中井精也のエンジョイ鉄道ライフ「ジョイテツ!」

初心者でも楽しく撮れる!「はじめての鉄道お立ち台ガイド」vol.08

厳冬の宗谷本線

まずご紹介するのは、北海道の原野のなかにポツンとホームがある情景から、ファンも多い宗谷本線の糠南駅。始発の下り列車で下車したら、除雪される前でした。まだ足跡がない雪のホームは雰囲気最高です。周囲には数件の家があるだけですが、ちゃんと7時頃までには地元の人によってきちんと除雪されるから驚きです。こんなにちいさな駅でも、やはりこの土地の玄関なんだなぁと実感しました。
ニコンD850 AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR(16mm) 絞り優先オート(F4.0、1/30秒) ISO 2000 WB:電球 風景 [GoogleMaps]

鉄道写真の世界にたくさんある「お立ち台」と呼ばれる有名撮影ポイント。条件の良いそんな場所には百戦錬磨の鉄道ファンが多く集まるため、慣れていない方だとちょっと近寄りがたい雰囲気があるかもしれません。この企画では、ふだん鉄道を撮らない初心者でも安心して撮れるオススメの「お立ち台」をご紹介いたします。「撮影地が広く、たくさんの人が集まっても安心して撮れる」「カメラ位置が限定される車両アップではなく、風景と鉄道をからめて撮影できる」などなど、鉄道撮影がはじめてでも気楽に撮影できる条件のポイントを選びました。

今回は宗谷本線の撮影ポイントを、作例をお見せしながら解説いたします。豪雪地帯なので、冬はまったくゆるさがなく、初心者でも安心と言い切る自信がないですが(笑)、ふだんあまり鉄道は撮らないという人も、気合を入れてチャレンジしてみてくださいね!

宗谷本線 糠南駅

ニコンD850 AF-S NIKKOR 24-120mm f/4G ED VR(52mm) 絞り優先オート(F4.0、1/4秒) ISO 640 WB:オート スタンダード

凍えそうな空気のなか、一番列車が到着する前の糠南駅を撮影。東の空がほんのり朝焼けになり、印象的な写真となりました。もともと写真からは音なんて聞こえないけど、シーンという音が聞こえてきそうな、静まり返った音のない世界が写ったような気がします。右側の物置が邪魔だな……って思う人が多いと思いますが、実はこの物置はとても大切なものなのです。

ニコンD850 AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR(19mm) 絞り優先オート(F7.1、1/1.600秒) ISO 400 WB:晴天 スタンダード

なんと、この物置のような建物が、実は糠南駅の待合室なのです! いや、物置のようなというか、本当に物置です(笑)。中は2人入るのがやっとの大きさで、乗車する人が3人いたら、かなりの「密」になる状況。こんなワイルドな駅が現代に存在しているなんて、ちょっと信じられませんね。

ニコンD850 AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR(19mm) 絞り優先オート(F7.1、1/1,600秒) ISO 400 WB:晴天 スタンダード
ニコンD850 AF-S NIKKOR 24-120mm f/4G ED VR(110mm) 絞り優先オート(F4.0、1/20秒) ISO 400 WB:電球 スタンダード

前回の三厩駅でもご紹介した雪フラッシュテクニック。今回は列車がいない時間なので、思い切り正面に向けてフラッシュを光らせてみました。露出は風景を撮るときの設定で、フラッシュはTTLオートではなく、マニュアルで1/64くらいの弱い光にして撮影するのがコツ。2枚ともほぼ同じ撮り方ですが、広角で撮影した1枚目と、中望遠で撮影した2枚目で、雪の写り方が大きく違うのがわかると思います。中望遠のほうが、より絵画のような印象になりました。

ニコンD850 AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR(116mm) マニュアル露出(F5.0、1/60秒) ISO 3200 WB:オート スタンダード

こちらは糠南駅そばの踏切から、上り列車を撮影した写真。カーブしているので、安全に撮影することができます。列車がハイビームで来てくれたため、ライトに雪がキラキラ輝いて、幻想的な雰囲気になりました。

ソニーα7R 500mm F4 G SSM(500mm) 絞り優先オート(F8、1/1,000秒) ISO 200 WB:太陽光

駅ばかりではもったいないので、宗谷本線ならではの絶景ポイントもご紹介。兜沼〜徳満にあるこの場所は、利尻富士と列車を撮影できる超絶景ポイント。ゴツゴツと勇壮な山容が、最果て感を演出してくれます。冬場はなかなかその姿を見せてくれない利尻富士ですが、見えたときは日本一の絶景が約束された、スペシャルな撮影地なのです。ただし山の迫力を出すなら、400mm以上の超望遠レンズが必要になります。

