中井精也のエンジョイ鉄道ライフ「ジョイテツ!」

また訪ねたい海外の思い出「ジョイテツ! in the World」vol.11 スイス絶景鉄道編(その2)

“スイスの小湊鐵道” シーニゲ・プラッテ鉄道

最初にこの鉄道を発見したとき、あまりの嬉しさに興奮して妻に電話し、「スイスで小湊鐵道みたいなスゲーローカル線見つけたんだ!」って言ったら、「ずいぶん遠くまで小湊鐵道撮りに行ってるのねぇ……。」と呆れられました(笑)。ご覧の通り、ホームには小湊鐵道がずらりと並んでいます。
ソニーRX100 VI(40mm相当、F4、1/400秒)ISO 125 WB:日陰[Google Maps]

コロナが収束したら訪ねたい海外の撮影地をご紹介するこの企画、前回に引き続きスイスの絶景路線をご覧いただきます。今回ご紹介するのはシーニゲ・プラッテ鉄道です。

©OpenStreetMap contributors

前回ご紹介したリギ山からほど近いヴィルダーズヴィル駅からシーニゲプラッテを結ぶこの鉄道の最大の魅力は、なんといってもかわいい電気機関車と、昔懐かしいカラーリングのオープン客車です。この鉄道にはホントの一目惚れで、もう何回も撮影に来ています。あまりのゆるい風景に、僕は「シーニゲ・プラッテ鉄道は、スイスの小湊鐵道だ!」と勝手に言い張っています(笑)。

ソニーRX100 VI(200mm相当、F4.5、1/200秒)ISO 1600 WB:日陰

ちょうど緑色のかわいい機関車がやってきました。この機関車は1914年製なので、御年なんと107歳。ほかに1894年製の機関車まで健在だというから驚きです。スタジオジブリの「天空の城ラピュタ」に出てくる機関車のような、ファンタジー感がたまりません。

ソニーα7R III FE 24mm F1.4 GM(24mm)絞り優先オート (F1.4、1/800秒)ISO 200 WB:日陰

この鉄道の全長はたった7.25kmですが、なんと起点と終点の標高差はなんと1,380m! かなりの急勾配を登るため、写真のように線路の間にラックレールが設けられています。使い込まれたラックレールにピントを合わせて、パチり。

ソニーα7R III FE 16-35mm F2.8 GM(24mm)絞り優先オート(F3.2、1/800秒)ISO 200 WB:日陰 風景

景勝路線であるこの鉄道の撮影は、どうしても絶景メインになりがちですが、ゆる鉄派の僕としては、このかわいい機関車と客車をゆる〜く撮りたくなります。というわけで、以前から目をつけていた踏切に向かうことにします。ヴィルダーズヴィル駅の裏手にある集落の橋をわたり、踏切に続きそうな登山道を探します。手始めにヴィルダーズヴィルの町並みと、列車をパチリ。なんとシーニゲ・プラッテ鉄道と一緒に、ベルナー・オーバーラント鉄道も来てくれました。こうしてみると、シーニゲ・プラッテ鉄道の小ささがわかりますね。

ソニーα7R III FE 24-70mm F2.8 GM(46mm)絞り優先オート(F5.6、1/400秒)ISO 400 WB:日陰 風景

前の写真を撮った場所から山道が分岐していて、そこを5分ほど上るとこんな素敵な風景になりました。ただの砂利道ですが、何か物語がはじまりそうな、絵になる風景でしょう。主役はなんといっても道なので、手前に大きく道を配置した構図にして、列車は奥に小さく写しました。列車の角度を見ると、かなりの急勾配であることがわかります。

ソニーα7R III FE 24mm F1.4 GM (24mm)絞り優先オート(F5、1/160秒)ISO 400 WB:日陰 風景

ヴィルダーズヴィルから徒歩1時間。ようやくお目当ての踏切に到着しました。スイスまで来て、絶景を撮らずに踏切を狙う理由を、スイスの人たちにいくら説明しても伝わらないだろうなぁ……。日本とはデザインが大きく違いますが、踏切だけ撮ってもかなり絵になります。でもせっかくおとぎの国に走っているような可愛い機関車が来るので、なんとか踏切と一緒に撮影したい! そこから苦悩が始まりました。

