特別企画

とある写真家の超本格派NAS「QNAP」実践編

膨大な写真を手元で楽々管理 インターネット経由でアクセスも

前回の記事では「とある写真家の超本格派NAS『QNAP』導入顛末記」と題して、QNAPの最新型NASである「QNAP TVS-682T」を導入するまでの顛末を話した。そこで今回はTVS-682Tについて実際の運用の様子もあわせ、より詳しく見ていくことにしよう。

前回の記事

とある写真家の超本格派NAS「QNAP」導入顛末記 ~RAWデータへのストレスフリーなアクセスを実現
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/special/1018118.html

PCレベルの高性能パーツを採用

TVS-682Tはいわばデータを保存する目的に設計された小型のPCである。一般的なPCと同様に専用のCPUを搭載し、作業領域としてメモリを搭載している。これらはNASとして内蔵HDDにLAN経由で送られてきたデータを保存するために働く。高性能なCPUを搭載したNASは能力が高く、効率の良いデータ処理が可能なので速い読み出しおよび書き込みが可能だ。

TVS-682Tに搭載されたCPUは第6世代のIntel Core i3-6100 3.7GHzデュアルコアプロセッサである。そして最新のDDR4規格に対応したメモリが標準で8GB(最大64GBまで拡張可能)と、512MB DOMフラッシュメモリが搭載されている。これらは一般的な家庭用NASと比べると遥かに性能が高く高速で安定した運用が可能だ。搭載できるHDDも最大4台と大容量。また2台のSSDを搭載しキャッシュ専用として使用することができるのもTVS-682Tの特徴だ。

正面。外形寸法は高さ231.9×幅224.9×奥行き319.8mm。質量は7.7kg(HDD、SSD含まず)。HDDスロット4基、SSDスロット2基を搭載。各ドライブの状態を明滅で知らせるLED付き。電源ボタンは長押しでON/OFFする。USB3.0ポートがひとつ用意されている。
背面。メイン電源スイッチ、10GBase-T LANポート×2、GbE LANポート×4、USB3.0ポート×4、HDMIポート×3、リセットボタン、6.3mmマイクロホンジャック×2、3.5mmライン出力ジャック×1、Thaunderbolt2ポート×2、音声出力用スピーカー×1、オーディオ用スピーカー×1。
TVS-682TにはLANポートが6つ用意されている。こちらの4つはGbE対応のLANポート。基本的には4つのポートのどれにLANケーブルを接続しても良い。
こちらは10GBase-T対応LANポート。より速い転送速度を持つ規格である10GBase-T対応機器と接続する際に使用する。
3.5インチのHDDまたはSSDを4基収納可能。ドライブはカセット式で筐体から着脱できる。今回はNAS用に耐久性が高められた、ウエスタンデジタルのREDシリーズHDDを選択した。
2基のSSDはキャッシュ用として搭載される。こちらもスライド式カートリッジで簡単に着脱できる。
SSDのカートリッジを引き出したところ。
外板を外したTVS-682T。筐体内に組み込まれた基板と大きなファン、CPUのヒートシンクが目を引く。
ファンを外した状態の筐体内右側面。
CPUからの熱を発散するためのおおきなヒートシンク。この下にCPUがある。CPUは第6世代のIntel Core i3-6100 3.7GHzデュアルコアプロセッサを採用。
DDR4対応メモリ用スロット4基搭載。工場出荷時は4GB×2枚の8GB搭載。最大64GBまで増設可能。となりにはM.2 SSD用のスロットも用意されている。
天辺部には10GBase-T対応LANポートの基板。ヒートシンクとファン付き。
筐体内左側面。電源装置は出力250W
CPUとHDDの温度を別々に計り、最適な回転数に調整することで効率的な温度管理が可能なスマートファンを搭載。
Thunderbolt 2ポートの基板。TVS-682TにはLAN接続よりも、さらに高速なデータ転送が可能なThunderbolt 2ポートも搭載されている。
USBメモリを挿してデータを直接NASのHDDにコピーすることもできる。
ストレージ接続に対応したデジタルカメラであれば、カメラとTVS-682TをUSBケーブルで直接繋ぐことで、画像データをPCを介することなく直接NAS内のHDDにコピーすることもできる。

このようにパーツ構成をひとつひとつ見ていくと、同じストレージ機器であっても一般的な外付けHDDとは設計の思想が全く違うものだということが良くわかる。非常に高性能なパーツを惜しむことなく搭載し、それによりデータの運用を効率よく行うことができる構成となっている。

