赤城耕一の「アカギカメラ」

第58回:お仕事カメラOM-1を、コーワのプロミナーレンズで遊ぶ

OMDSのOM SYSTEM OM-1をはじめとするマイクロフォーサーズ機は浮気性の筆者としては珍しく、長く仕事用のカメラとして根幹を担ってきたツールであります。

まあ仕事ばかりでも疲れますから、ちょうど小さなOM-5も出てきたタイミングですし、今回は趣味性の高いサードパーティ製のマイクロフォーサーズマウントの交換レンズを探って、少しプライベートでも遊んでみようと思いついたのです。

用意したのはコーワのプロミナー(PROMINAR)交換レンズが3本。おお久しぶり!という感じです。2014年に登場し、筆者もプロモーションで少しお手伝いしたのです。しばらくその存在を忘れておりました。お恥ずかしい。

プロミナー?若い人はこんなレンズ名は知らんだろうなあと、自慢したくなるのですが、ええ、ジジイなんで、昔のカメラ業界のことも少しだけ存じ上げておりますが自慢したいわけではありません。

ちょっと前フリしときますけど、コーワといえばコルゲンコーワのコーワでありまして。かつてはコンシューマ向けのカメラも製造しておりました。戦前からの長き歴史があり、光学事業でも有名なのであります。

うちにあるフィルムのコーワのカメラは、35mm判カメラでは28mmが固定されたワイドカメラ「コーワSW」、6×6判の中判では「コーワシックス」の長年のユーザーであります。後者はカラーネガフィルムを使用した拙作「録々」でお世話になりました。おかげさまで昨年と今年の初めに写真展も開催しました。

コーワSW。コーワ28mm F3.2の単焦点広角レンズを固定した単機能機。レンズ性能がすばらしく、モノクロネガでもシャープネスや階調の良さがわかるほど。28mmレンズを固定したワイド専用のカメラということで、当時はもう一眼レフ一辺倒だった世界の報道写真家からも愛用されました。
コーワシックス。1966年参考出品、1968年発売らしく。筆者のかなり好きな6×6判一眼レフ。小型軽量ですよ。クイックリターン方式ではないからハッセルと同じじゃん。フォーカシングスクリーンもピントのヤマが見やすいです。筆者は30年以上愛用しています。

コーワSWはモノクロフィルムを装填して今でも時おり街に切り込んでおります。言うなればちょっと大きいリコーGRみたいな役割を担っているスナップシューター用カメラで、報道カメラマンにも愛用者が多かったといいます。いずれもレンズ性能に感心します。

他にもうちには「コーワUW190」ってのもあります。19mmという超ワイドレンズを固定した一眼レフ、「コーワUW190」は長いこと探し回り確保したにはしたのですが、この個体はレンズが曇ってます。真っ白なんで、霧の摩周湖みたいな写りをします。どなたかこのカメラのまともな個体をお持ちの方、機会があれば試写させてください。

1972年発売のKOWA UW。ウルトラワイドの略なんでしょうねえ。19mmレンズを固定した一眼レフですね。レトロフォーカスタイプの設計でしょうけど、うちにある個体はレンズが曇りすぎて、画像の観察すらできません。

じつは他にも欲しいカメラがあったりするのですが、我慢して本日に至ります。コーワシックスの最終モデルのコーワスーパー66ってのも、今だに未使用ですから、どなたか防湿庫の中で固まっている個体を筆者に寄贈してください。「録々」の続編を撮ります。

ちなみにコーワ名のコンシューマに向けたカメラなどは1970年台の後半には生産されなくなっておりました。ま、アレですね、今どきコーワあたりのカメラに走るっていうのは、有名どころの超高性能スペックデジタルカメラにに疲れたからかもしれないですが、真面目にいえば歴史的に忘れてはいけない機種が多いのです。ホントです。

KOWA Kallo180。「プロミナー45mm F1.8」が固定装着されています。このレンズ、よく写ります。パララックスは自動補正されます。重たいコンパクトカメラという感じ。他にKallo140というレンズ交換式のレンジファインダーカメラもあります。これも欲しい。

