山岸伸の「写真のキモチ」
第69回:ルールと制限内で無駄なく写真を撮る
女優 竹内茉音ちゃんと都内1日ロケ
2024年4月30日 12:00
6年前の出会いから多くの写真を残してきた女優の竹内茉音さんと山岸さん。久々に1日都内ロケで葛西臨海公園とハウススタジオへ。公園を使用するルール、天気や環境の制限の中で無駄なく撮影する山岸さんの仕事の仕方とは。(聞き手・文:近井沙妃)
ルールの中で写真を撮る
毎日忙しくしていると記憶が多く積み重なり思い出すのも大変。それは歳のせいではなく、写真ってずっと前のことがついこの間のように思えたり、逆に昨日撮ったのにもう遠のいたように感じたりと不思議なものだ。
舞台などが終わりちょうど体が空いているということで、久々に女優の竹内茉音ちゃんを1日かけて撮影した。最初の撮影場所に選んだのは葛西臨海公園。この公園は1年に2度ほど行くが、それは私が主催している山岸写真塾という15〜20名足らずの塾生と一緒に撮影会で利用するくらいだ。私はどこで撮るにしてもプライベートな空間やレンタルスタジオをお借りして撮影することがほとんどだし、本業はグラビアやコマーシャルなのでそれを撮るのに公園を選ぶことはほぼない。
葛西臨海公園は撮影許可を取らないと写真が撮れない。撮影希望日の3日前までに撮影希望箇所と撮影位置図をファックスした上でサービスセンターへ電話をし撮影可否の結果を確認する。基本的にどの公園でも同じで、道路や公共の場や施設など無許可で撮れるところは今の東京にはほとんどないだろう。肖像権や著作権にプライバシー権など難しいが守らなければいけないことがかなりある。商業利用ではなくプライベートで撮る分は許可が不要なことが多いけどね。
とにかく私は人に注意を受けるということが嫌で、ドキドキ心配しながら写真を撮るのも嫌。アシスタントのOBが沖縄の公園で撮影していたら自分よりも年下の公園管理職員の方に随分こっぴどく怒られたという話もあった。公園は撮りづらいのが当たり前。撮影のために作られているのではなく、皆が楽しむための場所なので第一優先は利用者に迷惑をかけないことだ。たくさんの方がいるから気を遣いながら写真を撮るって本当に難しい。第三者を写り込むことを避けようとすると朝とか夜遅くとか人がいない場所などになってくる。
都内1日ロケ、スタート
今回は朝一番で葛西臨海公園へ。午前9時前にアシスタントのマッハ佐藤君が車を駐車場に置いて急ぎ公園のサービスセンターで注意事項の説明を受け腕章を受け取る。
観覧車に乗って写真を撮りたかったのがこの場所を選んだ理由の1つ。きっと自分は明るく可愛い画が欲しかったのだろう。まずは近くまで移動し、空を見上げるとゆっくり回る観覧車と遠くには小さく飛行機が飛ぶ。その景色を撮るのもまた楽しい朝のひと時。
途中で茉音ちゃんが動いている写真をすかさず撮る。このアングルは自分がパっと見つけた中ではとてもいいアングルだと思う。
観覧車に乗るためのチケットを購入。マッハ佐藤君が私に「先生は身分証明書を出すとシルバー料金で安くなります」と(笑)。そういうことでライカとProfoto A10をセットしたα1を持ち、シルバー料金で観覧車へ乗り込んだ。いや~、難しいね、ゴンドラの中は立てないし大きな動きはできない。高さ117mのてっ辺では止まって見えて怖くてとてもじゃないけど写真を撮る気持ちにはなれなかったが、ぐるっと1周約17分間撮影した。
上っていく観覧車から下を見ると撮影に同行している佐藤倫子さんやスタッフが見えた。私も倫子さんも1周ずつ観覧車に乗って撮影をしたが、お互いに上と下からその模様を撮っている。
なんとなく若返ったつもりで茉音ちゃんが遊んでいる姿をちょんちょんと撮って、まだ葉桜が残る木の下でポートレート。
カメラはソニーのα1とα7R V、ライカのSL3とSL2。購入したばかりのSL3でテストも兼ねて撮ってみたいと思い張り切って行ったのだが、公園で女の子のポートレートを撮るのはちょっとイメージと違うよね(笑)。ただ私はそういうイメージを壊していくのが好きなので公園でライカSL3デビュー。
撮影に1番いい時間を逃さない
