ニュース

触ってきました「ソニーα7 V」

AI技術で強化されたオートホワイトバランス バッテリーの持ちにも注目

α7 Vの実機をハンズオン

ソニーが12月19日(金)に発売するミラーレスカメラ「α7 V」について、新機能の詳細や実機のハンズオンについてレポートする。

前機種「α7 IV」から4年ぶりのアップデートとなるα7 V。α7シリーズには高解像度のR、コンパクトなC、ハイスピードなα9などの個性が各モデルに与えられている中で、いわゆるα7の“無印”と呼ばれてきたベーシックモデルだ。

FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS IIを装着

ボディ単体で約42万円という価格は、筆者を含め一昔前の感覚では「これでベーシックなの?」と思う向きもあるかもしれない。しかし、この最新性能の源流であるα1 II(直販99万円)やα9 III(同93.5万円)といったハイエンド機種を思えば、その半額以下である。さらに、ここまでの高性能を求めなければ前世代の機種もラインナップに残っている。より自分に合ったモデルを選ぶための選択肢が増えた、というのが実際のところだろう。

キーデバイスの刷新がポイント

α7シリーズの“ベーシック”が新世代へ

今回は、新しいベーシックの再定義(Redifine basic)を合言葉に、キーデバイスの刷新を中心としてユーザーの要望に応える。

イメージセンサーは有効3,300万画素の部分積層型CMOSセンサーExmor RS。「部分積層型」とは、特に高速性能を重んじるハイエンド機などに採用される「積層型」と、特に注記なく「裏面照射型」と表記されるセンサーの中間的な存在。積層型よりコスト面でメリットがありつつ、通常の裏面照射型よりは高速性能に優れるというイメージだ。最新のαらしさと比較的リーズナブルな価格を両立したいベーシックモデル、つまりα7 Vには最適解となる。

裏面照射型CMOSを採用するα7 IVと比べて読み出し速度は4.5倍に高速化。電子シャッター撮影時につきもののローリングシャッター歪みも、積層型センサーによる“アンチディストーション”と呼べるほどではないものの、抑えられているという。

また、画像処理エンジンの刷新もトピックだ。α7 IV以降に登場したモデルでは通常の画像処理エンジンのほかに独立した「AIプロセッシングユニット」を搭載することで、被写体となる人物の姿勢推定など、AI技術でより発展的な機能を使えるようになっていた。そのAIプロセッシングユニットを新たな画像処理エンジン「BIONZ XR2」に内包。先に述べた部分積層型Exmor RSセンサーとの組み合わせが本機の心臓部となる。

α7 V。左はFE 28-70mm F3.5-5.6 OSS II、右はFE 50-150mm F2 GMを装着

日常の撮影にも「AI×SPEED」を訴求

ベーシックモデルでのAI技術と高速性能の活用イメージ

本機は電子シャッター撮影時に、最高約30コマ/秒のAF/AE追従ブラックアウトフリー撮影が可能。シャッターボタンを押してから最大1秒を遡れるプリ撮影にも対応している。α7 Vでは、これらの性能を「日常の瞬間を撮り逃さず、より美しく写し止める」というテーマのもと、各種機能との掛け合わせでアピールする。

AF性能の進化についての比較表
14bit RAWで最高約30コマ/秒の連写に対応
ダンサーを被写体に撮影をテスト。画面内に顔が締める割合が小さくてもバッチリ認識するのはもちろん、体が回転して顔が隠れても、髪が顔を隠してもAFターゲットは外れない。高速連写のおかげもあり、写真撮影の素人である筆者も、豊富なOKカットから好みの1枚を選べた
α7 V/FE 50-150mm F2 GM/マニュアル(1/250秒、F2.0、±0EV)/ISO 250/100mm
α7 V/FE 50-150mm F2 GM/マニュアル(1/250秒、F2.0、±0EV)/ISO 250/100mm

新センサーやAI技術が生きる高画質と色表現

AI技術を活用したAWBの概念図

注目したのは、AI技術のディープラーニングにより強化されたAWB(オートホワイトバランス)だ。数万のシーンを事前学習したことで、その場の光源、被写体、被写体の肌に反射している光、背景の状況などを認識し、学習した正解に基づくホワイトバランス調整を行うことで精度を高めた。

