赤城耕一の「アカギカメラ」

第119回:実用性と趣味性を両立、しかも廉価なニコン「Z5II」

カメラはハイエンドモデルほど写りがいい。というステレオタイプな理屈がなんとなく嫌で、一眼レフ時代の一時期ですが、キヤノンの代表的なローエンドモデルEOS Kiss X7数台で、仕事をしていたことがあります。

筆者の周りでは知られた話で、しかもうち1台はホワイトモデルでした(笑)。

筆者は薄い商いしかしていないので、それでも問題なく仕事ができてしまうのですが、時おりスタジオでの人物撮影などではバッファが不足し、書き込みが終了まで時間がかかるため、シャッターが押せなくなります。そこで被写体の方を飽きさせないように世間話をしたりしていました。

いま考えてみれば、リチャード・アベドンがフィルムを使い切ったローライフレックスを後ろにいるアシスタントに投げたみたいに、書き込みに時間かかる状況になったときは、バスケのノールックパスのようにアシスタントにX7を放り投げ、続いて手渡された代わりのX7を使用し、何事もないように撮影が続行できたらカッコよかったかなあと妄想したりしたのですが、これはさすがに実現することはありませんでした。あたりまえですよね。

ズバッと正面から切り取ってみたわけですが、開放絞りでもきっちりと正確にフォーカシングしてきますね。
ニコン Z5II/NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/絞り優先AE(1/320秒、F1.8、+0.7EV)/ISO 200
標準レンズの絞りを開いての見本みたいな作例ですが、描写はいいですね。
ニコン Z5II/NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/絞り優先AE(1/2,500秒、F2.2、−0.3EV)/ISO 100

廉価で軽いカメラは今も大好きなんですが、じつは『デジタルカメラマガジン』でニコンZ5IIのレビューをやらせていただいてから、Z5IIのことがアタマから離れなくなりました。

理由は単純です。筆者自身、本機の弟分であるZ50IIのヘビーユーザーですが、オートエリアAFと呼ぶ、AF測距点の自動選択、AE露出、AF-SとAF-Cを自動的に切り替えるAF-Aの、カメラおまかせ3点機能を積極的に使用し、好結果を得ていたので、兄貴分となるZ5IIにおいても同様な性能なのではないかと期待したからであります、結論から言えば期待どおりでした。

Z5IIとにかく手抜きを感じさせるところが少ないのです。 外装はマグネシウム合金ですし、表面の仕上げもスタイリングも落ち着いた感じです。

小さめの単焦点レンズを装着し、街に斬り込んでゆくという写真家に適したカメラではないかと思うわけです。
カメラは細部のことよりも、全体の佇まいに魅力があるかどうかです。後ろ姿をみてもローエンド機という印象はないですね。

筆者は長い間、Z系のデザインがどうにも気に入らなかったのです。

かといって、Zfを使うというのも抵抗がありました。「カタチはきちんと一眼レフスタイルにしたのですから、これで文句ないでしょう」と言われている気がしたのです。筆者はカメラの全ては見てくれが優先すると公言はしていますけど、いざ、テキが仕掛けてくると腰が引けてしまうわけです。すみません。

でもZ50IIを使い始めてから、デザインにおいても認識を新たにしたわけで、さらに今回Z5IIを見たときに、初めてニコンがZシリーズでやりたいことが納得できたような気がしました。

Z5よりも30gだけ重くなったボディですが、グリップ感に優れているため、重量増をまったく感じさせません。小型の単焦点レンズを装着すれば、街歩き撮影などでは手に掴んだまま歩行できそうです。

謎の光景は謎のまま残しておきたいタイプです。
ニコン Z5II/NIKKOR Z 26mm f/2.8/絞り優先AE(1/2,000秒、F8.0、−0.7EV)/ISO 400
ISO 32000にして撮影してみます。実用になってしまうので驚きですねえ。
ニコン Z5II/NIKKOR Z 26mm f/2.8/絞り優先AE(1/800秒、F6.3、−0.3EV)/ISO 32000

画素数はZ5やZ6IIの2,450万画素と変わりはありません。前モデルのはZ5表面照射型でZ5IIは裏面照射型になりました。

画像処理エンジンはEXPEED 7と進化しています。高感度域の余裕をみると、FXフォーマットの優位性を感じることができますが、もっとも画質に関してはZ5でも十分に優れていましたから、そう騒ぐこともないのではないでしょうか。それよりも筆者の印象では、動作感触や動作音に品の良さを感じるのは、ニコンのニコンたる所以ではないかと。ローエンド機でも、気合いが入っています。

