GR写真家インタビュー
良質で小さなカメラを常に持ち歩く。新しい表現のためにも(川田喜久治さん)
2020年3月23日 10:00
独自の地位を築きフィルム時代から写真家に支持されるコンパクトカメラ「GR」。写真家の目となり写真家の側にあり続ける「GR」の魅力はどこにあるのだろうか。
今回は「地図-The Map」などの作品集で知られ、世界の美術館に作品が収蔵される写真家、川田喜久治さんを訪ねてみた。
日本の写真史に名を刻む川田さんは、デジタルフォトにもいち早く取り組まれたことでも知られる。川田さんにとって「GR」とはどんな存在なのか。
(インタビュー:まつうらやすし)
川田喜久治
1933年茨城県生まれ。1955年立教大学経済学部卒業、新潮社に入社。「週刊新潮」創刊(1956年)よりグラビア撮影を担当する。1959年退社しフリーとなる。写真エイジェンシー「VIVO」(1959-61年)を佐藤明、東松照明、丹野章、奈良原一高、細江英公と設立する。
「地図-The Map」「地図のモケット」、「聖なる世界」、「遠い場所の記憶」、「ザ・ヌード」「世界劇場」、「ユリイカ」、「ラスト・コスモロジー」、などの作品集。
「地図」「聖なる世界」ロス・カプリチョス」、「世界劇場-2003」、「見えない都市-2006」、「ATLAS 全都市-2007」「ワールズ・エンド-2010」、「日光―寓話-2011」、「Phenomena-2012」、「Last things-2016」、「100-Illusions-2018」、「影の中の陰-2019」などの個展を開催する。
東京近代美術館、東京写真美術館、釧路芸術館、山口県立美術館、写真工芸大学、多摩美大学、日本大学、テートモダン、ポンピドー・センター、サンフランシスコ近代美術館、ニューヨーク・パブリックライブラリー、ニューヨーク近代美術館、ボストン美術館などにコレクション。
芸術選奨文部科学大臣賞2004年、日本写真協会作家賞2011年、を受賞。
——GR(DIGITAL)シリーズは以前から使われていたのでしょうか。
デジタルになってから初期のモデルより使っています。去年は最新モデルの「GR III」で写していました。
——今日は「GR」についてうかがいたいのですが、カメラと作品の関係についてどのようにお考えでしょうか。
不思議なもので、使うカメラによって作品は変わります。絵画の場合、絵具によって変わるかどうかは知りませんが、写真の場合は相当に変わりますよ。
だから、新しいカメラが出れば、どんなカメラにも興味を持ちます。「GR III」は、小型で持ちやすいです。音が小さく、レンズのシャープネスも高い。眼の機能に近づいてるのではないですかね。
たとえば小説家は、1日10枚と決めたら10枚を1年なり続けて書いていかないと物語が長編作品にはなりませんよね。それと同じように、写していかないとテーマをもつ作品にならないんです。いつもカメラを持っていなかったらいろいろとマイナスですね。何か撮るものが見つかってからでは既に遅いんです。テーマは撮りながら探すものですから。
——その世界観とカメラが相まって作品が生まれるのですね。
上手くフィットしてくれればね。それを求めるために、色々なカメラを手にしてみたりしています。
——1日当たりどのくらい撮影されるのですか?
