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富士フイルム「XF50mmF1.0 R WR」詳報

33mmから設計変更した理由とは? 高桑正義さんのインプレッションも

発表会後半におこなわれた高桑正義さん(写真家)と上野隆氏(富士フイルム)によるトークセッションパートより

富士フイルムは9月3日、同社Xシリーズミラーレスカメラ用の交換レンズ「XF50mmF1.0 R WR」を発表した。この発表にあわせて、技術的なポイントに関する解説と写真家の高桑正義さんへのインプレッションインタビューがオンライン上で開催。解説内容とともに本レンズに高桑さんがどのような印象を抱いたのかをお伝えしていきたい。

なぜ50mmに設計を変更したのか

同社がXシリーズ用の交換レンズとして開放F値をF1.0とする製品を開発していると発表したのは、2018年7月のことだった。F1.0の大口径レンズとして多くの注目を得ていた製品だが、ついに9月24日の発売が決まった。

ところで本レンズは、2018年の開発発表時点では焦点距離が33mm(35mm判換算50mm相当)となっていた。モックアップの展示等もあったことから、記憶にある人も多いことだろう。その後、サイズや重量の面から焦点距離50mmに設計が変更となり、2020年2月にライブで配信された「X Summit LONDON 2020」においてはレンズ構成が明らかになるとともに、2020年中の発売が報じられていた。

この設計変更について「なぜ?」という疑問にこたえる形で発表はスタートした。

最大の問題は、前記したとおり重さとサイズにあったのだと、説明を担当した曽我氏は語った。

富士フイルムの曽我孝氏

33mm F1.0で設計した場合の重量は三脚座を除いても1,300gとなり、Xシステム用の超望遠ズームレンズ「XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR」の1,375gという重さに近似する重量となる。外寸も140×88mmとなるなど、単焦点レンズとしてみると大型化してしまう。

参考:CP+2019で参考出品されていたXF33mm F1.0。富士フイルム展示ブースより。記事はこちら
設計当初の焦点距離33mmのレンズと新たに発売が決まった50mmのサイズ感の違い

以上の2点の問題をふまえ、開発では小型軽量化をポイントにして、焦点距離の選定と収差のバランスから、あらためて設計が進められていったのだという。

その結果として、焦点距離は50mmとすることとなり、開放での解像度よりもボケ味を優先したレンズとして本レンズに結実することになったのだと説明する。これにより、レンズの外寸は103.5×87mmとなり、重量も845gと大幅な軽量化を達成することとなった。

後ボケを重視した設計

焦点距離を50mm(35mm判換算76mm相当)としたメリットとして、ボケの大きさが、当初設計から約1.4倍くらいの大きさになったと説明する曽我氏。説明会後半パートで実施された写真家・高桑正義さんへのインタビュー形式によるトークセッションでも、このポイントに触れる場面があった。

ここで高桑さんはGFXシリーズに「GF110mmF2 R LM WR」を組み合わせて撮影した写真と本レンズで撮影したカットを比べてみても、ボケ感の面で、どちらで撮影したものかわからなくなる、とコメント。司会とインタビューワーを務めた富士フイルムの上野隆氏は、このように話す高桑さんの感想をうけて、33mmではたとえF1.0の明るさをもっているとしても大きなボケはできないと考えたとコメント。その点でも33mmではなく、50mmとすべきだという考え方に動いたのだと、ボケ味の面からみた焦点距離変更の理由を明かした。

トークセッションの様子。上が高桑正義さん、下が上野隆氏

本レンズの設計では、このボケ味へのこだわりが随所に散りばめられている。とにかく後ボケを最優先して設計したと話す曽我氏。本レンズでは非球面レンズが1枚用いられているが、加工にあたっては、極めて精密な加工を施した金型を用意して、年輪ボケ(玉ねぎボケ)の発生を徹底的に抑制したと続ける。また、わずかに球面収差を残すことで、背景ボケの柔らかさにも配慮していると説明した。

