新製品レビュー

キヤノンEOS 5D Mark IV(外観・機能編)

大幅な機能アップを果たした定番ミドルレンジモデル

EF24-70mmF2.8L II USMを装着したEOS 5D Mark IV

2005年のシリーズ初号モデル「EOS 5D」の登場以来プロからアマチュアまで幅広く支持され続け、今やキヤノンを代表するデジタル一眼レフカメラの1つとなったEOS 5Dシリーズ。言うまでもなく35mmフルサイズセンサーを搭載し、その時々に即した最新の機能を満載するミドルレンジモデルである。

2015年にはフルサイズのデジタル一眼レフカメラとしては圧倒的な5,060万画素のイメージセンサーを搭載する派生モデルEOS 5Ds/EOS 5DsRも登場し、従来からのベーシックモデルとともにより一層魅力的で隙のないシリーズとなった。

今回ピックアップするEOS 5D Mark IVはEOS 5D Mark IIIの後継モデルとして3,040万画素のイメージセンサーと多彩な機能を纏う。発売開始は9月8日。執筆時点での実勢価格は税込44万1,500円前後(ボディのみ)だ。

測距エリア選択ボタンが加わる

まずは外観だが、細かな部分の変更はあるものの、デザインのテイストとしては先代モデルを継承する。曲線と曲面を多用し、一部にエッジの立ったラインを入れる手法は、最新のクルマでもよく用いられるが、それと同様のデザイン処理が施される。

EOS 5Ds R(左)と並べたところ。デザインテイストは同じと言ってよいが、微妙にシェイプが異なることがわかる。

ペンタカバーに関しては、初代のEOS 5Dを除き、2代目のEOS 5D Mark IIからデザインテイストはほぼ変わっておらず、それが本モデルのアイデンティティのひとつにもなっている。人によっては好き嫌いがありそうだが、個人的には洗練されたデザインのように感じている。

ペンタ部にはGPSとWi-Fiのアンテナを内蔵する。そのためペンタカバーは樹脂製となり、マグネシウム製のトップカバーとのつなぎ目はご覧のとおり。正直、美しくない。

カメラ銘についてはちょっとうるさく感じられなくもないが、「Mark ○」が「EOS 5D」から離れた位置にあったこれまでにくらべ、これはこれでモデル名が把握しやすい。あとは目が慣れてくるだけだ。

ブランド銘とカメラ銘は1カ所に集約。筆者的には目が慣れていないためか、まだちょっと違和感が。

外観上の際立った変更点といえば、ボディ前面部のカメラ銘の部分と、カメラ背面部、サブ電子ダイヤルとマルチコントローラーの間に新たに配置された測距エリア選択ボタンだろう。

マルチコントローラーとサブ電子ダイヤルの間に、新たに測距エリア選択ボタンを設置。AFエリア選択ボタンを押した後、このボタンを押して測距エリアを選択する。

測距エリア選択ボタンについては、それまでシャッターボタン脇にあったM-Fnボタンが担っていた測距エリアの選択を、その名のとおりこのボタンが担うものである(従来通りM-Fnボタンでも測距エリアの選択は可能)。もちろんこのボタンも機能のカスタマイズが可能で、ISO感度やAEロックなどの機能を割り当てることができる。

先代のEOS 5D Mark IIIにも搭載されていたマルチ電子ロック(サブ電子ダイヤルなどを無効にする)は、新たに搭載された測距エリア選択ボタンにも対応。
新たに搭載された測距エリア選択ボタンもカスタマイズが可能。AEロックやISO感度設定などの機能を割り当てることができる。

ボディサイズは150.7×116.4×75.9mm。バッテリー、メモリーカードを含む質量は890g。EOS 5D Mark III(152.0×116.4×76.4mm、950g)とボディサイズはほぼ同じながら、質量は60gほど軽く仕上がる。

