カメラ用語の散歩道

第18回:シャッター効率(レンズシャッター編)

“最高速は小絞り限定”の仕組み デジタルで高速化した理由は?

みなさんは「シャッター効率」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 以前はカメラのメカニズムに関する解説書にはときどきこの言葉が登場し、「シャッター効率はこういうものだよ」というような説明もあったのだが、最近では見かけなくなった。

まあ、それもそのはずで、シャッター効率がどういうものかわかっても、それが実際の写真にどう関わってくるのか、なかなか理解しづらいものがあるのだ。しかし、デジタルカメラの時代になって撮像素子シャッターや電子先幕シャッターなど、銀塩カメラでは存在しなかったようなシャッターが登場し、それらの特性を理解する上でシャッター効率の概念が重要なものになってきたような感がある。

シャッター効率とは?

では、シャッター効率ってそもそも何なのか? それに対する答えは「有効露出時間を全露出時間で割ったもの」ということになる。まあ、平たく言えば“シャッターの切れの良さ”ということになるだろうか?

普通、カメラのシャッターは所要時間ゼロでパッと開き、パッと閉じるものではない。撮像面の1点で考えるとそこに入射する光量は時間とともに徐々に増加し、全開になると最高値に達する。そして閉じる時も時間とともに光量が減少して最終的に全暗黒になる。つまりその1点に入射する光量の時間変化をグラフに描くと図1のように台形になる。シャッター羽根や幕は必ずしも等速運動するわけではないので台形の斜辺は直線とは限らないのだが、ここでは近似的に直線と考えることにする。

図1:一般的なシャッターの動作グラフ

実際に撮像面の露出量に関係するのは入射した光の総量なので、この台形の面積に相当する。ゆっくり明るくなってゆっくり暗くなろうが、スパッと最大光量になってスパッと暗黒になろうが、同面積であれば露出量も同じなのだ。

そこでシャッターの開いている時間、つまり露出時間を考える場合、理想的なケースとして時間ゼロでパッと開きパッと閉じるものを考え、そのときのシャッター開から閉までの時間を「有効露出時間」とする。実際の台形のシャッター特性と同じ面積をもつ矩形の底辺の長さということだ。これは図1の台形の中線の長さ(te)に相当する。

一方で実際にシャッターが開き始めてから閉じ終わるまでの時間は台形の底辺の長さ(to)になり、これが「全露出時間」なのだ。そして先に述べたように「有効露出時間を全露出時間で割ったもの」をパーセント表示したものがシャッター効率である。これはレンズシャッターだろうがフォーカルプレンシャッターだろうが変わらない。

レンズシャッターの効率

レンズシャッターの場合、この効率はシャッター羽根の動く速度に関係する。効率が悪くなるということは、台形の斜辺が大きく傾くということなので、要は羽根が開くのに、あるいは閉じるのに時間がかかるということだ(図2)。

図2:レンズシャッターの動作グラフ。この図で有効露出時間teを全露出時間t0で割った値がシャッターの効率になる

ここでシャッター速度、すなわち露出時間を変えるにはどうするかというと、シャッターの開きはじめから時間のカウントを始め、所定の時間が経過した時点で信号を出して閉じ動作を始める。時間のカウントと閉じ動作のスタートを電子的に行うのが電子制御シャッターで、機械制御の場合はカウントをカムやフライホイルの動き、ガバナーなどで行い、その動作に引き続き閉じ動作を行う。

シャッター速度を速くしていくと、より早いタイミングで閉じ指令を出すようになる。つまり台形の右斜辺が左に移動するということだ。高速になるにつれて台形の横幅が狭くなっていく。そしてある速度で台形の上辺がゼロになって三角形になってしまうのだ。これは斜辺が直線だと仮定すれば、効率が50%になったことを意味する(図3)。

図3:レンズシャッターの高速の限界は、台形の上辺が長さゼロになって動作グラフが三角形になったところ。これ以上速いシャッター速度では羽根が全開しなくなる(図の赤ライン)

