特別企画
とある写真家の超本格派NAS「QNAP」導入顛末記
RAWデータへのストレスフリーなアクセスを実現
2016年9月28日 09:04
ご存知のように、デジタルカメラでの撮影は画像データとして写真が記録される。この画像データは写真プリントのように物理的な場所を取ることはないが、これを保存するためにはHDDなどの記録媒体が必要となる。
そして、この記録媒体にも保存できる容量に限りがあるため、保存すべき画像が増えれば、それに合わせて記録媒体の数を増やして容量を確保しなければならない。特に最近のデジタルカメラは高画素化の一途をたどり、画像一枚あたりのデータ量も以前と比べて大きく増えているため、以前にも増してデータ量と保存可能容量のせめぎ合いは熾烈な様相を呈している。
つまり撮れば撮るほど、どんどんHDDが増えてしまうということだ。
筆者はプロのカメラマンという仕事柄、これまで大量の撮影画像を産み出してきた。通常、撮影時はRAW+JPEGで保存していることもあって、多い時には1回の撮影で数十GBにも及ぶ撮影データとなることも珍しくない。
そこから良い画像をセレクトしてクライアントに納品するのだが、基本的に納品が終了した画像であっても、データは削除せずすべて外付けHDDに保存している。もちろんセレクト外となった画像も削除することはない。これは後に画像が必要となった場合を考えてのことだ。したがって、これまで外付けHDDに保存してきた画像データは十数台分にも及んでいる。
外部からでも思い立った時にすぐアクセスできる大容量ネットワークストレージ
ところで読者のみなさんは「NAS(ナス)」と呼ばれるものをご存知だろうか。
NASとは「Network Attached Storage」の略称で、コンピューターとネットワーク(LAN)越しに繋ぎデータを保存することができる外部記憶装置のことだ。
一般的に外付けHDDは、ひとつの筐体に1台のHDDを搭載し、USBなどで直接PCに接続する。
一方、NASは複数台のHDDを搭載できるモデルもあり、RAID(レイド)と呼ばれる機能に対応しているNASであれば、それらをまとめて一台の外部記憶装置とすることができる。たとえば2TBのHDDを4基搭載することで、まとめて8TBの記録装置とみなして使用することができるのだ。また複数のHDDにデータを分散して記録することで、データの読み書きの高速化や、HDDが故障した場合にもデータを復旧させられる機能も搭載されている。
RAIDとは
RAID (Redundant Arrays of Inexpensive Disks)は、複数のHDDやSSDをまとめて一台の記録装置とみなして管理する技術。設定により主にRAID 0、RAID 1、RAID 3、RAID 5、RAID 6、RAID 10といった種類があり、それぞれでみなし容量が変わる。
たとえばRAID 0では一基のHDD容量x基数(例:1TBx2基=2TB)のひとつの容量の記録装置とみなし、RAID 1では一基のHDD容量x基数x1/2(例:1TBx2基x1/2=1TB)の容量の記録装置とみなされる。
みなし容量の大きさはRAID 0の方が大きいが、RAID 1では二つのHDDに同じ内容のデータを記録することで、ひとつのHDDが故障した場合でもデータを失うことなく、故障したHDDを新しいHDDに交換することでデータを復旧させることができる。その他のRAID方式ではみなし容量とデータの保護方法が変わりデータの読み書き速度とディスク障害に対する強さが変わってくる。なおRAIDを設定する場合は、搭載するHDDはすべて同じ容量のHDDとする必要がある。
NASは同じネットワークに接続されたPCからであれば、設定により複数のPCからNASに接続しデータを読み書きすることもできる。たとえば、メインで使用しているPCで取り込んだデジタルカメラの画像をNASに保存しておこことで、アクセスを許可された別のPCからも画像の閲覧や編集・保存が可能となる。
また、常時ネットワークに接続されているNASは、外付けのHDDのように限られた数のUSBポートを奪い合うように差し替える必要もないので、必要なときにすぐさまデータにアクセスすることができる。過去に保存したデータを頻繁に探すことの多い私のような者には、常時アクセスができるNASはとても便利だ。
