カメラ用語の散歩道

第19回:シャッター効率(フォーカルプレンシャッター編)

デジタルならではの事情も 電子先幕/撮像素子シャッターは?

前回述べたように、シャッター効率の定義はフォーカルプレンシャッターの場合でもレンズシャッターと同じく、有効露出時間を全露出時間で割った数字をパーセントで表したものになる。フォーカルプレンシャッターでも画面上の1点に入射する光を考えた場合、時間ゼロでスパッと立ち上がってスパッと暗くなるわけではなく、やはりある程度時間がかかって明るくなり、閉じるときにも暗くなって全暗黒になるにも時間がかかる。それがシャッター効率に関係するのだ。

ただ、レンズシャッターの場合は羽根の開閉速度が効率に大きく影響したのに対して、フォーカルプレンシャッターでは撮像面とシャッター幕との間隔がシャッター効率に大きく効いてくる。図1を見てみよう。ここでは①撮像面とシャッター幕の間隔dsが小さい場合と、②撮像面とシャッター幕の間隔ds’が大きい場合を同じ図に示している。そして先幕と後幕で形成される幅Wのスリットが幕速Vcで走ることでフォーカルプレンシャッターの動作を模式的に示している。従って露出時間tはt=W/Vcということになる。

ここで画面上の1点で考えると図1のように被写体の一点から出た光が撮影レンズで結像され、その光束が円錐状になって撮像面に入射する途中でシャッター幕がそれを横切るような形になる。

図1:フォーカルプレンシャッターの効率は、先幕と後幕で形成されるスリット幅W、撮像面とシャッター幕の間隔ds、それに撮影レンズのFナンバーAが関係する。ここでは①間隔が小さい場合dsと、②間隔’が大きい場合dsを同じ図に示している

図2はそれを立体的に見たものだが、シャッター幕が走る面は撮像面からすこし離れたところにあるわけで、この面では被写体の1点の像は撮像面から離れた分ボケており、そのボケの錯乱円をシャッター幕が横切るわけだ。

図2:図1の関係を斜視図で表したもの。シャッター幕が撮影レンズからの円錐状の光束を横切って走る

従って撮像面の明るさは先幕が錯乱円の前縁にかかったところから明るくなりはじめ、先幕が反対側の後縁に到達したところで最大になって、これは後幕が錯乱円の前縁にかかったところまで維持される。そして後幕が後縁に到達したところで全暗黒になるのだ。つまり全露出時間はスリット幅Wに錯乱円径を加えた長さをシャッター幕が走る時間ということになる。

フォーカルプレンシャッターの効率

では、これを数式で表してみよう。全露出時間は前述のようにスリット幅Wに錯乱円径を加えて、それを幕速Vcで割ればよいのだが、錯乱円径は絞りのFナンバー「A」と撮像面からの距離dsとから求めることができ、dsをFナンバー「A」で割った値となる。有効露出時間はスリット幅Wを幕速Vcで割ったものであるから、結局のところ、フォーカルプレンシャッターの効率ηは、スリット幅を【スリット幅+錯乱円径】で割った値となり、以下の数式で表される。これは昔からフォーカルプレンシャッターの効率を表す計算式として、教科書に載っている数式だ。

この数式を見て「あれっ」と思った方もおられるかもしれない。レンズシャッターの効率は羽根の開閉速度に関連し、羽根の速度が遅いほど効率が悪くなる。また、シャッター速度にも関連して高速ほど効率が悪い。フォーカルプレンシャッターでも幕速やシャッター速度が効率に影響しそうなものだが、この数式には含まれていないではないか?

いや、大丈夫。この数式のスリット幅Wがちゃんと関係しているのである。速いシャッター速度ではスリット幅が小さくなるのだが、同じシャッター速度でも幕速が遅ければやはりスリット幅が小さくなり、その結果効率が下がるのだ。

問題は撮像面とシャッター幕の間隔

前述したように、またここに掲げた数式でわかるように、フォーカルプレンシャッターの効率には撮像面とシャッター幕との間隔dsが大きく関係する。この間隔が大きいと効率が下がるのだ。これは銀塩カメラの場合にはさほど問題とならなかった。撮像面とシャッター幕の間に介在するものは、せいぜいでフィルムゲート程度で、間隔をかなり小さくすることができたのだ。従ってフォーカルプレンシャッターの効率を気にするような機会はほとんどなかった。

ところがデジタル一眼レフカメラやミラーレスカメラになると、これが無視できなくなったのである。撮像素子のチップはパッケージという箱に入れられてカバーガラスで蓋をする。そのカバーガラスの前面にはさらに光学的ローパスフィルターだとか赤外カットフィルターなどが設けられて、その前をシャッター幕が走るのであるから、撮像面とシャッター幕の走行面はかなり離れてしまう。デジタルカメラでは銀塩カメラよりはシャッター効率の低下したところでフォーカルプレンシャッターを使うことになるのだ(図3)。

図3:一般的なデジタルカメラの撮像素子付近の断面。撮像面の前にさまざまな部品が配置され、それらの前をシャッター幕が走るため、どうしても撮像面とシャッター幕の間隔が大きくなる

錯乱円径は撮影レンズの明るさにも関係するので、明るいほどシャッター効率は悪くなる。

シャッター効率はどう影響するか?

