中井精也のエンジョイ鉄道ライフ「ジョイテツ!」

厳冬の北海道・撮影地めぐり「釧網本線」編(その1)

日本離れした絶景のオホーツク海沿岸エリア

僕の取材車であるキャンピングカー。軽トラベースなのでパワー不足は否めませんが、四輪駆動なので雪道でもキビキビ走ってくれます。ただひとつ、厳冬の北海道ならではの問題が……(詳しくは後半で)。

今回は釧網本線のオホーツク海沿岸エリアを紹介します。釧網本線は釧路と網走を結ぶ路線ですが、釧路側と網走側ではまったく雰囲気が違います。釧路湿原のまっただなかを走る釧路エリアもいいのですが、今回ご紹介する止別〜知床斜里の撮影地は、オホーツク海の沿岸ギリギリのところを走り、日本離れした絶景を楽しむことができます。でも冬の北海道は、そうそう簡単に撮らせてはくれません。

撮影地へ向かうため、夜明け前の真っ暗な森のなかを一人歩きます。朝4時すぎに止別駅を出発してから、もう1時間くらい歩いていますが、行き先を知らせてくれるのは、キタキツネの足跡のみ……。その足跡をたどって進むのですが、キタキツネちゃんは軽いからサクサク歩けるものの、僕は重いので一歩ごとにズボズボ沈みます。マイナス10℃の夜の森で汗まみれになるオッサン一人(笑)なかなかシュールな状況です。

森を抜けて目指していたのは、海沿いにある踏切。ここで撮りたかったのは、満天の星と、線路です。

ソニーα7R IV FE 16-35 mm F2.8 GM(16mm) マニュアル露出(F2.8・49秒)ISO 1600 WB:マニュアル

その作品がこちら。こちらは知床斜里駅側を向いて撮影したカットですが、もう説明は要りませんね。真っ暗なのでピントを合わせるのに苦労しましたが、月夜の海岸線をまっすぐに伸びる線路は、絵本のワンカットのようです。

ソニーα7R IV FE 16-35 mm F2.8 GM(16mm) マニュアル露出(F2.8・30秒)ISO 1600 WB:マニュアル

こちらは止別方面を撮影したもの。人工衛星でしょうか? 運良く光の線が写りました。昨日の大移動と、早朝から雪こぎした甲斐があった! 苦労が報われた瞬間でした。長時間露光して星の軌跡を流すのも素敵ですが、僕は星をできるだけ見た目に近い感じで写したいと考えているので、だいたいシャッター速度を30秒くらいで撮ることが多いです。拡大すると星はわずかに流れてしまいますが、かなり見た目に近い感じに写るのでオススメです。ここではマニュアル露出で撮影していますが、30秒までならシャッター優先オートでも撮影できるので便利です。

ソニーα7R IV FE 600mm F4 GM OSS+2X Teleconverter(クロップ1800mm相当) マニュアル露出(F8・1/800秒)ISO 800 WB:太陽光

夜明けの星空を踏切で撮影したあと、直線が見通せる場所に移動し、カーブの外側から超望遠レンズを使って真正面から撮影します。オホーツク海の海岸ギリギリのところを走るこの直線は、日本有数の絶景ポイントだと思います。

ただ線路脇の丘に自生している木々が年々伸びて、撮れる場所がほとんどなくなってしまったのが寂しいところ。直線の迫力を出すため、600mmに2倍のテレコンバーターを装着し、さらにクロップして1800mm相当でバックショットを狙います。ちょうど朝日が雪煙を照らし、幻想的なオレンジ色に輝いてくれました。朝日に照らされたオレンジ色の雪煙は、とてもドラマチックでした。

ソニーα7R IV FE 600mm F4 GM OSS+2X Teleconverter(クロップ1800mm相当) マニュアル露出(F8・1/1,000秒)ISO 800 WB:太陽光
ソニーα7R IV FE 600mm F4 GM OSS+2X Teleconverter(クロップ1800mm相当) マニュアル露出(F8・1/1,000秒)ISO 800 WB:太陽光

かげろうは猛暑のときだけの現象だと思いがちですが、実は気温が低い日にも現れます。夏と違い空気が澄んだ冬ならクリアーに撮れそうなものですが、実際には超望遠レンズで遠景を狙うと、真夏と同じようにかげろうでボワボワになってしまうのです。まぁこれも厳冬期ならではの旅情と考え、「冬のかげろう」を主役に撮影してみました。1枚目は列車に、2枚目は手前の線路にピントを合わせて撮影。すべてがかげろうでボワボワになっている1枚目よりも、近景の線路にピントがあっている2枚目のほうが、より効果的にかげろうを表現できた気がします。