フィルム時代の初期のAF一眼レフは、カメラ任せのAF-Aモードのみと割り切ったカメラも少なからずあったのですが、後にAFモードは任意設定できる機種が増えます。

往時はAFの技術が未熟だったこともあるのだけれど、どのように使用していいかわからないということもあったのでは。

画質の均質性も悪くないですね。色再現も派手にならずと良い仕事をしています。
ニコン Z5II/NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/絞り優先AE(1/800秒、F2.8、±0.0EV)/ISO 100
少し複雑な光線状態ですが、問題のない描写です。
ニコン Z5II/NIKKOR Z 26mm f/2.8/絞り優先AE(1/1,250秒、F8.0、−1.0EV)/ISO 400

AF黎明期のカメラを使用するとき、撮影時にAFのエラーなど、トラブルが起きた時、どのようにリカバリーするか、考えてばかりいました。そこまでいうなら最初からMFで撮ればいいじゃないかと思われるかもしれないけど、往時から新しいものが好きだったので、AFの性能を試したくて仕方なく、カメラの性能に、カラダのほうを合わせてきたというわけです。

Z5IIはAF-Aから他のAFモードに切り替えることを忘れてしまうほど秀逸な動作をします。

意図して狙ってないけど、筆者の考え方がわかるんじゃないかというところにフォーカスが行きます。
ニコン Z5II/NIKKOR Z MC 50mm f/2.8/絞り優先AE(1/2,000秒、F4.0、+0.3EV)/ISO 200
モデルさんに前に歩いてきてもらい、筆者も同時に後ろを歩きながら連続してシャッターを切ってみましたがZ5IIは瞳へのフォーカスを追い続けました。
ニコン Z5II/NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/絞り優先AE(1/4,000秒、F2.0、−0.7EV)/ISO 1600

たとえば筆者がよく撮影するスナップ撮影でこれまで頻繁に行なっていたAFエリアの選択やAF-SとAF-Cの切り替えなど、その方法があったことすら忘れてしまうほどでした。プロスポーツや高速で動く被写体には試してはいないし、状況によっては不向きもあると思いますけど、まず一般的な撮影ではエラーするのが難しいほどです。

被写体検出機能は9種の設定が可能です。もっとも特定の被写体を選ばずとも検出はオートのままで、筆者の狙いの通りにAFエリアが貼りつくことも多く、問題は感じませんでした。

それでも特定の条件の被写体など目的を持って撮影する場合は任意で選択することで、さらに確実かつ有効に使うことができるでしょう。

フォーカスのグリグリもあり親切でていねいな仕様ですが、オートエリアAFやタッチAFで解決することばかりで使用頻度が減りました。
筆者のキラいな撮影モードダイヤルがボディ上部で存在感を放ちます。ピクチャーコントロールボタンも目立つ位置にあります。最近はカメラが読んだ値が気に入らない場合はプログラムシフトすればいいという割り切った考え方をとっています。

本機の最高30コマ/秒(RAWでは11コマ/秒)は持て余すほどのハイスピードです。動体撮影では1秒前に遡れるプリキャプチャー機能を駆使すれば鳥や昆虫などの飛翔も容易に捉えることができるそうです。すみません、人ごとのように書いてしまいますが、鳥は焼き鳥しか思い浮かばず、昆虫関連は弱含みな筆者ですから、これらの機能を使用することは死ぬまでないと思いますが、必要な方には間違いなく役立つことでしょう。

あまり条件が良くない曇天の路地裏ですが、しっかりと階調を繋いで、色も明確に再現します。嬉しいですね。
ニコン Z5II/NIKKOR Z 26mm f/2.8/絞り優先AE(1/250秒、F10、−0.3EV)/ISO 1600
夜の街も昼間見ると色々なことが露呈しちゃうというか。浅薄な色ですが、再現がいいと幸せです。
ニコン Z5II/NIKKOR Z 26mm f/2.8/絞り優先AE(1/400秒、F8.0、−0.7EV)/ISO 400

Z50IIと同様に、Z5IIにもピクチャーコントロールボタンが搭載されています。ボタンひとつで多種類のカラープリセットにアクセス可能です。

「スタンダード」「ビビット」等など、オーソドックスな各種パラメーター設定変更のほか、フレキシブルピクチャーコントロールで色味を自分好みで変えることができます。筆者は色味や色再現はPCでの後処理に賭けているので、正直なところ興味ないのですが、現場でリアルに効果がわかるということでは意味があるのでしょう。

