インタビュー

AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED(後編)

ピント位置近傍のボケを如何にになだらかに描写するか

前編に引き続きニコンの交換レンズ「AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED」のインタビューをお届けする。

後編では本レンズの特徴である「三次元的ハイファイ」についてさらに詳しく聞いたほか、機構面の工夫などをうかがった。(聞き手:杉本利彦、本文中敬称略)

後編の内容

・三次元的ハイファイはいつ完成するか?
・ピント位置近傍のボケはなだらかなでなくてはならない
・フォーカスレンズを軽くしてAF化を実現
・手ブレ補正機構は早い段階で検討から外れる
左から

株式会社ニコン 映像事業部 開発統括部 第一システム設計部 第五設計課 主幹 山下雅史氏(レンズの実施設計を担当)

同事業部 開発統括部 第三システム設計部 第四設計課 主幹研究員 佐藤治夫氏(レンズの基本設計、光学設計開発リーダーを担当)

同事業部 マーケティング統括部 第一マーケティング部 ILグループ 副主幹 石上裕行氏(商品企画を担当)

同事業部 開発統括部 レンズ開発企画室 主幹研究員 曽雌功氏(メカ設計を担当)

三次元的ハイファイはいつ完成するか?

――そういう意味では、個人的には今回のレンズはもっととんがって、58mmと全く同じ描写性のほうがおもしろかったような気もします。

佐藤:焦点距離が長めなので、被写界深度が浅いぶん柔らかく見える傾向がありますので、やや固めにして心理的には同じくらいになるという面もあります。

そのバランスが難しいのです。例えば、58mmと同じ特性にすると今度は柔らかく感じすぎるということもあります。その辺りも含めて、今回のレンズでもお客様にジャッジをお願いしたいですね。

――試作の段階では、例えば絞り開放からカリカリのものから、58mmと同じくらい至近がソフトなもの、その中間など色々と作られたのですか?

佐藤:実際の試作はしていませんが、設計の段階ではそういったものも含めたくさんのバリエーションを作ってシミュレーションし検討しました。

――その中で、評価の高かったものが今回のモデルということなのですか?

佐藤:そうです。最後は人間の目による評価しかありませんのでシミュレーション画像によるブラインドテストなども行い、その結果今回のレンズのベースとなったものが決まりました。

――三次元的ハイファイの完成形はまだ先ということですか?

佐藤:おそらくそうすぐには完成はしないのではないでしょうか? 先ほど100人が100人とも満足できるレンズはないだろうと申しましたが、例えば5本、10本の商品の中で、「この中にあなたのお好みのレンズがあります」ということはできるかも知れません。しかし、1つの商品ですべての方々を満足させるのは難しいと思います。

――無限遠と近接撮影時で、MTF特性はどう変わりますか?

山下:近接撮影時は、一般的なレンズと同様に無限遠時よりはMTFの値が若干下がりますが、AF-S NIKKOR 58mm f/1.4 Gと比較しますと若干軸足をシャープネス寄りにしています。

また、無限遠も近距離も不自然な描写につながる収差は極力抑えるよう心がけています。全ての収差を完全に補正しきる事は難しいので、コマ収差やサジタルコマ収差、非点隔差など、点が点に写らず、コマ状の尾を引いたような像になったり、点が楕円形になってしまうような目で見て不自然に見える収差はできるだけ抑えるようにし、その一方で、球面収差や像面湾曲など、自然にふわっとボケるような収差は残す方向でバランスをとっています。そのため、MTFで見る以上に自然な描写になっているという印象ではあります。

――MTFのサジタルとメリジオナルの値がだいたい揃っていますね。

佐藤:MTFを揃えようと意識しているのではなく、点像の形状を意識して設計していますので、点像の形状を揃えるとそれが反映されて結果的にサジタルとメリジオナルの曲線が揃ってくるのです。

AF-S NIKKOR 105mm f/1.4 E EDのMTF曲線

――AF-S NIKKOR 58mm f/1.4 Gのときに、AF方式が全体繰り出しなので、至近撮影で球面収差が出やすい性質を利用しているとおうかがいしましたが、このレンズはインナーフォーカス式なので全体繰り出しとは収差バランスが変わってくると思いますが、どうやって特性を合わせるのでしょうか?

