山岸伸の「写真のキモチ」
第52回:山岸伸写真展「KAO -日本の顔-」を終えて
ライフワーク「瞬間の顔」のその先
2023年8月18日 12:00
山岸さんが各界著名人のポートレートを撮影するライフワーク「瞬間の顔」。2022年に開催された「瞬間の顔 Vol.14」で一区切りを迎えたが、主旨はそのままに形と場所を変え「KAO -日本の顔-」として写真展が開催された。今回はその背景をお聞きしました。(聞き手・文:近井沙妃)
「KAO -日本の顔-」開催までの道のり
今年6月にニューオータニガーデンコート オカムラガーデンコートショールームにて開催した山岸伸写真展「KAO -日本の顔-」を振り返り、今回は写真展開催の裏側というかメイキングをお見せしたいと思う。と言うのも、僕は過去に何十回と個展を開催してきたが本当にゼロから写真展までこぎ着けたというのは今回が初めてだからだ。
元々は仕事で撮影させていただいた方を感謝の気持ちを込めてもう一度写真に残そうと思ったのが「瞬間の顔」の始まりで、2007年のVol.1から1年ごとに発表をしてVol.14で撮影した各界著名人は延べ1018名となった。OM SYSTEM GALLERYで開催した「瞬間の顔 Vol.14」を最後に一区切りとすることを宣言したが、その中でも応援してくれる人が何人かいたんだ。
写真展を開催するとなると、まず必要なのは場所だ。今までは幾度となくデパートやカメラメーカーなど写真業界関係のギャラリーで企画展として個展を開催させてもらってきた。今回、オカムラガーデンコートショールームを会場として使用できることになったのは「瞬間の顔Vol.11」に出演いただいた株式会社オカムラの代表取締役社長である中村社長から「うちのショールームを年に1度くらいアーティストなどにギャラリーとして貸してイベントなどを開催しているんですが、先生やってみますか?」とお声がけいただいたのがきっかけ。中村社長が僕の意欲みたいなのを買ってくれて企画を下に下げてくれた。
ニューオータニガーデンコートの3階にあるオカムラのショールームはエスカレーターを上るとガラス張りの美しい空間が広がる、僕が経験したことのない大きなショールーム。普段使用されているテーブルやイスなど全て出し、大きな空間が与えられた。さあ、どうするか。ホテルの一部なので壁や天井や床を傷つけないよう、釘などで穴をあけたり何かを直接貼ったりは一切できない。本当のことを言うと自分ではどうするのがベストなのか見当がつかなかった。ただ、せっかくこの美しいショールームをわざわざスタンダードで型にはまった写真展会場にはしたくなかった。
そこでお願いしたのがフレームマンの奈須田社長。一緒に下見をし、奈須田社長が企画書や図面の修正を5回くらい重ねてくれているうちに「空間にいくつかの柱を立てて、柱に写真を飾ろう」とまとまった。柱と言っても特別頑丈なものではない。写真を飾る強度を持ちつつも重すぎず軽すぎず、柱を持ち運んだり動かすことがある程度簡単でないといけない。フレームマンさんにあるパネル板を組み立てて柱にし、もともと天井にあるライト用のダクトレールからテグスで柱を引っ張ることで倒れないよう固定させた。
今回の作品数は53点。空間に奥行き感が必要だと考え、一番大きな壁面に写真を大きく飾ろうと1,200×1,800mmの写真を5点。あとは柱に配置していくが、僕の写真はとにかく横位置が多いのでどうしても柱のサイズに対してバランスよく見せるとなると縦位置の写真は800×1,200mmと大きくできるが横位置はそこまで大きくできず長辺1,030mmとなり若干の差が生まれる。それも見せ方によってカバーできると思い、高さのバリエーションがある柱を16本作った。
「日本の顔」としての意識と方向性
会場が決まってから1年かけて企画を進めた。この企画は最初から1年で撮るということがテーマになっていて、何年も撮りためたものを写真展にしているわけではない。毎年60~100名の方を撮影して発表してきた。けれども1,000人を超えてタイトルを「KAO -日本の顔-」とするならば、今回から女性も被写体にと思い5名の方に出演いただいた。それはすごく人選を考えさせていただいたというか、この次に出ていただきやすいように政治経済やエンターテイメント業界の方に広げることを意識した。
