藤井春日さんインタビュー「意味が込められた作為的な世界に惹かれます」
こんにちは。写真家の若子jetです。
このコーナーでは、「今会いたい」キャッチーな、注目の女性写真家に視点を向け、密着取材をしていきます。その様子をみなさんにお伝えしていきたいと思います。
今回は、藤井春日さんの作品撮りの現場にお邪魔しました。
春日さんには、私が独立したての頃、とあるコマーシャルの現場にてお世話になったこともあります。独自のこだわりとやさしさがとても印象的な写真家です。そんな大先輩にお話をうかがいました。
インタビュー=若子jet 撮影=若子jet(一部を除く) 編集・構成=吉田真緒
フィルムカメラで女の子の作品を撮る
若子jet:実は私、独立したての頃に、春日さんがコマーシャルを制作する現場にアシスタントで入ったことがあるんです。春日さんは緊張感が漂うなか、スタッフの方々と一緒に細部にまでこだわって作り込んでいました。今日は作品撮りということもあって、そのときとはまた違う、リラックスした雰囲気の現場だったように思います。
春日さんの作品には、静かですっと心にとけ込んでいくようなやさしさを感じます。春日さんが写真家を志したきっかけは何だったのでしょうか?
春日:私は美大に通っていたので、ものを作ることが身近でした。あるとき写真家の知り合いからハッセルを借りて、友だちの女の子たちにいろんな職業に変装してもらって、撮影し始めたんです。そのシリーズを展示したのがきっかけです。私の場合は、カメラマンになる前に作品づくりから入ったんですね。
昔から女の子が好きで、今もずっと作品のテーマにしています。
若子jet:フィルムカメラを使われていましたね。
春日:仕事ではデジタルカメラを使いますが、作品はフィルムカメラで撮ります。フィルムのトーンが好きなんです。それから、手間がかかるところもいいですね。フィルムだと1枚ずつ丁寧に撮らざるを得ないから、準備するまでの気持ちが違う。
若子jet:春日さんの作品からは、静止画でもストーリーを感じます。インスピレーションはどこから?
春日:らくがきはよくします。ネタ帳みたいなものに、女の子の絵だったり、言葉だけだったり、ちょっとしたときにメモしておく。気に入るとハサミで切って、その辺にある古いお菓子の箱のなかに投げ入れておくんです。で、1年くらい経ってから見返して、「けっこう面白いこと考えてたなぁ」なんて思ったり。
絵画や映画にも影響を受けています。画家でしたらボッシュとかポール・デルヴォー。映画監督でしたらジョナス・メカスとかアンドレイ・タルコフスキー。タルコフスキーの作品は、水のなかの揺れる藻草や、燃える火や、雨などの自然の描写が素晴らしい。少し怖いような不思議な美しさがある。彼の世界観には昔から憧れています。
内に秘めた、時代に対する真摯な思い
春日:今日撮った2作品目は、密かに社会的な意味を込めています。降り注ぐ銀色の雨は、戦時中、原爆が落とされ後に降ったという黒い雨から着想を得て、福島の原発事故を示唆しています。
実は私、社会状況にものすごい興味があって。毎日早起きして、時事ニュースを調べて、いろいろ頭にきたりしているんです。それなのに、自分が撮っているのはかわいい女の子の世界……。そういう意味では、ドキュメンタリーカメラマンにコンプレックスのようなものもあるんですよ。
若子jet:現在は長野と東京の2拠点生活を送っているそうですね。
春日:3.11の後に長野に拠点を作って、最初は週末だけのペースで通っていましたが、今は長野の方がメインになっています。私は東京出身なので、長野の自然豊かな環境は新鮮でした。
でも、それを創作活動に生かそうとは思っていないんです。私が本当に惹かれるのは、きれいな自然の風景ではなく、不自然でもいいから、意味が込められた作為的な世界。きれいなものは、それだけで完結していて、私が撮る必要ない気がしちゃう。
若子jet:長野で出版社も設立されましたね。
春日:出版社に写真集を出したいと相談しても、そう簡単に出せるものではありませんよね。自費出版という方法もありますが、だったら自分で出版社を作って出版した方がいいんじゃないかと思ったんです。
まずは地元の版画作家の絵本を出版しました。次はやっぱり写真集を出したいです。自分の作品でも、ほかの方の作品でも、出版したいものはいっぱいあります。そうした作品を、ゆっくりでもいいから、世に送り出していくことが今の私の夢です。
撮影&取材を終えて……(若子jet)
私も春日さんと同じように、女性をテーマとした作品「センチメンタル ガール」を撮り続けているため、とても興味深く話をうかがった。
春日さんは、作意的な世界で少女たちをミステリアスに撮影し続けている。彼女なりの葛藤や想いも詰めながら。原発に対する問題意識、時代を見つめる心理も見過ごせない。
作品を制作し続けることで、彼女ならではの世界観、主義主張を表現しようとしているところは、アーティストらしい一面でした。
ぜひみなさんにも、春日さんの作品をご覧いただきたいと思います。