とくにキャッシュ専用にSSDを2基搭載し、そこに使用頻度の高いデータを一時的に保存することでデータの読み出しにかかる時間を、HDDからの読み出し時間よりも短縮させるという発想が面白い。SSDの高速な読み出し速度を活かした合理的なシステムだといえる。

Thunderbolt 2でより高速な転送を実現

TVS-682Tにはより高速なデータ転送に対応したThunderbolt 2ポートが用意されている。このThunderbolt 2は主にMacとの接続に用いられる接続方法だが、理論値では最大20Gb/sという高速なデータ転送が可能だ。

このThunderbolt 2でMacとTVS-682Tを直接接続することで、LAN経由よりもより速い速度でデータを転送することができる。実際に約10GBのZIPファイルを転送させて転送時間を計測してみたところ、以下のような結果となった。

※測定環境:TVS-682TとMac Book Pro 15インチ Mid 2014(CPU=2.2GHz Core i7、メモリ=16GB 1,600MHz DDR3、SSD)をThunderbolt 2で接続

Macからストレージへのコピー時間

LAN経由

Mac→TVS-682T:2分4秒

Thunderbolt 2経由

Mac→TVS-682T:1分25秒

USB3.0経由

Mac→外付けHDD:2分18秒

ストレージからMacへのコピー時間

LAN経由

TVS-682T→Mac:1分25秒

Thunderbolt 2経由

TVS-682T→Mac:0分21秒

USB3.0経由

外付けHDD→Mac:1分59秒

Thunderbolt 2経由でのコピーは、LAN経由またはUSB3.0 HDDへのコピーよりも、あきらかに速くデータを転送できる。これを活かせば大量の画像データのコピーが必要な場合に効果的に運用可能だ。4Kムービーのリアルタイム編集作業といった、大容量のデータを扱えるストレージソリューションとしても機能させることができるだろう。

単体HDDによる写真保存は面倒

今回TVS-682Tには4TBのHDDを4基組み込んだ。それをRAID 5で構成したことで、記憶領域の容量として12TBという大容量を確保することができた。そこで、これまでいくつものHDDに分散して保存していた撮影データを、TVS-682Tにコピーしてひとまとめにすることにした。

まとめたデータは2003年から私が撮り溜めてきた北海道の風景や街並みなど13年分の画像である。撮影の都度、その時に使用していた外付けHDDへと保存を繰り返してきたおかげで、いざ撮影データが必要となりこれを探そうとすると何台基ものHDDをMacに繋いでは探し、繋いでは探しという作業を繰り返さなければならない。

この作業は単純な作業であるものの、実際に行うとかなりの手間と時間を必要とする。そのうえ専用HDDを用意して保存するにしても、都合良く撮影年ごとに、例えば4TBといったHDDにぴったりと収まるということもまずありえない。大概は数十GB分の容量が足りなかったり、逆に余ってしまったりと過不足がでる。こういうのも気分的にもすっきりとしない。

それがTVS-682Tを投入したことで、総データ量約1.5TBにも上る画像をようやくまるっとひとまとめにできた。北海道で撮影した画像を探したければ、これからは常時接続としている1台のNASにアクセスすれば事済む。また4TBというHDD各個の容量に縛られることもないので、12TBまではストレージをまたいでの保存となることもない。これはなかなかに気分よいものである。

また万が一NASに搭載したHDD 1基が故障してしまっても、RAID 5で構成されたNASは早急に新しいHDDと交換することによって、記録したデータを復旧させることができる可能性が高い。もちろんNAS以外でのバックアップは必要だが、データ喪失のリスクを大きく減らせるといった点からも、NASのメリットは大きいといえる。

常時接続のNASだからLightroomですぐに写真を見つけられる

TVS-682Tにまとめて保存した約1.5TBにも上る大量の撮影画像。これを管理するうえで便利なのがAdobe Photoshop Lightroom CCだ。Lightroom CCは強力なRAW現像ソフトとして有名だが、それと同時に画像の管理を効率的に行える機能を持っている。

そこでTVS-682Tに保存した約11万8,000枚の画像をLightroom CCに読み込ませてみた。実際にはJPEG+RAWで記録している画像は、RAWのみ読み込む設定としてあるため、読み込んだ画像数は約5万9,000枚となった。なお、画像を読み込んだ後に作成されるカタログのプレビューサイズは最小としてある。

