまでの写真甲子園の作品には珍しい人物配置が目を引き、“決定的瞬間から少しズレたような一瞬”を捉えている点が高く評価された。

また、全チームの作品を講評した立木氏の総括として、モノクロ写真における光の捉え方、夕方の撮影で夕陽の明かりをどう活かすかの表現についてを今後に期待したいとのことだった。

本誌:鈴木誠