ミニレポート
「ディテール重視」が追加されたピクチャースタイルについて改めて考える
(キヤノンEOS 80D)
Reported by 北村智史(2016/4/12 07:00)
2015年6月に発売されたEOS 5Ds、EOS 5Ds Rから、ピクチャースタイルに「ディテール重視」が追加された。もちろん、わが家にやってきたEOS 80Dにも搭載されている。それにともなって、「シャープネス」の設定が、これまでよりも細かくなった。以前は強さだけしか変えられなかったのが、その「強さ」に加えて、「細かさ」と「しきい値」というパラメーターが増えている。
キヤノン純正RAW現像ソフトのDigital Photo Professionalや、アドビシステムズのAdobe Photoshopなどの画像処理ソフトをいじったことがあれば大丈夫だろうけれど、そういうのが得意ではない人には、なんじゃらほい的項目なのではないかと思う。
簡単に説明しておくと、「強さ」は従来どおりで、数字が大きいほどエッジのコントラスト強調の度合いが高くなり、画像の解像感もあがる。設定範囲は「0」から「7」まで。
「細かさ」は強調するエッジの太さで、「1」から「5」の範囲で設定する。小さくするとエッジが細くなり、繊細な仕上がりになる。大きくするとエッジが太くなり、パッと見の印象が強くなる。
「しきい値」はエッジ強調を行なうかどうかの判断基準となるコントラスト値の設定で、これも「1」から「5」の範囲で設定する。小さくするとコントラストの低いエッジまで強調されるので、面の部分のディテールが引き出せる。大きくするとコントラストの高いエッジだけを強調するので、面の部分は滑らかに表現する。
ちなみに、「オート」と「スタンダード」の初期値は、「強さ」が「3」、「細かさ」と「しきい値」が「4」(「ポートレート」は「強さ」が「2」になって、「風景」は「4」になる)。一方、新しい「ディテール重視」はというと、「強さ」が「4」で「細かさ」と「しきい値」が「1」になっている。
つまり、「スタンダード」はパッと見のシャープさを重視しつつ、人肌などは滑らかに、というチューニング。「ディテール重視」は細かい部分にまでシャープネスをかけることで、繊細かつ解像感の高い仕上がり、というチューニングだと考えればいい。
おもしろいのは、素材性を重視した「ニュートラル」と「忠実設定」の初期値が、「強さ」は「0」なのに、「細かさ」と「しきい値」が「2」になっていることだ。
「強さ」が「0」というのは「シャープネスをかけない」ということで、それなら「細かさ」と「しきい値」の設定も無視される。「オート」「スタンダード」「ポートレート」「風景」の4つは、「細かさ」「しきい値」ともに「4」を初期値にしてあるのに、「ニュートラル」と「忠実設定」だけ「2」にしてある。個人的には、こういうのは意図的だと解釈することにしているので、ようするに、キヤノンさんは、素材性を重視するなら「細かさ」と「しきい値」は「2」がおすすめですよ、と教えてくれているのだと考えるわけだ。
シャープネスの実験
キヤノンのピクチャースタイルのサイトは、まだ「ディテール重視」抜きの古い情報のままなので、あくまで参考として受け止めないといけないが、掲載されている情報によると、「シャープネス」は「2」が「やや弱め」、「3」が「やや強め」で「4」は「強め」ということらしい。なので、「4」より高くすることは、とりあえずは考えないほうがよさそうに思う。
「スタンダード」で「シャープネス」の「強さ」を「4」にして、「細かさ」と「しきい値」を変えて撮り比べてみたのがこちらの画像である。被写体はごらんのとおりの1円硬貨で、1枚は昭和59年、もう1枚は平成26年に製造されたもので、キズのつき具合がずいぶん違う。
まずは「細かさ」が「1」で「しきい値」の違う5枚を見比べてみる。見どころは、新しいほうの1円硬貨の面の部分のディテール再現だ。古いほうのはキズが多く、これはコントラストの高いエッジなので、「しきい値」の違いはあるにはあるが、それほど大きな違いはない。一方、新しいほうはキズが少なく、製造時の細かな凹凸が残っていて、こういった面のニュアンスが「しきい値」が小さいほど引き出せるようだ。
次に、「しきい値」が「1」で「細かさ」の違う5枚を見比べてみる。「細かさ」が「1」だと、コントラストの高いエッジ部分がにじんだかのような、ごくごくわずかにソフトな描写になっているのに対し、「細かさ」を「5」にまで上げると、今度はちょっと強いというか、粗いというか、もう少し優しい感じがほしいように思う。
ただし、どちらもピクセル等倍でパラメーターの違う画像を見比べて、「うーん、ちょっと違うねぇ」程度の差しかないので、実用上はあまり気にしなくていいかもしれない。
