前回公開した基礎編では、最新のPhaseOne 645DFシステムを紹介することで、デジタルバックの世界をお伝えした。今回は、銀塩中判カメラにデジタルバックを装着して使う楽しみについてご紹介しよう。
中判カメラを使っている方の中には、ハッセルブラッドVやコンタックス645でフィルム撮影を楽しんでいる方も多いことだろう。しかし近年、フィルムの価格上昇や現像代、プリントやスキャナー代と1枚当たりのコストは非常に高くなっており、気軽にシャッターを押すことがより難しくなっている。中判のフィルムと現像代を考えると、1本で1,000円近く掛かってしまう。ハッセルブラッドVであれば120フィルムを使うとワンカット当たり85円ほど掛かる計算だ。仮に年間200本(2,400カット)撮るユーザーであれば消耗品代だけで20万円ほど掛かる計算になる。そのため中判カメラではなく、デジタル一眼レフカメラで写真撮影をされている方も多いだろう。
せっかくの名機も使わないのではもったいない。前回お伝えした通り、ハッセルブラッドやコンタックス645など多くの中判カメラは、フィルムバックの代わりにデジタルバックを装着できる。すると、中判デジタルカメラとして使えてしまうのだ。デジタルカメラなので何枚撮影しようとフィルムと現像のコストはかからない。気兼ねなく撮影することができるはずだ。
「デジタルバックは何百万円もする物」と思っている方も多いかもしれないが、エントリーモデルのPhaseOne P30+、Leaf Aptus-II 5や6であれば、二桁万円台の価格で購入できるため、フィルムを年200本消費する方の消耗品代5年分とほぼ同じ。また、中判デジタルバックはコンシューマーのデジタルカメラのように商品サイクルは早くないため長く使えるのも魅力の一つだろう。新型に買い換える場合でもアップグレードキャンペーンを使って新機種に移れるのもデジタルバックならではだ。
■ハッセルブラッドデジタルバックを取り付ける
デジタルバックをハッセルブラッドVやコンタックス645に装着するには専用のマウントを選択する必要がある。ハッセルブラッドVにはVマウント、コンタックス645にはCマウントを選択する。また、ハッセルブラッドVマウント用のデジタルバックは専用のアダプターを使用することでMamiya RZ67、RZ67 PRO II、RZ67 PRO IID、RB67、FUJI GX680などにも装着することができる。装着可能なデジタルバックはPhaseOne IQシリーズ、PhaseOne P+シリーズ、Leaf Credoシリーズ、 Aptus-IIシリーズが対応している。
ハッセルブラッドVで使用するには、レンズのシンクロ端子とデジタルバックの端子をシンクロケーブルで繋ぐだけで撮影の準備が完了する。コンタックス645の場合ケーブル類は必要なくフィルムバックを使っている際と違いはない。
P65+をHasselblad 503CWに装着。レンズのシンクロ端子とデジタルバックの端子をシンクロケーブルで繋ぐ必要がある |
操作は基礎編でご紹介した通り、基本的にはISO感度とWBを設定するだけだ。Leafの場合は追加でプロファイルを設定することもできるが、こちらも基本的にISO感度とWBを設定するだけでフィルム感覚で撮影と設定を行なえるはずだ。
ISO感度とWBを設定 |
撮影時にはイメージセンサーサイズに合ったフォーカスマスクを設置する必要がある。フォーカスマスクをファインダースクリーンに装着するだけで、イメージセンサーサイズにあったフレーミングが可能になる。あとは、いつも通りシャッターを押すだけで快適なデジタル撮影ができてしまう。
デジタルバックを使う上で注意点もある。ハッセルラッドの場合は6×6フォーマットを採用しているため、縦横は関係ない構造になっている。しかし、現行のデジタルバックのイメージセンサーは4:3を採用しているため、縦位置撮影する際は、デジタルバックを回転させイメージセンサーが縦になるように装着する必要がある。そのさい、イメージセンサーに傷を付けたり最悪デジタルバックを落とす可能性もあることから、安定した場所で慎重に付け替えを行なってもらいたい。
デジタルバックのアスペクト比は4:3だ | 6×6のハッセルブラッドで使う場合、必要に応じて横位置から縦位置、縦位置から横位置へと回転させる必要がある |
例外としてLeaf Aptus-II 10Rと12Rは、デジタルバックを取り外すことなくイメージセンサーのみを回転させることができる「イメージセンサーロータリーシステム」を採用している。これならデジタルバックを取り外す必要がないので、利便性は高い。
■フィルムバックと変わらないフィーリング
今回は6,050万画素を誇るハイエンド機P65+とエントリー機であるP30+を、筆者愛用のHasselblad 503CWに装着して使用した。
