赤城耕一の「アカギカメラ」
第58回:お仕事カメラOM-1を、コーワのプロミナーレンズで遊ぶ
2022年11月20日 09:00
OMDSのOM SYSTEM OM-1をはじめとするマイクロフォーサーズ機は浮気性の筆者としては珍しく、長く仕事用のカメラとして根幹を担ってきたツールであります。
まあ仕事ばかりでも疲れますから、ちょうど小さなOM-5も出てきたタイミングですし、今回は趣味性の高いサードパーティ製のマイクロフォーサーズマウントの交換レンズを探って、少しプライベートでも遊んでみようと思いついたのです。
用意したのはコーワのプロミナー(PROMINAR)交換レンズが3本。おお久しぶり!という感じです。2014年に登場し、筆者もプロモーションで少しお手伝いしたのです。しばらくその存在を忘れておりました。お恥ずかしい。
プロミナー?若い人はこんなレンズ名は知らんだろうなあと、自慢したくなるのですが、ええ、ジジイなんで、昔のカメラ業界のことも少しだけ存じ上げておりますが自慢したいわけではありません。
ちょっと前フリしときますけど、コーワといえばコルゲンコーワのコーワでありまして。かつてはコンシューマ向けのカメラも製造しておりました。戦前からの長き歴史があり、光学事業でも有名なのであります。
うちにあるフィルムのコーワのカメラは、35mm判カメラでは28mmが固定されたワイドカメラ「コーワSW」、6×6判の中判では「コーワシックス」の長年のユーザーであります。後者はカラーネガフィルムを使用した拙作「録々」でお世話になりました。おかげさまで昨年と今年の初めに写真展も開催しました。
コーワSWはモノクロフィルムを装填して今でも時おり街に切り込んでおります。言うなればちょっと大きいリコーGRみたいな役割を担っているスナップシューター用カメラで、報道カメラマンにも愛用者が多かったといいます。いずれもレンズ性能に感心します。
他にもうちには「コーワUW190」ってのもあります。19mmという超ワイドレンズを固定した一眼レフ、「コーワUW190」は長いこと探し回り確保したにはしたのですが、この個体はレンズが曇ってます。真っ白なんで、霧の摩周湖みたいな写りをします。どなたかこのカメラのまともな個体をお持ちの方、機会があれば試写させてください。
じつは他にも欲しいカメラがあったりするのですが、我慢して本日に至ります。コーワシックスの最終モデルのコーワスーパー66ってのも、今だに未使用ですから、どなたか防湿庫の中で固まっている個体を筆者に寄贈してください。「録々」の続編を撮ります。
ちなみにコーワ名のコンシューマに向けたカメラなどは1970年台の後半には生産されなくなっておりました。ま、アレですね、今どきコーワあたりのカメラに走るっていうのは、有名どころの超高性能スペックデジタルカメラにに疲れたからかもしれないですが、真面目にいえば歴史的に忘れてはいけない機種が多いのです。ホントです。
現行のプロミナーレンズは「興和オプトロニクス」が製造しております。他の製品としてはスポッティングスコープとか双眼鏡もあります。また観光地の名所とか展望台にある、コインを入れる望遠鏡にプロミナーレンズ名をみることがありますが、マイクロフォーサーズマウントでプロミナーが復活したことには驚きました。
一度辞めてしまったコンシューマ向けのカメラ用レンズを再び製造するなど、事業を復活させるのには大変な努力を必要としたのではないかと思いますが、まずはマウントの規格を開放しているマイクロフォーサーズマウントで、製品化してくるところなど、なかなか良い斬り込み方ではないかなあと思います。
さて、プロミナーレンズの3本を順を追って見てゆくことにします。いずれもMFレンズですし、使いこなしにはコツがあります。万人にお勧めできるという類のものではありませんが、かつてのコーワカメラのユーザーである筆者としては、その思い入れから今後もずっとラインアップしていただきたい製品なのです。
PROMINAR 8.5mm F2.8
PROMINAR 8.5mm F2.8は、35mm判換算の画角で17mm相当。超ワイドレンズですね。14群17枚構成と、ズームレンズなみの凝った設計です。
実焦点距離からみると、フォーカシングは不要かも、というくらいの被写界深度の深さです。でもそこは昨今のデジタルカメラの高画素化に伴い、レンズのポテンシャルを引き出すという意味においても、表現に応じてこのしっかりとしたフォーカスリングを操作する必要が出てくるでしょう。
もっとも、パンフォーカスといっても、超ワイドレンズになればなるほど、被写体を画面内に大きく捉えるにはレンズと被写体の距離が縮まることになります。このため、被写界深度は浅くなる理屈です。
ここでイイカゲンなフォーカシングを行うと、大きなモニターで画像を展開したり、大型のプリントを作成するような場合に期待通りの鮮鋭度が得られないということもありますから、場合によっては最低限のフォーカス位置の見極めは重要になります。とくに絞りを開いて撮影するような場合は気を許さない方がいいかと思いますね。
本レンズの描写でまず気づくのは歪曲収差の補正が良好なことです。カメラ側で電子補正が行われていないのにこれは立派だと思います。画像にクセがないと、カメラと被写体を正対させたときには使用レンズの焦点距離すらわからなくなるほどです。超広角らしさを強調するならば話は別ですが、再現は素直になります。
また、逆光に強いレンズだなあと思いました。昔流の“ゴースト表現”は難しいですね。レンズ前径はあまり大きくないのですが、周辺光量低下は少ない方で、これも特筆すべきところです。
絞りによる性能変化は小さいですね、開放から実用性は十分です。コントラストは重たく感じるほど優れています。もっとも画角が広いこともあり、画面四隅までしっかりと均質性を持たせるには少し絞り込んだほうが安定感が出てくるようです。
