新製品レビュー
ソニーα7R
待望の3,640万画素フルサイズミラーレスを試写
Reported by 曽根原昇(2013/11/15 12:00)
ソニーより登場した「α7R」は、35mmフルサイズ相当のCMOSセンサーを搭載するミラーレスカメラである。いわゆるミラーレスカメラでのフルサイズセンサー搭載は、同時に発売される兄弟機「α7」とともに史上初となるが、ボディの材質などの違いからわずかに軽量であることもあって、α7Rのみが「世界最小・最軽量 フルサイズミラーレス一眼カメラ」を謳い文句としている。
また、画素数がα7の約2,430万画素に対しα7Rはローパスフィルターレスの約3,640万画素のイメージセンサーを搭載、圧倒的な高解像度を誇っていることも特徴のひとつだ。
執筆時点における大手量販店での実勢価格は21万9,800円前後。標準ズームレンズキットを用意するα7と異なり、α7Rにはレンズキットは用意されていない。今回は同時発売の「Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA」(実勢7万9,800円前後)と組み合わせて試写を行なった。
圧倒的な解像感を生みだすイメージセンサー
搭載される有効約3,640万画素の35mmフルサイズ「Exmor」CMOSセンサーは、偽色やモアレの軽減には効果的である反面、解像感の喪失が避けられないローパスフィルターを廃したローパスフィルターレス仕様であるのは前述の通り。オンチップレンズの位置を光の入射角に合わせて最適化した「ギャップレスオンチップ構造」の採用や、集光効率を高める「高集光プロセス技術」、ダイナミックレンジを広げるための「ワイドフォトダイオード設計」など、高画素化による画素サイズ縮小の影響を受けることなく、高い解像度を最大限に生かすためにさまざまな最新技術が採用されている。
レンズマウントは従来のNEXシリーズと共通のEマウントが採用されている。既に同社にはEマウントにフルサイズセンサーを搭載したデジタルビデオカメラ「NEX-VG900」が存在しているため、フルサイズセンサーが収まったこと自体はさほど驚くことでもない。しかし、あらためてデジタルスチルカメラであるα7Rを見ると、マウント内いっぱいに搭載されたセンサーの存在はやはり圧巻だ。
特に四隅はギリギリに収まったセンサーに光を通すためか、角が切り取られたようになっており、“フルサイズミラーレス”の技術的な難しさを忍ばせている。ソニーが「誰も作らなかったカメラ」と謳う理由はこうしたことにあるのかもしれない。なお、イメージセンサーには超音波振動によるアンチダスト機能はあるが、Aマウント機のようなボディ内手ブレ補正機構は持たない。
画像処理エンジンは新開発の「BIONZ X」となった。これまで画像処理エンジンを新たに開発しても名称は「BIONZ」のまま通していたソニーであるが、ここにきて末尾に「X」を付加えていることから、今回のフルサイズミラーレスカメラに対する意気込みを感じることができるというもの。実際、この新しい画像処理エンジンは同社のAマウント最上位機にしてフルサイズセンサーを搭載する「α99」に比べ約3倍の高速処理能力をもつとされ、やはりα99と同様に高速フロントLSIも搭載することで、高画素なα7Rの処理能力を支えている。
また、「BIONZ X」はコントラストAFの高速化にも寄与しており、画像処理エンジンとレンズ間で行なわれる通信を最適化した高速レンズ駆動制御システムによって、従来のコントラストAFよりAF速度を約35%高速化している(ファストインテリジェントAF)。α7はこれに像面位相差AFを併用した「ファストハイブリッドAF」を備えるが、それを持たないα7Rでも、ストレスを感じることなく十分実用的なAFを体感することが可能だ。
ミラーレスの強みを実感する小型ボディ