この違いは侮れないもので、特に軽量なレンズを装着したとき、より身軽に感じられるはずだ。参考までにEOS 5D Mark IVとともに発表されたEF24-105mmF4L IS II USMは、同モデルの標準レンズに位置づけられるレンズだが、その質量は795g。これはEOS 5D Mark IIIのやはり標準レンズと位置づけされた先代のEF24-105mmF4L IS USMよりも125g重い。新旧それぞれを組み合わせたときの質量は、新しいほうが結局は65gほど重い結果となっている。

絞り込みボタンの位置に変更はない。操作ボタンカスタマイズで機能の変更が可能なのも同じだ。
従来カメラ側面にあったリモコン端子はカメラ前面部、レンズロック解除ボタンの下へ移動。
モードダイヤルの表記はエングレープされている。先代と同じく中央のモードダイヤルロック解除ボタンを押しながらダイヤルを回転させる。
ボディ側面のインターフェース部。左上より反時計回りにシンクロ端子、外部マイク入力端子、ヘッドフォン端子、ケーブルプロテクター取り付けねじ穴、デジタル端子、HDMIミニ出力端子。
スロットも従来と同じくCFとSDXC/SDHC/SDのダブルタイプ。CFastの搭載は見送られている。
バッテリーは従来と同じLP-E6N/LP-E6を使用。LP-E6Nの場合、ファインダー撮影による標準撮影可能枚数は約900枚(CIPA準拠)を達成。

液晶モニターはタッチ式に

操作感としては先代から大きく変わった部分としては、液晶モニターがタッチ式になったことだろう。ライブビュー撮影時のフォーカスポイントの移動やタッチシャッター、メニューの設定、再生画像の送りなどタッチ操作により可能。なかでも再生画像の拡大や画像の送りなど、従来よりも直感で速やかに行うことができ、たいへん具合がよい。

ライブビュー画面のピントを合わせたい部分にタッチすると合焦後シャッターが切れるタッチシャッター機能も搭載。
液晶モニターへのタッチ操作を行った際の反応を設定することも可能。「敏感」はタッチ操作のできるグローブを手にはめたときなど便利そうだ。

残念ながらニコンD5500が採用するようなファインダー使用時のフォーカスポイントの移動は対応していないが、それでも操作感は飛躍的に向上したと述べてよい。

液晶モニターは3.2型、162万ドットで、暖色/標準/寒色1/寒色2から選べる色調調整機能が搭載されたことも目新しい部分である。その他としては、先に紹介した測距エリア選択ボタンが備わり、測距エリアの選択がよりしやすくなったことも特筆すべき部分だ。

静かになったシャッター音

シャッターを切ったときの感触は、より静かで振動を抑えたものとしているのも新しいEOS 5D Mark IVの特徴。これはEOS 5Ds/EOS 5D sR同様にミラーのアップダウンともにモーター駆動によるところが大きい。キレもよく、トップエンドモデルのそれには及ばないまでも、たいへん心地よいシャッターフィーリングである。

ちなみに、連写性能は7コマ/秒を実現。シャッターのタイムラグもクラスとしては小さく感じられ、動体撮影でも苦労することは少なさそうである。シャッターの耐久性能は先代同様15万ショットとしている。

キーデバイスであるイメージセンサーは、有効3,040万画素CMOSセンサー。いうまでもなく自社製である。EOS 5D Mark IIIが有効2,230万画素だったので飛躍的に増したと言ってよい。ただし、5,060万画素のEOS 5Ds/EOS 5DsRには遠く及ばず、それぞれの個性を尊重した絶妙なバランスの画素数と言ってよいだろう。

画素数が増すとコマ速や高感度での特性など気になるが、画像処理エンジン「DIGIC 6+」の搭載などにより、先代よりも1コマアップの7コマ/秒を実現。

最高感度も常用でISO32000までとよりアップしている(ベース感度は同じISO100)。デジタルカメラは黎明期から日進月歩でスペックがアップしてきたが、今持ってその勢いに衰えていない。階調がより滑らかになったとか、レタッチ耐性が増したなどといわれることの多いEOS 5D Mark IVの写りだが、これに関しては次回画像編を楽しみに待っていてもらいたい。