午後からは小さなハウススタジオで。移動や食事をスピーディーにしないと1日の中で撮影に1番いい時間を逃がしてしまう。朝9時から公園で撮影し、12時前に出て木場のイトーヨーカドーにあるカフェでパスタを食べ、13時からハウススタジオで撮影開始。時間的にロスが全く無く、駐車場完備、トイレがあって食事もできる、そういうところを頭に入れルートを作って時間通りに動く。
とにかく私は無駄な時間は一切作らずに決めた時間で撮影を終わらせることをモットーにしている。それは決めた時間の中でないとイメージがどんどん崩れていくからだ。
午後は印象を少し変えてシックに、この小さなスタジオで照明を当てながら撮影。私は3度くらいこのスタジオに来たことがあるので大体光の具合を読み取ることができるが倫子さんは初めてで少し戸惑っていた。ワンフロアで特別広いわけではなく、生憎この日は終日曇天で自然光がなかなか差し込んでこない。
それも考えて私は雨だろうが曇りだろうが雪だろうがとにかくもらったスケジュールで絶対に仕事をこなすので用意は万端。最近お気に入りのクリップオンストロボ ProfotoA10とGODOXのAD300Pro、NANLITEのLEDライトを車に積んでいる。どんなことがあっても撮れる、撮るというのがプロのカメラマンだと私は信じている。この日もきちんと時間通り撮影を終えてスタジオの原状復帰をして帰ってこれた。
撮られることが彼女の肥やしになる
少し茉音ちゃんとの今までを振り返る。6年前に新人女優だった彼女と仲良くなってこの子を売り出したい気持ちと撮られることが本人の肥やしになると思い沖縄や千葉に都内ロケとたくさん撮影した。ただ撮るだけではなく目標は写真展と写真集。写真集は凸版印刷の「TOPPAN FINE DIGITAL PRINT」で制作していただいたが、色やデジタル印刷の持つ良さが十分に発揮された時代にマッチしている1冊になったと思う。
先ほども言ったように撮影時に雨が降ってきたり風が吹いたりするけどその時はその時で撮っている。傘だってかわいい1つの小道具になるよね。このときはほとんど私のスタジオやその周辺、自宅周辺、ちょっと下町の範囲で撮ったもの。
初めて銀座のソニーイメージングギャラリーで写真展を開催させていただいたのが2018年10月。新人女優だった茉音ちゃんひとりを被写体にこのようなところで写真展をするのはかなりの勇気と冒険、ギャラリーからしても勇気と冒険だったと思う。
おかげさまでたくさんの方にご来場いただいて会場は人でいっぱい。会期中にイベントを3度ほど行ったがいずれも大盛況に終わった。
仲良しの青山さんが事務所のタレントさんを連れてきてくれたり、いつも応援してくれているヨドバシカメラの日野専務も会場へ来て多方面で力になってもらった。
写真は思い出に残るもの。写真家の大山文彦さんが元気な姿で会場に来てくれた。残念ながら昨年お亡くなりになられたが、彼はソニーの大ファンで会員ナンバーが1番古いんじゃないかと思う。遠い昔、私が渡辺プロダクションの宣伝部契約カメラマンとして先輩で彼は渡辺プロダクションの友の会で編集カメラマンとして働いていた。一緒にロケに行ったこともあり、以来ずっとお互いにアイドルを撮り頑張ってきた。
残念なことに、いつも「今度1回飲もうね」と言いながら実現せずに別れを迎えてしまったこと。大山さんがソニーのカメラを持っている、私ももちろんこの写真展はソニーで撮らせてもらった。思い出になってしまったがこうして写真が残っているという喜びがある。
撮影を重ねてわかること、変わること
茉音ちゃんは私のお気に入りの被写体の1人ということもあって撮影してきた数が違うが、倫子さんが「やっぱり山岸さんがカメラを向けたときと私のときでは表情が全然違う。今までたくさん撮ってきたからなのか、それとも私が女子写真家だからなのかな。」とポツリと言っていた。
茉音ちゃんは私にとって大切な被写体で、これからも彼女を撮っていければいいな、撮っていきたいなと思っている。いくつになっても撮られることが彼女の成長の力添えになればいいし、その記録でコミュニケーションでもある。お互いにこれからも頑張ろう。