佐藤:そこは苦労していますね。設計上のノウハウに近い部分なのですが、例えば後群の構成を工夫するとか、距離ごとの収差バランスを確認しながらさらに工夫を加えるとか色々と苦労しながら設計しました。

山下:今回のレンズでは、超望遠のレンズタイプを応用すればAFはなんとか達成できるだろうなという印象は持っていましたが、超望遠レンズを担当させて頂いていた頃から、このタイプのレンズ構成の欠点も認識はしていましたので、収差バランス的に三次元的ハイファイの特性を持たせる場合、このレンズタイプでは折り合いを付けるのが難しいのではないかという懸念はありました。しかし、最終的には最適解が見つかり何とかうまくまとめることができました。

ピント位置近傍のボケはなだらかなでなくてはならない

――次に、発表資料にある「ピント面から遠ざかるにつれてなだらかに変化する美しいボケ味」とは、ピント面から背景までの距離に応じて具体的に何が変化するのですか?

佐藤:先ほども少しありましたが、ピントの合ったところから徐々にボケの形が大きくなるところで、ある収差バランスでは被写界深度の範囲ではあまりボケの大きさが変わらずに被写界深度を超えると急激にボケが大きくなる場合ですとか、もしくはボケのエッジが目立つ場合だと2本だった枝が急に4本に見えるなど、そうしたフォーカスの特性は不自然だと思うのです。

動画ではなおさら不自然に見えますので、ピント繰り出しの感覚とデフォーカスの感覚、すなわちボケ像が大きくなる感覚を合わせるにはどうしたら良いか? 不自然に見えなくするにはどうしたら良いかというのが三次元的ハイファイの考え方の1つでもあるのです。

例えば葦の茂る原野の前にモデルを立たせてポートレートを撮影したとすると、モデルのすぐ後の葦と、少し離れた葦、遠くの葦が、確かにそれぞれ後側にあるのがわかるようなボケ方をして、突然壁のように大きくボケて何があるかわからない映像にはならない。

もしくは、むかし木村伊兵衛さんがおっしゃっていたように、襖(ふすま)が襖に見えるボケ。襖の柄が腐った豆腐に見えたりせずに何がボケているかわかるボケに持って行きたいですね。

山下:最もシビアなのはピント位置近傍のボケなのです。ピント位置からだいぶ離れて背景になってしまったところでは、ボケとしては広がってゆくだけなので連続性を維持する必要性は少ないのですが、ピント位置から被写界深度を過ぎて大きくボケ始めるところあたりまでの変化が重要なのです。

その領域のボケに収差で味付けを持たせることで、ボケの変化をなだらかにしてゆくのが三次元的ハイファイの考え方です。もちろん、同じ収差バランスは、中央だけでなく周辺部でも維持できている必要があります。

――その重要部分のボケの輝度分布(ボケの中心から周辺にかけての強度分布)はどのような感じですか?

佐藤:点像強度分布的には、ガウシアン分布に近い強度分布を持っています。一口にガウシアン分布と申しましても、ピークの高さとか広がりはさまざまなので、そのあたりのバランスをどうするかもノウハウの1つになっています。

どのようなボケが良いかと言うことでは、皆さん定性的にはわかっておられると思うのですが、定量的にな最適解は求めきれていないと思います。また、調整するにしてもピントの合ったところから被写界深度を超えて大ボケする部分までのどの距離を調整すればいいのか、画角的にはどの角度を調整すれば良いのか、といったところも難しいところなのです。

――点光源を距離ごとにボカしてみたのですが、確かにピントの近傍ではガウシアン分布のような輝度差を持ったボケの形でしたが、もう少し大きくなるとほぼ均等なボケに見えました。

佐藤:その辺りの大きなボケになりますと、エネルギー量が分散してボケは平らに見えます。

――そうしますと三次元的ハイファイを実感できるボケの範囲は、ピントの合った部分から被写界深度を超えて大きくボケ始めるところくらいまでということなのですね。

佐藤:そうです。ニコンの製品ページのポートレートの作例(サンプル1)でいいますと、目にピントが合っていて、こめかみ付近からボケ始めて、イヤリング、耳、後ろ髪を経て、背景の壁の部分くらいまでの領域です。

斜めのポートレート(サンプル2)ですと、手前の目にピントを合わせると、奥の目はちょうど被写界深度からはずれた部分にあるのですが、そうしたところに二線ボケなどがあると非常に気になりますので、その辺りを重点的にケアしているのです。

――AI AF DC-Nikkor 105mm f/2 Dとのボケの構造の違いは?