35mmフルサイズセンサーとともにα7Rの特徴となっている、小型軽量ボディに目を向けてみよう。ボディサイズは126.9×94.4×48.2mm。レンズ交換式のフルサイズ機としては小ささが際立っており、レンズを装着して携行しても邪魔に感ずることのない軽快感が確かにある。大きさのイメージとしては、往年の銀塩小型一眼レフをひとまわり小さくした感じ、といったところ。レフレックスミラーの機構をもたない分、デジタル一眼レフに比べて奥行きがスリムにできるのは、ミラーレスカメラならではの利点といえるだろう。
質量は本体のみで約407gと、レンズ交換式のフルサイズセンサー搭載デジタルカメラボディとして世界最軽量。α7よりも約9gほど軽いのは、α7Rのボディに軽量な高剛性マグネシウム合金が多用されているため。ダイヤル類にもマグネシウム合金が使われていることもあって、カメラを手にしたときの質感という点でもα7より上質なものになっている。
基本的なボディデザインは、同社のフルサイズセンサー搭載コンパクトデジタルカメラである「サイバーショットDSC-RX1」シリーズとよく似たものであり、水平垂直を基調として、上面や側面のフラット面が印象的となるような仕上げが施されている。α7RはこれにEVFとグリップを後から取り付けた感があるが、ホールディング性は優秀で、実際にカメラを構えて撮影したときの印象も安定感があり良好だった。
内蔵EVFはボディの真上に固定された一眼レフ風のスタイルで、その独特の形状が目を引き話題となっているものである。賛否両論、好みの分かれるところでもあると思うが、これがボディ本体に馴染んだ今風のスタイルに落ち着いていたならば、これほどの強い存在感を放つことはきっとなかっただろう。ちなみに筆者は、今回試用をするうちに次第に愛着をもつようになり、本稿の執筆段階ではかなりの好ましさを感じている。
操作性も上々
操作体系は全体的に同社のNEX-7やRX1シリーズの系統であり、一眼レフスタイルのAマウント機のそれでなく、あくまでミラーレスカメラであるEマウント機の操作性といえる。そのためファインダーに接眼したまま設定変更を即座に行なうような撮影をするには慣れが必要となるが、前後ダイヤルの搭載やカスタムボタンによるカスタマイズ性などの配慮もあって、ミラーレスカメラとして考えれば優秀な操作性を有しているといえるだろう。RX1シリーズで採用された露出補正ダイヤルは、特に優れた操作性の長所である。
液晶モニターのインターフェースは使いやすく進化しており、ライブビュー撮影中にFnボタンを押すことで12種類の機能を即座に呼び出し、設定したい機能に素早くアクセスすることができる。表示される12種類の機能は使用頻度や自分の好みに合わせて任意で割り当てることができる。また、α99に搭載されている「クイックナビプロ」がα7Rでも採用されたのも特筆すべきところ。主な撮影情報が見やすく一覧で並んでおり、Fnボタンを押せばダイレクトに項目の設定・変更ができるため、撮影中でも迅速・確実に設定の変更が可能。EVF撮影の場合にはぜひオススメしたい機能だ。
内蔵するEVFは約230万ドットの「XGA OLED Tru-Finder」。採用する有機ELパネルの進化により従来に比べて視認性が向上しており、実際の撮影においてもフルサイズの緻密な画面を確実に捉えるために十分なファインダー性能であると感じた。自然な見え具合という意味では一眼レフの光学式ファインダーと比べるべきものではないが、EVFの輝度を自動調整することによる暗所での可視化やMF時のピント拡大機能など、よりシビアな視認性が要求されるフルサイズでの撮影において、EVFならではの長所は今後多くの撮影現場で受け入れられていくことになるのではないかと思う。
FEレンズが発揮する最高画質
35mmフルサイズセンサー、約3,640万画素の高解像度、ローパスフィルターレスとなれば、最も気になるのはやはり画質だろう。結論からいえば、α7Rの画質は期待通りの高い解像感を持っており、非常に高画質である。これはセンサーの素性がよいからというだけでなく、α7Rに伴って開発されたフルサイズセンサー対応のFEレンズの描写性能の高さによるところも大きい。