高桑さんは、この収差バランスについて「オールドレンズのような側面が同居している」とコメント。同社のXF56mm F1.2の描写には少し固さを感じるものの、本レンズには“ふわっとしたオールドレンズ的な柔らかさ”があるとして、GFXで用いているシステムに通じる描写性があると続けた。

この指摘について上野氏は、XF56mmF1.2 Rは開放からシャープな描写となる設計としていると説明。そのため、後ろボケが固くなっているのだとコメントした。

曽我氏による技術解説によると、本レンズでは1枚の非球面レンズで球面収差、像面湾曲、歪曲収差の補正をしており、2枚のEDレンズで色収差を補正しているのだという。

絞り別の描写の性格については、F1.0では球面収差による背景ボケの柔らかさをいかした描写が得られるとしており、F1.2で解像性能がXF56mmF1.2 Rと同等レベルになり、シャープな描写が得られるという。さらにF2まで絞ると、XF90mmF2 R LM WRのような画面周辺部まで口径食の少ない丸みのあるボケ形状が得られるのだそうだ。

1本で様々なシーンに

残念ながらモデルの肖像権等の関係から、発表会で紹介された高桑さん撮影のカットを紹介することはできないが、トークセッションの模様を紹介していきたい。

Xシステムの単焦点レンズでは、XF50mmF2 R WRを愛用していたと話す高桑さん。F2シリーズはXF90mmF2 R LM WRをのぞきすべてを所有しているとしながらも、スナップやポートレートで50mmが活躍しているのだと続ける。

今回F1.0の本レンズを使用していく中で、寄りでも引きでも、フットワーク軽く様々な表現ができると感じた、と笑顔を見せながら、「これを使うともう戻れなくなる」とコメント。今回組み合わせたX-T4とのバランスも良く、AF精度の高さもあって、ふつうの仕事でもサクサク撮影できたと話す。

もちろんF1.0ならではの被写界深度の浅さはある。体が少し前後しただけでもピントが外れてしまうと話す高桑さんだが、AF性能と精度の高さによって、多くのショットでもピントが外れることはないと続ける。

本レンズでは、レンズの位置検出とカムのガタ取り機構の採用により、フォーカス位置の停止精度向上が図られているという(曽我氏技術解説)。さらにF1.0の光量が得られる点も暗所AF性能面でも大きなメリットになっているのだと上野氏は言う。

最短撮影距離は70cm

本レンズの最短撮影距離は70cmと、ミラーレスカメラ用のレンズとしては比較的長めになっている。この距離とした理由について、上野氏はポートレート撮影を主眼に置いて開発しているためだと説明した。人物撮影で必要以上に寄っていくと歪みがついてしまう。この点をふまえ、最短撮影距離の設定を設計に落とし込んでいったのだそうだ。

最短撮影距離でみていくと、XF56mmF1.2 Rも同じく70cmとなっている。XF50mmF2 R WRの場合は39cmだ。これらをどう考えるかは使用者の撮影スタイルや表現内容によって変わってくる部分だ。

高桑さんは、背景との距離感をボケで表現できるため使い勝手がよいとのコメントを残している。また76mm相当という画角の面でも被写体との様々な距離のとりかたが調整しやすいとインプレッションを語った。

F1.0ならではのポイントとして、明るい場所ではシャッタースピードがメカシャッターの最高速を超える場面もでてくる。そうしたシーンであっても、Xシリーズでは、メカシャッターから電子シャッターにオートで切り替えるモードを利用することでシームレスに、F1.0の絞り開放で本レンズの描き出す世界を楽しめる、と上野氏。フリンジの発生についてもF1.2くらいまで絞ることでほぼ解消するとして、収差の除去を優先するか、絞り開放時の柔らかさのある描写を優先するか、撮り手の選択次第で様々な使い方ができるレンズだと説明した。

本誌:宮澤孝周