Lightroom CCで読み込んだ画像はライブラリで撮影日、使用カメラ、レンズ、絞り、シャッタースピードといった項目で検索絞り込みができる。また画像には任意のタグを付けることもできるので、撮影地や被写体名などでタグつけすることもできる。後にそれらのタグ名で検索することもできるので、大量の画像の管理にはもってこいのソフトだ。

もちろん外付けHDDに保存した画像もLightroom CCに読み込ませることができる。Lightroom CCではいちど読み込ませた画像はカタログと呼ばれるプレビュー用の小さなサイズにしたものを生成するので、いちどカタログを作ってしまえば、画像の検索やプレビューは本画像が保存されたHDDなどが取り外された状態でも可能だ。

ただしRAW現像などの編集作業の際には再び元画像が保存されたHDDをPCに接続しなければならない。これが頻繁になるとなかなか面倒な作業となる。その点、常時接続されているNASであればいつでも元画像を引き出せる(実ファイルがなくても編集できるLightroomの機能「スマートプレビュー」を使う手もあるが、編集時や書き出し時に解像度の制限が生じてしまう)。

またRAW現像後、Photoshopで表示させる際にも高速なデータ転送が可能なTVS-682Tであれば、遅いNASのようにイライラと待たされてしまうこともない。

体感的にはUSB3.0で接続されているHDDと変わらない感覚で運用ができる。もうNASだから遅くても仕方ないと諦める必要はないのだ。

インターネット経由のアクセスがもたらす利便性

インターネット経由でTVS-682Tにアクセスすることも可能だ。

クラウドサービスID「myQNAPcloud」とTVS-682TへログインするためのユーザーIDおよびパスワードを使用することで、TVS-682Tに保存されたデータへとアクセスが可能となる。myQNAPcloudは、QNAPブランドのNASを導入する際に発行される。

これは特に我々のように仕事で撮影を行うカメラマンにとって非常に便利な機能だ。遠方へロケに出かけている時などにクライアントから、以前に撮影した画像を早急に送ってほしいと依頼されることも珍しくないのだが、そのような場合でもホテルなどの高速なインターネット環境があれば事務所に設置されたNASから、リモートアクセスで画像データを手元のPCへとダウンロードすることもできるからだ。

さらに高度な運用法としては、特定のクライアント専用のフォルダをTVS-682T内に作り、リモートアクセスでデータをコピーすれば、そのフォルダのみにアクセスできる専用のIDとパスワードを設定しクライアントに伝えることで、直接TVS-682Tからデータをダウンロードしてもらうこともできる。

この場合のメリットは「TVS-682T → ユーザー → クライアント」といった遠回りなデータのやり取りが不要となることだ。これならばTVS-682T内の画像ファイルを操作するだけなので、モバイル環境でもデータの送受信は最小限で済ませることができるのだ。

リモートアクセスにはスマートフォン用の専用アプリも用意されている。「QPhoto」をAppStoreやGoogle Play、Microsoftストアなどからダウンロードしてスマートフォンにインストールする。
QPhotoにmyQNAPcloudとTVS-682TへのログインIDおよびパスワードを設定する。
QPhotoでNAS内の画像が保存されたフォルダを開き画像を閲覧する。スマートフォン内にダウンロードもできるので、そこからSNSなどへアップロードすることも可能だ。

ワークフローの中核に位置するのにふさわしい、超本格派NAS

TVS-682Tのような本格派のNASをうまく活用すれば、大切な撮影データの保存に安心感が増すだけでなく、自前のインターネットサーバーを事務所内に設置することもできる。自前のサーバーならば、大きなサイズのデータのアップロードも楽だし、クライアント専用のフォルダを作成することで、外部レンタルサーバーを使うよりセキュリティの面でも優位となる。

撮影データを安全に保護し保管することの重要性を知っている写真家・カメラマンならば、十分にその価値を見出せる製品だ。今後は私のワークフローの中核となるストレージ機器となることだろう。

礒村浩一

(いそむらこういち)女性ポートレートから風景、建築、舞台、製品広告など幅広く撮影。全国で作品展を開催するとともに撮影に関するセミナーの講師を担当。デジタルカメラの解説や撮影テクニックに関する執筆多数。近著「オリンパスOM-Dの撮り方教室 OM-Dで写真表現と仲良くなる」(朝日新聞出版社)、「マイクロフォーサーズレンズ完全ガイド」(玄光社)、「一眼カメラの選び方がわかる本 2016」(晋遊舎)など。カメラグランプリ2016選考委員。