交換レンズレビュー
SIGMA 14-24mm F2.8 DG HSM | Art
画質に自信ありの大口径超広角ズームレンズ
2018年3月22日 07:00
超広角域を広くカバーするSIGMA 14-24mm F2.8 DG HSM | Art。24mm以下のズームレンズではF2.8の製品は数少なく貴重だ。14-24mmの焦点距離は自然風景や建築撮影に重宝するが、他製品よりも1段明るいF2.8であり、ボケを活かした撮影も可能だ。
本レンズでシグマが謳う特徴は「ゼロディストーション」だが、その呼び名に恥じない歪曲収差の少ない画像を示す。それのみならず他の収差の補正も大変素晴らしく、描写において欠点を見出しにくいレンズである。価格と共に、傑出した価値をもつ1本だ。
発売日:2018年3月9日
実勢価格:税込16万円前後
マウント:キヤノンEF、シグマSA、ニコンF
最短撮影距離:26cm
外形寸法:約96.4×135.1mm
重量:約1,150g
デザイン
デザインは、シグマArtラインの定番である落ち着いたものだ。黒地に白文字を基調に、表面仕上げの違いと材質で変化をつけたデザインはシンプルゆえの高級感がある。Artライン拡充とともにデザインもより洗練されてきたようだ。
特徴的な花形フードは組み込み式で取り外しはできないが、厚みがあり一体感と高級感を出しつつ、効果的にレンズ第1面を保護している。ボディに取り付けた印象は「大きくはない」だ。
他社類似製品に比べて、実際の大きさは同等なのだがシンプルなデザインゆえか、数値よりも小さく感じる。また、24-70mm F2.8が現代の高画質標準レンズと言えるが、各社とも高画質大口径であるがゆえ、大きく重い。それらを常用しているユーザーにとってこのレンズは特別に大きく重いものではない。
大きな前玉であり、前方がより太いデザインのため、中間部に指が落ち着きホールド性は良好だ。重量は1,150gであり重いレンズであるが、ホール感は良いので安心して持てる。
しかし、ボディも相応に重い方が相性がいいだろう。今回はEOS 5D Mark IVで試用したが、重量感は感じるものの良いバランスであった。
操作性
ピントリングとズームリングは硬質ゴムのローレットであり、指への当たりと密着感が良い。また、それぞれローレットのピッチが変えてあるので、ファインダーを覗きながらでもどちらのリングに触れているのかもわかりやすい。
操作感は重くやや渋めだが、ひっかかりやギヤでザラザラする印象もなくスムーズなものだ。しかし、微小トルクで軽い動き出し方をするようなものではなく、力を入れていくとある1点から動き出す印象だ。
これは寒い時期や動画撮影時にMFで使う場合に少し注意が必要だが、ピントリングの剛性は高いので動画撮影でフォローフォーカスやフォーカスレバー取り付けての相性は良いだろう。
側面のスイッチはAF/MF切り替えスイッチであるが、大きく使いやすくシグマレンズの美点だ。大きいが、突起部は周りと面一になっているので、誤動作もなく手袋をしていても使いやすい。
AF時は明るいグレーの指標が見えるが、デザインを崩さず良い印象である。側面に見える「MADE IN JAPAN」の刻印も嬉しい。
AF
AFのレスポンスは瞬速というほどではないが、十分なものだ。最短にセットした状態で無限遠に合焦するのに0.5秒強という印象である。
本レンズの主な用途は風景・建築であると考えられることから、AF速度に不満を感じることはまずないだろう。
作品
今回の評価はEFマウントで行った。キヤノン用ではカメラボディでの光学補正に新たに対応したが、それら機能は全てOFFにしている。これは純粋にレンズの性能を評価するためだ。他のマウント、シグマ用、ニコン用を検討している人も同様の「補正無し」の評価がわかることを意味している。