佐藤:基本的にはボケの強度分布をガウシアン的にするという方向性は同じです。DC-Nikkorの場合は、定量的な部分を調節できるようにしていますが、今回のレンズの場合はここがちょうどいいのではないですかというところを狙っているという違いです。

――このレンズの前ボケの傾向はどうなりますか?

佐藤:58mmも105mmも、お客様の実際のご使用状況を考慮して、後ボケのほうを優先してきれいにしようとしていますので、前ボケに関しては少しだけですが二線ボケ傾向が出る領域があります。しかし、その部分はわかりやすいと思いますので、そこの部分だけ避けて頂ければ、その前後では前ボケもきれいになるようにしています。

――前ボケで二線ボケが出やすい条件とは?

佐藤:二線ボケには、実は収差に傾向を持っているレンズ起因の場合と、もともと被写体の明暗や細かさなどで要因を持っている被写体起因の2通りあるのです。

巷で二線ボケの実例とされているものは、意外と被写体起因の割合が多いのが実情です。このレンズも、このような条件が重なった場合、前ボケ方向において、被写界深度を外れたあたりにその傾向が出る可能性があります。

――絞り開放付近では周辺部で口径食が大きめに感じました。

山下:口径食を少なくするには、前玉径をさらに大きくして、全長も伸ばすことになり、製品としてのバランスを考慮して、今回はこのような仕様になっています。

――口径食がほぼなくなる絞り値は?

山下:画面の位置にもよりますが、F2~2.8くらいまで絞って頂ければ気にならないレベルになるかと思います。

――ミラーボックスによる玉ボケのケラレはありますか?

佐藤:目立たないほうではありますがございます。これはF1.4クラスの大口径レンズと一眼レフカメラの組み合わせでの宿命として避けられないのです。

――モデルの目にピントを合わせて、顔の輪郭や腕のエッジ部分などで見られる軸上色収差による色づきは、もうなくなると考えてよろしいですか?

佐藤:かなり抑えたつもりではいます。通常の撮影ですぐわかる程度ではありませんが、等倍観察でシビアに見られますと条件によっては僅かに輪郭が色づいているということはあると思います。原理上、軸上色収差は残念ながらゼロにはできません。しかし、極力補正する努力をしています。

フォーカスレンズを軽くしてAF化を実現

――Ai Nikkor 105mm f/1.8SをそのままAF化しなかったのは、従来技術では機構的にAF化が難しかったのでしょうか?

曽雌:初期のAF方式はボディ内モーターでカップリングにより駆動する方式でしたが、光学系が重いから動かないということはなかったのではないかと思います。ただ実際に動かすとなると、(必要なトルクを得るために)ギアを何枚も使って減速しゆっくりと動くAFとなるでしょうから、快適なAFの実現という意味でAF化が見送られたのかと思います。

Ai Nikkor 105mm f/1.8 S

――お話の最初で、佐藤さんが初めに設計された105mm F1.4はAF化に適していなかったとお聞きしましたが、大口径の中望遠レンズでは、どうしてAF化が難しいのですか?