だいたい、1日に5,000歩〜1万歩くらい歩きます。その中で200〜300枚ぐらい撮る。だから、軽量で小型のカメラがあっていると感じます。どちらかといえば、自分が好きなのは大型のカメラを使い三脚を立てて、しっかりピントが合っている写真なのですが。
——大型カメラの写真がお好きでもご自分で使うのは小型カメラ、というのは面白いですね。
自分の使うカメラは、どうしても小さい方がピッタリきます。私が勤めていた週刊誌時代、あのころは新聞社のカメラは4×5のスピグラでした。我々雑誌のカメラマンは35mmなど小さいカメラを使う。機動性があるものだから、記者会見のときなどは一番前に行って潜って撮影できるんです。そして機動性のない新聞記者たちは、背を低くしろとばかりにスピグラの底で、我々の頭をゴツンとやる。そういうふうに苛められました(笑)。ですからその頃から、小型で機動性重視という方向でしたね。
小型カメラの良さというのは、肉眼に一番近い体の一部になっているところです。これからもどんどん小さくて性能の良いものが出ればスイッチすると思います。
——「GR III」は小型軽量ですが、ズームレンズではなく、単焦点レンズのカメラです。
ズームできた方が良いのですが、そうするとカメラが大きくなりますよね。GRくらいの大きさでズームできればいいのですが、そうはいきません。ほかにも背面モニターはチルト式にしてほしいなど、要望はあります。ただ、あまり写真家の要望ばかり取り入れるとカメラは大きく複雑になり過ぎてしまいます。それよりはいまの「GR III」のサイズであってほしいです。
——「GR III」をお使いになって、ご自分に合っていると感じるのはどんなところでしょう。
本体の大きさもありますが、撮ろうと思った時にすぐに反応してくれる、という感じの速さですね。画質も良いし、至近距離、接写が素晴らしい。これからも使い続けるのではないでしょうか。
——ところで、Instagramに精力的に投稿されています。はじめられたのはいつ頃でしょうか。
3年ぐらい前からです。最初の仕事は週刊誌のカメラマンだったわけですが、撮ってきた写真をデスクによくボツにされました。あれが気に入らなくて(笑)。自分が良いと思ったものをどうしてボツにするのかと。デスクとはそういう仕事ですから当たり前ですが。でもInstagramは自分がデスクになれる。撮って僕がOKを出して皆に見てもらう。そこに楽しさと自由を見出したようなところがあります。
——Instagramでの反応はどうですか?
観てくれる方の反応が鋭いですね。不可解な写真ほど“いいね”をもらいます。普通に撮ったわかりやすい作品ではなく、そこに驚きのある作品のほうがいいです。海外からの反応は本当に自由な評価ですね。ギャラリーのオーナー、雑誌の編集者、美術館のキュレーターといった方も結構観てくれてますが、僕が勝手に自由自在にやった写真を良いと言ってくれます。トリプルイメージにしたりダブルイメージにしたり、あとは色の突然の変化に共鳴してくれています。
——そういうところは川田さんの作品らしいですね。
初めての作品集に「地図」があります。あの時も半分ぐらいはダブルイメージにしてますからね。ネガをダブルにして焼くところは、デジタルのダブルイメージと変わりませんが、デジタルになってそれが進化しました。現実を広げるか、仮想からさらなる夢へと広げてゆける、僕はそこに魅力を感じています。
まず撮影の現場で被写体を把握して、さらにパソコンのモニターでもう一度被写体に向かい合う。いわばもう一度撮影するようなものです。そこで新しい発想がうまれ、多重露光などの表現を試すことができる。それをスピーディにできるわけで、リアルの領域は広がっていますよね。
デジタルで処理していくというのは写真を撮る作業から想像力への作業へと移ってゆくのだと思います。ストレートに撮ったからリアルという常識はもうなくなりつつあると思うのです。
1枚の瞬間の貴重性というのは、そんなに大事なことではない。むしろ、作家の裏にあるイメージと、いかにヴィジョンが拮抗するか。想像力によってどんどん変えていっても「写真ではない」とは言えないのです。むしろそのような拡張された表現の中から新しいリアルな写真というのは生まれてくるのだと思います。
GR IIIで撮影した作品を含む川田喜久治さんの写真展が開催されます
川田喜久治さんが2018年から2020年にかけて撮影した作品で構成。すべての作品が「GR III」を含むデジタルカメラによるものです。作者自らが手がけたオリジナルプリント50点が展示されます。
写真展:「赤と黒」へのノート Note/Le Rouge et le Noir
作家:川田喜久治
会期:2020年4月23日(木)〜6月8日(月)
会場:リコーイメージングスクエア東京 ギャラリーA
住所:東京都新宿区西新宿1-25-1 新宿センタービルMB(中地下1階)
開館:10時30分〜18時30分(最終日16時00分終了)
定休日:火曜日・水曜日
入場:無料
公式ページ:http://news.ricoh-imaging.co.jp/rim_info/2020/20200323_028716.html
提供:リコーイメージング