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カメラグランプリ2019贈呈式で各社が開発秘話を披露

パナソニックのフルサイズミラーレス「LUMIX S1R」が大賞に

5月31日、カメラ記者クラブは「カメラグランプリ2019」の贈呈式を都内で開催した。

既報の通り、カメラグランプリ大賞はパナソニック「LUMIX S1R」が受賞した。

レンズ賞はソニー「FE 24mm F1.4 GM」が、あなたが選ぶベストカメラ賞はオリンパスの「OM-D E-M1X」に決まった。カメラ記者クラブ賞は、リコーの「GR III」とタムロン「28-75mm F/2.8 Di III RXD」となった。

受賞にあたり各社より製品へのコメントと開発時の秘話が披露された。

カメラグランプリ大賞:LUMIX S1R(パナソニック)

大賞のトロフィーと賞状を受け取った山根洋介氏(パナソニック株式会社 アプライアンス社 スマートライフネットワーク事業部 イメージングビジネスユニット ビジネスユニット長)は、LUMIX S1Rについて、次のようにコメントした。

山根洋介氏(パナソニック株式会社 アプライアンス社 スマートライフネットワーク事業部 イメージングビジネスユニット ビジネスユニット長)。

「フルサイズミラーレスについて各社から素晴らしい製品が発売される中で、LUMIX S1Rが大賞を受賞したことは、たいへん勇気づけられました。また、19年前にLUMIX事業を立ち上げた時のメンバーやテレビCMに出演していた方など、この事業に携わった多くの関係者から我が事のように喜ぶ声が多く集まりました。」

「S1Rはプロのフォトグラファーや写真愛好家と向き合い、徹底的に撮影者の声を聞きながらカメラに必要な技術の開発を進め、ハイエンドカメラとして開発してきました。そして、撮り手と一体となるようなUIや操作感、フォトグラファーが心に描くシーンを作品として忠実に再現できるカメラとして開発しました。」

LUMIX S1R。

開発秘話を披露した新谷大氏(同社 アプライアンス社 スマートライフネットワーク事業部 イメージングビジネスユニット システムカメラ開発総括担当)は、当時はソニーの35mm判フルサイズミラーレスカメラが発表され、小型・軽量なカメラが求められているのでは、という声がある中で、フラッグシップとして、プロの仕事道具として使用できるカメラとして3つのことを決めて開発を進めていったと、当時を振り返った。

「開発当時はソニーのα9が登場しており、社内では小さくて軽いカメラがいいのではという声がありましたが、プロフェッショナルの方に仕事の道具として使ってもらえるカメラをつくろうじゃないか、ということで、開発にあたって3つのことを決めました。画質・操作性・画質の味の3点です。我々はカタログスペックを追いかけていません。これはフラッグシップ機をつくっていったわけですから、できていて当然ということです。そうした上で“感性に訴えかけるところ”に注力して、S1R/S1を開発していきました。」

新谷大氏(パナソニック株式会社 アプライアンス社 スマートライフネットワーク事業部 イメージングビジネスユニット システムカメラ開発総括担当)。

レンズ賞:FE 24mm F1.4 GM(ソニー)

レンズ賞を受賞したソニーからは、レンズ事業担当の長田康行氏(ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社 デジタルイメージング本部 第2ビジネスユニット)が登壇。いつかレンズでカメラグランプリをとりたかったとして、50数本のEマウントレンズをつくってきた中で、GM(G Master)レンズでこれを受賞できたことは大きな喜びだと述べた。

長田康行氏(ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社 デジタルイメージング本部 第2ビジネスユニット)。

「世界中の多くのプロフェッショナルの方から多くの叱咤激励を受け、べらんめぇ調で言っていただける方も含めて、技術者ともどもそれらの意見を真摯に受けとめてきました。そして、サイズから性能、サジタルコマフレアまで、とにかく妥協のない最高のものをつくりたいという思いでやってきました。それを実現できたレンズが評価されたことに感動しています。」

FE 24mm F1.4 GM(ボディはα9)。

開発秘話は岸政典氏(同社 デジタルイメージング本部 第2ビジネスユニット)より披露された。

「GMシリーズは、(35mm判の)フルフレームのレンズシリーズの中でも最高峰のレンズ性能をねらった製品で、高い解像と美しいボケを高次元で両立したレンズシリーズです。このレンズは、そうした光学性能に妥協することなく、いかにコンパクトにつくるかが課題でした。この課題解決のために、精度の高い非球面レンズ(XAレンズ)を最前面と最後面にそれぞれ使用するなど、開発難易度の高い光学レイアウトを採用しました。そして、画面の中心から周辺まで徹底的に収差を取り除くよう、地道な開発を進めていきました。」

