イベントレポート

【CP+2019】公文健太郎さんのセミナー「新システムが僕に与えてくれたもの〜EOS RPで撮る日本の半島〜」

気軽に撮れるカメラが作品を変える

キヤノンブースのセミナーで語る公文健太郎さん。

CP+2019のキヤノンブース、セミナーのトップバッターを飾ったのは、ルポルタージュやポートレート作品で活躍する公文健太郎さんだった。

セミナータイトルは「新システムが僕に与えてくれたもの〜EOS RPで撮る日本の半島〜」。

EOS RPは、2月14日に発表され、3月14日の発売が決定した小型のフルサイズミラーレスカメラだ。公文さんはRPを持ち、能登半島で撮影を敢行。半島に住む人々やその営みにレンズを向けた。

公文さんは「なぜ新しいカメラを使うか」という理由と、新しいカメラを使うことによる変化を話し始めた。変化の一つ目は表現力だ。

「この写真は網を組み立てているお母さんたちを撮影したものです。窓辺の外の風景と、手前側に写る網の黒の両方が表現できていて『やるじゃん!』と思いましたね。この1枚から旅がスタートしました」

次々と表示されるのは、ハイライトとシャドウの輝度差が大きい写真。しかし、白飛びや黒つぶれが目立つことなく表現されている。

「今回の写真を見返すと、空の写真が多くて、その空が良く写ってるんです。ハイライトがよく出るのは、日本の湿度のようなものを表現しようとするときに欠かせない要素だと思っています」

「表現力というと単純に解像度の数値を見がちですが、それだけではないと思います。実際には階調表現やレンズの性能が重なって、こういった写真を写すことができると思います」

次に公文さんは「相手が変わる」と話し、ある動画を流す。公文さんが実際にカメラを向けて、被写体となる人と話しながら撮影しているシーンだ。

「このカメラで写真を撮っていると、何人かに『趣味ですか?』って聞かれるんです。これは象徴的なシーンですね。実はそれはとてもいいことで、写真家がきたと思われると、相手も身構えるんです。それがこれだけ小さいカメラで撮ると趣味だと、相手も思ってあまり緊張しないでいてくれるんです。大きいカメラだとこうはいかないですね」

実際にポートレート作品が何枚か表示され、被写体の自然な仕草と表情を捉えているように見えた。最初はカメラを持っている公文さんに気づくが、その後作業に戻るとカメラが気にならなくなる瞬間があるのだろう。小さなカメラと機動性が合わさって、完成度の高い作品になるのだろう。

「今回の作品は35mmのセットレンズで撮影しています。このレンズの良さは、自然な画角であること。例えばしゃべりながら撮影しているときに、その人と人との距離がそのまま写真になるんです。自分が立っている位置から見えているものがそのまま写るので、その人も安心しますし、自分の会話もそのまま写り込みます」

最後の変化は「自分が変わる」ということ。公文さんはEOS RPを使っている間は「気持ちが楽」だと話した。

「このカメラを使っている間、今までにないくらいたくさん写真を撮りました。あまり考えずに軽い気持ちで撮っていましたね。あまり写りを気にせずに、とにかく撮っていた。何か気になるものが目の前にあって、手元にカメラがあるから撮った、という写真も多かったです」

軽い気持ちでシャッターが切れるのは、小さく軽いボディによって機動力が高まったからだろう。1日の中で複数のポイントを回るような撮影には、軽くて高画質なEOS RPがまさにうってつけというわけだ。

「僕は今までリュックを背負わずに撮影することはなかったんですけど、この旅で初めてカメラ1台だけ持って撮影に行きました。」

「他にも機能がアシストしてくれるおかげもあって、本当に気楽に撮れます。言い方は悪いですが、適当に撮れる。でもそれにはメリットがたくさんあって、目の前の出来事や出会いに集中できます」

話の中で表示された写真は、海に打たれた杭を長時間露光で捉えた作品。公文さんは最初に見かけたときはなんのためのものなのかわからなかったが、道で出会った村民にその役割を教えてもらい、写真に残すことを決めたそうだ。

「これは自然の浜に人工の杭を打ったものです。ここで海苔の収穫をするのですが、波が激しくて飲み込まれたり海苔が流されたりしないように、杭に結びつけるようです。なかなか壮絶なものですよね。それもお母さんの話を聞いて『これが能登半島を象徴する写真になる』と思って撮影しました。ふつうに見かけただけでは撮らなかったでしょうね」

EOS RPの魅力が存分に語られたセミナー。最後に公文さんはこれからの写真のテーマを語りステージを締めた。

「僕は写真を撮ることより、現地の人に話を聞いたり、その風景を見たりして、目の前の光景や写真の意味を考えて、深みを探していくことに重きを置いています。機材は新しくなるとどんどんスペックが良くなりますが、機材が変わることによって相手や自分が変わっていくというストーリーを捉えていくことが、これから求められると思っています」

「能登半島の人たちはほんとうにいい人で、自分たちのことをよく話してくれました。その話をつないで深みを探し、そこで見えてきた半島の魅力を集めていくことで、『半島とは何か』、『日本とは何か』を考えていきたいと思っています」

中村僚

編集者・ライター。編集プロダクション勤務後、2017年に独立。在職時代にはじめてカメラ書籍を担当し、以来写真にのめり込む。『フォトコンライフ』元編集長、東京カメラ部写真集『人生を変えた1枚。人生を変える1枚。』などを担当。