現行のプロミナーレンズは「興和オプトロニクス」が製造しております。他の製品としてはスポッティングスコープとか双眼鏡もあります。また観光地の名所とか展望台にある、コインを入れる望遠鏡にプロミナーレンズ名をみることがありますが、マイクロフォーサーズマウントでプロミナーが復活したことには驚きました。

一度辞めてしまったコンシューマ向けのカメラ用レンズを再び製造するなど、事業を復活させるのには大変な努力を必要としたのではないかと思いますが、まずはマウントの規格を開放しているマイクロフォーサーズマウントで、製品化してくるところなど、なかなか良い斬り込み方ではないかなあと思います。

さて、プロミナーレンズの3本を順を追って見てゆくことにします。いずれもMFレンズですし、使いこなしにはコツがあります。万人にお勧めできるという類のものではありませんが、かつてのコーワカメラのユーザーである筆者としては、その思い入れから今後もずっとラインアップしていただきたい製品なのです。

PROMINAR 8.5mm F2.8

PROMINAR 8.5mm F2.8は、35mm判換算の画角で17mm相当。超ワイドレンズですね。14群17枚構成と、ズームレンズなみの凝った設計です。

実焦点距離からみると、フォーカシングは不要かも、というくらいの被写界深度の深さです。でもそこは昨今のデジタルカメラの高画素化に伴い、レンズのポテンシャルを引き出すという意味においても、表現に応じてこのしっかりとしたフォーカスリングを操作する必要が出てくるでしょう。

公園の遊具にグッと近づいて構成しました。絞り込んで被写界深度をさらに深めて全体をパンフォーカスにみせています。ディテールの再現も申し分なく。カメラを被写体に正対させていますからさほど不自然な感じにはなりません。
OM-1 PROMINAR 8.5mm F2.8(F11・1/160秒)ISO 200
オブジェが少し斜めに飾ってありましたので、超広角らしさが強調されていますが、そんなに違和感はありません。レンズのクセがないからでしょうか。青空再現がいい感じで雲の描写も好きです。
OM-1 PROMINAR 8.5mm F2.8(F8・1/250秒)ISO 200
距離目盛りを利用して、目測設定も行っていますが、本レンズには被写界深度指標がありません。絞り込めば被写界深度内には入るので実用上の問題はないかもしれません。周辺光量も十分ですが、個人的にはもう少し落ちてもらってもいいぜと思うほうです。
OM-1 PROMINAR 8.5mm F2.8(F8・1/640秒)ISO 400

もっとも、パンフォーカスといっても、超ワイドレンズになればなるほど、被写体を画面内に大きく捉えるにはレンズと被写体の距離が縮まることになります。このため、被写界深度は浅くなる理屈です。

ここでイイカゲンなフォーカシングを行うと、大きなモニターで画像を展開したり、大型のプリントを作成するような場合に期待通りの鮮鋭度が得られないということもありますから、場合によっては最低限のフォーカス位置の見極めは重要になります。とくに絞りを開いて撮影するような場合は気を許さない方がいいかと思いますね。

本レンズの描写でまず気づくのは歪曲収差の補正が良好なことです。カメラ側で電子補正が行われていないのにこれは立派だと思います。画像にクセがないと、カメラと被写体を正対させたときには使用レンズの焦点距離すらわからなくなるほどです。超広角らしさを強調するならば話は別ですが、再現は素直になります。

また、逆光に強いレンズだなあと思いました。昔流の“ゴースト表現”は難しいですね。レンズ前径はあまり大きくないのですが、周辺光量低下は少ない方で、これも特筆すべきところです。

絞りによる性能変化は小さいですね、開放から実用性は十分です。コントラストは重たく感じるほど優れています。もっとも画角が広いこともあり、画面四隅までしっかりと均質性を持たせるには少し絞り込んだほうが安定感が出てくるようです。

超広角レンズで女性を撮影すると不自然な歪みが発生して怒られてしまうことがあります。ファインダーを隅々まで観察しつつ、余計なパースペクティブがつかないようにアングルに注意して撮影しました。明暗差大きく厳しい条件ですが、このレンズは問題にしません。モデル:平山りえ
OM-1 PROMINAR 8.5mm F2.8(F4・1/250秒)ISO 400
歪曲収差の補正は素晴らしいので、手持ち撮影だと、カメラが曲がらないかと、こちらが緊張して息が詰まる感覚で疲れます。それだけ気を配ったレンズということに違いありません。
OM-1 PROMINAR 8.5mm F2.8(F8・1/640秒)ISO 200