フラッグシップ機と同等のAFに

AFの進化も見逃せないポイント。EOS-1D X Mark IIと同じ61点高密度レティクルAF IIを採用。フォーカスポイントの点数こそ先代と変わらないものの、動体撮影により的確に対応する。

AFが作動していることを示す表示をファインダーの画面内と画面外から選ぶことができる。画面外とした場合の表示は従来と同じ。

さらに全てのフォーカスポイントはF8に対応しており、超望遠レンズに2倍のテレコンバーターを装着した場合でもAF撮影できる可能性が格段に広がった。低輝度限界性能も向上しており、EV-3に対応。EOS iTR AFにより被写体の顔を検知できるほか、被写体追従性も大きく向上するなど被写体の捕捉性能は圧倒的と述べてよい。

EOS iTR AFによる被写体の自動選択条件を設定することができる。「する(顔優先)」はAF情報および被写体の色情報のほか、人物の顔情報も加味して測距点の自動選択を行う。

さらにコンティニュアスAFも「AIサーボAF III」となり、より高い予測精度が可能に。位相差AFというと被写体との距離によっては時としてAFの精度が緩く感じることも少なくないが、本モデルに関してはその不安は少ないように思える。

新搭載の「DPRAW」とはなにか?

ライブビューでも撮像面位相差AF(デュアルピクセルCMOS AF)に対応する。このAFは、イメーセンサーの1つの画素を2つのフォトダイオードで構成し、それぞれの画像信号を使い位相差AFを行うもの。ライブビュー撮影でも本モデルのAFは極めてスムーズである。

DPRAW設定画面。

そして、このデュアルピクセルCMOS AFの仕組みを応用したのが、「DPRAW」(デュアルピクセルRAW)である。RAWフォーマットのみの記録方式となるが、同社のRAW現像ソフト「Digital Photo Professional 4」(以下、DPP)により解像感補正、ボケシフト、ゴースト低減を可能とする。

なかでも「ボケシフト」機能は前ボケの位置を横方向にシフトできるというユニークなもの。大きくシフトさせることはできないが、それでもボケが被写体と重なってしまったときなど活躍してくれそうである。

また、「解像感補正」機能は奥行き情報に基づいて解像感の微調整ができる有効な機能。ピントにシビアなユーザーは注目したい。

「ゴースト低減」機能にしてもまずまずの結果が得られる。全てのゴーストやフレを除去するわけではないが、少しでも抑えたときなど有効と考えておくとよい。

ただし、DPRAWに設定するとファイルサイズが大きくなるので留意しておきたい。通常のRAWは1カット約38MBであるのに対し、DPRAWでは約67MBサイズにもなる。

カメラ内でデジタルレンズオプティマイザ処理が可能に

これまでDPP上でRAWフォーマットの現像時にしか対応していなかった「デジタルレンズオプティマイザ」が、レンズ光学補正の1つとして搭載されたこともトピック。

レンズ光学補正の「デジタルレンズオプティマイザ」は装着したレンズの光学特性や絞り値などをもとにデジタル補正を行う。JPEGにも有効な機能である。

この機能は平たく言えばデジタル補正による超解像処理で、イメージセンサーやローパスフィルターの特性にはじまり、レンズの光学特性や絞り値などをもとにデジタル補正を行うもの。回折現象や色収差などの補正も合わせて行うなど、より先鋭度の高い描写を得るには心強い機能である。

カメラ内に搭載されたことで、現像時の手間が省けるうえに、JPEGフォーマットにも対応するようになった。本モデルの発売に際してローパスフィルターレスモデルを要望する声も散見されるが、この機能があればその必要性はまったく感じられないはずだ。

なお、本機能をONにした場合、同様にレンズ光学補正に搭載されている色収差補正と回折補正の項目は消え設定できなくなる。このデジタルレンズオプティマイザによる作例も、DPRAWによる作例とともに次回、実写編で紹介する。

デジタルレンズオプティマイザをONにすると、「色収差補正」と「回折補正」の表示が消える。
ボディ内RAW現像機能のレンズ光学補正にも「デジタルレンズオプティマイザ」を搭載する。より品質の高い描写を追い求めるなら積極的に使いたい機能だ。

その他の見所は?

