赤城耕一の「アカギカメラ」
第57回:蘇るツァイスレンズ。ハッセルブラッド503CX+CFV II 50Cで再検証
2022年11月5日 09:00
ハッセルブラッド907X 50Cのお話は本連載でもすでに述べましたが、今回は手持ちのクラシックなハッセルVシステムレンズを、デジタルバック側、すなわちCFV II 50Cの力によって蘇らせようじゃないかというお話をします。
筆者と同年代の本誌読者には907XよりもCFV II 50C単体に興味があるという方が多いかもしれません。前回取り上げたレンズは1本だけでしたので、他のレンズはどうなのさという疑問を直接いただいたりもしたので、今回取り上げることにいたしました。
最初にお断りしておきますが、フィルム時代のハッセルブラッドVシステム用のツァイスレンズ群は、設計がかなり古いものです。半世紀前と言ってもおかしくないものもありますので、現行のXCDレンズと比較してどうのということはまず無意味なことでありますね。徹底した高画質を得るならば、907Xを外して、デジタルバックとして使用するのは得策ではありません。このあたりはオールドレンズファンならば説明は無用だと思います。
今回は5,000万画素あるCFV II 50Cの画像を正方形にトリミングして、レンズの中央部分を生かすことで、フィルム時代のハッセルブラッドの雰囲気をちょっぴりお届けしようと考えました。
ただでさえ44×33mmのセンサーをデフォルト設定で使用しても、レンズの周辺部は描写されない理屈になりますから、オールドレンズのパフォーマンスを全て見ないと気が済まないという人には許せないのかもしれませんが、あまり硬直して考えてしまうのもどうかと思います。
いや、これは屁理屈かもしれませんね。筆者もジジイなんで、ハッセルVシステムで撮影した写真を横長のアスペクト比で見たくないわけです。縦位置動画が生理的に許せないのと同じです(笑)。あ、断っておきますが、ハッセルVシステムも645のマガジンなどもあったんですけど、筆者は頑なにこれを使うのを拒否していました。今考えるとバカバカしいこだわりだったのですが。
これまでハッセルVシステムには本家ハッセルのみならず、他社からもデジタルバックが多数用意されていましたが、価格も仕様も業務用という側面が強いものでした。CFV II 50Cは機能、デザイン的にも洗練され扱いやすくなった印象があります。価格も大幅に下がったため、なんとか筆者にも入手できたというわけです。
とはいえちょっとしたデジタルカメラのフラッグシップ機は購入できるくらいの価格ですから、本来はすぐにアサインメント撮影にも積極的に導入して、モトを取ることを考えるべきでありますが、スタジオ撮影ならともかく、なかなかロケに持ち出そうという気にはなれないものです。
なぜならば、お仕事には効率重視という側面もあります。撮影者が頼みもしないのに猫の瞳にピントを合わせてしまう時代に、ハッセルVシステムで、フォーカスはMF、露出はマニュアルで、なんて使い方は相当な覚悟が必要です。ま、筆者も長いこと撮影を生業としているのでさほどのストレスではないかなあ程度です。でもラクではありません。
機材運びも含めてアシスタントさん2人くらいにサポートしていただきませんと、撮影する前にココロが折れてしまいそうでしたが、今回頑張って、手持ちレンズを取っ替え引っ替えして撮影したのでギャラあげてください。いや筆者を褒めてください。本当は例のごとく、重たい機材を持ち歩きたくないので、仕事場近辺のご近所で間に合わせて撮影しました。だからこそできたことなんですけど。
前機種CFV-50cはバッテリーを本体に内蔵できなかったのでスリムさに欠けましたが、CFV II 50CはフィルムのA12マガジンを少し大きくした程度で、装着してもVシステムカメラの持つ雰囲気を壊しません。これは筆者の中ではかなりポイント高いですね。ライカと同様、ハッセルブラッドの開発エンジニアにも、かなりカメラ趣味的に濃い人がいるんじゃないかと思います。ぜひ一度お話をお伺いしたいものです。
CFV II 50Cは1957年以降に発売されたほとんどのVシステムカメラに装着可能ということですが、例外があります。うちのハッセルブラッドSWCには三脚座が干渉し、取り付けることができませんでした。SWCで装着できるのはSWC/Mからとのことです、泣きたいです。でも筆者はなんとかCFV II 50Cを装着したくて、一時はSWC/Mや903とか905のSWCシリーズを探しましたが、これらを見つけ出しても、アサインメントに使える公算はかなり低く、断念しました。
