ニコン D850×NIKKORレンズ 写真家インタビュー
選手それぞれのキャラクターを描き切る表現力/スポーツ写真家・能登直さん
D850 × AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR
2019年3月29日 12:00
2017年9月に発売され、その年のカメラシーンを席巻したニコンD850。この一台を愛機として重宝する写真家たちにインタビューを敢行し、写真家になったきっかけ、写真への考え方、そしてD850の魅力などを存分に語ってもらうのが本連載だ。
今回お話を聞いたのは、おもにフィギュアスケートで撮影するスポーツ写真家、能登直さんだ。数年前まで他社のカメラを使っていたが、あるきっかけでニコンに乗り換えたという。その理由と、D850およびAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VRの使用感を聞いた。
能登直(のと すなお)
1976年生まれ、宮城県仙台市出身。1999年に大学を卒業後、仙台のスタジオでのアシスタントを経て、2005年に独立。主に人物撮影を中心とした広告等の撮影を行いながら、2007年より本格的にスポーツ撮影を始める。日本スポーツプレス協会及び国際スポーツプレス協会会員。
“人”を撮りたかった
――まずは写真家になったきっかけを教えてください。
最初はCMを制作する仕事に就きたいと考えていました。ただその就職活動がうまくいかず、そんな時にCMと連動した広告ポスターが街中に貼られてるのを見て映像だけじゃなく写真でも同じような仕事ができるんだと思ったのが最初のきっかけです。
そう決めてからは、電話帳に載っていた広告スタジオに「あ」から順番に「アシスタントになりたいんです」と電話をかけました。すると欠員が出たスタジオに入ることができて、アシスタント生活がスタートしました。そのスタジオは温泉や旅館のパンフレットの撮影がメインだったので、人物撮影は数えるほどでした。その後タレントやモデルを多く撮影しているカメラマンの方に声をかけてもらいアシスタントとしての修行を経て、2005年に独立しました。
――なぜCM、広告だったのでしょうか?
人物を撮りたかったんです。横浜の友達がストリートで歌っていて、それを撮りに行ったんですね。当時はカメラの知識はまったくなくて、フィルムカメラでただ撮影したんです。でも、現像に出したら何も写っていなかった。そこから写真の本を読んで勉強して、人物を中心に撮影するようになりました。会話をしながら撮影したり、撮った写真を見せて喜んでもらえたりすると、こっちも嬉しくて。もし仕事にするなら人を撮りたいと思ったのが原点です。
広告の考え方を応用してシーンを切りとった
――本格的にフィギュアスケートの撮影に従事されはじめたのは2007年からなんですね。
2006年のトリノオリンピックで荒川静香さんが金メダルを獲得して、当時住んでいた宮城県に凱旋アイスショーにきたんです。その時にアメリカの選手と荒川さんの対談があるので、その対談風景とポートレートを撮ってください、と依頼がありました。ただその対談が中止になったんです(笑)。現場に行ったはいいけど仕事がない。取材パスはアイスショーも撮れるものだったので、“せっかくだし”、と撮影してみることにしました。
その時の会場の雰囲気がすごくて、テレビで見ていた感覚とは全然違いました。荒川さんの演技が終わると自然とスタンディングオベーションが起きて、鳥肌が立ちました。テレビで見ている時とスピード感も全然違いますし、正直それまで、僕自身がスポーツとして捉えていなかった部分もあったと思います。ジャンプから着氷する時の音、氷が削れる瞬間を見て、どんどん魅了されていきました。
一方で、シーンの切り取り方によってはバレエのように美しい瞬間もあって、部屋に飾りたくなるような写真になるんです。それは普段の広告写真に近しいというか。構図も広告の考え方を入れると面白い写真になります。
そうしたら翌年に「イタリアで日本代表が合宿をするから、それに同行して撮らないか」とオファーをもらいました。髙橋大輔選手や浅田真央選手もいました。合宿では想像以上にストイックに練習をしていました。それに今では考えられないくらい選手との距離も近かったです。休憩時間に選手と談笑できたりで、試合を撮影したいと思いました。それから本格的にフィギュアスケートの撮影に関わっていくことになります。
フィギュアスケートならではの撮影テクニックとは?
――フィギュアスケートだと、男女で撮影の仕方も変わるのでしょうか?
女子は顔が下を向いている写真はあまり使われません。形がきれい、顔がかわいらしい、輝いているようなところを狙います。男子は逆に伏し目でも、選手の存在感が感じられるような写真なら成立します。背を向けている写真も男子は成立しやすいですね。そういった着眼点は男子と女子で違います。
――フィギュアスケートは、選手ごとに演技の構成が決まっていますが、それも覚えて撮影に臨むのでしょうか?
