山岸伸の「写真のキモチ」
第43回:帝国ホテルの記憶 ~IMPERIAL Legacy~
この回が公開される頃には、写真展が始まっている
2023年3月31日 13:00
1890年に開業して以来、日比谷の地でお客様をお迎えし続けている帝国ホテル 東京。新たなおもてなしを求め未来に向けた計画が進んでいる中、帝国ホテル 東京の今の姿の記憶を残すべく撮影を続ける山岸さん。撮影開始までの経緯や撮影時の様子、現在開催中の写真展についてお話を聞きました。(聞き手・文:近井沙妃)
長い道のりの始まり
今回は私にとって長丁場になる撮影です。数年前、帝国ホテル東京が建て替えられることをニュースで知り、ずっと心の中に引っかかっているものがありました。私は帝国ホテルを撮ってみたいという気持ちがそれ以前からあり、どうすれば撮影できるのか、そして自分にはどのように残すことが出来るのか悩んでいたのです。
ある日、銀座「吉井画廊」の吉井社長に私のライフワークである「瞬間の顔」の被写体として帝国ホテルの定保社長をご紹介いただきました。帝国ホテル 東京のみゆき通り側エントランスで撮影しましたが、ものすごく爽やかな方で暑い夏の最中に妙に心地よい風が吹いていました。
本当にダメ元で、定保社長に帝国ホテルを撮りたいとお願いをすると即座に広報の方を呼んでくださり、「山岸さんが帝国ホテルを撮りたいとのことだが、どうだろう」と。広報の方は突然の話に驚きもあったであろうし、すでに様々なオファーが来ているようで一瞬戸惑っていました。話を進めていく中で「もし、せっかく山岸さんに撮っていただくのであればホテルで働く人たちを一緒に残していただくのがいいのではないか」と提案してくださり、私も「ぜひお願いします」ということでこの撮影が始まりました。
先を見据えた撮影
最初はロケハン、そして広報の方の立ち合いのもと月に1回のペースで1回約4時間、15回ほど撮影を終えました。撮影枚数は約4万枚。その日撮影できる場所を効率的にまとめてご案内いただいたり、クリスマスやお正月などのイベント事の雰囲気やメインロビーのお花の入れ替えなども撮影しました。時間帯は早朝からであったり夜中だったり。ホテルの撮影ではすべてがお客様最優先。極力お客様と接しない時間帯を選び、エレベーターに乗る際にお客様がいた場合は一緒に乗らず、ストロボや照明は使用せず、その中で撮影を続けて約2年が経ちました。
私の目標は新しい帝国ホテルが完成する2036年(予定)まで撮影をすることですが、なかなか遠い未来です。病気を持っている私は一人では撮り切れないかもしれない、完成を見ることができないかもしれないという、とても長い作品作り。アシスタントも含め、嫁の佐藤倫子にもお願いし何度か同行して撮影してもらいました。倫子さんには彼女の思うように撮っていただき、常に私が撮っている姿も残そうと思いアシスタント近井は私のメイキング撮影及びフォロー、アシスタント佐藤は私のフォロー及び動画をことあるごとに撮ってくれていて、4人体制で日本を代表するホテルの撮影にあたっています。
帝国ホテルの記憶
このたび、告知になりますが私の誕生日である3月22日(水)から約1年をかけて写真を展示させていただくことになりました。「帝国ホテルの記憶 ~IMPERIAL Legacy~」と題し、最初の第1期は帝国ホテルプラザ 東京の4階に私の作品が、3階に倫子さんの作品がそれぞれ約25点ずつ展示されます。
2人で同じ場所を撮って、同時に違うフロアで展示をして皆さんに作品を見ていただける。これはある意味2人の写真のセンス、物の見方、ここがハッキリ出てきてとても面白く最高の展示の仕方だと思っています。また第2期、第3期、第4期と後を追って展示作品数が増え、展示場所も1階・2階やそのほかの場所と展開される予定です。
今回はメイキングの写真をたくさんお見せしたいと思います。まずは何度も何度も撮影しているお気に入りの場所、この空間が大好きです。始めは外に出られないと思いガラス越しに撮っていましたが、お願いをしたところ外に出て撮影させていただけました。