ソニーα7R III FE 16-35mm F2.8 GM(21mm)絞り優先オート(F4.5、1/800秒)ISO 400 WB:日陰 ニュートラル

まずは心の赴くままに撮った構図から。全体的なバランスはとてもいいですが、この写真には決定的な欠点があります。それは主役であるはずの踏切が、目立たないということ。写真としてはいいのですが、テーマ的にはアウトという感じでしょうか。

ソニーα7R III FE 16-35mm F2.8 GM(20mm)絞り優先オート(F2.8、1/1,000秒)ISO 400 WB:日陰 ニュートラル

続いてはさらに欲張って、近くの納屋を入れた構図に。不思議なもので納屋が入るとさらに踏切が目立たなくなると思いきや、建物と踏切が関連付けられて、意外に存在感を増しています。ただ踏切、納屋、列車、森と要素が多すぎるため、全体的に弱くなっている感じもします。まぁこれも悪くないですが。

ソニーα7R III FE 16-35mm F2.8 GM(21mm)絞り優先オート(F4.5、1/800秒)ISO 400 WB:日陰  ニュートラル

そして悩みに悩んで撮ったのがこのカット。これだと誰がみても踏切が主役だとわかるんじゃないでしょうか? さらに前の写真では自己主張していた森は、踏切をやさしく守る森に。列車は踏切の存在する意味として、主役をうまく立たせてくれるようになりました。せっかくの客車が写っていませんが、これでいいのだと思います。言われなければ、どれもいい感じの写真だなぁと思ってしまうところですが、僕はこんなことをごちゃごちゃ考えながら、自分の思いを写真で表現しようとしているのです。

ソニーα7R III FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(224mm)絞り優先オート(F5.6、1/250秒)ISO 400 WB:日陰 ニュートラル
ソニーα7R III FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(145mm)絞り優先オート(F5、1/500秒)ISO 400 WB:日陰 ニュートラル

セイヨウナナカマドでしょうか? 赤い実をつけたかわいい木があったので、一枚は実にピントを、もう一枚は列車にピントを合わせて撮影しました。赤い実と赤い機関車がコーディネートしたみたいに、よく似合います。同じ風景でも、アプローチを変えるだけで、印象は大きく違います。あなたはどちらが好みですか?

ソニーα7R III FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(128mm)(F5、1/160秒)ISO 200 WB:日陰

ヴィルダーズヴィル駅からいよいよ乗車です。それにしてもシーニゲ・プラッテ鉄道の乗務員は、みんなカッコいい! 温かい季節は、乗務員のドアを開けっ放しでのんびりと走る機関車。何から何まで絵になる鉄道なんです。

ソニーα7R III FE 24mm F1.4 GM(F8、1/1,600秒)ISO 200 WB:太陽光 風景

僕はこの鉄道を訪ねると、いつも終点のシーニゲ・プラッテまでは登らず、途中のブライトラウエンネン駅で途中下車して撮影します。ここで降りるひとはあまりいないので、毎回乗務員さんたちにびっくりされてしまいますが……。ここから急斜面をのんびりと20分ほど登ると、お気に入りの撮影ポイントに到着。ツーン湖と山々を見下ろす絶景のなか、小湊鐵道が……じゃなかったシーニゲ・プラッテ鉄道が走ってきます。この日は平日だというのに大人気で、定期列車のあとに2つの列車が続行運転しているのがわかります。まさにスイス!という感じの風景に、心が洗われるようです。2枚目は撮影中の僕。こんなテキトーな感じで、絶景が撮れてしまうのがスイスの恐ろしいところです。

ソニーα7R III FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(265mm)(F40、1/25秒)ISO 200 WB:太陽光 風景

シーニゲ・プラッテ鉄道の最大勾配は、なんと250‰(パーミル)。ちなみに大井川鐵道のアプトが90‰なので、スゴい急勾配なのです。こうして水平を出して流し撮りすると、かなりナナメなのがわかりますね。100年以上急勾配と戦ってきた機関車のいぶし銀のオーラが、むんむんと出ていました。パンタグラフがデカい!