というわけで、まあ、かなり自己満足的にではあるが、「強さ」を「4」、「細かさ」と「しきい値」の両方を「2」という設定で使いはじめることにする。
次は色味をどうするか
このところ、落ち着いた発色のモードが好みになってきていて、EOS Kiss X7iは「忠実設定」にしているし、OLYMPUS E-M5 Mark IIもずっと「Nutural」一辺倒だったのを素材性重視の「Flat」に変えている。
「忠実設定」は「被写体の持つ色そのものを維持し」「肉眼に近いしっかりとした描写」が得られるモードで、実際の被写体の色味に近い発色になる。それと比べると、「スタンダード」は明らかに色を作っているのがわかる。赤や黄色、水色などが華やかになり、中間調から明るい部分がより明るめに再現される。
これが「キヤノンが考える、気持ちのいい色がこちらです」という発色なのだろうし、これはこれで嫌いではない。
ついでだから、ほかのピクチャースタイルも見てみよう。こういうのをやるのも久しぶりなので、自分自身も再確認しておきたい。
「ポートレート」は、いわゆる肌色が薄くなって透明感を演出するような感じ。暖色系は明るく華やかになり、寒色系はほとんど変化しない。全体的なコントラストや彩度はしっかりとつけておいて、女性ポートレート要素は明るめに統一してソフトな印象に仕上げてくれる。そんな感じだ。
「風景」は、空の青と植物の緑を深く、PLフィルターを使ったかのような強い色にする。天気のいい日に使うとあざとい表現になりやすいのはこのせいだ。それから、赤から黄色にかけての紅葉/黄葉色を華やかに仕上げてくれる。まさに、日本の自然風景向けチューニングだと思う。
「ニュートラル」は、「忠実設定」と同じく素材性重視のピクチャースタイルだが、色再現としては「スタンダード」寄りで、やや派手めに仕上がっていた赤系だけを少し抑えた感じ。コントラストと彩度を低くして、画像処理ソフトでいじりやすくしたもの、と考えるとわかりやすい。
新しい「ディテール重視」は、「ニュートラル」よりも「スタンダード」に近い仕上がりで、「スタンダード」の赤系の強さと、中間調が明るめに再現されるところ(こちらはコントラストの違いだと思う)を少しひかえめにしたような印象だ。「スタンダード」だと味が濃すぎ、「ニュートラル」では薄すぎに感じる人にはちょうどいいバランスなのではないかと思う。
「忠実設定」は、「ニュートラル」に比べると、素材性重視といいつつも色のノリはいい。むしろ、「ニュートラル」のほうが彩度を抑えているのであり(ピクチャースタイルのサイトの説明を見ると、「色の濃さ」=彩度は「薄い」と書かれている)、中間調からハイライトにかけて少し明るめに再現するくせのある分、「忠実設定」のほうがこってりめに仕上がっている。
ピクチャースタイルの発色特性(シャープネスは強さ:4、細かさ:2、しきい値:2)
さて、目標にしたいのは素直で誇張のない色なので、ベースは「忠実設定」で決まりである。少々地味な印象ではあるが、これはコントラストが低めに設定されているからで、色の情報はしっかり持っている。となれば、「色の濃さ」は変えずに、「コントラスト」だけ少し高めにすればいいだろう。
撮り比べた画像を見ている分には、「コントラスト」は「0」のままでいいような気もするが、光線状態や被写体や気分によっても違ってくるだろうから、シーンによっては「1」とか「2」にしてもいいかもしれない。
コントラストのみ変化(ピクチャースタイル:忠実設定、シャープネスは強さ:4、細かさ:2、しきい値:2)
「ユーザー設定」に、「コントラスト」を「+1」にしたのと、「+2」にしたのを登録しておけば、いちいちピクチャースタイルの中のパラメーターを変える手間を省略できる。せっかく「ユーザー設定」が3つあるのだから、「ユーザー設定1」は「コントラスト」が「0」、「ユーザー設定2」が「+1」、「ユーザー設定3」に「+2」を登録しておけば、それぞれを切り替える手間も少なくできる。
こんな感じでいろいろ撮ってためしてみることにしよう。
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で、これはおまけネタだが、「風景」の「コントラスト」をめいっぱい下げると、ほんわりしたかわいらしい発色になるのを、いろいろいじっていて発見した。これをさらに「色の濃さ」をめいっぱい上げてこてこてにすると、どこかで見たような仕上がりになる。
人物を撮ると、人肌がオレンジ色に偏ってしまうので、その場合は「ポートレート」で同じセッティングにすると人肌はナチュラルに仕上がってくれる。
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