古いNASの転送速度に不満あり。自分の使い方に合致した強力なマシンを選択
さて、このように大量のデータの保存および閲覧とデータの保護にメリットがあるNASだが、実はかくいう筆者も数年前より国産メーカーのNASを導入して使用しているのである。だが筆者が使用しているNASは1TBのHDDを2基搭載しているタイプと容量も少なく(HDDを2基ともにより容量の大きいものに換装するという方法もあるがすでに保存しているデータの移行は難しい)、またLAN接続でのデータ転送がびっくりするほどに遅い。
NASに保存している画像をPhotoshop Bridgeなどで展開しようとするも、延々と読み込みに時間がかかってしまい、フォルダーを開いては探し開いては探しといった作業が一向に進まないのだ。それもそのはず、どうやら導入した時期のNASはまだそれほど性能も高くなかったため、筆者のように大量のデータに頻繁にアクセスするような使い方には向かない製品であったようなのだ。
そのため、いつしかNASは単なる撮影データの保管庫となり、アクセス頻度の高いデータはUSB接続のHDDを買い足しそこに保存するというスタイルに戻ってしまった経緯がある。
このように一度は夢見た快適なNAS生活だが、導入の時期尚早と選択した機器の能力不足により残念な結果となってしまい、その後しばらくはNASの運用は諦めてしまっていたのだ。だが月日は流れ昨年、写真編集向けパソコンの監修者として関わらせていただいた際に、「最近のNASはめっちゃ良くなってますよ!」との情報を聞きつけ、それ以来気になり続けていた。
そんな折、デジカメ Watchと同じインプレスが運営するGANREFの特別企画にて最新型のNAS「QNAP TVS-682T」を試す機会に恵まれたのである。
実のところ筆者はQNAPというメーカーを全く知らなかったのだが、そこで調べてみて判ったのは、QNAPは台湾のメーカーであること、QNAPのNASは世界市場で高い評価を持つ製品であるということ、国内での販売は実績のある販売会社が行いサポートも充実していることであった。
ここで大切なポイントは、まずQNAPが業務ユースでも使われる本格的なNASのメーカーであるという点だ。以前導入した国産メーカーのNASが一般消費者向けで、筆者のようなプロカメラマンの使用には能力不足であった反省から、次に導入するNASは筆者のハードな使い方に堪えられる製品にしようと決めていたのだ。とはいえ、国内でのサポートが全くないのも心細い。その点、このQNAPの製品なら国内販売会社のサポートを受けることができるという点が安心に繋がる。
想像を絶するサイズに圧倒される
さて、ここからは実際に「QNAP TVS-682T」を導入した顛末をお伝えしよう。QNAP最新のストレージ機器である。
事務所には宅配便で販売会社から直接届けられたのだが、段ボール箱は予想以上に大きく、それを目にしたときは軽く後悔しかけたほどであった。だが実際には外箱のなかに緩衝材が敷き込まれ化粧箱が入っており、そしてさらにその中にNAS本体が大きな緩衝材で厳重に梱包されて入っている。
この十分すぎるほどの保護がいかにも業務用機器を取り扱っているという感じで(個人的に)非常に期待感を盛り上げてくれる。
RAID 5とは
今回のNASでは搭載した4TB x 4台のHDDでRAID 5を構築した。
RAID 5ではデータを全ディスクに分散して保存しておくことで、読み出し時には複数のディスクから同時にデータを引き出すことができる。これにより単一のディスクからよりも高速なデータの引き出しが可能となる。
またHDDが故障した際に記録データを修復するためのパリティと呼ばれる冗長コードも全ディスクに分散記録されるので、構成するディスクのひとつが故障した場合でも、他のディスクに保存されたパリティから失われたデータを算出することが可能なので、元データの完全復旧が可能となる。
これらの特徴からRAID 5はストレージの高速化と障害耐性の向上のバランスが良い構成となる。
なお、パリティの保存領域としてディスク1台分の領域が必要とされるため、4TB×4台のHDDを搭載した今回の構成の場合、ストレージサイズとしては12TBの領域が使用可能となる。
NASは"データ管理専用のPC"。筆者環境での転送速度も大幅に高速化
