赤城耕一の「アカギカメラ」
第48回:断捨離してでも欲しかった、ハッセルブラッド907Xのお仕事カメラ適性を探る
2022年6月20日 07:00
7月1日からコダックのフィルムの価格が上がるという報せが入りました。今年2度めですねえ。フィルムカメラユーザーはさらに追い詰められてきた感が強くなっておりまして、筆者自身もこれまでフィルムの買いだめとか、海外からの共同購入などで、ずっと抵抗はしてきたものの、さすがにいささかうんざり気味であります。
ただ、ガソリンや食料、電気などの価格が上昇するとすぐに大きな社会問題になりますが、フィルムの値上げに関心を寄せる人は極めて少数であります。写真関係者の多くも、遠い星の出来事みたいに平気な顔をしています。筆者は「フィルムにこだわるなんて往生際の悪いヤツだなあ」と同業者に面と向かって言われたことありますけど。ええ、大きなお世話です。
筆者自身、仮にフィルム1本5,000円になっても、フィルムカメラによる写真制作を投げ出すことはしないという固い決意は持っているつもりなのですが、大きな問題なのは、森山大道さんの提唱する「量のない質はない」という考え方が経済的な問題で実行できなくなりつつあることです。
しかも非才な筆者の場合は「量はあるのに質もない」の救いようも状態なわけなので、人よりさらに多くのシャッターを切らねばなりません。プライベートな趣味として考えればそれでもいいかなと、これまで無理をして続けてきたわけです。
で、まあ、今回は何が言いたいかといえばですね、ついにハッセルブラッド907X+CFV II 50Cにお越しいただいたという話をします。ええ、今回のコダックの値上げの報を聞いたことも、少しだけ理由としてあります。つまり「量のない質はない」を、少なくともこのカメラを使うことで実行だけはしてみようという作戦です。
907X登場から苦節3年、筆者は泥水すすり、草を食んで購入資金を貯めたわけです。嘘です。使わない機材を断捨離して、購入の足しにしました。
どうしても筆者くらいのジジイになるとハッセルVシステムのことが忘れらないわけで、以前の本連載でもハッセルVシステムとの親和性の話に寄ってしまいましたが、今回は907X本来の姿というか、AFレンズの「XCD 4/45P」を組み合わせた中判ミラーレスカメラとしての907Xの使い心地を中心としてお話しすることにいたします。正直なところ、筆者がこの数年で最も欲しかったカメラが907Xかもしれません。
ただ、肝心の商いが薄くなる一方なので、907Xのポテンシャルを生かしきれるアサインメントがないわけです。さらに純粋な“カメラ”だけの能力を考えると、正直言って、そこに907Xを使う必然は全くありません。中判デジタルなら富士フイルムのGFXシリーズあたりを使用する方がはるかに自由度が増して、幸せになれるのではないでしょうか。でもね、アサインメントで買う機材は効率が最重要になるので、あまり面白くないんです。これが筆者を5流写真家のまま留めている理由でもありますが。
で、今回は何を言いたいかといえば、フィルム代の心配をせずにハッセルブラッド500シリーズカメラとデジタルバックのCFV II 50Cを使ってプライベートな撮影を楽しみ、かつアサインメントでは907Xに取り替えてカメラとして使うことで、私的写真制作と事業投資の機材の両者を満足させようと考えたわけです。ええ、笑ってください。苦肉の屁理屈です。
ちなみに中判ミラーレス用XCDレンズ達のあまりにもナイスな価格設定を見てしまうと、今後907Xを使い続ける決意が揺らぎ始めてしまいそうになりますが、なんとか今回はとりあえずの一本ということでXCD 4/45P(45mm F4)のみをお迎えいたしました。
そのかわり、筆者はスペックよりもカタチを最優先致しますので、907Xに装着できるアクセサリーをコンプリートしてみました。「907Xコントロールグリップ」と「907Xオプティカルビューファインダー」の二つです。正直、このことが本稿執筆の理由になったといっても良いかもしれません。なぜなら大袈裟でなく、これらのアクセサリーの力が改めて907Xを「使う気にさせた」からであります。
グリップのない907Xは、手のひらの上に大きなおむすびを載せて、LCDにタッチしたり、下部の設定、再生ボタンを押したりと、やたらと設定や画像再生時に気を使いましたが、このコントロールグリップは専用接点を備えているため、907Xとの通信がダイレクトに行われています。
しかもAFエリア選択用のグリグリ(ジョイスティック)をグリップ背面の親指側に備えており、かつ前後に設定変更用のダイヤルもあります。再生やメニューボタンまであります。907X単体での設定はタッチパネルによる設定が主になりますが、ボタンによる本体操作が可能となっている点はかなりいいですね。