気になるのは用意された専用フードです。筆者は自他ともに認める“フード病”に罹患していますが、本レンズには、「さすがにこれは取り付けないだろう」と思うような大型のフードが用意されています。レンズの反射防止コーティングが優れていることもあり、この辺りはスタイリング重視な部分もあったのではと思いますが、どうですかねえ。

PROMINAR 12mm F1.8

PROMINAR 12mm F1.8は35mm判換算24mm相当になります。昨今の標準ズームではワイド端でよく使われる画角ですね。単焦点レンズであることと、マイクロフォーサーズの小さいフォーマット向けに専用設計されたことから、外観的には大口径レンズという感じがないのもいいと思います。ワイドレンズですが鏡胴が長めなことも特徴的です。

レンズ構成は10群12枚、一部に色収差を抑制するXDガラスと非球面レンズを採用しています。周波数の高い被写体でも、輪郭はほど良い感じに再現されています。歪曲収差の補正は良好で、建物撮影などでも使いやすいですね。

このレンズも全体の画質を落ち着かせるには少し絞り込んだ方がいいと筆者個人は思いますが、あまり神経質になる必要はないと思います。実焦点距離は12mmですから、被写体から少し離れるとパンフォーカスになりますが、先の8.5mmと同様を絞りを開き気味に設定する場合は、フォーシングの合焦確認をした方がいいでしょう。

階調の繋がりが良いのは最新のOM-1だからということもあるのでしょうが、レンズ性能によるところも大きいと思います。逆光でもフレアっぽさを感じないのは鏡胴内の工作も良いのでしょう。OM-1 PROMINAR 12mm F1.8(F8・1/125秒)ISO 200
最短撮影距離0.2mで撮影しています。合焦点はこれ以上ないというくらいというシャープネスですね。日陰の弱めの光ですが、良いコントラストで、ボケ味もバッチリです。
OM-1 PROMINAR 12mm F1.8(F1.8・1/800秒)ISO 200

せっかくの大口径なので、時にはF1.8の開放F値を作画に生かそうと考える方が間違いなく得策かと思います。ズームレンズとは異なる世界を展開させることができるからです。フローティング機構が採用されていますから、至近距離でも画質低下は感じませんし、コントラストは良好です。

街角スナップなどには使いやすい焦点距離です。見つけたものにグッと寄っても背景をそれなりに説明してくれます。
OM-1 PROMINAR 12mm F1.8(F4・1/1,600秒)ISO 400
意地悪をして、明暗差の大きな条件で撮影してみましたが、コーティングが優れているためでしょうか、見事な性能を発揮しました。モデル:平山りえ
OM-1 PROMINAR 12mm F1.8(F4・1/250秒)ISO 400

本レンズもフードが大きめで、カメラバッグに収納するときに、携行するかどうか悩むほどです。パフォーマンスとして見せびらかす時には有効だとは思いますけど。

プロミナー 12mm F1.8の純正カブセ式のフードを取り付けてみました。いくら筆者がフード病だからと言ってこれだけデカいと携行するか萎えます。たしかこれまで一度だけしか使用しておらずです。ネタとしてとっておきます。

PROMINAR 25mm F1.8

PROMINAR 25mm F1.8はスペック的には大きなウリがないように感じてしまうのですが、そんなことはありません。6群8枚構成の標準レンズですし、使いやすいF値ですね。

マイクロフォーサーズの25mmという焦点距離は応用性が広いと個人的には考えていて、ボケ効果からパンフォーカスまで自在に表現することができます。“絞り込めば広角ふう、絞りを開けば望遠ふう”という感覚を、35mmフルサイズ用の標準レンズの焦点距離50mmよりも強く得られるわけです。また、アングルの工夫でも、擬似的な広角、望遠の効果を得ることができるでしょう。標準レンズは万能でなければなりません。

最近は標準画角のレンズを見直しています。自分がトシ食ったということもあるのですが、素直にものを見ようという精神です。階調が綺麗ですね。
OM-1 PROMINAR 25mm F1.8(F8・1/1,250秒)ISO 200
明暗差がそれなりにありますが、問題ない高画質です。絞り込むとコントラストがさらに向上します。被写体までの距離をとるとすぐにパンフォーカス描写になります。
OM-1 PROMINAR 25mm F1.8(F8・1/1,250秒)ISO 200

