ミニレポート
プロファイルコントロールと新インターフェイスがもたらしたもの
(OLYMPUS PEN-F)
Reported by 礒村浩一(2016/4/13 13:02)
オリンパスから発売されたミラーレスカメラ 「OLYMPUS PEN-F」は、オリンパスがかつて1960年代に発売したフィルム一眼レフ「ペンF」をモチーフに、現代のミラーレスカメラとして復活させた製品だ。マグネシウム製の金属外装と上面がフラットなその姿は、まさにクラシカルな印象を与えるデザインであり、これまでに発売されたPENデジタルシリーズのなかでも、ひときわ高級感のある仕上がりとなっている。
PENシリーズとしては初のEVFを内蔵したこともあり、ダイヤルやボタンは、ファインダーを覗きながら操作しやすい位置に配置されている。露出補正ダイヤルを独立させ、フロントダイヤルは人差し指が最小の移動で済むようにシャッターボタンの同軸に配置、リアダイヤルは背面のサムレストに親指を置くと自然に届く位置に配置するといった具合だ。
ダイヤル類はいずれもアルミの削り出しで作られており、側面には滑り止めとしてダイヤモンドパターンのローレットが刻み込まれている。操作性の向上と見た目の良さの両面に寄与している。
プロファイルコントロールとは何か
PEN-Fには、「カラープロファイルコントロール」「モノクロームプロファイルコントロールが初搭載された(以下、カラー/モノクロプロファイルコントロール)。これは、撮影時に記録する画像の色合いや画像の階調を変化させて好みの仕上がりを得ることができる機能だ。カメラ前面に設けられた新インターフェイス「クリエイティブダイヤル」を回すことで調整できる。
カラープロファイル/モノクロプロファイルコントロールは、クリエイティブダイヤルとフロント/リアダイヤルを使って設定する。ファインダーを覗いたポジションでも問題なく行えるので、慣れれば撮影中でもファインダーから目を離すことなく、好みの設定へと調整できる。
カラープロファイルコントロールの設定画面。右側のレーダーチャートを使って色相と彩度をコントロールできる。
こちらはモノクロプロファイルコントロール設定画面。フィルター効果なしと赤/オレンジ/黄/黄緑/緑/シアン/青/マゼンタの効果を設定できる。
モードダイヤルの下には「ハイライト&シャドウコントロール」を設定するレバーが設置されている。このレバーを操作すると、通常モードではハイライト&シャドウコントロールの設定画面が起動する。
カラー/モノクロプロファイルコントロールモードでレバーを操作すると、プロファイル設定画面とハイライト&シャドウ設定画面が切り替わる(モノクロプロファイルコントロールモードでは、シェード効果の設定画面も加わる)。
クリエイティブダイヤルはアートフィルターとカラークリエイターへの切り替えとしても使用する。
「ART」位置でアートフィルターに。
「CRT」位置でカラークリエイターモードとなる。
またそれぞれのモードでレバーを操作することで、ハイライト&シャドウコントロール設定画面が起動する。
なお、PEN-Fではハイライト&シャドウコントロールで調整したトーンカーブの中間トーンを上下させることができるようになった。これによりハイライト&シャドウでコントラストを設定した状態から全体の明るさを中間トーンを上下することで微調整が可能となる。
クリエイティブマインドを刺戟する自由度の高さ
カラー/モノクロプロファイルコントロールには、3つのプリセットが用意されている。
「カラープロファイル1」は設定値すべてが0の初期設定。「カラープロファイル2」はクロームフィルム リッチカラー、「カラープロファイル3」はクロームフィルム ビビッドと、ポジフィルムをシミュレートした設定となっている。
以下は色の基準となるカラーチャートを、カラープロファイルの設定を変えて一定の光源および明るさで撮影したものだ。プロファイル設定によりカラーチャート上の各色の発色が変化することがわかる。
なお、今回使用したカラーチャートはdatacolor社の「Spyder CHECKR」である。専用アプリと組み合わせることで、RAW画像の現像時に正しい色と明るさの基準を得ることができる。
ピクチャーモードNaturalの画像。これをPEN-Fの基本色とする。
カラープロファイル1で撮影。ピクチャーモードNaturalとほぼ同じ仕上がり。
カラープロファイル2で撮影。
カラープロファイル1より少しコントラストが高まり、青と緑、黄が若干強調されている。これにより白抜けと黒締まりが向上し、各色がくっきりとした発色に感じる仕上がりとなる。リバーサルフィルムのコダクローム64を参考にした仕上がりとのことだ。
カラープロファイル3で撮影。
