切り貼りデジカメ実験室

瞬間露光間ズーム+シフトアダプター

「発見!」にズームインする新表現

FUJIFILM X-T10にKIPON製のシフト/ティルトアダプター(ニコンFマウント)を介して「IX-Nikkor 30-60mm F4-5.6」(以前の記事で紹介した改造品)を装着。レンズをシフトしながら、ズームリングを瞬間的に動かす「瞬間露光間ズーム+シフト」撮影法を試してみた。これにより「露光間ズームの中心点」を画面中心から外すことができるのだが、これまでありそうでなかった、たいへん面白い表現になった。

瞬間露光間ズームの中心点をシフトさせてみる

この連載も気付けば9年目! に突入しているのだが、私は仮面ライダーに敵対するショッカーのように、毎回違う改造人間……もとい改造カメラを開発しなければならず、いったい誰と戦っているのか? という感じなのだが(笑)、ともかくネタを考えるのもタイヘンなのである。

そんな苦労を見かねた担当編集者さんから「例えばですが、瞬時に動かす露光間ズームで普通のレンズでは撮れないようなおもしろい写真などは撮れたりしますでしょうか……」というアイデアをいただいたのだった。

「露光間ズーム」とは文字通り、カメラのシャッターが開き露光している最中に、レンズのズームリングを動かす撮影法だ。これにより画面周辺が放射状に流れ、漫画の集中線のような効果のある写真が撮れる。

露光間ズームは手持ち撮影が難しく、三脚に固定して夜間撮影に応用するのが一般的だ。そこでズームリングを瞬時に動かす工夫ができれば、これまでにない表現になるのでは? と言うのが編集部からの提案なのである。

もちろんズームリングは瞬時に動かすものではなく、無理をすると壊れる可能性がある。そこで手持ちの使わなくなったレンズのうち、ズームリングが緩くなったものを選んでみた。それがIX Nikkor 30-60mm F4-5.6なのだが、これはこの連載の「APSフィルムカメラ専用『IXニッコール』をフルサイズ機に装着」という記事で紹介したものだ。

しかし私はこれだけでは今ひとつ不十分だと感じ、もう1つアイデアを付け加えることにした。それが露光間ズームと、シフトアダプターとの併用である。

一眼レフの時代でシフト撮影するには、専用のシフトレンズを使うしかなかった。しかしミラーレスカメラの時代になって、シフト機能を持ったマウントアダプターが発売されるようになった。

このシフト付きマウントアダプターを使えば、ズームレンズもシフトレンズとして使う事ができるのだ。

シフトレンズの効果については「ニコンDfでアオリ撮影用『PC-Nikkor』新旧3本撮り比べ」で紹介したが、この機能を露光間ズームと組み合わせてみるのである。

するとどういう写真が撮れるのか? といえば「露光間ズーム」の中心点をずらした写真が撮れるはずなのである。しかし前例が無いだけに、ともかくやってみないとわからないのである。

―注意―
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カメラとレンズの工夫

今回使用するのは中国KIPON(キポン)製のシフト/ティルト機能付きマウントアダプターだ。レンズ側がニコンFマウント、ボディ側がフジXマウントのタイプをセレクトした。これを装着するとどんなレンズもシフト/ティルト付きレンズに早変わりする優れものだ。焦点工房が扱っている
シフト量は15mm、ティルト量は12度。これはPC-E NIKKOR 24mm F3.5 D EDのシフト量11.5mm、ティルト量8.5度よりも多く、使い出がありそうだ。もちろんアオリ方向を変えるレボルビング機能も備える。また絞りリングを持たないニッコールレンズのための絞りレバーも備えている。複雑な動きをするアダプターだがガタ付きもなくなめらかで、操作性もよく考えられていて感心してしまう
ボディはFUJIFILM X-T10、レンズはIX-Nikkor 30-60mm F4-5.6(改造品)を選んでみた。このレンズは「APSフィルムカメラ専用『IXニッコール』をフルサイズ機に装着」で紹介したものだが、ズームリングがスカスカで、今回の「瞬間露光間ズーム」のアイデアに最適だと踏んだのである
さて「瞬間露光間ズーム」のための装置だが、動力にゴムを使う事にしてみた。ついでながら今回の改造は「ゴム鉄砲」と同じく輪ゴムと割り箸で作ることにした。まず半分ほどにカットした割り箸を、輪ゴムを使ってレンズのズームリングに固定する
カメラボディ底面にも割り箸を取り付け、ズームリングの割り箸との間に動力となる輪ゴムをセットすると「瞬間露光間ズーム装置」が完成する
ボディ側の割り箸は、カメラブラケットと三脚止めネジを使って固定されている。
このようにレバーを引いてゴムの力をチャージし、シャッターボタンを押すのと同時にレバーを離すと「瞬間露光間ズーム」が可能になる……はずなのだが、実際に試してみるとタイミングが非常に難しい。そもそもこの「装置」を付けたままでは、レンズそのものをシフトする事ができなくなり、もう1つのアイデアがスポイルされてしまう
そこで気を取り直して「装置」を取り外し、手持ちで「瞬間露光間ズーム」を試してみると、こっちの方がタイミングが計りやすく成功率が高いことが判明したのである(笑)。もちろん今回のもう1つのアイデアである「シフト機能との組み合わせ」にも十分対応でき、結果的にはこれまでに無い面白い写真が撮れたのだが、今回の実験は半分失敗で半分成功だと言える。以下、その成果をご覧いただきたい