ソニーRX100 VI(48mm相当)(F4、1/3,200秒)ISO 125 WB:太陽光 スタンダード

ブライトラウエンネン駅のホームにて。ホームと言っても何もありませんが、線路脇にテーブルが置いてあり、待合室を兼ねたカフェでカプチーノやビールを買って、絶景を見ながら楽しむことができます。こんなところで何もかも忘れて、ぼ〜っとしたいな。

中井精也からのお知らせ

ゆる鉄画廊NOMAD「第4回小諸」「第5回福井」開催のお知らせ

全国のギャラリーやイベントスペースを巡回しながら中井精也の写真展示・販売を行う「ゆる鉄画廊NOMAD」の第4弾! 今回は、信州小諸です。しなの鉄道駅構内のカフェのまどに、ゆる鉄画廊NOMADがやってきます。信州にちなんだ写真やオリジナルグッズを販売いたします。是非お越しください。

第4回ゆる鉄画廊NOMAD小諸

開催期間:2021年11月26日(金)〜28日(日)
営業時間:10時〜19時(初日のみ13時から)
場所:しなの鉄道小諸駅構内(カフェのまど)

さらに、NOMAD小諸の開催期間中、11月27日(土)には115系電車を使った貸切列車イベントを開催いたします。

日程:2021年11月27日(土)
定員:40名(最小催行20名)
参加費:1名あたり2万5,000円(2名〜4名での申込となります)
集合場所:しなの鉄道小諸駅10:00集合
申込方法は1日1鉄!ブログをご覧ください。
https://ameblo.jp/seiya-nakai/

第5回ゆる鉄画廊NOMAD福井

開催期間:2021年12月10日(金)〜12日(日)
場所:えちぜん鉄道福井駅構内

また、NOMAD福井の開催期間中12月11日(土)には、えちぜん鉄道とのタイアップ企画で「えちぜん鉄道貸切列車で行く 鉄道写真家中井精也の鉄道写真教室」を開催いたします。

日程:2021年12月11日(土)雨天決行
定員:20名(最小催行15名)
参加費:1名1万8,000円
集合場所:えちぜん鉄道福井駅9:00集合
お申し込み:0120-840-508(えちぜん鉄道相談室)
締切:2021年12月8日(水)17時まで

しなの鉄道写真教室

大好評の鉄道写真家中井精也と行く!写真教室。今回は、NOMAD開催に合わせて、しなの鉄道メインで行います。上田電鉄の千曲川橋りょうでの撮影やしなの鉄道の浅間山麓で撮影を楽しみます。

さらに、貸別荘を撮影の拠点にて、お昼は峠の釜めし、甘酒、パンなど信州の味覚も存分に楽しみる撮影会となっております。是非ご参加ください。雨天決行。

開催日:2021年11月29日(月)
参加費:2万円(税込)
※移動のための電車運賃は含みません

詳細は「1日1鉄!ブログ」でご案内いたします。
https://ameblo.jp/seiya-nakai/

大好評「1日1鉄!カレンダー2022」

今年も鉄道写真家中井精也の「1日1鉄!カレンダー2022」を販売いたします。お求めは今後開催する「ゆる鉄画廊NOMAD」店頭およびAmazonにて販売いたします。販売開始は11月下旬以降を予定しております。

仕様:壁掛けタイプ見開きA2相当
本文26ページ、フルカラー、日曜始まり
値段:2,200円(税込)

詳細は「1日1鉄!ブログ」でご案内いたします。
https://ameblo.jp/seiya-nakai/

中井精也

1967年、東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道にかかわるすべてのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影し、「1日1鉄!」や「ゆる鉄」など新しい鉄道写真のジャンルを生み出した。2004年春から毎日1枚必ず鉄道写真を撮影するブログ「1日1鉄!」を継続中。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。全国を旅しながら自身の作品を販売する「ゆる鉄画廊NOMAD」を展開中。テレビレギュラー番組に「中井精也のてつたび!/NHK BSプレミアム」、「ヒルナンデス!/日本テレビ系列」、「にっぽん鉄道写真の旅/BS-TBS」などがある。https://ameblo.jp/seiya-nakai/