それでもZ5IIには撮影者が介入する余地、カメラとしての装置を操作するということでも飽きさせない魅力があります。これはボタンの押下感やダイヤルのトルクなどに配慮されているからということもあるからでしょう。ローエンドモデルですが、ビルドクオリティがいいわけですね。少し残念なのはバッテリー室の蓋の閉まりがいまひとつなことと、メディアスロットのドアがすぐに動いてしまうことでしょうか。

実用性と趣味性の両者を満足させることのできるカメラはそう多くはないですし、さらに入手しやすい価格ということを加味すれば、この価格帯の数あるミラーレス機の中で少なくとも現時点ではZ5IIは敵なしではないかと思えてきます。

FTZアダプターを用いて、Fマウントニッコールを装着してみました。レンズ内モーターのAF-S17-35mm F2.8を使いました。条件によってはフリンジも出ますけど、ここでは問題ありません。
ニコン Z5II/AI AF-S Zoom-Nikkor 17-35mm f/2.8D IF-ED/プログラムAE(1/500秒、F11、−0.3EV)/ISO 400
夕暮れ間近の路地。同じくAF-S 17-35mm F2.8を使用していますが、なかなかよいトーンが出ました。
ニコン Z5II/AI AF-S Zoom-Nikkor 17-35mm f/2.8D IF-ED/プログラムAE(1/1,600秒、F6.3、−1.0EV)/ISO 400

筆者はZ5IIに触れるまで、Z50IIがあれば十分ではないかと考えていました。これを2台用意すれば、筆者の小商いはほとんどこなすことができますから。

ただ、筆者が所有するFマウントニッコールを含めたニッコール各種交換レンズのポテンシャルをZで生かし切るにはどうしてもFXフォーマットのカメラが必要なのです。

この誘惑にはどうしても抗うことができず、かつZ50IIにはない、優れた手ブレ補正機能の実力を知ることで、Z5IIにお越しいただくことを決めました。自分に必要なカメラなのですから仕方ありません。本当です。

モデル:ひぃな(@okw_hi_

カメラを頭上にささげ持ち、バリアングルでフレーミングしてシャッターを切ってみました。ハイライトの質感もいいですね。
ニコン Z5II/NIKKOR Z 26mm f/2.8/絞り優先AE(1/1,000秒、F8.0、−0.7EV)/ISO 400
カメラを地べたにおいて、バリアングルでフレーミングして撮影してみました。ラクな姿勢で撮影できます。
ニコン Z5II/NIKKOR Z 50mm f/1.8 S/絞り優先AE(1/5,000秒、F2.0、−0.7EV)/ISO 100
カメラを膝のあたりに置いてバリアングルで撮影しています。余裕です。
ニコン Z5II/NIKKOR Z 26mm f/2.8/絞り優先AE(1/2,500秒、F8.0、−0.7EV)/ISO 400
明暗差が大きいのにシャドーの再現も素晴らしく。こういう画をみると解像力だけではない凄みを感じますね。
ニコン Z5II/NIKKOR Z 26mm f/2.8/絞り優先AE(1/1,600秒、F8.0、−0.7EV)/ISO 400
バリアングルを利用して、ローアングルで撮影してみました。無理な姿勢をとらずに自由なアングルが得られますから、年寄りには重宝します。ディテールの描写が良くて感激しています。
ニコン Z5II/NIKKOR Z 26mm f/2.8/絞り優先AE(1/2,000秒、F8.0、−0.3EV)/ISO 400
紫陽花の赤ちゃんですね。これから青味が増して美しくなるわけです。マクロレンズでググッと寄ってみました。
ニコン Z5II/NIKKOR Z MC 50mm f/2.8/プログラムAE(1/800秒、F14、−0.7EV)/ISO 400
赤城耕一

1961年東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒。一般雑誌や広告、PR誌の撮影をするかたわら、ライターとしてデジカメ Watchをはじめとする各種カメラ雑誌へ、メカニズムの論評、写真評、書評を寄稿している。またワークショップ講師、芸術系大学、専門学校などの講師を務める。日本作例写真家協会(JSPA)会長。著書に「アカギカメラ—偏愛だって、いいじゃない。」(インプレス)「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)「赤城写真機診療所 MarkII」(玄光社)など多数。