山岸伸の「写真のキモチ」

第70回:山岸伸の仕事とクルマ

現状と変遷

2024年5月11日の私とVOXY

山岸さんが仕事をする上で必要不可欠といえる車。長いプロカメラマン人生の中で数多くの車を所有してきた山岸さんに現状と変遷、こだわりや重要性などをお聞きしました。(聞き手・文:近井沙妃)

車は基本2台持ち

車は私の仕事に欠かせないもの。現在2台の車を所有していて、1台はプライベート用の小型のベンツで2ドアのクーペタイプ。自分にしては長期間乗っているので少し悩んでいるが珍しくモデルチェンジが無く古さを感じない車だ。もう1台は完全に仕事用のVOXY、購入して5年目になるハイブリッドのワンボックスカー。私は後部座席にしか乗らないがコンパクトながらとても乗り心地がいい。

仕事用のVOXY、プライベート用のベンツと

いずれもまず優先されるのは私のスタジオに入るサイズかどうか。仕事用の車は普段スタジオ内に駐車しているし、プライベート用を駐車する場合もあるからだ。

このようにスタジオ内に車を駐車している

VOXYは最大7名の乗車が可能で時折タレントさんやヘアメイクさんなども乗車して都内のスタジオや近郊へロケに行くことも。過去1番荷物の中で嵩張っていたストロボが小型になり、今の私の撮影にほとんど支障なく人も機材も快適に運べる。やはりハイブリッドということが肝で、ガソリンの高値が継続されている時代にリッター14~18キロ走れば経済的にも助かる。自宅近所のタイヤ屋さんにタイヤを預け、冬になれば雪用にして常に仕事に対して万全を期している。

このVOXYは2代目、私の定位置は運転席の後ろ

プライベート用は普段自宅と職場の往復で使うことがほとんどのため長年乗っていても走行距離はそんなに伸びていない。今までずっと電車通勤をしてこなかった人間なので車が無いと通勤できず現在も車通勤。そろそろ買い替えてもいい頃だが今の私は車を新しくするよりも作品を撮ることにお金を使いたいと考えるようになってきた。

車に乗るのに最低限用意しておかなければいけないのがJAFの会員証、そしてETCカード。これさえあればよっぽど過酷な走り方をしなければ大丈夫だと思う。おかげさまでJAFはパンクぐらいでしか使ったことがない。

JAFの40年以上継続のゴールドカードを持っている

歴代の車たち

振り返ると当初は恐らくチェロキーやエクスプローラーなどのSUV 1台で仕事をしていたと思う。その後は基本的に車は2台持ちで、アシスタントが変わったり車検を迎える頃などにやたらと買い替えていた。仕事用にはステップワゴン、ハリアー、軽ワゴン、グランビア、ノアなど。プライベート用ではポルシェのカレラ3、レンジローバー、セルシオを3台、レクサスを2台、ソアラ、マスタングのオープンカー、ベンツはワゴンやいろいろなタイプを入れると5台、多分いくつか忘れているけどそんな感じかな。

歴代の仕事用車の一部。1番右の写真に写っているのはベンツのワゴンと当時アシスタントだった浅野君。かっこいいね~
歴代の仕事用車の一部。下は初代VOXY
歴代のプライベート用車の一部。右上に写っているのはマネージャーの蓮見、若かったなあ。右下は昔の事務所前にて当時アシスタントだった古澤とマネージャーの蓮見

当時は大きなパーティーや誕生会や結婚式や打ち合わせとなると会場へ行くのになかなかワンボックスでは行きづらくて、やっぱり少しでも見栄えのいい車でという気持ちもあった。現在はそういうお付き合いが非常に少なくなってきたので今のベンツで十分だと思える。不動産や株の投資などを全くしてこなかった分、車を買っていたがとんでもない高級車には手を出していない。ベンツのMLが1番高かったかな。

震災対策の為というわけではないけど、何かあった時のためにレンジローバーなどの頑丈さや悪路の走破性に優れている四駆を好んで買っていた時期がある。

歴代のプライベート用車の一部。左上のようなオープンカーを買ったことも

今考えるとストレスやいろんな重荷を抱えた私をリラックスさせてくれる道具の1つだったような気がする。新しい車を手に入れてちょっと温泉に行ったりすることが多忙な中で何にも代えがたい喜びだった。

歴代のプライベート用車の一部
歴代のプライベート用車の一部

ロケ先で撮った写真だが、仕事用とプライベート用が並ぶとこんな感じになる。ある時期からロケバスを使わなくなり、2台使えばゆったり7人は撮影に行けるのでちょうどいい。

ロケ先で並ぶ2台の姿

もしかすると注目してくれた方もいるかもしれないが、ナンバーだけはこだわって自分の覚えやすい数字にしている。ふざけているときは1234や5678というのもあった(笑)。自分の誕生日である0322や購入した日の0926とかもあれば、近年はいたってわかりやすく66や70など購入時の自分の年齢をナンバーにしていることが多い。

船を買えるほどの仕事をした

何故かわからないけど、約20年ちょっと前の仕事が忙しいときに知り合いの社長に勧められるがまま船を購入してしまった。結局私は船舶免許も取らず、マネージャーと当時のアシスタントと2人の息子に一級船舶免許を取らせて何度か東京湾巡りをしたぐらい。