絞り開放で遠景を撮影した。絞り開放から中心部の解像力は素晴らしい。周辺に向かって素直に解像力が落ちてゆくが、四隅でなければ解像力が落ちたという印象を持つことはないだろう。
本レンズは絞り開放から解像力が高く、絞ったから劇的に解像力が高くなるわけではない。中心部ではF4でほぼ最高の解像度になる印象で、絞るに連れて周辺も解像力が高まってくる。
作例ではF5.6とした。ピントは橋脚上方に合わせたので、手前下は被写界深度外、画面右方と橋の奥行きは被写界深度内に入っている。右下隅の岩場まで解像力が高くスッキリした描写だ。
少しアオった撮影であるが、コンクリート壁の水平、垂直線に注目してほしい。このクラスの超広角レンズでは、最周辺でなくとも歪曲収差を感じることがあるものだが、本レンズでは目視でわかるような歪曲収差は発生していない。
どんなレンズも必ずゴーストは発生するが、本レンズはゴーストの発生が極端に少ないため、朝日を画面中心から外した位置におき、絞って撮影した。ゴーストは絞る方が目立ちやすくなるからだ。ゴーストは正面奥の橋桁のシャドウ部に発生しているが、一見では気づかないかも知れない。しかし、驚きはシャドウ部がフレアで甘くなることなく、シャープな描写であることだ。
F2.8ではより条件を厳しくし、トンネルの中から朝日を見る構図とした。正面の橋脚にゴーストは発生しているはずなのだが、判別できない。この条件でもトンネル内側のシャドウのディテールは描写されている。
最短撮影距離でも解像力の高さが生きている。花弁のディテールが素晴らしい。前ボケも自然だ。絞りをF4としたがボケ量は多く、14mmでありながらボケを活かした撮影ができる。一方この作例では後ろボケが放射状に流れている。これは広角レンズゆえの広角歪みであり、レンズ起因の収差ではない。この流れは被写体次第で目立たないので、使いこなしとして意識しておくといいだろう。
18mmにすると、広角歪みによるボケの流れは気にならない。ピント位置は40cmほどであるが、ボケは前後ともに柔らかく素晴らしい。ボケで情報を省略しながら超広角でその場所を表現できるのは新しい。
絞り開放で玉ボケを狙ってみた。本レンズは口径食が少なく、画面隅近くまで、ボケは円形だ。光源位置のボケはほんの少しリング状であるものの、ざわつくような印象にはなっていない。
ピント位置はおよそ50cm。シャープなピント面から左上隅の無限遠まで、緩やかにぼけてゆく。距離相応のボケ感を示しており、好ましい描写だ。
星空を撮ると全画角にわたって、収差の状態を見て取れる。あえて厳しく見るなら、視野対角線方向80%程度からコマ収差によって星の像が伸びている。しかし、非点収差は支配的ではないようで、星が十字にはなっていない。現実的には、F2.8開放で星景を美しく撮れるレンズである。
まとめ
14-24mm F2.8 DG HSMは、野心的とも言えるシグマの最新レンズの中でも特別に野心的なものと言えるかも知れない。それほど欠点を見つけ出すことが難しいレンズであった。それゆえ、かなり厳しい目で評価したつもりだ。
まだ改良の余地はあると思われる点もあるが、歪曲、ボケ、ゴースト、周辺像など、超広角レンズでの実写で気になる部分は高次元で解決されている。
超広角レンズでの風景などアウトドアでの撮影では、多くの場合画面内や近傍に太陽が入ってしまう。そのため、ゴーストの良否が特に重要だ。最新のレンズはどれもコーティングが素晴らしく、ゴーストが気にならないものが多くなったが、その中でも格別の出来だ。ゴーストの少なさが全ての描写の良さを引き出している。
価格も魅力的でコストパフォーマンスも高いが、筆者は本レンズをコストパフォーマンスで格付けしたくない。あえて「素晴らしいレンズ」の一言で本レンズに賛辞を送りたい。