赤城耕一の「アカギカメラ」
第119回:実用性と趣味性を両立、しかも廉価なニコン「Z5II」
2025年6月5日 07:00
カメラはハイエンドモデルほど写りがいい。というステレオタイプな理屈がなんとなく嫌で、一眼レフ時代の一時期ですが、キヤノンの代表的なローエンドモデルEOS Kiss X7数台で、仕事をしていたことがあります。
筆者の周りでは知られた話で、しかもうち1台はホワイトモデルでした(笑)。
筆者は薄い商いしかしていないので、それでも問題なく仕事ができてしまうのですが、時おりスタジオでの人物撮影などではバッファが不足し、書き込みが終了まで時間がかかるため、シャッターが押せなくなります。そこで被写体の方を飽きさせないように世間話をしたりしていました。
いま考えてみれば、リチャード・アベドンがフィルムを使い切ったローライフレックスを後ろにいるアシスタントに投げたみたいに、書き込みに時間かかる状況になったときは、バスケのノールックパスのようにアシスタントにX7を放り投げ、続いて手渡された代わりのX7を使用し、何事もないように撮影が続行できたらカッコよかったかなあと妄想したりしたのですが、これはさすがに実現することはありませんでした。あたりまえですよね。
廉価で軽いカメラは今も大好きなんですが、じつは『デジタルカメラマガジン』でニコンZ5IIのレビューをやらせていただいてから、Z5IIのことがアタマから離れなくなりました。
理由は単純です。筆者自身、本機の弟分であるZ50IIのヘビーユーザーですが、オートエリアAFと呼ぶ、AF測距点の自動選択、AE露出、AF-SとAF-Cを自動的に切り替えるAF-Aの、カメラおまかせ3点機能を積極的に使用し、好結果を得ていたので、兄貴分となるZ5IIにおいても同様な性能なのではないかと期待したからであります、結論から言えば期待どおりでした。
Z5IIとにかく手抜きを感じさせるところが少ないのです。 外装はマグネシウム合金ですし、表面の仕上げもスタイリングも落ち着いた感じです。
筆者は長い間、Z系のデザインがどうにも気に入らなかったのです。
かといって、Zfを使うというのも抵抗がありました。「カタチはきちんと一眼レフスタイルにしたのですから、これで文句ないでしょう」と言われている気がしたのです。筆者はカメラの全ては見てくれが優先すると公言はしていますけど、いざ、テキが仕掛けてくると腰が引けてしまうわけです。すみません。
でもZ50IIを使い始めてから、デザインにおいても認識を新たにしたわけで、さらに今回Z5IIを見たときに、初めてニコンがZシリーズでやりたいことが納得できたような気がしました。
Z5よりも30gだけ重くなったボディですが、グリップ感に優れているため、重量増をまったく感じさせません。小型の単焦点レンズを装着すれば、街歩き撮影などでは手に掴んだまま歩行できそうです。
画素数はZ5やZ6IIの2,450万画素と変わりはありません。前モデルのはZ5表面照射型でZ5IIは裏面照射型になりました。
画像処理エンジンはEXPEED 7と進化しています。高感度域の余裕をみると、FXフォーマットの優位性を感じることができますが、もっとも画質に関してはZ5でも十分に優れていましたから、そう騒ぐこともないのではないでしょうか。それよりも筆者の印象では、動作感触や動作音に品の良さを感じるのは、ニコンのニコンたる所以ではないかと。ローエンド機でも、気合いが入っています。
フィルム時代の初期のAF一眼レフは、カメラ任せのAF-Aモードのみと割り切ったカメラも少なからずあったのですが、後にAFモードは任意設定できる機種が増えます。
往時はAFの技術が未熟だったこともあるのだけれど、どのように使用していいかわからないということもあったのでは。
AF黎明期のカメラを使用するとき、撮影時にAFのエラーなど、トラブルが起きた時、どのようにリカバリーするか、考えてばかりいました。そこまでいうなら最初からMFで撮ればいいじゃないかと思われるかもしれないけど、往時から新しいものが好きだったので、AFの性能を試したくて仕方なく、カメラの性能に、カラダのほうを合わせてきたというわけです。
Z5IIはAF-Aから他のAFモードに切り替えることを忘れてしまうほど秀逸な動作をします。
たとえば筆者がよく撮影するスナップ撮影でこれまで頻繁に行なっていたAFエリアの選択やAF-SとAF-Cの切り替えなど、その方法があったことすら忘れてしまうほどでした。プロスポーツや高速で動く被写体には試してはいないし、状況によっては不向きもあると思いますけど、まず一般的な撮影ではエラーするのが難しいほどです。
被写体検出機能は9種の設定が可能です。もっとも特定の被写体を選ばずとも検出はオートのままで、筆者の狙いの通りにAFエリアが貼りつくことも多く、問題は感じませんでした。
それでも特定の条件の被写体など目的を持って撮影する場合は任意で選択することで、さらに確実かつ有効に使うことができるでしょう。
本機の最高30コマ/秒(RAWでは11コマ/秒)は持て余すほどのハイスピードです。動体撮影では1秒前に遡れるプリキャプチャー機能を駆使すれば鳥や昆虫などの飛翔も容易に捉えることができるそうです。すみません、人ごとのように書いてしまいますが、鳥は焼き鳥しか思い浮かばず、昆虫関連は弱含みな筆者ですから、これらの機能を使用することは死ぬまでないと思いますが、必要な方には間違いなく役立つことでしょう。
Z50IIと同様に、Z5IIにもピクチャーコントロールボタンが搭載されています。ボタンひとつで多種類のカラープリセットにアクセス可能です。
「スタンダード」「ビビット」等など、オーソドックスな各種パラメーター設定変更のほか、フレキシブルピクチャーコントロールで色味を自分好みで変えることができます。筆者は色味や色再現はPCでの後処理に賭けているので、正直なところ興味ないのですが、現場でリアルに効果がわかるということでは意味があるのでしょう。
それでもZ5IIには撮影者が介入する余地、カメラとしての装置を操作するということでも飽きさせない魅力があります。これはボタンの押下感やダイヤルのトルクなどに配慮されているからということもあるからでしょう。ローエンドモデルですが、ビルドクオリティがいいわけですね。少し残念なのはバッテリー室の蓋の閉まりがいまひとつなことと、メディアスロットのドアがすぐに動いてしまうことでしょうか。
実用性と趣味性の両者を満足させることのできるカメラはそう多くはないですし、さらに入手しやすい価格ということを加味すれば、この価格帯の数あるミラーレス機の中で少なくとも現時点ではZ5IIは敵なしではないかと思えてきます。
筆者はZ5IIに触れるまで、Z50IIがあれば十分ではないかと考えていました。これを2台用意すれば、筆者の小商いはほとんどこなすことができますから。
ただ、筆者が所有するFマウントニッコールを含めたニッコール各種交換レンズのポテンシャルをZで生かし切るにはどうしてもFXフォーマットのカメラが必要なのです。
この誘惑にはどうしても抗うことができず、かつZ50IIにはない、優れた手ブレ補正機能の実力を知ることで、Z5IIにお越しいただくことを決めました。自分に必要なカメラなのですから仕方ありません。本当です。
モデル:ひぃな(@okw_hi_)