気になるのは用意された専用フードです。筆者は自他ともに認める“フード病”に罹患していますが、本レンズには、「さすがにこれは取り付けないだろう」と思うような大型のフードが用意されています。レンズの反射防止コーティングが優れていることもあり、この辺りはスタイリング重視な部分もあったのではと思いますが、どうですかねえ。
PROMINAR 12mm F1.8
PROMINAR 12mm F1.8は35mm判換算24mm相当になります。昨今の標準ズームではワイド端でよく使われる画角ですね。単焦点レンズであることと、マイクロフォーサーズの小さいフォーマット向けに専用設計されたことから、外観的には大口径レンズという感じがないのもいいと思います。ワイドレンズですが鏡胴が長めなことも特徴的です。
レンズ構成は10群12枚、一部に色収差を抑制するXDガラスと非球面レンズを採用しています。周波数の高い被写体でも、輪郭はほど良い感じに再現されています。歪曲収差の補正は良好で、建物撮影などでも使いやすいですね。
このレンズも全体の画質を落ち着かせるには少し絞り込んだ方がいいと筆者個人は思いますが、あまり神経質になる必要はないと思います。実焦点距離は12mmですから、被写体から少し離れるとパンフォーカスになりますが、先の8.5mmと同様を絞りを開き気味に設定する場合は、フォーシングの合焦確認をした方がいいでしょう。
せっかくの大口径なので、時にはF1.8の開放F値を作画に生かそうと考える方が間違いなく得策かと思います。ズームレンズとは異なる世界を展開させることができるからです。フローティング機構が採用されていますから、至近距離でも画質低下は感じませんし、コントラストは良好です。
本レンズもフードが大きめで、カメラバッグに収納するときに、携行するかどうか悩むほどです。パフォーマンスとして見せびらかす時には有効だとは思いますけど。
PROMINAR 25mm F1.8
PROMINAR 25mm F1.8はスペック的には大きなウリがないように感じてしまうのですが、そんなことはありません。6群8枚構成の標準レンズですし、使いやすいF値ですね。
マイクロフォーサーズの25mmという焦点距離は応用性が広いと個人的には考えていて、ボケ効果からパンフォーカスまで自在に表現することができます。“絞り込めば広角ふう、絞りを開けば望遠ふう”という感覚を、35mmフルサイズ用の標準レンズの焦点距離50mmよりも強く得られるわけです。また、アングルの工夫でも、擬似的な広角、望遠の効果を得ることができるでしょう。標準レンズは万能でなければなりません。
例によって、絞り開放でもレンズのポテンシャルを引き出そうという場合は、横着せずにフォーカシングには神経を使うべきでしょう。ただ、画角的には街中でのスナップなどにも使われることが多くなるはずですから、こういう時は思い切って絞り込み、被写界深度を利用したシャッターチャンス重視の撮影をするのも一つの方法です。このとき、フォーカシング時間をゼロにすることができます。35mmフルサイズの50mmレンズでは同様の方法でも被写界深度が浅くピントを外す恐れがありますが、マイクロフォーサーズの本レンズではとてもやりやすくなります。
標準レンズだけあって、多用途に使われることも想定し、絞り羽根は9枚と点光源への配慮も行われていますが、本レンズは3本のプロミナーレンズ中にあっても、絞りによる性能変化というか、画質の調子がわずかに変わって、筆者の好みの描写をしますのでとても気に入っております。いわゆる開放からギンギンという印象はありません。
フォーカシングはリアフォーカス式で至近距離での性能も重視しているとありますが、絞り開放近辺で至近距離撮影を行うと、わずかに再現が軟らかくなるように感じています。これがお気に入りです。
とはいえ、絞りこむとコントラストが向上しますので、ガツンとした強い描写も得られます。こうした二面性のあるレンズは最近少なくなっています。
これら3本のプロミナーレンズは登場からそれなりの年月が流れていますが、今でも描写的に古いという感じは一切ありません。
鏡胴やフォーカスリングのデザインは、ライカレンズなどに似せようとかいう考え方もなく、どちらかといえば、無骨なコーワシックス用の交換レンズとか旧ニッコールオートレンズのそれを思い出してしまいますね。ローレットの窪みがいい感じでレトロ感を演出しています。
細身な鏡胴ですが特別に手に馴染むというわけではなく、逆にゴツい印象で存在を主張します。指の神経にレンズの存在を知らしめようとしているのでしょうか。
フォーカスリングのロータリーフィーリングは、コシナ・フォクトレンダーレンズなどと比較すると、官能的な感触には乏しいのですが、これはカム式のフォーカス方式を採用しているためかもしれません。もちろん実用的には問題はありませんし、AF用レンズをMFに切り替えた時のあのスカスカ、シャリシャリな絶望的な感触よりははるかに上ですね。
フォーカスリングの回転角が約180度に統一されていることもよいことです。ただ、筆者のところにあるプロミナーレンズの個体は、フォーカスリングの距離表記と実際に撮影した時の距離が少し異なるように感じています。
このため、数度テストを行い、目測撮影時には自分なりに距離の置き換えをして配慮をするか、置きピンなどの場合に正確なフォーカシングを望みたい場合は撮影前にあらかじめファインダーを覗いてフォーカシングしながら合焦を確認し、それから撮影します。面倒ですが、こういう手間を手間とは思わせないところにプロミナーの凄さがあるのかもしれません。
デジタル時代に新しく生まれたプロミナーブランドレンズを過剰な趣味性だけに頼らなかったのは、コーワの方針かもしれませんね。唯一無二のプロミナーという国産ブランド、国産製品である誇りというものでしょう。このことは評価すべきだと思います。