やっぱり女性のお顔はこれだけ大きくプリントするとすごく気を遣う。以前から「瞬間の顔で女性を撮りませんか」「瞬間の顔の女性バージョンを始めたらどうですか」と何回も言われてきたが、それはお断りして男性にこだわってきた。だが、今回ものすごく新鮮味があり会場そのものもパッと明るくなったことは確かである。将来もしこの企画が続くのであれば段々と女性の割合を増やし、比率が半分半分になればいいなと思っている。
今まで「瞬間の顔」は写真展を開催するごとに図録を作って販売していたが今回は相談の結果、出演してくださる方たちから「販売しないほうがいいのではないか」という意見もあったので思い切って1000部ほど自費出版というか、僕が作って皆さんに差し上げる形をとった。やはり、記録として図録を作らないわけにはいかない。
今まで写真展は全てが企画展だったので自分では見積もりなどを見たことが無かったんだけど、今回はオカムラさんから一旦うちに全部任された形だったので見積もりなど全てに目を通すことになった。最初はフレームマンさんの見積もりを見たとき「えっ!? 写真ってお金がかかるな~」って思ったんだけど、こうやってメイキングを見てもらうとわかるようにこれだけの人が働いてくれて、これだけの人たちが写真展に関わってくれるとなると「あ~、安いな」って思うくらい。安いというか、これは納得だなって思った。搬入の時には14名もの人たちが来てくれて、奈須田社長の号令一下でテキパキと最後の最後まできちっと仕上げてくれたフレームマンさんに感謝。
今回アートディレクターには「瞬間の顔 Vol.10」からDMやフライヤー、図録のデザインをしてくれている三村漢さんに空間も含めてやってもらおうということでお願いした。彼も一生懸命やってくれて結果的に本当に良かった。
紙はちょっと悩んだんだけど、今までも使用しているピクトリコ シャイニーゴールドにした。今回作品のサイズを大きくしたことによってシャイニーゴールドの良さが特別出たね。この会場では作品をあらゆる角度で見ることができる配置にしたから、光の当たり具合でゴールドのパール光沢が独特の諧調と立体感を見せる紙の特徴とマッチした。プリントは写真弘社の川口さんに全て任せて、本当に細かく私の気づかないところまで川口さんがフォローしてくれた。フレームマンさんと写真弘社さんと三村漢ちゃんの協力のおかげでうまくいったね。
お返しの気持ちを込めたポートレート撮影会
これだけオカムラさんにお世話になっているので、何かお返しできないかなと思い企画したのが写真展会期中に会場で行う「ポートレート撮影会」。オカムラの社員さんや一般の参加希望者のポートレートを2日に分け2時間ずつ撮れるだけ撮ってデータをプレゼントした。これは僕がお返しとして写真でできること。撮影会ではケンコー・トキナーさんの協力でGODOX(ゴドックス)のストロボをお借りすることができ、これも上手くいった理由のひとつ。ヨドバシカメラで行っている新春記念撮影会もそうだが、自分にとってカメラマン冥利に尽きるイベントだった。
カメラメーカーなどのギャラリーじゃないのでお客さんが来てくれるか凄く心配していたが、「デジタルカメラマガジン」「フォトコン」「CAPA」の各カメラ誌には毎回お世話になってパブリシティの写真を掲載いただいている。加えてWebメディアなどにも告知を展開していただいてお客さんも満遍なく来てくれた。僕のお客さん層はどちらかというと写真家の方も多いが、一般のお客さんも来てくれることをいつもありがたく思っている。ここでは来ていただいた方全てをご紹介できないが、皆さんと記念写真を撮るようにしている。
今回もお花や差し入れをたくさんいただきて連日頂いたものをSNSにアップすると「こんなに毎日食べてるんですか」とコメントをいただくが、全てありがたくいただいています。
お花は写真展の最後まで生き残るように一生懸命努力している。オカムラさんの会場は広いので花が長持ちして本当に会場を明るくしてくれた。