アミタマリさんインタビュー「自分の直感がすべてだと思っています」
こんにちは。
以前「若子jetのphoto Art」で連載を担当していました、写真家の若子jetです。
新しく、連載をはじめることになりました。
このコーナーでは、「今会いたい」キャッチーな、注目の女性写真家に視点を向け、密着取材をしていきます。その様子をみなさんにお伝えしていきたいと思います。
今回は、現在の音楽シーンに欠かせない写真家、アミタマリさんの撮影現場にお邪魔し、お話をうかがいました。
インタビュー=若子jet 撮影=若子jet(一部を除く) 編集・構成=吉田真緒
モデルから写真家へ。まっすぐに被写体と向き合う
若子jet:2006年に出版された写真集『シャッター&ラブ 10人の女性写真家たち』、Parcoでの展示でアミタさんのポートレート写真を見たとき、独特の空気感のあるビジュアルにすごく衝撃を受けました。それからというもの、音楽雑誌などで、アミタさんの写真の展開をいつも楽しみに拝見していました。今日こうしてお話ができてうれしいです。
まずは、アミタさんが写真家になった経緯を教えていただけるでしょうか?
アミタマリ:私は18歳のときにモデルの仕事を始めて、この業界に入りました。24歳くらいのときに、歳をとったらモデルはできないと感じて、「この先どうしよう」と思っていたところに、その頃知り合った写真家、野村(浩司)が、「うちでバイトすれば?」と言ってくれて。彼は、後の師匠であり夫でもあります。
野村のもとで雑用のバイトをしながら、暗室に入れてもらったり、プリント作業を手伝わせてもらったりするうちに、裏方の仕事に魅力を感じるようになりました。そして、バイトを始めて1年後、「写真を一から学ばせてほしい」と野村にお願いし、モデル業も完全にやめました。
若子jet:アミタさんというと音楽関係の写真を撮られているイメージがありますが、お仕事を受けるときに、こだわりなどはありますか?
アミタマリ:当たり前のことですが、依頼されたものに対して、仕事の規模に関わらず全力を尽くしたいと思っています。音楽の仕事はやっぱり好きです。師匠の野村が音楽業界にいたので、自然な流れではありますね。ファッションの世界から初めて音楽業界に関わるようになったとき、自分のなかですごく世界が広がりました。
若子jet:撮影中、裸足になられているのが印象的でした。
アミタマリ:あれは撮影中に体がブレないように。昔からそうなんです。私は三脚はめったに使わないので、自分でしっかりホールドしなきゃいけない。下半身を安定させるためには、真冬だろうがなんだろうが、滑らないように裸足になります。
撮影のときの服装は、だいたい動きやすいデニムとTシャツです。ユニフォームみたいなものですね。いつもと違う服を着て、動きづらかったり違和感があったりして、撮影以外のことに余計な意識を持っていかれるのが嫌なんです。
若子jet:感性を高めるために意識していることはありますか?
アミタマリ:私の撮影はポートレートが多いので、自分の直感がすべてだと思っています。被写体となる人の事前情報や世間の評判に惑わされることなく、自分がどう感じるか。まっすぐに向き合うことを大事にしています。
かけがえのない家族との時間
若子jet:仕事以外の顔、プライベートについても聞かせてください。
アミタマリ:普通に「おかあちゃん」ですよ(笑)。6歳の息子がいます。家にいるときは台所に立っていることが一番多いかな。庭に夏みかんの木があるんですけど、最近はそれを収穫して毎晩マーマレードを作っています。
一昨年の秋に夫の野村が亡くなって、次の年に「彼が空の上で撮っている風景を撮る」というテーマで、息子と撮影旅行に出かけました。普段は息子を撮影現場に連れていくことはないんですが、テーマがテーマだけに、彼を誰かに預けて行くのは違うと思って。
そしたら、息子が一緒でも、ちゃんと撮れたんです。むしろ「おかあちゃん、今きれいだよ」と、シャッターチャンスに気づかせてくれることもあった。
若子jet:最後に、今後の活動について教えてください。
アミタマリ:これからは知らない世界にもっとチャレンジしていきたいですね。最近RICOHのデジタルカメラ「GR II」のカタログ撮影を手がけたことも、新しい試みでした。東京の街のスナップで、ライティングもレタッチもできない、カメラだけで勝負する撮影。かつてのポジフィルム時代を思わせるような、やり直しのきかないシビアな仕事でした。
新しい挑戦で学んだことを糧にして、私ならではの技術を高めていきたいです。
撮影&取材を終えて……(若子jet)
現場は予想通りの緊張感があり、中心で撮影をこなすアミタさんの姿は、とてもかっこよかった。タレントやアーティストの撮影は、決められたタイトな時間内での依頼も多く、場所の制約もある。そのため、狙った光で撮影をするにも、限られた条件のなかで工夫しなければならない。私もよく悩まされるが、そうした撮影も、繰り返すことによって自動的にフローが早くなる。
そんな撮影現場で、テキパキと動くアシスタントさん以上に、アミタさんは動く動く。アミタさんのように、現場で自らライトの準備をする写真家は少ないように思う。それだけ光の調節を慎重にしているのだろう。
撮影後に付近のカフェで取材をしたときは、さっきまでのかっこいい姿とは一転、女性らしいソフトタッチなアミタさんの顔も見ることができた。この2面性は、彼女の魅力だ。
アミタさんの写真は多くの音楽系ビジュアルを飾り、影響力も強い。今後もよく目にする媒体で、お目にかかれるのを楽しみにしている。