「さらにたいへんだったのは、AFのアクチュエーターの部分でした。この光学性能を出そうとすると、大きく重いフォーカスレンズを駆動するためのアクチュエーターが必要でした。このようなアクチュエーターはこれまでになかったものでした。この開発を同時に実現したことが、このレンズの実現につながりました。」

岸政典氏(ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社 デジタルイメージング本部 第2ビジネスユニット)。

あなたが選ぶベストカメラ賞:OLYMPUS OM-D E-M1X

Webでの読者投票により受賞製品が決定する「あなたが選ぶベストカメラ賞」を受賞したのは、オリンパスの「OM-D E-M1X」となった。杉本繁美氏(オリンパス株式会社 映像事業担当役員 映像事業長)が登壇し、次のように喜びを語った。

杉本繁美氏(オリンパス株式会社 映像事業担当役員 映像事業長)。

「あなたが選ぶベストカメラ賞はOM-D E-M1 Mark II(2017年)に続いての受賞となりました。今回受賞いたしましたOM-D E-M1Xは安定したホールディング性や安定性を実現したOM-Dシステムのプロフェッショナルモデルとなっております。様々なフィールドでの、フォトグラファーからの要求にこたえ、その力になれる機能や性能を備えることを図ってきました。その中でも多くの要望があった手持ちハイレゾショットやライブND機能の搭載が、ユーザーの皆様からも評価されたのだと思います。」

OLYMPUS OM-D E-M1X(レンズはM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO)。

開発秘話は、片岡摂哉氏(同社 映像開発本部長)から披露された。

「2016年にE-M1 Mark IIを出しまして、多くの方に使っていただくことが増えたのですが、そうした中でポジティブなフィードバックを多く得ました。そうした中で、スポーツ写真を撮るある写真家さんの言葉があります。“決勝の写真を撮ろうと思ったら、前の日にちょっとでも挙動がおかしかったら、決勝では使えませんよ。本当にスポーツを撮ろうという場合は、そのくらいの信頼性がないと、機能が上とか、何画素あるかとかいうそういった話ではなく、信頼性がないと使ってもらえませんよ”というものなのですが、何とかこれに応えられないものか、と検討を進めました。絶対的な小型軽量をウリにしていましたので、そうした機能を搭載するには大きくなることは避けられませんでした。これから10年先もマイクロフォーサーズを続けていくためには、ここで大きなチャレンジが必要だということで、開発陣にサイズのことは(気にしなくて)いい、本当にやりたいことをやってくれ、と伝えてスタートしたのが、OM-D E-M1Xです。」

片岡摂哉氏(オリンパス株式会社 映像開発本部長)。

カメラ記者クラブ賞:GR III(リコー)

カメラ記者クラブ賞を受賞したGR IIIについては、リコーイメージング株式会社代表取締役社長の高橋忍氏が登壇し、フィルム時代から続くGRのコンセプトが、いま世界中の若年層や女性に支持されていると述べた。

高橋忍氏(リコーイメージング株式会社 代表取締役社長)。

「GRというカメラは初代が出てから、もう22年たっておりまして、常に究極のスナップシューターとして、画質・速写性といった機能を高めてきました。GR IIIの発表は昨年のフォトキナでのことでしたが、以来“がんばれよ”といった声があり、また今年のCP+2019でも多くの来場者からの反響がありました。海外でも共感して買ってくれている方がひじょうに多く、SNSなども含めて女性を含めた若いユーザーからも“カッコイイ”、“クール”なカメラとして評価いただいております。これだけスマートフォンが普及する中で、デジタルカメラの市場が縮小する状況にありながらも、欧米のようなGRのコンセプトが浸透しづらかったアメリカやドイツといった本場の写真文化がある国々に、本格的なカメラとして注目していただいている写真家さんや写真愛好家の方がいることを感じております。そうした写真自体を楽しむ動きがあること、それも本格的でしっかりしたもので楽しむ動きがあるということを心づよく感じています。」

GR III。

開発秘話を披露したのは、岩崎徹也氏(同社 カメラ事業部 商品企画部 部長)。GR IIIはセンサー、レンズ、エンジンなど、すべてが変わっており、APS-Cサイズになって(2013年)からもっとも大きな変化があったモデルだとして、開発時に注力した2つのポイントを紹介した。