これ以上高速にしようとすると三角形の頂点が低くなり、シャッターが全開する前に閉じ始めてしまい、レンズシャッターとしての機能が十分に果たせないことになる。つまり、このように開口パターンが台形から三角形になるポイントがレンズシャッターの最高速を決めるわけだ。ここでシャッターの効率が低いと台形の斜辺が寝てくることになり、その分高速シャッターが得られない。要はシャッター羽根の速度が遅いと高速シャッターが出ないという、当たり前のことを表しているのだ。

絞るとシャッター速度が遅くなる

レンズシャッターの効率を考えるときに重要なのは、ある速度に設定したときに絞りを絞るとシャッター速度が遅くなることだ。図4に示すように同じ速度設定で同じようにシャッター羽根が開閉しても、開放のF2.8のときよりF5.6に絞り込んだときの方が有効露出時間が長くなる。これは効率が悪いシャッターほど、また高速シャッターほど変化量が大きくなる。

図4:効率が悪いレンズシャッターでは、絞りを絞ると有効露出時間が長くなる。図からわかるようにF2.8のときの有効露出時間te1よりもF5.6の時の有効露出時間te2の方が長い

自動露出(AE)の場合にはたいていこのことを見込んで露出制御を行うので問題ないが、レンズシャッターのカメラでマニュアル露出を行う場合には注意しなくてはならない。

レンズシャッターの高速化

本格的な5枚羽根のレンズシャッターの最高速は1/500秒が限度であった。高速シャッターを実現するにはシャッター羽根の動きを速くすればよいのだが、そのために駆動スプリングの力量を上げるには限界があるのだ。スプリングを強力にした結果、レンズシャッターのメカを収めているケースが変形してしまったというような話も聞いたことがある。

そんな中でシャッターメーカーのシチズンは、逆転の発想で1/2,000秒の高速を可能にした「オプチパー・HS・シチズン」というレンズシャッターを開発し、1958年発売のミノルタV2に搭載された。

写真1:シャッター羽根のスタート位置を工夫することで、絞りの制限付きながら1/2,000秒の高速を実現したミノルタV2。(写真は「日本の歴史的カメラ増補改訂版」日本カメラ博物館刊より)

どこが逆転の発想かというと、図3のようにある程度以上に露出時間を短くするとシャッターが全開しなくなるというのを逆手に取って、使用絞りの制限付きで高速を実現したのだ。高速になるとシャッターの開動作スタートのポイントが、羽根が重なって閉じた位置よりもさらに重なりを大きくした位置になる。つまり実際に光を通し始めるまでの間に羽根が動いても開かない「助走部分」が生じるのだ。羽根は一定の動き量に達したら閉じ動作に転じるので、開口が開ききらないまま閉じてしまう。従ってある程度以上小絞りでないと使えないのだが、その分有効露出時間は短くなるのだ(図5)。

図5:ミノルタV2に搭載されたオプチパー・HS・シチズンの原理。羽根が通常よりも重なりが深いところからスタートするので、全開にならず、使用絞りの制限があるが、高速が可能になる

ミノルタV2ではF8よりも小絞りを条件に1/2,000秒の高速シャッターを実現した。1960年のミノルタV3では同じ方法で1/3,000秒を実現している。

絞り羽根兼用レンズシャッター

このオプチパー・HS・シチズンの原理を別の形で応用したのが、ミノルタユニオマット(1960年)に搭載された「オプチパー・ユニ・シチズン」だ。こちらは別途絞り羽根を設けておらず、シャッター羽根が絞り羽根を兼用している。やはりシャッターの開動作のスタートポイントを調節してシャッター速度を変えているのだが、それによって開ききったときの開口の大きさも変化するので結果としてプログラムシャッターになるのだ。ミノルタユニオマットでは追針式の露出計連動であったが、これをAE化したのがミノルタハイマチック(1962年)である。

