GR写真家インタビュー
開放感と初心への回帰 そして「右手の延長たるカメラ」とは(アミタマリさん)
2020年1月31日 07:00
フィルム時代から続くコンパクトカメラ「GR」は、デジタルの時代になってもそのコンセプトを変えず、写真家の傍にあり続ける。
その魅力を挙げてみると、優れたレンズによる描写、APS-Cセンサーによる画質、カメラを操る楽しさを提供するデザイン、そして常に携帯できる可搬性……といったところだろうか。
しかしGRの愛用者は、そうした外観や仕様からはうかがえない不思議な魅力を覚えるという。それは一体何か。
GRを愛する写真家へのインタビューを通じて、GRが持つカメラとしての独自性を探る本企画。第1回目の木村琢磨さんに続いて話をうかがったのは、広告・カルチャー・ファッションなどの分野で活躍する写真家アミタマリさんだ。アミタさんは一体、GRとどのように接しているのだろうか。(インタビュー:まつうらやすし)
アミタマリ
1973年生まれ、山口県出身。専修大学文学部卒。モデルを経て写真家・野村浩司氏に師事、2001年に独立。2003年・宝島社の新聞広告で朝日広告賞グランプリを受賞。数多くのミュージシャンのCDジャケットやポートレートを手掛けるほか、広告、カルチャー、ファッションを中心に活躍中。2016年、個展『DEAR』104Rmond galerieにて開催。
——GR IIのカタログ作品を担当されたそうですね。GRとの出会いはその時からですか?
デジタルのGRを本格的に使い始めたのは、GR IIからになります。
実はフイルム時代からのGRユーザーです。GR1vも今でも手元にありますし、GR21はまだ現役です。
もちろんデジタルでもGRが出ていたのは知っていました。GR IIのカタログのお仕事を切っ掛けに、デジタルのGRも本格的に使うようになりました。
——GR IIのカタログ作品は、東京でのスナップですね。
スナップとはいえカタログなので制約もありました。でも、「こういう作品をこう撮って」という制約はあまりなかったので面白かったです。何か初心に戻れたような感じがして。写真を始めた頃、街をスナップしまくっていた頃の感覚を思い出しました。
——普段お仕事ではどんなカメラを使われているのでしょう。
35mmフルサイズセンサーのデジタル一眼レフカメラと、中判645にデジタルバックの組み合わせです。GRも使いますよ。ライブ撮影の時の楽屋や、ステージに上る直前・直後の撮影に役立ちます。コンパクトな良さというのもありますけれど、シャッターを押してすぐ撮れる気軽さであったり、単焦点レンズでシンプルなところも気に入っています。
——中判デジタルバックや一眼レフカメラとは違う、スナップ撮影的な使い方なのですね。
いま自分がここに居るから見える、切り取れるところがスナップの醍醐味だと思うんです。いまこの瞬間に、ここにいる偶然性や必然性。GRを使っていると、写真の本質ともいえる、そういう大切なことを思い出します。
——外付けの光学ファインダーを使用されているその理由はなんでしょう。
昨年11月に、ニューヨークでアーティストのロケの仕事がありました。そのとき空いた時間にスナップを撮りたかったので、GR IIも持っていくことにしました。それにあわせて、光学ミニファインダー「GV-2」を購入したのです。GV-2を使っての撮影はまだ多くはないのですが、やはり光学ファインダーを覗いて撮るほうが「切り取っている感じ」がありますね。GRは瞬時に撮るカメラなので、この感覚はぴったり合います。
——そのニューヨークでのGRの活躍ぶりを聞かせてください。
最終日がフリーでした。さてどこかに行くかと考えたとき、迷ったのが、GRに加えてデジタル一眼レフカメラを持って行くか、ということ。最終日までは常に一眼レフカメラがそばにあり、それで仕事のカットを撮影していました。
ニューヨークで過ごす最後のオフの1日をどうするか。GRを持って出かけることは決めた。オフなので一眼レフは置いていく? 一眼レフを持つと交換レンズも……しかし、もし一眼レフカメラで撮りたいものに出会ってしまったら……
結局は「今日は一眼レフから開放されよう」とGR IIをポケットに入れてホテルを出ました。その時の「これで全部撮ればいいんだ」という開放感は凄かったですね。地下鉄の中や街を歩きながら、ブレたってボケたっていいやという感じでGR IIで撮ってたんですけれど、凄く楽しかったです。20年ぐらい前、ニューヨークに数ヶ月住んでいたことがあります。その頃の思い出の街をなぞって撮ったりして。まだ写真家になると決める前のころでした。
そんなときに車で通りかかったメンバーから「アミタさ〜ん」って声をかけられて、その夜に一緒にご飯を食べた時に「めっちゃくちゃ、ガシガシ歩いてたね!」って。いつもより早足でフットワークが良かったみたいです。足取りも軽くなる開放感。GRだけを持って歩いて大正解でした。
——新しいGR IIIの印象はどうですか?
まだ使い込んでいないのであまり多くは言えませんが、凄く進化していますね。手ブレ補正もついているし、AFも速くなっているので素早く撮れる。一言で言えば、撮るのがより楽になってると思います。内蔵ストロボが省略されたのは個人的に残念ですが。アーティストがステージに上る直前や直後、そんな状況でストロボをよく使いますので。
——デジタルのGRにフィルムのGRと共通するもの、あるいは違うものを感じることはありますか?
どちらも軽快に瞬間を撮れるカメラですが、フィルムのGRにはノーファインダーでも気にせず撮れる感覚があります。一方、デジタルのGRに、それは薄いのかもしれません。液晶モニターで確認できるからだと思います。
ざっくりとした設定しかないフィルムカメラと違い、設定などもデジタルカメラの方が細かくできますし、カメラに委ねる感覚はフィルムの方が強いのかもしれません。GRに限らないのですが、デジタル時代になってから「右手の延長線上のカメラ」にまだ出会えていません。
でもデジタルのGRには、そういう存在に結構近いものを感じています。そこはフィルムのGRから何かを受け継いでいるのでしょう。ほかのデジタルカメラにはない感覚です。
機械を使わないと写真は撮れない。とは言っても撮らされるのではなく、撮るのは私です。自分の方へカメラを寄せてなんぼ(笑)。そのためには使う私が、そのカメラの特性をよく理解してあげないといけません。
私にとって、デジタルのGRはじっくりと撮るカメラというよりも、瞬時に撮るカメラです。これからもたくさん撮って使いこなし、右手の延長となってほしい。カメラにどれだけ愛情を持てるか、それによっても撮れる写真は全然変わると感じています。そうした想いに応えてくれるカメラです。
提供:リコーイメージング