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α7R Vが大賞を射止めた「カメラグランプリ2023」贈呈式レポート

受賞各社が開発秘話を披露

カメラ記者クラブは「カメラグランプリ2023」の贈呈式を6月1日に都内で開催した。会場では、受賞した各社から開発時の秘話などが披露された。

既報の通り、大賞はソニー「α7R V」、レンズ賞はOMデジタルソリューションズ「OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO」、あなたが選ぶベストカメラ賞はパナソニック「LUMIX S5II」となった。このほか、カメラ記者クラブ賞に4製品が選ばれた。

贈呈式は東京・銀座の時事通信ホールで行われた

大賞:ソニー「α7R V」

α7R V

盾を受け取った大島正昭氏(ソニー イメージングエンタテインメント事業部 事業部長)は、「α7R Vはテクノロジーに非常にこだわりを持って世の中に出すことができました」と商品化の裏舞台をコメント。

大島正昭氏(中央)、水上暁史氏(右)

「まずは4軸マルチアングル液晶モニターです。もう何年も構想があった技術で、やっと今回投入できたのが感慨深い思いです。ソニーなのでどうしても小型、薄型にしなければという考えがありました。ダメ出しを繰り返してようやく実現できました。言いにくい名前ですが、開発中は”超絶便利ヒンジ“と呼んでいました。成し遂げたエンジニアに敬意を表します」

「そしてこの機種からAIプロセッサーを搭載しました。その必要性という熱い思いを私にぶつけてきてもらって搭載を決めました。どんなに良いプロセッサーを搭載しても、使いこなせないと意味がありません。エンジニアはそのチューニングに苦労したと思います。1年くらい前はリモートで私に”ハリネズミの目を認識しません”と言ってくる状態で、”そのレベルまでやっているのか”と思いました。今はバッチリその目を捉えられるようになっています」

「次の開発もどんどん進めていますし、この賞を頂いたからといって慢心せず、引き続き世の中に驚いてもらえるような商品やサービスを出し続けていきたいと思います」

開発秘話を披露したのは、水上暁史氏(ソニー システム・ソフトウェア技術センター ソフトウェア技術第4部門 カメラプラットフォーム2部 部長)。

「α7R VのAIの機能開発を担当しました。搭載に当たってユーザーの持つクリエイティビティを最大限に引き出したい、撮りたい人が構図やストーリー作りに集中できる究極の性能を目指す思いで作り始めました。専用プロセッサーを載せるのはコストもかかるので、これによってどういう価値があるのかを検討していきました」

「プロセッサーとAIモデルの開発では究極の認識性能を目指しました。しかし高速な処理をすると消費電力が大きくなり、そこが一番のポイントでした。最終的には回路の工夫やAIモデルの軽量化、カメラ各部の電力最適化で達成しました」

「ただ、良いAIモデルができたからといって簡単にカメラが良くなるものではありません。そこからは高解像力とピント精度、色精度の作り込みなどに苦労しました。相当のフィールドテストをして我々も納得する形で商品に仕上げることができました。世の中のAI技術がどんどん進化すると思うので、我々のAIプロセシングユニットにもそれを取り込んでカメラの進化に繋げていきたいと考えています」

出席したソニーの関係者

レンズ賞:OMデジタルソリューションズ「OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO」

M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO

レンズ賞では杉本繁実氏(OMデジタルソリューションズ 代表取締役社長兼CEO)が喜びを語った。

杉本繁実氏(中央)、弓削一憲氏(右)

「オリンパスから独立して3年の新しい会社です。オリンパス時代はレンズ賞を3度受賞させて頂きましたが、新会社になって、また新ブランドOM SYSTEMでは初めての受賞となり喜びもひとしおです」

「このレンズは風景からマクロ、あらゆる環境でストレスなく使って頂ける望遠マクロレンズです。お陰様で発売後は大変好評です。まだの方はぜひ体験してほしいと思います。これからもマイクロフォーサーズの長所をしっかりと生かした商品を開発し、お客様にお届けしていきたいと考えています」

開発秘話は、弓削一憲氏(OMデジタルソリューションズ 研究開発 製品開発リーダー)が披露した。

「目指したのはフィールドマクロやアウトドアシーンにおいて楽しめるレンズということです。手軽に高倍率の撮影が可能で、1日持って歩いても疲れない機動性を実現したいと考えました」

「マイクロフォーサーズの強みを生かした唯一無二の望遠マクロレンズが開発のコンセプトです。焦点距離、撮影倍率、F値と重量を検討してF2.8にするよりも換算撮影倍率4倍を優先しました。また、効きが体感できる手ブレ補正などを考慮してこのスペックになりました」