テスト撮影

テスト撮影の結果、ズームリングが緩くなったレンズを使えば、特に装置を使わずとも手持ちで「瞬間露光間ズーム」が行えることが判明した。

シャッター速度を1/30~1/60秒に固定し、シャッターボタンを押すのと同時にズームリングをすばやく回転させれば「瞬間露光間ズーム」は確かに撮れるのである。

露出はマニュアルモードで、ライブビューで明るさを確認しながら絞りレバーを動かし調整した。

また、アダプターのシフト機能と組み合わせると、露光間ズームの中心点をずらした新しい表現が得られることもわかった。

もちろんズームリングを回転するタイミングが微妙だったり、手ブレに注意する必要もあるが、何枚か失敗を重ねればそのうちコツがつかめてきて、成功率は高くなる。

 ◇           ◇

まずはノーマルに撮影してみる。IX-Nikkor 30-60mmの広角30mm(ライカ判換算45mm相当)にて撮影。ライカ判フルサイズのイメージサークルを持ち、シフトアダプターの使用にも耐えることができる。被写体は「目の看板」のある風景で、藤沢市内のあちこちで同じ看板を見ることができる。

次に、シフト量ゼロのノーマル状態で「瞬間露光間ズーム」を行ってみる。画面周辺部が流れて漫画の集中線のような効果となり、中心部の被写体が強調される。しかしこれだけでは今ひとつ単調で、ありきたりだ。

そこでレンズをシフトして、2つ並んだ看板の右側に「瞬間露光間ズーム」を行ってみた。

さらにレンズを反対方向にシフトして、左側の看板に「露光間ズーム」を行ってみた。同じシーンであるにもかかわらず、「露光間ズーム」の中心部をシフトする事によって表現が変わってなかなか面白い。「露光間ズーム+シフト機能」の組み合わせそのものは、実験として成功だと言えるだろう。

カメラの使用感と実写作品

さて「瞬間露光間ズーム+シフト機能」で何を撮ろうか? と考えてみたのだが、この表現は自分が路上観察で何か「発見」した瞬間の感覚を表現するのに適している、ということにあらためて気付いたのだ。

私は赤瀬川原平さんの影響を受けて、路上観察しながら何かヘンなものを発見するのも得意なのだが、そうした場合はたいてい目の端に「おや!?」と思えるものが引っかかるのだ。その瞬間の感覚を「露光間ズーム+シフト機能」はリアルに表現できるのだ。

最近の私はモノクロ写真などマジメに写真を撮り歩くことが多くなっているが、今回は久しぶりに眼を「路上観察モード」に切り替えて、鎌倉と新宿の街並みを歩いてみた。

 ◇           ◇

鎌倉大仏への案内文字だが、よく見ると「大仏右折」と印字されたシールでできている。

レンジがしゃべってるような注意書き。鎌倉にて。

玄関からだるまさん? が睨んでいる。鎌倉にて。

垣根の向こうからスズメが見ている。鎌倉にて。

もみじマーク(高齢運転者標識)が貼られた自転車。鎌倉にて。

扉の開閉レバーに、自転車のベルが付いている。鎌倉にて。

階段も無いのに、2階にドアだけがある。典型的なトマソン(高所ドアタイプ)だ。新宿にて。

さり気なく開かずの扉になっている。新宿にて。

 ◇           ◇

実際に「瞬間露光間ズーム+シフト機能」で撮影してみると、これはけっこう難しい。まずシャッターを押すタイミングと、ズームリングを動かすタイミングや速度を合わせるのが難しい。しかし何度か撮影するうちに、だんだんとコツがつかめてきて、微妙なコントロールができるようになってくる。

またシフト機能を使って「露光間ズームの中心点」と、主要被写体を重ね合わせるのも、思いのほか難しい。そもそもレンズから投影される像は、デジカメの撮像素子に「上下逆」に投影されるのだ。だから例えば画面の「右上」に「露光間ズームの中心点」を置きたいときは、レンズを「左下」方向にシフトする必要があり、慣れないと頭がごっちゃになってしまう。

ともあれそのような苦労の甲斐あって、今回もなかなか面白い写真が撮れたのではないかと思う。

もちろん、FUJIFILM X-T10そのものは非常に使いやすく、APS-Cサイズとは思えないほど小型軽量で、カメラとしての精密度も高く凝縮感がある。フィルムカメラのようなシャッター速度ダイヤルを装備している点も、今回のようなシャッター速度優先的な使い方にも適している。

KIPONのシフト/ティルトアダプターは、機能も操作性も非常に良く考えられていて、工作精度も良く感心してしまう。とは言え上記のように使いこなしにはコツが必要で、シフトしたりティルトしたりということの「意味」や「原理」をきちんと理解する必要がある。それだけにこのアダプターは大変な可能性を秘めていて、私もいくつかアイデアを考えているので、またの機会に取りあげてみたいと思っている。

糸崎公朗