新製品レビュー
FUJIFILM X20
センサー、AF、ファインダー…人気の高級ズームコンパクトが大幅に進化
(2013/4/12 00:00)
富士フイルムのデジタルカメラが何かと元気だ。単焦点APS-Cコンパクト機の「FUJIFILM X100」を2011年にリリースする以前は、どちらかというと普及価格帯のモデルが中心という印象のラインナップだったが、今やXシリーズの展開により、カメラ愛好家の話題の中心になることも少なくない。
今回紹介する「FUJIFILM X20」は、同様のスタイルを持つ「FUJIFILM X10」(2011年10月発売)の後継で、ビューファインダーを持たない「FUJIFILM XF1」とともにXシリーズのローエンドにセグメントされるモデルだ。2月23日にX20と同時発売されたAPS-C機「FUJIFILM X100S」とともに、Xシリーズは新しいフェーズに入ったと見なしてよいだろう。本稿執筆時におけるX20の実勢価格は6万4,800円前後となる。
基本的なスタイリングにこれまでと変更はない。クラシカルなテイストのボディシェイプはそのままだ。X10が発売された当初、筆者個人としてはちょっと懐古主義が過ぎるように思えていたが、そのテイストを新鮮と受け取った多くのデジタルユーザーから注目されたことはご存知のとおりである。
ボディカラーについては、従来からのブラックに加えシルバーが選べるようになった。こちらもスタイリッシュにまとまり、ブラックよりも軽快な印象を受ける。選択肢が増えて嬉しく思える反面、購入の際はどちらを選ぶか悩ましいことだろう。
光学4倍のマニュアルズームレンズは、光学系を含め変更はない。35mm判換算の焦点距離は28-112mm相当で、開放F値はF2-2.8。沈胴式のレンズを手動操作で繰り出すと電源が入るのもこれまで通り。初めてこのカメラを手にするユーザーは電源ボタンがどこにあるのか迷うかと思うが、慣れると直感的に電源が入れられ、さらに好みの焦点距離に素早くセットできるためスナップ派には便利だろう。
上面の露出補正ダイヤルや背面の2.8型46万ドットの液晶モニターにも変更はなく、ボタン類の形状やレイアウトも同じだ。外観上のわずかな違いといえば、カメラ上部にあった機種名のロゴが前面部に移動したことと、ファインダー接眼部近くにアイセンサーを備えたこと。また、RAWボタンがクイックメニューボタンに、AFボタンが連写ボタンに変更された程度である。ボディ前面の「X20」のロゴがなければ、前モデルと見分けることは難しい。
大きく変わった部分といえば、まずイメージセンサーだろう。2/3型で有効1,200万画素と数字的には変わらないものの、センサータイプがEXR-CMOSセンサーから新開発のX-Trans CMOS IIセンサーへと変更になった。
すでにご存知の方もいるかと思うが、X-Trans CMOSセンサーは同社独自のカラーフィルター配列によりモアレの発生を抑え、ローパスレス構造とする。解像感の高さはいうにおよばず、高い階調再現性や低ノイズ化も図れている。
加えて本機やX100S(APS-Cサイズ相当)で新採用されたX-Trans CMOS IIでは、センサー上の一部の画素を位相差検出用とし、像面位相差AFにも対応する。位相差検出方式といえば一般にデジタル一眼レフに搭載されているもので、従来のコンパクト機やミラーレス機が主に採用するコントラスト方式にくらべ、よりスピーディなAFを実現する。
最近ではこの像面位相差AFに対応し、暗所などではコントラストAFに切り替わるハイブリッドタイプのAFを採用するコンパクト機やミラーレスも増えつつあるが、X20も同様としている。従来よりもさらに速やかな測距を実現し、より一層軽快な撮影が楽しめる。
さて、実際に撮影した画像を見ると、その鮮鋭度は期待を裏切らない。ピントの合った部分が浮き立つように感じられ、立体感までも増幅したように感じられる。わずかなブレやレンズの描写特性も、簡単に露呈してしまうほどだ。しかも、画像ソフトでシャープネスをかけたときのようなエッジ周辺の不自然さなど全くなく、ナチュラルな印象である。ローパスレスに偏るつもりはないが、それでも描写のスゴさをあらためて思い知るものといえる。
高感度特性については、ISO800までならノイズはよく抑えられおり、APS-Cサイズのイメージセンサーと違いはさほど感じられない。しかし、ISO1600になると突然ノイズが目立ちはじめ、ISO800との違いに驚かされる。ノイズの質感も粒が粗く、どちらかといえば扱いづらいものである。
さらに、掲載したISO感度の作例を見てもらえば分かるかと思うが、オートホワイトバランスを選択した場合、なぜかISO800以下とISO1600以上とでは色あいが異なる。当然低感度側のほうが自然に感じられる色あいで、そのようなことからこのカメラの実用とする感度域はISO800までといえるだろう。
個人的にうれしく思えたのが、光学ファインダー内に撮影に関する情報が表示されるようになったことだ。表示は、露出設定(絞り、シャッター速度)、AF合焦サイン、フォーカスエリア、撮影モード、パララックス警告などで、実際の撮影で不足を感じるようなことはない。透過液晶による表示が鮮明で見やすいのも特徴だ。
ファインダー内に情報表示の類いが一切なかったX10に対し、X20のファインダーには積極的に接眼して撮ってみたいと感じさせられた。さらにファインダー像もより大きくクリアになり、視認性の向上に大きく貢献している。
その他の変更点としては、まずクイックメニュー(Q)ボタンで主な撮影設定が素早く呼び出せるようになった。カメラの設定状態を一目で確認することができ、設定もメニューに入って行なうよりも断然速い。この機能はぜひ憶えておきたい。
フィルムシミュレーションには、新たに柔らかな階調の「PRO Neg.Std」と、パリッとした鮮やかさの「PRO Nega.Hi」を追加。フィルムシミュレーションはその名のとおり、感材メーカーらしいフィルムライクな仕上がりが得られるが、さらに多彩な表現が楽しめるようになったといえる。
アドバンストフィルターやボディ内RAW現像といった多彩な機能を搭載するのも従来同様。初心者からベテランまでそつなく楽しめるカメラに仕上がっている。
バッテリーはX10と同じNP-50を採用する。公称の撮影可能枚数は約270枚。作例の撮影ではその持ちに不安はさほど感じなかったが、実際に使うとなると、少なくとも1本は予備バッテリーが欲しいと感じた。
FUJIFILM X20は、一見するとX10から劇的な進化がないように見えるかもしれない。しかし、本稿で触れたように内面は着実にブラッシュアップが図られ、よりカメラ好きの琴線により触れるものになったといえる。
特に光学ファインダーに手が入ったことは、デジタルとなって軽視されがちであったコンパクト機における光学ファインダーの復権を予感させる。個人的にもコンパクトといえどファインダーに接眼したほうが、なぜか安心してしまうことが多い。また、X-Trans CMOS IIセンサーの搭載も、このカメラの完成度をより高めたといえる。各社からハイエンドコンパクトが相次いでリリースされているが、X20はその最右翼ともいえるモデルに仕上がっている。