カラープロファイル2よりさらにコントラストが高まり、メリハリがあり全色の発色が強い。リバーサルフィルムのエクタクローム100を参考にした仕上がりとのことだ。
カラープロファイルは好みに合わせて各色の彩度を設定することができる。初期設定からひとつひとつの色の彩度を決めていっても良いし、事前にプリセットされているカラープロファイルを基に微調整を行い、好みのプロファイルを組み上げるのもいいだろう。
カラープロファイル1の設定からさらに赤を強めたうえで、他の彩度を抑えた。またハイライト&シャドウをOFFにすることでコントラストを標準に戻している。これにより赤色をワンポイントとして活かす設定となった。
青と緑の彩度をあげて発色を強調したうえで、赤の彩度を極端に抑えた設定。赤成分がほぼなくなり黄色の印象が強まる設定となった。
黄、赤、緑の彩度を抑えたうえで、青の彩度をあげた設定。全体にクールでロートーンな印象となり非日常的なダークな雰囲気の画像となる。
モノクロプロファイルコントロールにもプリセットが3つある。
モノクロプロファイルでは、光のなかの特定の波長をカットする効果を持つカラーフィルターをかけた状態をシミュレートすることで、モノクロ化したときの色の濃淡をコントロール出来るようになっている。このあたりの話はモノクロ写真の知識が必要とされるので、また別の機会を設けて詳しく検証したい。
初期設定のモノクロプロファイル1で撮影。平均的な階調の画像だ。
モノクロプロファイル2「クラッシックフィルム モノクロ」で撮影。
ハイライト&シャドウを強めにかけたコントラストの高い設定である。フィルムの粒状性を再現したフィルム効果(強)も反映されている。
モノクロプロファイル3「クラッシックフィルム IR」で撮影。
カラーフィルター赤が少し強めにかかる。これにより被写体の赤い部分の輝度があがり、見た目がほぼ白くなる。また緑や青の輝度は下がるので撮影画像では黒く写る。これは赤外線に感光する赤外フイルムの特性をシミュレートしたものだ。フィルム効果(弱)も反映されている。
作例
実際に、クリエイティブダイヤルを操作しながらカラープロファイルを調整して撮影してみた。同時に、ハイライト&シャドウも適用している。参考までに、同時記録のRAW画像からピクチャーモードNaturalで現像したJPEG画像も掲載するので、違いを見て欲しい。
ハイライト&シャドウコントロールでローコントラストな状況をつくり出し、カラープロファイルで赤と青を同時に強調。桜のピンクの春色と、まだ少し冷え込みの残る春霞を演出した。
薄曇りな光のもとでの撮影。カラフルなチューリップの花と葉を鮮やかにするため赤、黄、緑を強調した。
こどもが公園の遊具で遊ぶ光景。ハイライト&シャドウでローコントラストにしたうえで彩度を上げた色を乗せていきポップな印象の画像とした。
他の画像からプロファイルのコピーも
PEN-Fに付属する「OLYMPUS Viewer3」を使うことで、画像データからカラー/モノクロプロファイルを読み込み、別のRAW画像に適用して書き出すこともできる。
ただしカラー/モノクロプロファイルコントロール機能が搭載されたカメラで撮影された画像に限定される。対応機種は現時点ではPEN-Fのみだが、今後発売される製品での対応も期待したい。
カラー/モノクロプロファイルを適用したい画像をOLYMPUS Viewer3のRAW現像モードで表示したうえで、仕上がり設定でカラー/モノクロプロファイルを指定。プロファイル読み込みボタンを押すと、プロファイルのコピー元画像を選択するウインドウが開く。
元画像からプロファイル設定を読み込むと、RAW現像モードの仕上がり設定とハイライト&シャドウコントロールの設定が適用される。これを書き出すことでプロファイルが適用された画像が保存される。
赤を強調して桜の花のピンクを引き出すと同時に、緑を強調して新緑の鮮やかさを表現した。ハイライト&シャドウで桜の木と背景の緑の輝度差を縮める。
PEN-Fはそのクラシカルな見た目により、往年のクラッシックカメラファンから大きな注目を集めているカメラだ。しかしその実態は最新鋭のデジタルカメラである。新搭載のクリエイティブダイヤルを操作することで、撮影者の意図を前面に押し出した作品撮影が可能であり、その設定は撮影を進めながら直感的に行えるほどに洗練されている。
プロファイルの概念を理解するのに多少の時間がかかるかもしれないが、いちど理解できれば、これまでPCで行ってきたRAW現像時の作業に近いものを、カメラ内で完結させてしまうことが可能だ。被写体に向かい合い、イメージを追い込み、シャッターを切る、という本気度の高い撮影を、いやがうえにも要求されてしまいかねない。
これまでのどのPENシリーズよりも、さらに作品制作の領域に踏み込んだ本気のカメラだと感じた。