そして、この考え方はその後「三角波シャッター」と呼ばれる電磁制御のレンズシャッターに発展している。三角波シャッターは絞り羽根兼用のシャッター羽根を用い、羽根の開き動作にはわざとガバナーをかけてゆっくりと開くようにする。そしてその開き動作の途中でも条件を満たしたらシャッターの閉じ動作を始めてしまう。この閉じ動作の方はできるだけ速やかにスパッと閉じるように構成する。このシャッターの動作をグラフで表したのが図6である。

図6:三角波シャッターの動作グラフ。シャッターの開動作を比較的ゆっくり行い、途中で閉動作をスタートさせることでプログラムシャッターを実現している

シャッターが開き始めてすぐに閉じてしまえば小絞りで高速シャッターとなり、ある程度(といってもミリセカンドのオーダーだが)の時間が経過したところで閉じ動作を始めるようにすれば中速のシャッターで中程度の絞り、十分に時間が経ったところで閉じると開放でスローシャッターとなり、結果的にプログラムシャッターができる。図6のように動作のグラフが三角形となるので「三角波シャッター」と呼ばれている。

この形式のレンズシャッターは電磁制御シャッター「セイコーES」「セイコーESF」から始まって、多くのコンパクトカメラに採用された。ただ、効率という面ではどの速度でも50%程度と低く、その影響は動体撮影に現れる。全露出時間が長くなるので動体静止能力が落ちるのは当然として、面白いのは走る自動車を写すとヘッドライトのボケ具合が変化して光跡がオタマジャクシ状になることだ。動体でなくともボケに芯があるように撮影されるという効果が生じる。

そしてデジタルカメラへ

三角波シャッターの登場でレンズシャッターはあまり効率を追い求めなくなった。効率が悪くてもよいのならシャッター羽根をそれほど素早く動かさなくてもよく、2~3枚の羽根でも十分であるし、モーター駆動でもよくなる。こうしてレンズシャッターは様変わりしたわけだが、デジタルカメラの時代になるとこれが更に進化した。

その1は、画面サイズが小さくなったことだ。それに伴って撮影レンズも小さくなりシャッターの開口も小さくてよくなる。これはレンズシャッターの構成を簡略化する上で有利に働いた。

その2は、ライブビューである。コンパクトデジタルカメラは当初からライブビューを採用していた。このライブビューモードでは当然シャッターを開いた状態なのだが、シャッターボタンを押して撮影モードに移行するときにシャッターをいったん閉じるわけではなく、そのまま撮像素子に貯まった電荷をリセットすることで露出を開始する。ちょうどフォーカルプレンシャッターにおける電子先幕のようなものだ。そうするとシャッターの開動作に相当するものはほぼ時間ゼロで瞬時に立ち上がる。実際には電荷の移動である程度の時間がかかっているのだろうが、機械的な羽根の動きに比べれば無視できるレベルだ。従って、シャッター動作のグラフは図7のようになり、シャッター効率は向上する。

図7:コンパクトデジタルカメラのレンズシャッターの動作グラフ。露出の開始は電子的に行うので瞬時に立ち上がる

そんなことからコンパクトデジカメになってレンズシャッターは比較的高速が出しやすくなったのだが、それでも画面サイズの大きな機種や大口径レンズのついた機種では、やはり効率の影響がある。一例として35mmフルサイズセンサーを搭載するソニーRX1R II(2016年)の仕様を見てみよう。シャッタースピードの項を見ると最高速は1/4,000秒になっているが、これは「F5.6以上に絞った場合」であって、「開放時には1/2,000秒が上限になる」との注記がある。これはシャッター効率の影響だと言えるだろう。

写真2:ソニーRX1R IIでは、高速シャッターに絞りによる制限がある

(フォーカルプレンシャッター編に続きます)

豊田堅二

(とよだけんじ)元カメラメーカー勤務。現在はカメラ雑誌などにカメラのメカニズムに関する記事を書いている。著書に「とよけん先生のカメラメカニズム講座」(日本カメラ社)、「カメラの雑学図鑑」(日本実業出版社)など。