曽雌:ニッコールレンズはAF-S化の際、それまでのボディ内モーターによりAFを駆動する方式から、レスポンス性がよく動作音が静寂なレンズ内駆動の超音波モーター方式に移行したのですが、そもそも超音波モーターというのは一般的なモーターに比べ、投入した電力に対して取り出せるパワーが小さく、あまり効率の良いモーターとはいえません。

そのため、フォーカスのために使えるパワーがある程度限られて来ますので、AFで動かす部分はできるだけ小さく、軽くて、移動距離が少ないほうが良いということになります。つまり、従来と同じ光学系ではフォーカスレンズが重すぎて動かないという場合も出て来ます。

特に中望遠レンズは、全体繰り出しタイプのレンズが多くそのままでは製品化が難しい。そこで今回のレンズの場合もそうなのですが、インナーフォーカス方式によって、フォーカスレンズ系ができるだけ軽くなるような設計にする必要が出てくるのです。

――今回のレンズでF1.4を実現したAF駆動技術の特徴を教えてください。

曽雌:AF-S NIKKOR 58mm f/1.4 GやAF-S NIKKOR 85mm f/1.4 Gと同じような構成になっています。MFに対するレスポンスを上記レンズと同等にしています。

――AF速度的にはどうでしょうか?

曽雌:他のF1.4シリーズのレンズと、ほぼ同等のAF速度が得られるようにしています。

手ブレ補正機構は早い段階で検討から外れる

――かなり太めのレンズですが、バッグへの収まりは意外といい感じでした。明るさのわりにはそれほど太くなっていないと思いますが工夫はありますか?

曽雌:幸いこのレンズの光学系は前群は口径が大きいのですが、後群は比較的スリムになっていますので、内部機構のレイアウトは径がそれほど大きくならない方向で配置ができました。

――手ブレ補正機構は検討されましたか?

佐藤:構想段階では考えましたが、敢えて採用しませんでした。手ブレ補正を入れた三次元特性を考えると、検討事項がもう一次元増えて複雑になりすぎる面もありますので、早い段階で検討からはずれました。

曽雌:VR機構を入れるとなると全長が伸びることにより、前玉径がさらに大きくなり鏡筒も太くなりますので製品として成立させるのが難しくなると思います。

――最短撮影距離(1m)はもう少し短くできなかったのでしょうか?

佐藤:これでも、最大撮影倍率0.13倍ですのでだいぶ頑張っているのですが……。最短撮影距離を短くしようとすると、これも全体が大きくなる方向に行ってしまうので、製品としてのバランスを考えるとこのあたりが良いバランスだと思いました。

もっと被写体に寄りたいとおっしゃる場合は、できるだけ度のゆるいクローズアップレンズをお使いになってみるのも良いかも知れません。

――生産はどこでしょうか?

佐藤:中国で作っています。もちろん、生産技術や検査基準は国内で作る場合と同じですので、品質的には何ら変わりありません。

――最後にご担当箇所で追加したい事柄、苦労点やエピソード、この製品に関するアピールポイントなどございましたらお1人づつお願いします。

石上:このレンズは先ほど佐藤からも申し上げました通り、銘玉解析プロジェクトから始まっているのですが、マーケティングからもこのレンズをどういうふうに仕上げてゆくかについては色々と提案させて頂きました。たとえば、AF-S NIKKOR 58mm f/1.4 Gよりも近距離でシャープ寄りの特性にしたところなども、我々を含めて多くの関係者の間で議論を深めた結果なのです。

また、開発当初からこのレンズはAFで動くかどうかわからないし、動くとしてもゆっくりだということを聞いていましたが、マーケティングとしては実用的なAF化が絶対条件でしたので、関係者と議論をしてきました。それを受けて、光学設計やメカニズム設計ほか開発のメンバーが頑張ってくれましたので三次元的特性を維持しつつAFが可能になる仕様がまとまり、製品化することができました。その結果AFの105mm F1.4という非常に画期的なモデルになり、自信を持っておすすめできると自負しております。

また、描写面としてはどうしてもポートレート中心の話になってしまうのですが、無限遠でもシャープなピントを結びますので、実際にはこのレンズが使用可能な撮影分野はかなり広く、色々な被写体に対応できると思います。ですから、ポートレートに限らず色々な被写体で使って頂きたいと考えています。

佐藤:105mmの画角というのは、いま話があった風景を切り取るような表現でも使いやすい画角なのです。そのために、無限遠のMTFを上げているということもありますので、ポートレートに限らず風景撮影などを含めて色々な方に幅広く使って頂いてご意見をお寄せ頂ければと思います。ニッコールの進むべき将来の姿をぜひご提案ください。

