フォトコンテスト

東京の野生動物をテーマにした作品がグランプリを獲得

小中学生が参加する「生きもの写真リトルリーグ2019」

「生きもの」をテーマとした小中学生対象の写真コンテスト「生きもの写真リトルリーグ2019」の授賞式が、8月10日、長野県の小諸高原美術館で催された。

このコンテストは、自然や生きものを見つめ、子どもたちの写真の表現力を高める機会として設けられたもの。対象は小・中学生で、個人またはグループで応募できる。

全国7地区から出場者が集まる

2015年に初めて開催されてから、今年で5回目の開催を迎えることとなった「生きもの写真リトルリーグ」だが、今年は500点の応募があった。これらの応募作品は全国7地区(北海道地区、東北地区、関東地区、中部・東海地区、関西地区、中国・四国地区、九州・沖縄地区)で予選がおこなわれて地区賞受賞者が決定。これら7地区の受賞者が小諸高原美術館(長野県)でおこなわれる本選に進出することになる。リトルリーグの名前のとおり、甲子園をイメージしてもらえれば分かりやすいだろう。

授賞式当日は「生きものサミット」という名称で、地区賞受賞者の作品講評が催される。同コンテストの審査委員長である写真家・海野和男さんがそれぞれの撮影者に対して撮影意図やコメントを求めたり、会場参加者に対して、ノミネート作品で写されている場面がどのような生きものの姿や“いとなみ”を捉えた場面であるのかを尋ねるクイズ形式で進行する。

今回の本戦・授賞式は、開催5回目となることもあり、初めて参加するというケースや、“常連”となっている応募者の姿も見られた。審査委員や関係者からも、作品自体もどんどんレベルアップしてきており、大人のフォトコンテストに出ても通用するレベル、との評がなされていた。

審査員は海野和男さん、安珠さん、石田立雄さん、伊知地国夫さん。小諸高原美術館の他、日本自然科学写真協会、日本写真協会が後援を務める。また今年も特別協賛として、パナソニック株式会社が参加した。

本戦・授賞式は長野県の小諸高原美術館で開催された

生きものサミットの様子

授賞式に先立って開催された「生きものサミット」では、コンテストの審査委員長をつとめる海野和男さんからそれぞれのノミネート作品と作者に対してコメントや質問、アドバイスが出された。

質問内容は会場へのクイズ形式となる場面もあり、写真はもちろん、写されている生きものについて深く知るきっかけともなっていた。

作品についてコメントする海野和男さん
作品の生きものについて尋ねている場面。写真中央でマイクを握っているのは、審査委員をつとめている安珠さん。

2019年の本戦では、オオワシなどの鳥類のほか、タヌキやカエル、トカゲ、カニといったように、被写体のバリエーションも様々だった。

本コンテスト常連のひとりとなっている田中碧(2017年の最優秀賞受賞者・関西地区)さんは、今回「琵琶湖で狩りするおばあちゃんオオワシ」と題して、オオワシを被写体に作品を制作。オオワシは2〜3年ほど前から撮っているのだとコメント。毎回、撮影テーマを変えて応募しているのだという。

将来は生きものの世界を撮る写真家になりたいと話す田中さん。中学3年生になる来年はこのリトルリーグに応募できるさいごの年になる。

田中碧さん

今回は、もうひとりの常連の姿もあった。九州・沖縄地区の土屋昌寛さんだ。

毎年応募しているという土屋さん。今年はカニを被写体にした作品で応募していた。撮影にも工夫が凝らされており、ストロボ光をカニに直接あてないようにしつつ、波紋を表現したのだと撮影時に注意したポイントを語った。

このカットを含めた作品について「不要と思えるカットもあるけれども、物語を感じさせる写真になってきた」とコメントした海野さん。絵本をつくるつもりで撮ってみては、というアドバイスもあった。

土屋昌寛さん

いずれの作品も生きものの観察を通じてつくりこまれたものが多く、また何度も通うことでようやく捉えられたと話す応募者が多かった。

激戦となったという関東地区から本戦まで進んできた松本敬さんは、自然が少ないと思われがちな東京都周辺であっても、一歩郊外に出ると、豊かな自然があることを知ってほしかったとコメント。キツネやアナグマを捉えた作品を披露した。

動物の目線で捉えられている、と作品についてコメントした海野さん。動物がどういうところに住んでいるかも重要なポイントなのだと話した。

キツネを捉えた場面についてコメントする海野さん

2019年の最優秀賞を獲得したのは?