P65+はイメージセンサーサイズが 53.9×40.4mmと645のフルフレームと同等の大きさを誇る。ISO感度はISO50〜800、 Sensor+時においてISO200〜3200をカバーし、Sensor+(画素混合を利用した高感度撮影機能)時でも画素数は1,500万画素になる。
また、エントリー機のP30+は、44.2×33.1mm、3,100万画素のイメージセンサーを搭載。マイクロレンズ付きのCCDを採用し、モアレを低減している。
撮影に使用したレンズはHasselblad C 60mm F3.5 T*とC 80mm F2.8の6枚玉を使用。いずれも約50年前のレンズだ。
実際に使って見ると、フィルムバックを使っている時とほとんど変わらないフィーリングでスムーズに撮影ができる。唯一、シンクロケーブルがレンズからデジタルバックに延びているのが気になるが、慣れれば問題はないだろう。撮影中、シンクロエラーなどもなくスムーズに撮影を行なうことができた。
撮影間隔もP65+で1秒間に約1コマ、P30+で0.8コマと比較的高速。ストレスなく撮影ができた。メモリーカードは、サンディスクのExtreme 60MB/sを使用したが、書き込みなどで待たされることもなく、撮影後すぐに写真を確認することができた。
高速なCFを使用すれば、書き込みで待たされることはない | 交換式のバッテリー。側面に取り付ける |
使用感で唯一不安なのが、前にも少し触れたが縦位置と横位置の変更だろう。デジタルバックを回転させるにはやや時間が掛かり、デジタルバックをカメラから取り外すことは、少しリスキーに感じる場面が多かった。
P+シリーズの液晶モニターはIQに比べるとやや劣るが、日陰に入ることやモニタールーペなどを使うことで、それほど苦もなく確認作業が行えた。また、IQシリーズと比べると画像の拡大などの操作に、少し手間に感じるかもしれないものの、ボタン操作で3段階に拡大できる。6,050万画素の画像を表示しても瞬時に表示してくれ、画像の細部を確認するのにもストレスは覚えない。また、P65+では長時間露光中に時間をカウント表示する機能や、仮想水平(いわゆる電子水準器)機能を搭載。これらも撮影をアシストしてくれる。
仮想水平(いわゆる電子水準器)機能も搭載 |
■オールドレンズでも十分な画質
画質に関しては、P65+とP30+共に圧倒的な描写力に驚かされることだろう。今回は、約50年前のオールドレンズを使用したにもかかわらず、レンズの性能も3,000万画素以上の画質に耐えている。
今回もRAW現像ソフト「Capture One 6」で現像したJPEGサンプルを公開する。リサイズはしていない。
P65+では遠景のビルなど細かい描写もしっかりしているのが分かるはずだ。P65+で撮影したスカイツリーの見える風景の写真を見てもらえるとわかると思うが、対岸にいる人の性別くらいまでなら十分確認することができる。
また、P30+も工場の夜景の画像を確認してもらうと分かるように、パイプの細かい部分や煙突に付いている階段までしっかりと描写している。
ダイナミックレンジも広い。暗部からハイライトまで粘りがあり、全体の階調をしっかりと表現している印象だ。写真に深みがあり、中判ならではの立体感を堪能できる。
高感度撮影については、やはりデジタル一眼レフカメラよりも苦手な印象だ。ISO400以上になると細かいノイズが目立ち出すため、本来の繊細な描写を活かすのであればISO400くらいに抑えるのがいいだろう。
それ以上なら、画素混合を行なうSensor+を使用した方が良い。ISO1600まで十分美しい描写を堪能できるはずだ。中判のレンズは明るいレンズでもF2やF2.8なので、Sensor+で感度を上げられるのは手持ち撮影で重宝する。
高感度で撮影する場合は、画素混合技術のSensor+を利用したい。画素数は減るが高感度画質は向上する |
なお、デジタルバックは長時間露光を苦手とするイメージがあるが、P30+は1時間までの長時間露光に対応しており、1分や2分程度の露光で画質に問題を生じることはなかった。
今回はクラッシックカメラを最新のデジタルカメラとして使用する方法をご紹介した。古いカメラでもデジタルバックを装着するだけで、圧倒的な画質を誇るデジタルカメラになることがわかって頂けたはずだ。レンズについても同様で、約50年も前の古いレンズでも十分使用できる。
次回は画像処理ソフトCapture Oneを使い、デジタルバックの画質を引き出す方法をご紹介する予定だ。デジタルバック以外に、デジタル一眼レフカメラでも使えるRAW現像ソフトなので、デジタルバックユーザー以外も期待して欲しい。
2012/5/21 15:24