「手持ちでマクロ撮影をした際には、遠景撮影に比べて並進ブレの影響が大きくなります。このブレ成分の解析も入念に行いました。しゃがみ込んだり、肘をついたりといったマクロ特有の構え方での分析も徹底しました」

「フォーカスですが、当時2倍以上の撮影ができてAFに対応したレンズは世の中にありませんでした。今回、手持ちで高倍率撮影を目指していたので全域AF対応は必須でした。幅広い範囲でAF性能を確保することは技術的に課題が多くあり、商品性としてのバランスをとることに苦労しました」

「これまで高倍率撮影はMFの専用レンズやベローズを使ったりとハードルが高かったと思いますが、かなり手軽に撮影できるようになりました。OM SYSTEMのボディと組み合わせることで、深度合成やフォーカスブラケットなど表現の幅が広がります」

出席したOMデジタルソリューションズの関係者

あなたが選ぶベストカメラ賞:パナソニック「LUMIX S5II」

LUMIX S5II

盾を受け取った津村敏行氏(パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション 副社長執行役員 イメージングビジネスユニット長)は、「我々として初めて、あなたが選ぶベストカメラ賞を頂けたことを本当に嬉しく思います」と話した。

津村敏行氏(中央)、中村光崇氏(右)

「ミラーレスカメラを出してから15年目を迎えました。世の中に初めてミラーレスカメラを出したときには、ここまでミラーレスカメラが普及するとは思いませんでしたが、今やメインがミラーレスカメラのような時代になったのが喜ばしく思います」

「フルサイズミラーレスに参入したのが2019年です。後発ということもあり、最初はプロフェッショナルの究極モデルからだそうということでスタートしました。その後出した普及型のLUMIX S5は市場では厳しい声もありましたが、今回全てを直していいカメラに仕上げました」

「試作を繰り返した放熱機構や、リアルタムLUTの搭載を評価頂いているのもありがたいところです。像面位相差AFを搭載する苦労を我々は最近経験し、性能の良い競合品に負けない商品を出すために2年間くらい開発者にもプレッシャーが掛かっていました」

「コロナ禍で萎縮してきたメンバーの気持ちが、受賞の一報を受けて一気に開花して、社内がとても元気になっていることも感謝したいと思います」

開発秘話は、中村光崇氏(パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション イメージングビジネスユニット ハード設計部 プロジェクトマネジメント課 主任技師)が披露した。

「開発で重視したのが画質、AF、手ブレ補正の3つです。それを小形ボディに凝縮するためには熱が課題になるので、それが大きな開発テーマでした」

「普及価格帯を外せないので、手ブレ補正では最高性能のデバイスは使えません。そこで、既存のジャイロセンサーを使って生まれたのが初搭載のアクティブ I.S.です。段数は前作と変わっていませんが、歩き撮りなどで不満があるのではと改善して、こうした機能が生まれました」

「そしてペンタ部にファンを入れるというのが非常にチャレンジングな開発になりました。モックアップをマーケティングメンバーに見てもらったところ外観の評判が悪く、デザインを重視するとファンを搭載しないという判断も必要か、というのが初期の現状でした」

「その後、エンジニアのこだわりで熱のシミュレーションを繰り返したり、ファンの音が音声に影響するので、電気関係のメンバーも含めて副作用を防ぐ手立てを検討していきました。最終的には、デザイン面でも一見ファンが入っていると気づかない程になったと思います。動画だけで無く、静止画ユーザーにも受け入れられるフォルムを目指した結果です。今回、プロだけで無く一般のユーザーから評価してもらえたことを開発一同嬉しく思っています」

出席したパナソニックの関係者

カメラ記者クラブ賞【企画賞】:キヤノン「EOS R50」

EOS R50

代表して開発秘話を披露したのは、塚谷栄理氏(キヤノン イメージコミュニケーション事業本部 ICB開発統括部門 ICB製品開発センター シニアプロジェクトマネージャー)。

塚谷栄理氏(右)

「今までベストセラーだったEOS Kiss M2のコンセプトを受け継いで、Rシステムのエントリー向けカメラとして商品化しました。カメラが難しいという先入観から脱出して、写真も動画も満足してもらえるよう開発しました」

「Rシステムの中では当時一番下のモデルとして開発をスタートしました。小さくて可愛いカメラですが、グリップ性にもかなりこだわっています。根本が太くて大きいRFレンズを付けてもしっかり握れるということを目指して取り組みました。結果的に評価部門からも大好評をもらえるほどになりました。グリップだけでは無く、上位機種に負けない性能を盛り込んでいますので、触ってみてもらいたいと思います」

出席したキヤノンの関係者

カメラ記者クラブ賞【企画賞】:ライカ「ライカM6」

ライカM6

盾を受け取った米山和久氏(ライカカメラジャパン マーケティング部)が受賞の思いを語った。

米山和久氏(右)