ソニーα7R IV FE 600mm F4 GM OSS (クロップ900mm相当) マニュアル露出(F4・1/2,500秒)ISO 800 WB:太陽光

近づいてくると、かげろうはほとんど目立たなくなります。急いでテレコンを外し、FE 600mm F4 GM OSSでクロップ撮影しましたが、背景から3D写真のように浮かび上がる、さすがの描写力に驚かされました。

ソニーα7R II FE 70-200mm F4 G OSS(119mm) 絞り優先オート (F8・1/500秒)ISO 320 WB:太陽光

ちなみに夏はこんな爽やかな雰囲気になります。左側がオホーツク海で、列車の後ろに見えるのは知床連山です。右側にひときわ高く聳えるのは、海別岳(海別岳)になります。道路がないためアクセスするのは大変ですが、苦労しがいのある絶景ポイントなのです。

ソニーα7R IV FE70-200mm F2.8 GM OSS(166mm) マニュアル露出(F5・1/3,200秒)ISO 200 WB:太陽光

続いては知床斜里〜中斜里で見つけた、斜里岳と列車をからめて撮れるポイントに移動します。斜里岳はすぐそばに知床連山があるため存在感が薄くなりがちなのですが、まっ平らな平原からググッと聳える険しい山容がとてもカッコよく、大好きな山のひとつです。斜里岳と列車を撮る撮影地は、列車が大きめに写る場所が多いのですが、猿間川の堤防から撮影するこのポイントは列車を小さめに写すことができるので、山の存在感を強調できます。冬場は終日逆光気味なので、できるだけ列車が目立つように構図をつくりました。

取材車のウォッシャー液ホースに施した、凍結防止対策。

この記事の最初に載っている写真は、僕の取材車であるキャンピングカーです。冬の撮影での悩みは、窓のウォッシャーがすぐに凍ってしまうこと。雪国では晴れて雪が溶けると路面に水たまりができるのですが、それを前の車が巻き上げると窓に泥がびっしりと付着していまい、ウォッシャー液で流さないとまったく前が見えなくなってしまうのです。もちろん不凍液に交換しているのですが、軽トラのほぼむき出しのホースではすぐに凍ってしまうのです。

そこでホームセンターで梱包材を買い、ウォッシャー液のホースを包んで凍結防止対策にしてみました。それが功を奏し、快適に走れるようになりました。北海道の人たちは、いったいどうしているのかな? こんなときのために“寒冷地仕様車”があるんだなぁと、実感しました。

ソニーα7R IV FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(291mm) マニュアル露出(F5.6・1/400秒)ISO 200 WB:太陽光

夕方の列車は、知床連山のひとつ海別岳(うなべつだけ)と一緒に撮影します。海別岳はなだらかに見えますが、標高は1,419mあり、深い雪に覆われた山頂付近は迫力満点! 日本離れした迫力の山容の前に、列車がちいさく見えました。

ソニーα7R IV FE 70-200mm F2.8 GM OSS(175mm) マニュアル露出(F4・1/320秒)ISO 800 WB:太陽光

次はさきほどの斜里岳撮影ポイントに戻って、夕方の光線で撮影します。時間はまだ16時半ごろですが、厳冬の北海道の夕方は暮れるのがとても早いのです。幻想的な青色に染まる斜里岳をバックに、車内灯がほんのり灯った列車が横切る、旅情たっぷりのカットになりました。

NEWS

第6回ゆる鉄画廊NOMAD新宿

中井精也が全国各地で撮影した代表作品を中心に展示販売する「ゆる鉄画廊NOMAD」。2022年最初は、新宿の京王百貨店にてスタートいたします。ここでしか買えない缶バッジやポストカード、2022年版カレンダーやグッズなど、また中井精也のオリジナルプリント作品をとり揃えて皆様のお越しをお待ちしております! 開催期間中、同じフロアにて「駅弁フェア」も開催しておりますので、あわせてお楽しみください。

・開催日:2022年1月7日(金)〜20日(木)
・時間:10時00分〜20時00分
・場所:京王百貨店 新宿店 7F

中井精也

1967年、東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道にかかわるすべてのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影し、「1日1鉄!」や「ゆる鉄」など新しい鉄道写真のジャンルを生み出した。2004年春から毎日1枚必ず鉄道写真を撮影するブログ「1日1鉄!」を継続中。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。全国を旅しながら自身の作品を販売する「ゆる鉄画廊NOMAD」を展開中。テレビレギュラー番組に「中井精也のてつたび!/NHK BSプレミアム」、「ヒルナンデス!/日本テレビ系列」、「にっぽん鉄道写真の旅/BS-TBS」などがある。https://ameblo.jp/seiya-nakai/