シーズンの後半になると演技の流れがわかるようになりますが、完璧に覚えることはないです。大会ごとに自分がカメラを構える場所が変わるので、撮影できる瞬間も変わります。それと、試合本番前に公式練習もあるので、そこである程度目安をつけられます。本番では目と手の動きを見て、顔がどう向くか、手がどう伸びるのか、などを予測しながら撮ります。
掲載媒体によって、撮影する瞬間も変わります。新聞などは記録の意味も含めてジャンプの瞬間の写真も必要ですが、僕らのように雑誌に掲載される場合は、ジャンプやスピンの場面はあまり必要とされていません。
――今まで撮影していて一番美しかった、あるいはかっこよかった選手はいますか?
羽生結弦選手は撮るのが難しいスケーターなんです。演技の中で技と技の境目があまりなく、流れていくので、撮るタイミングがずれるとかっこ悪く見えてしまうんです。こちらがきちんと準備して、狙えるタイミングで狙わないといけません。他のスケーターだと決めポーズがわかりやすい場面もあるのですが、羽生選手はあまりないんです。こちらの瞬発力と集中力が試されるスケーターです。
また、多くのカメラマンが彼を撮影して、多くの写真が世に出るので、ますます「自分らしさを出すにはどうすれば良いか」を考えないといけないです。逆に言えば、彼を撮ることで他のカメラマンと競うことができる面白さも感じています。
他のカメラマンとは、「写真を撮っていて楽しい、もっと撮りたいと思える選手が、点数が伸びる傾向にある」という話になることもあります。パフォーマンスが点数に直結する競技ですからね。
あえて枷を設けることで集中力を高める
――カメラのことをお聞かせください。能登さんがカメラに求めることはなんでしょうか? やはりスポーツ撮影だと連写性能は大事だと思いますが……。
連写をしても3〜4コマしか切っていません。「撮れた」という感覚が得られるのは、3〜4コマなんです。その感触がないと不安になってくるというか……。あえて(連写枚数に)制限を設けることで、撮影に集中できるんです。その方がカメラ任せにせず、自分の力で撮っている気になります。
――なるほど。ところで能登さんは最近までニコンのカメラを使ってなかったとお聞きしました。
そうですね。アシスタントの頃からずっと他社のカメラを使っていて、ニコンに触れる機会はありませんでした。ニコンに切り替えたのは2017年の夏頃で、平昌オリンピックの直前でした。
――なぜニコンに変えたのでしょうか?
一度使ってみて、かなりシャープで解像感があったからです。立体感が違いました。同じ会場で使い比べると、まず髪の毛の出方が違います。黒が潰れずにグラデーションが出ますし、1本1本の質感もうまく再現されます。それと、引きの写真でもスケーターにピントがあっていれば、浮き出ているような立体感があります。
もともとは広告撮影用に購入した
――操作に慣れるのに時間がかかりませんでしたか?
元々使っていたカメラと併用していましたが、他社の方を使うと「どっちだっけ……?」となるくらい、割とすぐに慣れました。もちろん最初のうちは混乱しましたけど、それでも使ううちに順応しました。
――D850はいつから導入されましたか?
発売直後ですね。2017年の9月です。
――大きさやグリップ感はいかがですか?
違和感はないです。もともとスタジオなどでの広告撮影に使う目的で購入しました。スポーツで使ってみてもピントがしっかり合います。
ただ、スポーツ現場で使う時は縦グリップが必須です。縦位置に構えた時、右腕が上がってしまいます。複数のカメラを肩や首にかけながら撮影するので、縦位置撮影で右腕を上げることはできません。
――ファインダーの見え方はどうでしょうか?
特に違和感はないです。D5と遜色なく、「見づらい」と思ったことはないです。本当に印象がないので、逆に言えば自然に使えるくらい馴染んでいるということだと思います。
撮影時の基本設定は?
――撮影の基本設定を教えてください。
撮影モードはマニュアル、絞りは開放です。シャッター速度は1/1,000秒以上、できれば1/1,250秒まであげたいです。会場が明るければ1/2,000秒まで上げることもあります。ISO感度はなるべく上げたくなくて、ISO 2000程度で調整するようにしています。ステップのシーンを撮ることが多いのですが、そこでブレてしまうのが嫌なのです。
――フィギュアスケートは室内競技なので、暗い中での撮影のなるのではと想像しますが……。
会場によってまったく違います。明るい会場なら、ISO感度ISO 2000、シャッター速度1/1,600秒で十分な会場もあります。アメリカやカナダの地方会場では照明が古かったりするので、ISO 6400まで上げてかろうじて1/1,000秒、という場合もあります。それでも暗めになってしまうので、RAW現像で持ち上げることもあります。
男子は女子よりも動きが速いので、できれば1/1,250〜1/1,600秒程度のシャッター速度がほしいですね。D850だと画素数も高いので、被写体ブレも目立ちます。
――照明の色も影響するのでは?