客室の撮影もしていますが、撮影時のマナーとして三脚の脚にはテニスボールをつけています。ホテルの従業員の方はインスペクター作業(清掃後の最終お部屋チェック)をする際に靴を脱いで作業されます。私たちは靴を履いて撮影をさせてもらっていますが、せめて三脚で絨毯に跡をつけたりといったことは避けるべきだと思い、テニスボールをつけています。このように配慮すべきシーンは多いので持ち歩くことが多いアイテムです。
ホテルを撮ると言っても内側だけではありません。ホテルから見る街、日比谷公園や有楽町や皇居まで、たくさんの素晴らしい景色を眺めることができるので窓越しの撮影もよくしています。
数多くある調度品や細かいところまで撮っていますので、意外と全身を使って撮影をしています。
今まで入ったことが無かった帝国ホテルのプール。誰もいない時間を見計らってホテルの方に誘導され撮影しています。
撮影を始めた頃はすでにコロナ禍でした。マスクはもちろん、厨房や衛生管理が重要な場所ではこのような帽子と白衣を着て撮影をしています。
倫子さんが被ると人形のようですが、よくこの格好に耐えて撮影をしていました。
ここはいつ見ても毎度撮りたくなる場所、1階正面ロビーの顔ともなっている大壁面「黎明」(通称「光の壁」 作:多田美波)です。ホテル内のひとつひとつが芸術です。それを撮らせてもらうにはそれなりの気持ちを持って撮らないといけない。服装もそうですが、アシスタントも含めできる限り清潔な恰好で行っています。
写真展の最終打ち合わせで帝国ホテルプラザの展示場所をチェックしているところです。どのようなものが合うか事前にサンプルを用意して雰囲気を見ています。
今回このプロジェクトには写真弘社、フレームマンに関わっていただいています。初めて私が発注する立場。今までの写真展では各メーカーの方が発注し、私は細かいことまで関わっていませんでしたが、今回は帝国ホテルの方から一任され、初めて予算などまで関わることになりました。写真弘社の川口さんに細かい打ち合わせなどをお願いして額装担当のフレームマン 奈須田社長や帝国ホテルとやり取りを進めていただき、皆さんから助けていただいてなんとか完成までこぎつけることができました。
作品をほんの少しお見せしますが、ぜひ帝国ホテルプラザ 東京で直接作品を見ていただければ幸いです。観賞は無料、会場には自由に入ることができます。内幸町は日比谷と銀座と有楽町の中間にあり、電車など交通の便が良く、綺麗ですし、お茶やご飯をするところもある。とにかくこのような大きなホテルの中で私と嫁の写真が飾られるということは本当に名誉だと思います。
帝国ホテルを撮影するにあたり、私が使用しているカメラは主に2台のライカ、SL2とSL2-Sです。レンズはライカ バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.をメインに、シグマのレンズを愛用。最近SIGMA 50mm F1.4 DG DN | Artを手に入れたので、今後撮影に与えてくれる変化が楽しみです。嫁の倫子さんはライカQ2をメインに使用しています。
参考資料としていただいた「IMPERIAL HOTEL A Legend in Pictures」。最後にこのような記録と記憶に残り続ける本を作ったり、大きな写真展を開催できたらいいなと、あくまでも私の中で思っています。
記憶を、記録を、歴史を残していく
この1回ではとてもじゃないが語り切れません。また年内にもう一度皆さんにご報告したいと思います。今回は少し宣伝ぽいですが、ここで今までと違う形の写真展ができる。まずは、スタートです。
約2年助走をして、撮影は現在も加速して進行形。まだまだ終わることなき撮影ですが、私は尽きるまで撮り続けたいと思います。
◇
写真展情報
「帝国ホテルの記憶 ~IMPERIAL Legacy~」
1890年に開業して以来、日比谷の地でお客様をお迎えし続けている帝国ホテル 東京。新たなおもてなしを求め、未来に向けた計画が進んでいる一方で、後世に残すべき風景があります。写真家 山岸伸・佐藤倫子夫妻によって記憶されたホテルの今の姿を、帝国ホテルプラザ 東京を舞台に展示いたします。
第1期として2023年3月22日(水)より約50点の作品を帝国ホテルプラザ 東京 3階・4階共有スペースにて展示(開館時間11時~19時 ※入場無料)