LAN接続されたNASは、外付けHDDなど一般的な外部記録装置とは異なり、それ単体で稼働する。いわばデータ管理専用の独立したPCと考えても差し支えない。
一般的なPCと同様に専用のCPUを有し、作業領域のメモリーを搭載している。実はNASの性能差はこれらの性能がいかに高いかによって大きく左右する。TVS-682Tは、CPUにIntel Core i3-6100 3.7 GHz デュアルコアプロセッサーを、メモリーには最新のDDR4規格に対応した8GB(最大64GBまで拡張可能)が搭載されている。この性能差が一般的な家庭向けNASとの明確な性能差となる。
セットアップの完了したTVS-682Tをギガビット対応のルーターに接続し、LAN越しにMac Pro(Late 2013)と接続して実際にデータを転送しその速度を測ってみた。MacProのOSは10.11 El Captian、HDDに保存した約10GBのZIPファイルを、別のUSB3.0接続HDD、TVS-682T、以前から使用していた国産NASそれぞれに転送させその時間を計った。
[TVS-682Tへコピー] 2分04秒
[USB3.0接続HDDへコピー] 2分01秒
[国産NASへコピー] 3時間19分56秒
この結果、USB3.0接続の外付けHDDと同等の転送スピードが、NASのTVS-682Tでも得られることが判った。これまでNASはデータの転送が遅く、頻繁なアクセスには向かないと思い込んでいたが、この結果からすると十分に業務的な使用にも堪えられるようだ。
Thunderbolt2による高速転送にも対応。業務用ゆえの堅牢性も信頼できるポイント
さて、このように新たに導入したTVS-682Tだが、過去にNASを導入した際の残念な結果を見事に払拭するほど導入後は快適に使用できている。
これまでは保存すべき画像データが増えるごとに、次々と買い足していた外付けHDDもしばらくは追加する必要もないだろう。何より常時接続されているNASは、過去の画像データを探すには最適なストレージだといえる。
またTVS-682Tに保存されたデータは、事前に設定を行うことで許可されたPCからインターネット経由でアクセスすることができる。出先などで急に保存された画像データが必要になった場合などにはとても助かる機能だ。
また、今回はまだ試していないが、TVS-682Tにはより高速なデータ転送が可能なThunderbolt2規格の接続ポートも用意されている。Thunderbolt2は主にMacで採用されている規格だが、4Kムービーなどのよりデータサイズの大きいファイルを転送させる場合はとても優位な接続が可能だ。
今回、TVS-682Tを導入するにあたっての顛末をレポートさせていただいた。届いたダンボール箱を開いたときにはその存在感に圧倒されもしたが、HDDおよびSSDの組み込みも意外なほど簡単で、既存のLANに組み込むにもLANケーブル1本でルーターと接続するだけと手軽だ。
また初期設定もPCからのクライアントアプリやQTSといった視覚的なOSが用意されているなど、以前使用していたNASのHTMLテキストベースの設定画面と比べると非常に取っつきやすい。セットアップ後はデータ転送速度も十分に速くUSB3.0接続の外付けHDDと差を感じることもなく使用が可能だ。ストレージとしての容量も大きなものなので、しばらくは容量不足の心配からも解放されるはずだ。
一般的な家庭用のNASに比べると初期コストはかかってしまうが、これまでに撮影したなにものにも代えがたい貴重な画像データを、安全かつ快適に取り扱うことができるTVS-682Tは、プロカメラマンおよびハイアマチュアカメラマンにとっては十分に検討に値するストレージだといえる。筆者もこれを期に撮影データの保管と運用方法を再検討したいと思う。
次回は詳細レビューをお届けします!
今回TVS-682Tを導入したことで、TVS-682tはこれまでの一般的なNASと比べるとひとつ上の性能を持ったNASであることがわかった。
そこで次回はTVS-682Tレビュー編として、TVS-682がどのようなパーツ構成になっているのかも含めてより詳細に見ていきたい。それに合わせ、実際の業務に投入した使い勝手についてもレポートする予定だ。ご期待いただきたい。
制作協力:テックウインド株式会社