まずはホワイトバランス「オート」で撮影して、(色が)被ってしまう場合は氷や看板の白を基準にマニュアルホワイトバランスを取ります。それでも合わない時は微調整して、カメラ上で完結できるようにします。それでもダメな場合、最終手段でRAW現像です。(照明は)会場によってLEDだったり水銀燈だったりしますし、フリッカーも厄介です。
“目”を写すことで“選手”を表現
――絞りは開放なんですね。ピントズレを防ぐなら、やや絞り込んで被写界深度を深くとる方法も考えられますが……。
最近のレンズの解像感をもっとも出すには、絞り開放がいいと思います。アイスダンスやペアの時はF4まで絞ったりしますが、シングルの時はほぼ開放です。
――カスタマイズは何かしていますか?
フォーカスの割り当てをするくらいです。「AF-ON」ボタンにAFエリアモードの「オートエリア」、シャッターボタンに「ダイナミックAF」を割り当てます。選手が近くまで来てとっさに撮影するときに「オートエリア」、遠くにいるときには「ダイナミックAF」で追います。
レンズのFnボタンに別のAFエリアモードを割り当てて、スローシャッターを切ることもあります。その切り替えを瞬時にできるようにしています。スローシャッターは、流し撮りやスピンをぶらすときに使います。
ピントは目ですね。選手のキャラクターを写していると思っているので、目からピントが外れた写真は形がきれいでも出さないです。
――その他なにか特別な設定はありますか?
会場が暗い時は、高感度ノイズを強めにいれます。フィルムっぽく見えるノイズならありですが、デジタルノイズは質感が違うので、なるべく乗せたくないんですよ。ISO感度を高感度にしないのも同じ理由です。
――ボディとレンズ以外ではどんな機材を使われますか?
一脚ですね。足の先が地面に張り付くタイプを使って、そこを起点にカメラを動かします。安定感も大事です。
ある程度の重さがある方が“しっくりくる”
――レンズの話に移りましょう。AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VRの大きさや重さはどうですか?
肩にかけてても負担にならないですし、とりまわしはしやすいです。D850に縦グリップをつければ本体も大きくなるので、ボディとのバランスも特に問題ないです。
――重さはある程度必要なのでしょうか?
手持ちの時はある程度重さがあった方が安定すると思います。小さいボディだと、意識的に小さく構えて「ホールドしなきゃ」と気構えないといけません。重さがあった方が逆にしっくりきます。これは慣れでしょう。
あと、レンズに水滴が付着しても、布で簡単にふけるのもいいです。フッ素加工をしているので傷つかないんですよ。とっさの時は服で拭いてしまいます。演技中は氷が飛んでくることもありますし、外気温との差でレンズが曇ることもあるんです。そういう時はさっと拭けるAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VRが便利です。
――操作性、堅牢性はいかがですか?
Fnボタンには2つとも機能を割り当てています。横位置でも縦位置でも同じ設定を使いたいので。堅牢性もまったく問題ないです。キャリーバッグに入れてゴロゴロ転がしていますけど、故障したことは一度もないです。一度豪快にぶつけてしまったこともありますけど、それでも正常に動作しました。
――これまでAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR以外にはどのようなレンズを使っていますか?
フィギュアスケートでは105mmの単焦点を使います。解像感がとてもよくて、F2で撮影する時もあります。ニコンはレンズ全般の解像感が高い。広告でもAF-S NIKKOR 35mm f/1.4Gなど、全般的に不満はないです。やっぱりピントがあってほしいところにちゃんと合ってくれるところが信頼が置けます。
特定の選手を撮影する時に使うレンズ
――D850のAF精度と、AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VRの解像感があって、フィギュアスケートの撮影が成立しているのでしょうか。
そうですね。その2つの組み合わせならまったく不満はありません。
実はAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VRは特定の選手を撮影する時だけなんです(笑)。基本的に400mmで撮影して、それ以外のバリエーションをつけるときにAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VRを使います。実際の焦点距離は100mm前後でしょうか。レンズを付け替えている暇はないので、カメラは2台持って会場に入ります。
フレアもゴーストも起きにくいです。会場は照明も多く、光源が画角内に入ることは多いのですが、それでもフレアは広がりません。逆光耐性もすごいです。
ディテールの表現も良いです。アイスショーだと真っ暗闇な中で選手だけにスポットライトが当たります。さらに、スケーターの衣装も黒だったりしますが、それでも黒のディテールが出て、スケーターの輪郭もはっきり写ります。この解像感はなかなか出せないと思います。
D850にしてもAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VRにしても、画質やピント以外で何か特別なことを感じたことはないんです。逆に言えば、それくらい自然に使えている、それだけ手に馴染んでいるということだと思います。
能登直さんの使いこなしテクニックがデジタルカメラマガジンで読めます!
発売中のデジタルカメラマガジン2019年4月号に、能登直さんによるD850 & AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VRの使いこなし方について掲載しました。こちらもぜひご覧ください!
制作協力:株式会社ニコンイメージングジャパン