「GR Digital初代のサイズを目指したという点がまずあります。そして、撮影時に余計な操作をユーザーに強いることのないよう余計な機能を省くことです。内蔵フラッシュを省くことなども、いろいろな議論がありましたが、“感じたままを撮影できる”ようにしていきました。」

「GRには22年という歴史がありますが、撮影時に心が動いた瞬間、そういった瞬間を切り取れるカメラにしよう、ということをいちばん大切にしています。そうして道具であることを極めていった結果、デザインが変わっていない、ということになっているのだと思います。色々なカメラがある中で、ポケットに入っていて、心が動いた瞬間にぱっと撮れるカメラとなっているといいな、と思います。」

岩崎徹也氏(リコーイメージング株式会社 カメラ事業部 商品企画部 部長)。

カメラ記者クラブ賞:28-75mm F/2.8 Di III RXD(タムロン)

GR IIIと同じく、カメラ記者クラブ賞を受賞したのは、タムロンのEマウントレンズ「28-75mm F/2.8 Di III RXD」となった。受賞にあたり、沢尾貴志氏(株式会社タムロン 映像事業本部 執行役員本部長)が登壇して、自身にとって思い入れの強いレンズだと、開発当時をふりかえった。

沢尾貴志氏(株式会社タムロン 映像事業本部 執行役員本部長)。

「全社から5名の若者を集めて商品企画の試行錯誤を繰り返す中で、最初にメンバーがもってきた企画が、このレンズでした。実際に動きだすと、“なぜズームが28mmはじまりなのか”といった声もでましたが、小型軽量というコンセプトを大事にして、焦点距離は割り切るというコンセプトを貫きました。しかし、じっさいに蓋をあけてみると市場よりたいへんな好評を得ることができました。」

28-75mm F/2.8 Di III RXD(ボディはソニーα7 III)。

秘話は、同社の亀山基輝氏(品質管理本部 品質保証部 商品評価課)、松橋一樹氏(映像事業本部 設計技術部二部 設計技術二課)、阿部真吾氏(光学開発本部 光学開発一部 光学設計課)の3氏から語られた。

“気軽に持ち歩ける”というコンセプトのもと、28mmはじまりのズームレンズとして開発がスタートした、と亀山氏。標準ズームといえば、24mmはじまりのズームレンズが主流となってきている今、28mmスタートのレンズではユーザーに受け入れられないのではないか、という意見があった、と当時をふりかえった。

「28-75mm(F2.8。一眼レフ用)という発売から15年以上たっているレンズがあるのですが、今もってユーザーからの評価を得ています。そこから、28mmはじまりとしてコンパクトにする、という方針に確信を抱きました。」(亀山氏)

光学設計については、阿部氏から語られた。

「光学性能のぜったいに捨てられない部分と許容される部分を明確にして、引き算の設計をしていきました。」(阿部氏)

左から、亀山基輝氏(品質管理本部 品質保証部 商品評価課)、松橋一樹氏(映像事業本部 設計技術部二部 設計技術二課)、阿部真吾氏(光学開発本部 光学開発一部 光学設計課)。

ミラーレスカメラが主軸になった年

カメラグランプリ2019の授賞式開催にあたり、CIPAの事務局長である伊藤毅志氏は、CP+2019が過去最高の来場者数となったことにふれて、数多くの魅力的な製品が発表され、また多くの人の関心が集まった年だったとふりかえった。

今回大賞に輝いたLUMIX S1Rについては、2008年に同社がはじめてミラーレスカメラを発表したことをふりかえりつつ、近時の国内のカメラ出荷台数が一眼レフ機を上回ったことにふれて、いよいよミラーレスカメラの時代になってきたと述べた。

伊藤毅志氏(CIPA事務局長)。

欧州の専門誌団体TIPAからはローランド・フランケン氏が登壇し、2018年はイメージング業界の主要企業が35mm判フルサイズミラーレスカメラ市場に参入したこともあり、多くの新製品やサービスが登場した年だったとふりかえった。また、変化しつづける映像イメージング機器について、ミラーレスカメラが一眼レフカメラを抑えつつある状況や、スマートフォンのカメラ性能の向上についてふれつつ、しかし写真愛好家の情熱を支える役割として、TIPAの加盟誌が多く参照されているとし、近年の素晴らしい製品の勢いが持続することを楽しみにしていると述べた。

ローランド・フランケン氏(TIPA)。

来場していた外部選考委員からも、いよいよミラーレスカメラが主流になってきた、といったような感想がちらほらと聞かれ、ミラーレス化の流れの強さが印象に残る授賞式となった。

本誌:宮澤孝周