ニコンD850 AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR(350mm) マニュアル露出(F5.6、1/1,600秒) ISO 800 WB:晴天 スタンダード

冬の宗谷本線には、日本で唯一の定期ラッセル列車が運行されています。雪がなくても毎日、旭川と稚内から定期ラッセルが運行され、こういう車両には珍しい日中の走行シーンを撮ることができます。ラッセル車はホームや踏切では羽根を閉じてしまうので、雪を飛ばして走るシーンの撮影が難しいのですが、ここは跨線橋から撮り下ろす撮影地ですので、積もっていれば、思いっきり雪を飛ばして走行してくれるのも嬉しいところ。

しかしこの定期ラッセルも、毎年廃止の噂が出ており、いつまで運行されるかは不透明。2019年は運行しましたが、2020年に運行されるかどうかは12月中旬以降にならないとわかりません。今年運行され、時刻の変更がなければ、朝の8時40分ごろにこのポイントを通過します。

ちなみに冬の北海道の撮影は、かなりの重装備が必要となります。足元はゴアテックスの登山靴に、同じくゴアテックスのスパッツを装着して、靴のなかに雪が入るのを防ぎます。さらにその上にオーバーズボンを履いて、ほとんど宇宙飛行士のような格好になっています。いや、クマか(笑)。

ニコンD850 AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR(16mm) 絞り優先オート(F7.1、1/3,200秒) ISO 160 WB:晴天 風景

雄信内〜安牛にあるこのポイントは有名撮影ポイントなのですが、大雪のため足跡がまったくなく、雪こぎすること30分でようやくたどり着いた絶景。実はこの場所に行く前に違う尾根に登ってしまい、1時間以上雪と格闘して、かなりヘロヘロになりながらの撮影でした。

奥に蛇行しているのは天塩川。完全逆光にもかかわらず、空気がクリアなのはさすが北海道ですね。ふつうは右奥の直線を狙うポイントなのですが、川の表情があまりにも素敵なので、広角で狙いました。列車の手前に木が生い茂っているけど、絶景の前では意外に気にならないでしょ? 苦労しただけあって、満足度の高い一枚になりました。

ニコンD850 AF-S NIKKOR 24-120mm f/4G ED VR(52mm) 絞り優先オート(F4.0、1/20秒) ISO 3200 モノクローム

最後にご紹介するのは、北剣淵駅の夜。最初にご紹介した糠南駅と同じような、木の板だけのホームが泣かせます。真っ暗な背景に浮かび上がる簡易的なホームから、雪をたたえた列車が静かに出発していきます。まるで周遊券を握りしめた若かりしころの僕が、ホームに立っているような気がしました。

まだ決定ではありませんが、宗谷本線はこの北剣淵駅を含め、抜海、上幌延、安牛、豊清水、紋穂内、南美深、北星、下士別、東六線、北比布、南比布という多くの駅が、来年春に廃止される可能性が高くなっています。青春の想い出に満ちた宗谷本線の駅が本当の思い出になるまえに、ぜひこの冬、のんびりと旅してみてはいかがでしょう。

中井精也からのお知らせ

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日時:12月11日(金)22時〜23時
番組:NHK BSプレミアム
内容:最新作、静岡編
再放送予定あり

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中井精也

1967年、東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道にかかわるすべてのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影し、「1日1鉄!」や「ゆる鉄」など新しい鉄道写真のジャンルを生み出した。2004年春から毎日1枚必ず鉄道写真を撮影するブログ「1日1鉄!」を継続中。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。株式会社フォート・ナカイ代表。2015年、講談社出版文化賞・写真賞、日本写真協会賞新人賞受賞。著書・写真集に「デジタル一眼レフカメラと写真の教科書」「DREAM TRAIN」(インプレス・ジャパン)、「ゆる鉄」(クレオ)、「都電荒川線フォトさんぽ」(玄光社)などがある。2018年5月、東京都荒川区に鉄道写真ギャラリー&ショップ「ゆる鉄画廊」をオープンした。甘党。https://ameblo.jp/seiya-nakai/

■TVレギュラー:「中井精也のてつたび」/NHK BSプレミアム、「ヒルナンデス!沿線フォトさんぽ」/日本テレビ、「ひるまえほっと てくてく散歩」/NHK総合、中井精也の「にっぽん鉄道写真の旅」/BS-TBS、カメラと旅する鉄道風景/CS各局