約20年前に所有していた船

あ~、とても勿体ないことをしちゃったな~とも思うが、船を使い何度か撮影もできて少しは楽しめた。中でも当時釣り雑誌の表紙を2誌担当していて、そのうちの1誌はよく船で撮ったね。あっという間のバブルな写真人生はすぐに終わったが、それでも船が買えるくらい仕事をしたということは私の自慢でもあり自信にもなった。

自分の船を使用して撮影した「SALTWATER」の表紙

新車ゆえに、新型ゆえに

若い頃はその日の気分で車を買っていたような気がしないでもない。とことんこだわって「この車に乗りたいんだ!」という気持ちは今でも全く持っていない。その分早く飽きてしまう悪い癖で船は2年で売ってしまったし、車は1回目の車検を迎える頃に乗り替えてきた。

常に新しいものが好きという部分はカメラに対しても同じ。新型が出れば必ず手に入れてそのカメラで写真を撮りたい。当たり前だけど新型ということは成長しているということ。車もそう信じて安全性やファッション性など様々な面でその時代に合っているものを乗ってきたつもり。

駐車事情と心配り

都内を仕事用のワンボックスで移動することが多いので必ず必要になるのが駐車場。行く前に目的地に駐車場はあるか、用意してもらえるか、そうでなければ周辺にコインパーキングがあるか、車高制限は大丈夫かなどを事前に調べる。コインパーキングは目的地から徒歩5分以内のところをまず探す。今はアプリで駐車場の場所や空き状況も検索できるのでタイムズの駐車場検索アプリなども使用したり。目的地に余裕をもって着くことも大事だね。

駐車場をご用意いただけるときは車の背面や窓ガラスだけでも綺麗にしていくとか、相手が不愉快にならないよう常に考えて撮影に向かう。そういうことで仕事用の車は1番相手様に迷惑をかけないサイズであり、派手な色は避けて黒にしている。

スタジオの前で洗車をする私

レンタカー事情

最近レンタカーを借りるロケと言えば主に農業女子の撮影で地方へ行くとき。アシスタントのマッハ君が料金や利便性など総合的にみて1番いいだろうというオリックスレンタカーを利用している。私がばんえい競馬の撮影でよく行く十勝帯広ではレンタカーを借りず、ありがたいことに全て観光協会の方や皆さんが送り迎えをしてくれる。

他にロケが多いのは沖縄。以前沖縄のサッカー選手に紹介されたゴーヤレンタカーは特別料金にしてくれたり飛行場に車を届けてくれたりとロケのために融通を利かせてくれるので沖縄に行くとなれば必ずゴーヤレンタカーと決めて何十年とお付き合いしている。

沖縄は天候が暑かったり様々な理由でレンタカーの車内で撮影することも。それは決してメインのカットではなく、DVDを撮影しているときの繋ぎやバリエーションで映像とスチールが少しある程度。暑さや日差しが厳しいときはモデルさんへの負担を考慮してクーラーを入れた車中に逃げつつ撮影をしたり、時間的な制限を考えて車中でも撮ってしまわなければいけないときもあるということだ。

クーラーを入れた車内でモデルを暑さや日差しから守りながら撮ることが出来る。 モデル:秦瑞穂
メインカットにはならないけどバリエーションとしては十分に使えるので効率的。モデル:(上)歩りえこ(下)夕樹舞子

車のライトが生きるシーン

暗がりの中で咄嗟に車のライトを照明代わりに使用して撮影したこともある。暗くて周辺や手元が見えないときに明るさを補うこともできるね。今はもっといいバッテリー内臓タイプのLEDライトなどがあるけど、カメラマンとしては常に持っているものを撮影や何のためにでも使えるようにしているし、その意識がプラスアルファを生むと思う。

背景に強く車のライトを当てている。 モデル:五十嵐愛

雪の降る日に「誰か雪の中で少し写真を撮りませんか」とFacebookで募集したところ、手を挙げスタジオに来てくれた三上さん。後ろから車のライトを当て正面からはアシスタントが傘をさしながら照明を当てている。特別意図したわけではないが、このような天候の中で照明機材を出すのにリスクを感じるときやあまり多くは出せないときに車のライトが便利なケースも。

車のライトの強さが妙にドラマチックなときがある。 モデル:三上愛

そんなにしょっちゅうじゃないけど車のライトだからこそいいっていう場面があって、これからもそういう機会はきっとあるだろうね。

ヘアメイクさんの車を借りたんだけど、パーツが美しいとまた雰囲気も出るよね。 モデル:原田徳子

私とクルマ

ロケ先で、こんなときもありました

機材以外で相棒ともいえる存在の車。自分の気分と環境や様々な場面での丁度良さを考慮して選び、数多くの車と過ごしてきた。今年は免許の更新もしたし、また今後のカーライフをぼんやり考え中だ。

(やまぎし しん) タレント、アイドル、俳優、女優などのポートレート撮影を中心に活躍。出版された写真集は400冊を超える。ここ10年ほどは、ばんえい競馬、賀茂別雷神社(上賀茂神社)、球体関節人形などにも撮影対象を広げる。企業人、政治家、スポーツ選手などを捉えた『瞬間の顔』シリーズでは、15年をかけて総撮影人数1,000人を達成。また、近年は台湾の龍山寺や台湾賓館などを継続的に撮影している。公益社団法人日本写真家協会会員、公益社団法人日本広告写真家協会会員。