山下:これまでの話にもありましたが、このレンズには色々な方の思いが詰まっていますので、AF化と3次元特性の両立が達成でき、こうして形になってきて本当によかったと思います。色々な制約や条件がある中で、当時私が携わっていた超望遠のレンズタイプを採用することでその解を見つけられたことは幸いでした。

それなりに苦労もしましたが、完成品をみれば、あらゆる面でバランスの良いいいレンズに仕上げることができたと思います。ぜひお使い頂いて、お客様なりのこのレンズの使いこなし方を見つけて頂きたいです。

曽雌:このレンズの最初の企画では、光学的には他に絶対負けないものを作ろうということでしたので、メカ的には快適なAFが実現できないかもしれないという条件で、開発がスタートしました。

その後、ある程度のベースとなるものができて、何とか実現できそうだという段階になって、社内での色々な意見をマーケティングの石上のほうでうまくまとめてくれてようやく本格的に設計が動き出しました。

光学設計の山下も、ほんとうに頑張ってくれて、よくあれだけ難しい課題をクリアできたと思います。色々と苦労もありましたが、出来上がってみれば大変良いものができたと思います。ぜひともこのレンズの光学系のすばらしさを味わってほしいと思います。

 ◇           ◇

―インタビューを終えて― 単に105mmでF1.4を実現しただけにとどまらない奥深さ

中望遠レンズのレンズタイプとしては、ガウス型のレンズ構成を基本にしたものが多いが、従来のガウス型レンズの欠点(わざとそうしている?)として気になるのは、絞り開放で描写が甘く、2~3段絞るとシャープになるレンズが多いことだ。

一昔前のポートレートならソフトフォーカスがはやっていた時代もあったくらいなので、多少の描写の甘さは歓迎されていたかもしれない。しかし、何か1枚ベールがかかったような甘い描写のポートレートには飽きが来ているし、高画素のデジタルカメラと高性能レンズの組み合わせによるシャープでクリアな描写に慣れた目には、大口径レンズの絞り開放付近の描写の甘さ(悪さ)がどうしても気になってしまう。

同じように感じる人が多いのか、多くのメーカーにおいて、最新の大口径レンズにおけるレンズ設計のトレンドとしては、絞り開放から無収差に近い極めてシャープな描写のレンズにシフトして来ている傾向があると思う。

ところが、今回のインタビューで印象的であったのは、絞り開放からシャープなレンズを作るだけなら簡単にできるが、ボケが不自然になってしまうということ。そして三次元的ハイファイを謳うニッコールレンズでは、敢えてカリカリにシャープにするのでなく、その余力を自然なボケが得られる方向に振り分けているというところだった。

つまり、他メーカーが今目指している描写の方向性の、その先に三次元的ハイファイの考え方があるということなのだろう。実際にこのレンズで撮影すると絞り開放付近では僅かに球面収差が残されているが、その他の収差は極限まで抑えられていることがわかる。

もう1つのポイントは、三次元的ハイファイの描写効果が顕著なのは、ピント位置から後方の被写界深度からはずれたあたりまでということだ。つまり玉ボケになるくらい大きくボケたところではなく、もっとピント位置付近のボケ始め部分の微妙なボケ味を良くしているということなのである。

そのあたりの評価は、ピント付近のボケを活かした作画をしているかどうかで評価が大きく異なるかもしれない。そこまでボケにこだわるのは、かなりマニアックともとれるが、それが必要なユーザーにとっては唯一無二のレンズということになるだろう。

「105mmで世界初のF1.4を実現した」ところが話題になりがちだが、その裏側でははるかに繊細な描写性について検討がなされている。ニコンの企画力、設計力の奥の深さとその神髄の一端が感じられたインタビューであった。

杉本利彦

千葉大学工学部画像工学科卒業。初期は写真作家としてモノクロファインプリントに傾倒。現在は写真家としての活動のほか、カメラ雑誌・書籍等でカメラ関連の記事を執筆している。カメラグランプリ2013選考委員。