ハッセルVシステムはレンズシャッターを採用した500シリーズやSWCシリーズはフルメカニカルですから、レンズシャッターとボディ内蔵のバックシャッターのメカニカルな連動に、最新のデジタルデバイスであるCFV II 50Cを組み合わせる苦労は相当にあったと思います。
Vシステムボディ側からCFV II 50Cに伝える連携は、ボディ側のシャッターを押したと同時に飛び出る板状のタイミングピンで行います。これはかつてフィルムマガジンにシャッターチャージを知らせるためのものでした。
メカ連動だからタイミングが悪ければ未露光などのトラブルが出て、使いものにはなりませんが、筆者の手持ちの500C/Mや500EL/Mなど古いハッセルVシステムカメラでも問題なく動作するのは嬉しかったですね。
もっとも、古いハッセルVシステムカメラではメンテナンスを怠っていたなどの理由から一連のシーケンスがうまくいかないこともあるかもしれませんから、注意は必要ですね。
さらにセンサー面の位置や規格の厳密さはフィルム時代と比べるとかなりシビアになっているはずですから、5,000万画素のポテンシャル、ツァイスレンズの最高性能を引き出すためには、CFV II 50Cに合わせてボディ、レンズをメンテナンスする必要が出てくるかもしれません。
ものすごく解像力が高いのかと言われると困るのですが、開放からの象の整い方が優れているのは、球面収差がアンダーに振れているからという話もあります。絞りこむとピシッときますが、XCDレンズにはかなわないでしょうし、絞り込んでも少々軟らかい再現です。
筆者の手持ちのハッセルVシステムカメラをいくつか試したところ、厳密にみればフォーカシングの精度に関して、CFV II 50Cと相性の良いもの、いささか怪しいものがあったことは事実です。
フィルム時代の組み立てや、ボディとマガジンの組み合わせの公差がいかに緩いものだったかがわかりますが、120フィルムの裏紙による平坦性の悪さを含めて、おおらかだったと考えるべきでしょうか。
今回はそうした精度的なリスクを背負う意味でも、撮影条件は屋外の明るい場所、しかも絞り込んで余裕を持たせています。開放絞りを積極的に使用して、レンズの味云々を徹底追求したい人は、撮影方法を変えて撮影する必要があるでしょう。
なんとしても厳密なフォーカシングを行いたいという場合は、CFV II 50Cはライブビューも可能なのでCFレンズではシャッターダイヤルを「F」位置に、ボディ側のシャッターをT位置に設定すればモニターでフォーカシングも可能になります。ピーキングも使えますが、少々大雑把なようなので、フォーカスを厳密に追い込みたい場合は、表示画像を拡大するなどして慎重に対処すべきでしょう。
フィルム時の画面サイズはアスペクト比1:1、56×56mmのスクエアでした、CFV II 50Cはセンサーが44×33mmですから、単純に正方形にトリミングしますと33×33mmになりますね。センサーサイズに合わせたV専用のスクリーンには1:1のフレーム表示もありますのでこれを利用して撮影しました。
結果はご覧の通りです。レンズの個体差かどうかはわかりませんが、正直、これは性能的にどうよというものもありました。筆者は中判カメラでもなるべく手持ちで撮影したいので、ほとんどの撮影は原則として1/500秒の最高速シャッターを切っています。それでも手ブレに関しては怪しいコマもあったというのが正直なところであります。
ただ、どうしても手持ち撮影したい筆者なので、今回はレンズシャッターのスピードライト全速同調の利点を生かして、撮影時にすべてスピードライトを使ってみました。このためレンズ本来の描写の雰囲気はあまり伝わらないかもしれないので申し訳ないのですが、フィルム時代に須田一政さんの真似をしてハッセルを使用していたことを思い出しました。
しかし、スナップや人物撮影ならばそれなりに使えるということはお分かりになると思いますし、コントラストが多少低いなどのレンズ側のネガな要件は、画像処理時に追い込めそうです。ここではレンズ本来の性能を見るために、レベル補正など最低限の調整しかしていません。
ハッセルVシステム交換レンズを積極的にお使いになるという方々ならば、レンズ個々の特性などはおおよそお分かりになるのではないかと思います。このあたりは撮影者側もおおらかな気持ちで臨みたいものです。