ボタン割り当ては30の異なる機能からお好みで選択でき、カスタマイズできますが、取説を読むのが面倒な筆者は現時点では出荷時設定のまま使っています。それでも907X単体とは別のカメラを扱っているかのようです。ハッセルブラッドのアナウンスには、操作性が中判ミラーレスカメラのX1D II 50C並みになるみたいなことが書いてありますが、これは少々大袈裟ですね。
また、907X単体では縦位置撮影しづらいのですが、このグリップを装着すると“縦で撮影してやってもいいぜ”、くらいの気持ちにはなりますね。これはとてもいいことだと思います。
このグリップについての大きな不満は、シャッターボタンの位置が上部にあることです、これ、かなり謎ですね。通常ならシャッターボタンはグリップ前方に斜めに位置させてもおかしくないのですが、真上にしたのは暴発などを防ぐためでしょうか。
オプティカルビューファインダーは、なかなか仕上げが素晴らしいですね。初期のハッセルSWC系に付属していたファインダーへのオマージュなのでしょうか、金属製です。21mm、30mm、45mmのブライトフレームが同時に見えるので、少々煩雑な感じはするものの、視野が広く見え方は悪くありません。ちなみにメガネを掛けていると21mmのフレーム全体を見渡すのは難しいと思います。
気をつけねばならないのは、ファインダー内ではフォーカスエリアの位置や合焦の確認ができませんし、至近距離になればパララックスも大きくなることです。つまり背面モニターを確認しないと、意図しないところにフォーカスを合わせたまま撮影してしまう可能性があります。
あくまでもこのファインダーは明るい場所で背面モニターが見えにくい場合などに、フレーミングの補助や撮影範囲の確認をするためのものと考えた方が無難かもしれないですね。表示遅延がありませんからシャッターチャンスを重視するような撮影にはいいのかもしれないですが、そうした際にはMFであらかじめ距離を固定して撮るなど、少し工夫が必要になるでしょう。
とはいえ、このファインダーの一番の存在意義は、907Xに装着した時の全体像の美しさかもしれません。似たような性格のものに、リコーGR IIIのファインダーがあります(笑)。
さてと、実際に撮影してみたらどんな感じかという話をします。907Xと同時に購入したXCD 4/45Pは重量320gで、現在市販されている中判デジタル用オートフォーカスレンズとして最軽量になります。全長は47mmです。Pというのはパンケーキと言いたかったのでしょうが、それは少し大袈裟です。
35mm判換算で35mmと同等くらいの画角になるでしょうか。筆者としては使いやすいのですが、ワイド感はそれほど強くはないですね。ただ、実焦点距離が45mmということを、撮影時に強く意識しておいた方がよさそうです。至近距離の撮影では開放F4でもそれなりに被写界深度が浅くボケますね。
描写性能は、中心が開放からギンギンです。仔細に見ると周辺まで均質にするにはわずかに絞り込んだほうがよさそうですが、まず余程のことがない限りは問題にはならないでしょう。
ハッセルブラッドなのに、フォーマットが正方形じゃないと騒いでしまうのはジジイの証なわけですが、昨今はうるさいことを言わないようにしました。ハッセルにはAF一眼レフとして先にHシリーズがあるわけですし、これも当初は6×4.5のフィルム一眼レフからの発展型という存在です。
当初はアサインメントで“中判ミラーレスカメラ907X”として使うためにXCDレンズを頑張って備えなければと意気込んでいたんですが、予算もないことですし、こだわりも無くすことにして、現時点ではプライベート撮影でも907X+XCD 4/45Pの組み合わせを中判ワイドカメラとして使用すればよいと考えることにいたしました。
もちろんハッセルVシステムのデジタルバックとして、CFV II 50Cを分離させても使うことができますから、画角を変えるためには旧来のハッセル用ツァイス交換レンズで頑張るぜという方法もあるではないですか。5,000万画素あれば、正方形フォーマットへの切り出しでもまったくストレスを感じない画質になります。筆者は製品レビューではレンズの描写性能を気にかけているようなことを書いていますが、それはお仕事であって、プライベートな写真制作ではそんなに気にかけたことはありません。
やはり当初からの目論見どおり、907Xのハイブリッド感とフレキシビリティにはとても魅力的なものがありました。これから筆者はどのようにこのシステムを展開してゆくのでしょう。正直、まだ筆者自身にもよくわからんのです(笑)