特に有効なのは、従来方式ではカメラが色温度を取得しにくかったシーン。森の中のように色かぶりしやすい極端な有彩色の環境、もしくは真っ白・真っ黒のような無彩色の環境、そして暗所が該当するという。α7R Vで搭載されていた「シーン推定」から、学習データを数万に大幅増加したことで高精度を実現している。

AI AWBを体験するために用意されたのは人物撮影。真っ白い壁、背景から自然光、サイドから強い人工光源という状況だった
α7 V/FE 24-70mm F2.8 GM II/マニュアル(1/125秒、F2.8、±0EV)/ISO 200/70mm
α7 V/FE 50-150mm F2 GM/マニュアル(1/160秒、F2.0、±0EV)/ISO 160/100mm

具体的な推定方法までは明かされなかったが、その場所が森なのか海なのか、光源がどこにあり、どのような光なのか。被写体は何か。その被写体に反射している光は何なのか……といった状況を、主要被写体が何なのかも含めて推定していくという。この演算はリアルタイムで行われており、動画の撮影中でも、カメラを振ったり画面内の状況が変わればAWBがその状況に追従していく。

16ストップのダイナミックレンジの活用例。“JPEG撮って出し”でも生きる性能だという。

また、新しい部分積層型CMOSセンサーの画質メリットとして説明されたのがダイナミックレンジだ。本機はメカシャッター時に限られるが、16ストップのダイナミックレンジを記録可能。従来の2倍の階調の広さを実現し、ハイライトから影の中まで階調が残るという。

パソコンソフトの「Imaging Edge Desktop」が必要だが、新たに「エクステンデッドRAW撮影」に対応。1枚のRAW画像をもとに、ディープラーニングを活用した画像処理で、高解像度の画像を生成できる。

これまでも複数枚を重ね合わせた「コンポジットRAW撮影」には対応していたが、エクステンデッドRAW撮影は1枚のRAWデータで使用できるため、動きものの被写体にも使える点でメリットがある。

エクステンデッドRAW撮影のイメージ。ノイズを抑えつつ、400%に拡大表示してもディテールを保った画像に仕上がる。

自由度が高まった動画性能

4K120p記録への新対応と、4K60pでより広い画角で撮影できるようになった点が動画機能でのトピック。動画に特化したFXシリーズほどではないものの、撮影の自由度を高めている。

画像処理エンジンの省電力化や放熱の工夫により、高温下での4K撮影時間が延長。従来は40℃の環境で約10分だったところ、本機では約60分の連続撮影が可能だという。

放熱の改良による比較

細かな使い勝手向上も

外観部分の変更点。バッテリー持ちも改善した

ボディ外観では、シャッターボタン周囲の造形とグリップ形状を微調整。ハイエンドモデルのα1 IIやα9 IIIに近い仕様になったとしている。背面モニターもα1 IIと同じ4軸マルチアングル式となった。

左からα7 V、α7 IV。シャッターボタンが載る面の傾斜、グリップを握った中指付近の造形に差異が見える

ここでの注目は撮影可能枚数の増加、つまりバッテリー持ちの向上だ。α7 IVと同じバッテリーを使用しつつ、撮れる写真の枚数が約1.2倍に増加している。これも新しい画像処理エンジンの省電力化などが寄与しているという。

側面端子部。USB Type-C端子が2つになった

ベーシックなフルサイズ用標準ズームも刷新

FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS IIを装着

フルサイズ対応の標準ズームレンズ「FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS II」が2026年2月に発売予定。α7 Vとのレンズキットも2026年春以降に発売予定だ。

初代α7と同時に登場したベーシックな標準ズームレンズを、最新のαの高速性能に対応するように刷新したモデル。α9 IIIとの組み合わせでは約120コマ/秒の撮影にも追従するという。手ブレの協調補正、動画記録時のブリージング補正にも対応する。

レンズの光学系はI型と同じ。外観も、製品名以外はI型と見分けが付かない印象を持った。体験会の会場に実機は用意されていたが、現時点では実写データの持ち出しは不可。来年の発売に向けてチューニングが続いていると見られる。

FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS IIの概要

ライター。本誌編集記者として14年勤務し独立。趣味はドラム/ギターの演奏とドライブ。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。YouTubeチャンネル「鈴木誠のカメラ自由研究