では、フォーカルプレンシャッターの場合、シャッター効率が低下するとどのように影響するのだろうか? レンズシャッターだと最高速付近でシャッターが全開しないということになり、絞りを開けての高速シャッターが使えなくなった。フォーカルプレンシャッターの場合はレンズシャッターとはまた違った意味で撮像面に当たる光の量に影響する。

図2で考えてみよう。効率が悪くなるということは、シャッター幕が撮像面から離れて錯乱円が大きくなるか、高速シャッターになってスリット幅Wが小さくなるということだ。そして錯乱円径(ds/A)がスリット幅Wと等しくなったときに効率が50%になる。さらに効率が低下するとスリット幅が錯乱円を一部カットする形となって被写体の一点からの光がすべて撮像面に当たることができなくなる。ただ、錯乱円の一方の端(前縁)と他方の端(後縁)とで撮像面に当たるタイミングがずれるものの、結果として撮像面の露光量は確保されるので、露出の誤差につながることはない。

動体静止能力

全露出時間が長くなるということは、高速シャッターで動体の動きを止めて撮影する際に影響してくる。同じシャッター速度、つまり有効露出時間が同じであっても全露出時間が長いとその分光が当たっている時間が長いので動く被写体がブレるのだ。アサヒカメラのテスト記事「ニューフェース診断室」ではこのことに着目し、デジタル一眼レフカメラやミラーレスカメラのテストの際には「動体静止効果」のテストを行っていた。円板に放射状にいくつもの小さな孔を設けたものを高速で回転し、裏から照明してテスト機で撮影する。シャッター速度の最高速付近でその孔の像の軌跡を解析して動体の静止能力を見るのだ(写真1)。

写真1:アサヒカメラのニューフェース診断室では「動体静止効果」のテストを行っていた(朝日新聞社「アサヒカメラ」2004年4月号のニューフェース診断室「オリンパスE-1」より引用)

最高速とそれより1段遅い速度の点像の軌跡を比較すると、本来は点像の軌跡の長さが半分になるはずだが、どの機種も半分より長くなり、シャッター効率低下の影響が表れているのが見て取れる。

電子先幕シャッターでは?

電子先幕シャッターの場合は実質的に先幕が撮像面に密着して走るような形になる。従って、シャッターが開くときは瞬時に立ち上がることになり、その分シャッター効率は向上する。ちょうどレンズシャッターのコンパクトデジタルカメラと同じようなことだ。

しかし、電子先幕シャッターは最高速近くでは露出ムラやボケの欠けという問題があるため、多くのカメラでは制限を設けて最高速付近の速度では使えないようにしている。そのためシャッター効率の向上の意味ではその効果を発揮できないような状況なのだ。電子先幕シャッターの問題点については、このデジカメ Watchの「ミラーレスカメラ・テクノロジー(その2)ミラーレスカメラのシャッター」を参照していただきたい。

撮像素子シャッターでは?

撮像素子シャッター(電子シャッター)の場合はどうだろうか? CMOS撮像素子のローリングシャッターは、フォーカルプレンシャッターと同様に画面の端から順次露出していくのだが、そのとき先幕と後幕の両方が撮像面に密着した状態で走ると考えられる。つまりシャッター効率は100%なのだ。従って動体静止能力が低下することはない。ただ、別の問題点としてローリング歪みの発生があるのだが、それも最近では解決しつつある。

写真2:メカシャッターを非搭載としたフラッグシップ機「ニコン Z 9」(2021年)

写真3は動体静止能力を試すために、噴水をシャッター最高速付近で撮影してみたものだ。(a)はメカニカルなフォーカルプレンシャッターでの撮影、(b)は撮像素子シャッター(ローリングシャッター)での撮影で、露出条件は同一だ。メカニカルシャッターでは噴水の水が連なって落ちているように写っているが、撮像素子シャッターの場合は水滴が粒状に離散して写っており、動体静止能力の違いがわかる。

同じ露出設定で比較
写真3(a):フォーカルプレンシャッターで撮影
写真3(b):撮像素子シャッター(ローリングシャッター)で撮影
豊田堅二

(とよだけんじ)元カメラメーカー勤務。現在はカメラ雑誌などにカメラのメカニズムに関する記事を書いている。著書に「とよけん先生のカメラメカニズム講座」(日本カメラ社)、「カメラの雑学図鑑」(日本実業出版社)など。