「ライカMシリーズのスタートが1954年のライカM3でした。1971年に出したライカM5は露出計を内蔵して話題になりました。そのぶんカメラが大きくなってしまったのですが、1984年のライカM6でメーターを内蔵しつつM3からのスタイルに戻しました。これが当時ヒットしたひとつの要因だったと考えています」

「今回は40年前のフィルムカメラが戻ってきたということが評価に繋がったのだと思います。デジタル全盛期にフィルムカメラを選考頂いた点も嬉しく思います。ローテクではありますが、昔ながらのカメラを皆さんに活用頂ければと思います」

出席したライカカメラジャパンの関係者

カメラ記者クラブ賞【企画賞】:ProGrade Digital「CFexpress Type B GOLD 512GB」

CFexpress Type B GOLD 512GB

登壇した大木和彦氏(ProGrade Digital Inc. Japan)は、「創業して5年の新しい会社がメモリーカードとして初めて受賞することができてとても光栄で嬉しく思うと同時に、非常に重い責任を背負ったと考えています」とコメントした。

大木和彦氏(右)

「受賞したのはGOLDの512GBという製品ですが、僕たちの企業姿勢が評価されたのではないかとCEOと電話で喜びを分かち合いました。初めてメモリーカードで受賞した立場というのは私たちだけなわけですから、今後も徹底的に追求していきます。カメラ開発者から“こんな性能のカードが欲しい“という要望があれば、どんどん作って行きたいと思います。受賞をきっかけにますます走ります」

出席したProGrade Digitalの関係者

カメラ記者クラブ賞【技術賞】:DxO「PureRAW」

PureRAW

盾を受け取った佐藤昌也氏(DxO Labs SA DxO海外マーケティング部 日本営業所)は、「DxOはまだ製品、会社自体もさほど認知されている状態では無く、まだまだこれから皆さんに知ってもらう余地があると信じています。フランスの本社では新しいソフトの開発を進めていますので、今後ともDxOに注目して頂ければと思います」と話した。

佐藤昌也氏(右)

また、本社からのコメントも披露された。

「フランスの社員一同ただただ驚き感激しています。複雑なRAW操作のハードルを下げることで、高画質なRAW編集の認知を広めるものと自負しています。決して日本では知名度の高い会社とは言えませんが、今回の受賞がDxO製品を広く知って頂くきっかけになると考えています。受賞の喜びをエネルギーとして、日本のユーザーに喜んで頂けるような技術革新に努めていきます」

出席したDxO Labsの関係者

きれいな映像や写真を求める欲求は変わらない

カメラ映像機器工業会(CIPA)事務局長の伊藤毅志氏は、「コロナ禍から少しずつ落ち着き、この2月には実に4年ぶりにCP+がリアル開催できました。これはCIPA、カメラ愛好家にとって嬉しいことだった思います。5月の連休には観光地に多くの人が笑顔で戻ってきて、かなり平常化してきたと感じています。各社から新製品が続々出ていて4月の出荷統計も伸びており、だいぶ市場が戻りつつあると考えています」との所感を述べた。

伊藤毅志氏

「アフターコロナの時代は私たちの生活もだいぶ以前と変わってくると思います。そういう中でユーザーのニーズも次々と変化してくるでしょう。しかし、きれいな映像や写真を求める欲求は変わらないと信じています。新たな製品の提供でユーザーに夢を届けるために引き続き各社の奮起を期待したいと思います」

カメラグランプリの40年を振り返る

最後に、カメラ記者クラブ代表幹事の柴田誠氏がカメラグランプリの40年を振り返った。

会場では歴代のグランプリ機種が投影された
柴田誠氏

「カメラグランプリがスタートしたのは1984年、カメラ記者クラブの創立が1964年で20周年のイベントとしてスタートしたと聞いています。当時のカメラ記者クラブは13誌が加盟しており、第1回目のグランプリはニコンFAが受賞しました」

「第7回(1990年)でカメラ記者クラブ賞が新設されました。カメラ記者クラブ賞は今までカメラやレンズがメインでしたが、今回は原点に戻ってカメラに関する様々なアイテムやデバイスにも目を向けて選ばせてもらいました。そして第25回(2008年)にあなたが選ぶベストカメラ賞がスタートしました。区切りのある年だったので、グランプリを盛り上げるために考えたのがこの賞でした。レンズ賞がスタートしたのは28回(2011年)で一番最後です」

「現在のカメラ記者クラブは7誌が加盟しています。私たちも50周年に向けて頑張っていきますので、今後も各社の新しい技術や製品、サービスの登場に期待しています」

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。