また、画像処理エンジン「BIONZ X」の働きも画質に対して効果的であり、絞りを絞るほど画質が低下する回折現象に対して新たに「回折低減処理」が搭載された。回折現象はα7Rのように高画素化して画素ごとのサイズが小さくなるほど顕著に表れる症状であり、それだけにこの技術の搭載は絞り込んで撮影することの多い風景撮影などに有効。これまでは怖くてなかなか絞り込めなかったシーンでも、躊躇なく絞り値をF11やF16にすることができる。ただし、この機能は現状ではJPEGのみに適用され、RAW現像時には適用されないのが少し残念なところだ。
α7Rはローパスフィルターレスなので、偽色や色モアレの発生を心配している人もいると思う。今回の試写では、むしろ偽色の発生頻度を見る目的で、さまざまな被写体を撮影してみたが、少なくとも一般的な撮影条件では作画に悪影響を及ぼす程の顕著な偽色や色モアレの発生は見られなかった。α7Rは始めからローパスフィルターレスであることを前提に開発されたカメラなので、偽色に対する対策や処理は十分に講じられていることが考えられる。
さすがに悪条件が重なれば100%偽色や色モアレを防ぐことはできないが、わずかな偽色の発生を心配するよりも、FEレンズの光学性能を最大限引き出すためのローパスフィルターレスと受け止めた方がα7Rの本領を楽しむことができるはずだ。
FEレンズは現在発表されているもののほとんどが、カールツァイス社との共同開発によるツァイスレンズや、ソニーの高性能ブランドであるGレンズである。これらのレンズは、いわばα7Rの高画質を存分に発揮するために作られたレンズであるともいうことができ、逆をいえばα7Rの能力を最大限活用するためには、どうしてもボディとの最適化が計られた新FEレンズが必要になるということになる。いずれのFEレンズも高価な部類であるので、ボディとの同時購入では相当な出費を覚悟しなければならないが、高画質なα7Rを購入予定の人は避けることのできない課題なので、慎重に検討したい。
軽快ボディこそ手ブレに注意
小さなボディに高性能デバイスを詰め込んで高画質を目指すのはソニーの十八番ともいえるが、今回の試写で一番悩まされた問題は手ブレの発生率の高さである。ミラーレスらしい軽快な小型軽量ボディであることもあって、つい気楽な気持ちでシャッターを押してしまい、後でパソコンの画面で見ると1/60秒や1/125秒といったシャッター速度でも結構な頻度で手ブレを起こしてしまっていた。いくら持ち運びに便利なα7Rであっても「自分は3,640万画素の高画素機で撮影しているのだ」という意識をもって臨まなければいけないと感じた。レンズ性能だけでなく撮影者の意識も要求される、それがα7Rというカメラなのだと思い知った。
ちなみに、Eマウント機であるα7Rは従来のAPS-Cサイズ対応のEマウントレンズも問題なく使用でき、その場合、約1,500万画素の標準的なスペックのAPS-Cサイズミラーレスカメラとなる。また、別売りのマウントアダプターLA-EA3/4を装着すればAマウントレンズも使えるという汎用性の高さがあり、全てのαレンズの母艦としての一面があるのだから、使い方によっては気楽な撮影にも普通に対応してくれるのである。加えてWi-Fiといったトレンド的な機能も持ち合わせており、1台で幅広いニーズに対応することができる。実は想像以上に革新的なカメラなのである。
フルサイズセンサー搭載機といえば、重く大きな一眼レフか、高級なレンジファインダーカメラしか存在しないといった状況のなかで、始めてソニーが挑んだ新分野。誰もが望んでいながら、どこも作らなかったフルサイズミラーレスカメラ。ようやく登場したα7Rの完成度を今は素直に喜ぶこととして、将来的にはさらにシリーズが拡充・展開していくことを大いに期待したい。