例によって、絞り開放でもレンズのポテンシャルを引き出そうという場合は、横着せずにフォーカシングには神経を使うべきでしょう。ただ、画角的には街中でのスナップなどにも使われることが多くなるはずですから、こういう時は思い切って絞り込み、被写界深度を利用したシャッターチャンス重視の撮影をするのも一つの方法です。このとき、フォーカシング時間をゼロにすることができます。35mmフルサイズの50mmレンズでは同様の方法でも被写界深度が浅くピントを外す恐れがありますが、マイクロフォーサーズの本レンズではとてもやりやすくなります。

標準レンズだけあって、多用途に使われることも想定し、絞り羽根は9枚と点光源への配慮も行われていますが、本レンズは3本のプロミナーレンズ中にあっても、絞りによる性能変化というか、画質の調子がわずかに変わって、筆者の好みの描写をしますのでとても気に入っております。いわゆる開放からギンギンという印象はありません。

フォーカシングはリアフォーカス式で至近距離での性能も重視しているとありますが、絞り開放近辺で至近距離撮影を行うと、わずかに再現が軟らかくなるように感じています。これがお気に入りです。

とはいえ、絞りこむとコントラストが向上しますので、ガツンとした強い描写も得られます。こうした二面性のあるレンズは最近少なくなっています。

絞り開放で最短撮影距離から少し離れたくらいです。調子は少し軟かくなるようです。ボケ味が素晴らしく良いですね。マイクロフォーサーズフォーマットの写真じゃないみたいに見えます。
OM-1 PROMINAR 25mm F1.8(F1.8・1/1,600秒)ISO 200
モデルさんと目測で同じ距離をとりながら動いてもらい撮影。光源はスピードライトです。適宜な被写界深度を利用してフォーカシングはしていません。もちろん絞りを開いた場合では慎重に設定をしたほうがいいでしょう。モデル:平山りえ
OM-1 PROMINAR 25mm F1.8(F8・1/60秒)ISO 200

これら3本のプロミナーレンズは登場からそれなりの年月が流れていますが、今でも描写的に古いという感じは一切ありません。

鏡胴やフォーカスリングのデザインは、ライカレンズなどに似せようとかいう考え方もなく、どちらかといえば、無骨なコーワシックス用の交換レンズとか旧ニッコールオートレンズのそれを思い出してしまいますね。ローレットの窪みがいい感じでレトロ感を演出しています。

細身な鏡胴ですが特別に手に馴染むというわけではなく、逆にゴツい印象で存在を主張します。指の神経にレンズの存在を知らしめようとしているのでしょうか。

鏡胴には朱色でKOWAのロゴ、PROMINAR名も全面的に前に出すという凄さですよ。筆者は街に潜む写真家なので、このロゴは目立つのでちょっと恥ずかしいような気がしますが。

フォーカスリングのロータリーフィーリングは、コシナ・フォクトレンダーレンズなどと比較すると、官能的な感触には乏しいのですが、これはカム式のフォーカス方式を採用しているためかもしれません。もちろん実用的には問題はありませんし、AF用レンズをMFに切り替えた時のあのスカスカ、シャリシャリな絶望的な感触よりははるかに上ですね。

フォーカスリングの回転角が約180度に統一されていることもよいことです。ただ、筆者のところにあるプロミナーレンズの個体は、フォーカスリングの距離表記と実際に撮影した時の距離が少し異なるように感じています。

このため、数度テストを行い、目測撮影時には自分なりに距離の置き換えをして配慮をするか、置きピンなどの場合に正確なフォーカシングを望みたい場合は撮影前にあらかじめファインダーを覗いてフォーカシングしながら合焦を確認し、それから撮影します。面倒ですが、こういう手間を手間とは思わせないところにプロミナーの凄さがあるのかもしれません。

デジタル時代に新しく生まれたプロミナーブランドレンズを過剰な趣味性だけに頼らなかったのは、コーワの方針かもしれませんね。唯一無二のプロミナーという国産ブランド、国産製品である誇りというものでしょう。このことは評価すべきだと思います。

赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)