こうして全国より様々な“生きもの”の姿を捉えた作品が多数集まった「生きもの写真リトルリーグ2019」。「生きものサミット」終了後に最終審議が開かれた。

作品レベルが上がってきているということもあってか、選考は難航したという。この激戦を制して本年の最優秀賞を獲得したのは松本敬さん(関東地区)の「東京の里山に生きる」に決定した。

松本敬さん。審査委員長の海野和男さんとともに

松本さんには海野さんより賞状、安珠さんより楯、パナソニック株式会社アプライアンス社スマートライフネットワーク事業部イメージングビジネスユニットの山根洋介同ユニット長より賞品「LUMIX G99」が贈られた。

松本敬さんの作品を紹介

松本さんは現在中学2年生。学校では生物部に所属しているのだそうだ。

作品は去年の8月ころから撮りためていたとのことで、半年ほどの期間で作品としてまとめていき、およそ2カ月かけて応募作品に仕上げていったのだと話す。

受賞の喜びと感謝をコメントする松本さん

作品タイトル:東京の里山に生きる

撮影は顧問の先生が引率する部活動の中でおこなっていたという松本さん。撮影地へは片道で約1時間ほどかかるため、そう何度も足を運ぶことはできない。キツネを捉えた作品も5回ほど足を運んでようやくとらえることができたものなのだと話しながら、撮影中はタヌキが現れることも多かったと振り返った。

写真への興味が先だったのか、それとも生きものが先だったのだろうか。尋ねると、生きものだとこたえた松本さん。これからも生きものの姿を追っていきたいと笑顔を見せた。

本戦にはお母様とともにやってきていた松本さん。聞けば、これまでこのようなコンテストに応募したことは1回しかないのだそうだ。それも単写真の作品応募のみで、組写真での応募は今回が初めてだったと話す。家族ぐるみでも写真を楽しまれているのだろうか、と尋ねたところ、「(シャッターボタンを)押すだけ」というお母様。それでも、家族内で作品についてコメントしたり、夜遅い時間帯での部活動を家族ぐるみで支えているのだろう。

このほか、優秀作品賞、小諸市長賞、奨励賞、小諸高原美術館賞、特別賞なども決定した。それぞれの受賞作品は生きもの写真リトルリーグ2019の公式ページで閲覧できるようになっている。

同時開催の展覧会に関する解説も

テーマソング「さぁ!カメラを持って!」の合唱で幕を閉じた生きもの写真リトルリーグ2019。同じ会場の小諸高原美術館では海野和男さんの作品展も開催されていた。作品は小諸周辺で撮影されたものと、日本のほかマダガスカルやタイ、ミャンマーなど世界10カ国の蝶を捉えたものの、2つのセクションで構成。さいごに、これらの作品について作者である海野さん自身からの解説があった。

テーマソングライブの様子。ギターの演奏は真辺雄一郎さん。歌はミュージカル女優の今泉由香さんが披露。

以前は蝶を地球の主役のようにして撮りたいという思いから、広角系のレンズを多用していたという海野さん。最近では望遠レンズで撮ることが好きになってきているのだと話す。

またミラーレスカメラが普及した昨今では、飛んでいる蝶を撮りやすくなったとコメント。展示会場奥に設けられた映像ではスローモーションで蝶の姿を捉えた試みも紹介されている。

フィリピンのルソン島で捉えた蝶の姿だが、どうしてこのような尾のかたちになったのか、動画を見ながら考えているのだとコメント。ぜひ、動画機能も活用して生きものの姿を撮影していってほしいと笑顔を見せた。

小諸周辺で撮影された作品がまとめられた作品集「小諸日記」も出版された。

展示室の一角には、歴代最優秀作品に輝いた作品プリントの展示もあった。