Wi-Fi/NFC、GPSを内蔵したのも、これまでのEOS 5Dシリーズとは異なるところ。

Wi-FiとNFCの搭載も新しいEOS 5D Mark IVの特徴。IEEE 802.11b/g/nに対応し、「EOS Utility」によるリモートコントロールおよび画像閲覧を可能にする。

筆者もそうであったが、先代EOS 5D Mark IIIやEOS 5Ds/EOS 5Ds Rなどの場合、Wi-Fiで画像を転送しようと思うと無線LAN搭載のメモリーカードなどを使用しなければならず、位置情報を記録したいときはGPSレシーバー「GP-E2」をホットシューに装着しなければならなかったことを考えると、大きな進化といえる。また、GPSの場合バッテリーの消耗もよく抑えられており、撮影可能枚数が極端に低下してしまうことがないのもよい。

GPSはホットスタートの「モード1」(左)と、コールドスタートの「モード2」(右)から選択できる。電源を一旦切ってもすぐに位置情報を補足できるのは「モード1」だが、電池の消耗は速い。
ロガー機能では、カメラのたどった位置情報を内蔵メモリーに自動的に記録。専用のソフト「Map Utility」を使用するとパソコンの地図上に撮影場所や移動ルートを表示することができる。

その他、注目の機能としてはピクチャースタイルに「ディテール重視」を追加したことだろう。これは、その名のとおりディテールの再現性を重視したもので、より細部の描写にこだわりたいときなど効果的なスタイルである。同じくピクチャースタイルのパラメーターのひとつ「シャープネス」には、「細かさ」と「しきい値」の設定も可能に。より表現の幅が広がったと言ってよい。

ピクチャースタイルには細部の再現性をより重視した仕上がりの「ディテール重視」が加わる。

さらにホワイトバランスの「オート」は、光源の色みをわずかに残す「雰囲気優先」と、ほぼ完全に補正する「ホワイト優先」から選べられるようにもなった。ともにEOS 5Ds/EOS 5Ds Rにはすでに搭載されているものだが、ベーシックモデルとしては初となるものだ。

ホワイトバランスのオートは「雰囲気優先」(左)と「ホワイト優先」(右)から選ぶことができるようになった。デフォルトは「雰囲気優先」。
雰囲気優先(左)とホワイト優先(右)の作例。ストロボのモデリングランプ(ハロゲンランプ)を光原としているが、調整の違いは一目瞭然。
このところの同社デジタル一眼レフではお馴染みのフリッカーレス撮影機能ももちろん搭載。室内撮影では重宝する機能だ。

まとめ

以上、紹介したもの以外にも先代モデルからの変更点や新しく追加された機能など多数存在する。それをひとつひとつ事細かく解説していくと際限がなくなってしまうほど進化したのがEOS 5D Mark IVだ。

今回、特に注目した部分のみをピックアップして解説したが、それだけでもこの文字数となってしまった。本シリーズは、そのユーザー層の広さからもキヤノンだけでなく、デジタル一眼レフを代表するものといえるが、本モデルはその地位をますます盤石なものにしたといえる。

次回、実写編ではその写りをチェックすることにしたい。

大浦タケシ

(おおうら・たけし)1965年宮崎県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、二輪雑誌編集部、デザイン企画会社を経てフリーに。コマーシャル撮影の現場でデジタルカメラに接した経験を活かし主に写真雑誌等の記事を執筆する。プライベートでは写真を見ることも好きでギャラリー巡りは大切な日課となっている。カメラグランプリ選考委員。