切り貼りデジカメ実験室
瞬間露光間ズーム+シフトアダプター
「発見!」にズームインする新表現
Reported by 糸崎公朗(2016/4/8 08:00)
瞬間露光間ズームの中心点をシフトさせてみる
この連載も気付けば9年目! に突入しているのだが、私は仮面ライダーに敵対するショッカーのように、毎回違う改造人間……もとい改造カメラを開発しなければならず、いったい誰と戦っているのか? という感じなのだが(笑)、ともかくネタを考えるのもタイヘンなのである。
そんな苦労を見かねた担当編集者さんから「例えばですが、瞬時に動かす露光間ズームで普通のレンズでは撮れないようなおもしろい写真などは撮れたりしますでしょうか……」というアイデアをいただいたのだった。
「露光間ズーム」とは文字通り、カメラのシャッターが開き露光している最中に、レンズのズームリングを動かす撮影法だ。これにより画面周辺が放射状に流れ、漫画の集中線のような効果のある写真が撮れる。
露光間ズームは手持ち撮影が難しく、三脚に固定して夜間撮影に応用するのが一般的だ。そこでズームリングを瞬時に動かす工夫ができれば、これまでにない表現になるのでは? と言うのが編集部からの提案なのである。
もちろんズームリングは瞬時に動かすものではなく、無理をすると壊れる可能性がある。そこで手持ちの使わなくなったレンズのうち、ズームリングが緩くなったものを選んでみた。それがIX Nikkor 30-60mm F4-5.6なのだが、これはこの連載の「APSフィルムカメラ専用『IXニッコール』をフルサイズ機に装着」という記事で紹介したものだ。
しかし私はこれだけでは今ひとつ不十分だと感じ、もう1つアイデアを付け加えることにした。それが露光間ズームと、シフトアダプターとの併用である。
一眼レフの時代でシフト撮影するには、専用のシフトレンズを使うしかなかった。しかしミラーレスカメラの時代になって、シフト機能を持ったマウントアダプターが発売されるようになった。
このシフト付きマウントアダプターを使えば、ズームレンズもシフトレンズとして使う事ができるのだ。
シフトレンズの効果については「ニコンDfでアオリ撮影用『PC-Nikkor』新旧3本撮り比べ」で紹介したが、この機能を露光間ズームと組み合わせてみるのである。
するとどういう写真が撮れるのか? といえば「露光間ズーム」の中心点をずらした写真が撮れるはずなのである。しかし前例が無いだけに、ともかくやってみないとわからないのである。
―注意―- 本記事はメーカーの想定する使い方とは異なります。糸崎公朗およびデジカメ Watch編集部がメーカーに断りなく企画した内容ですので、類似の行為を行う方は自己責任でお願いします。
- この記事を読んで行なった行為によって、生じた損害はデジカメWatch編集部、糸崎公朗および、メーカー、購入店もその責を負いません。
- デジカメWatch編集部および糸崎公朗は、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。
テスト撮影
テスト撮影の結果、ズームリングが緩くなったレンズを使えば、特に装置を使わずとも手持ちで「瞬間露光間ズーム」が行えることが判明した。
シャッター速度を1/30~1/60秒に固定し、シャッターボタンを押すのと同時にズームリングをすばやく回転させれば「瞬間露光間ズーム」は確かに撮れるのである。
露出はマニュアルモードで、ライブビューで明るさを確認しながら絞りレバーを動かし調整した。
また、アダプターのシフト機能と組み合わせると、露光間ズームの中心点をずらした新しい表現が得られることもわかった。
もちろんズームリングを回転するタイミングが微妙だったり、手ブレに注意する必要もあるが、何枚か失敗を重ねればそのうちコツがつかめてきて、成功率は高くなる。
◇ ◇
まずはノーマルに撮影してみる。IX-Nikkor 30-60mmの広角30mm(ライカ判換算45mm相当)にて撮影。ライカ判フルサイズのイメージサークルを持ち、シフトアダプターの使用にも耐えることができる。被写体は「目の看板」のある風景で、藤沢市内のあちこちで同じ看板を見ることができる。
次に、シフト量ゼロのノーマル状態で「瞬間露光間ズーム」を行ってみる。画面周辺部が流れて漫画の集中線のような効果となり、中心部の被写体が強調される。しかしこれだけでは今ひとつ単調で、ありきたりだ。
そこでレンズをシフトして、2つ並んだ看板の右側に「瞬間露光間ズーム」を行ってみた。
さらにレンズを反対方向にシフトして、左側の看板に「露光間ズーム」を行ってみた。同じシーンであるにもかかわらず、「露光間ズーム」の中心部をシフトする事によって表現が変わってなかなか面白い。「露光間ズーム+シフト機能」の組み合わせそのものは、実験として成功だと言えるだろう。
カメラの使用感と実写作品
さて「瞬間露光間ズーム+シフト機能」で何を撮ろうか? と考えてみたのだが、この表現は自分が路上観察で何か「発見」した瞬間の感覚を表現するのに適している、ということにあらためて気付いたのだ。
私は赤瀬川原平さんの影響を受けて、路上観察しながら何かヘンなものを発見するのも得意なのだが、そうした場合はたいてい目の端に「おや!?」と思えるものが引っかかるのだ。その瞬間の感覚を「露光間ズーム+シフト機能」はリアルに表現できるのだ。
最近の私はモノクロ写真などマジメに写真を撮り歩くことが多くなっているが、今回は久しぶりに眼を「路上観察モード」に切り替えて、鎌倉と新宿の街並みを歩いてみた。
◇ ◇
鎌倉大仏への案内文字だが、よく見ると「大仏右折」と印字されたシールでできている。
レンジがしゃべってるような注意書き。鎌倉にて。
玄関からだるまさん? が睨んでいる。鎌倉にて。
垣根の向こうからスズメが見ている。鎌倉にて。
もみじマーク(高齢運転者標識)が貼られた自転車。鎌倉にて。
扉の開閉レバーに、自転車のベルが付いている。鎌倉にて。
階段も無いのに、2階にドアだけがある。典型的なトマソン(高所ドアタイプ)だ。新宿にて。
さり気なく開かずの扉になっている。新宿にて。
◇ ◇
実際に「瞬間露光間ズーム+シフト機能」で撮影してみると、これはけっこう難しい。まずシャッターを押すタイミングと、ズームリングを動かすタイミングや速度を合わせるのが難しい。しかし何度か撮影するうちに、だんだんとコツがつかめてきて、微妙なコントロールができるようになってくる。
またシフト機能を使って「露光間ズームの中心点」と、主要被写体を重ね合わせるのも、思いのほか難しい。そもそもレンズから投影される像は、デジカメの撮像素子に「上下逆」に投影されるのだ。だから例えば画面の「右上」に「露光間ズームの中心点」を置きたいときは、レンズを「左下」方向にシフトする必要があり、慣れないと頭がごっちゃになってしまう。
ともあれそのような苦労の甲斐あって、今回もなかなか面白い写真が撮れたのではないかと思う。
もちろん、FUJIFILM X-T10そのものは非常に使いやすく、APS-Cサイズとは思えないほど小型軽量で、カメラとしての精密度も高く凝縮感がある。フィルムカメラのようなシャッター速度ダイヤルを装備している点も、今回のようなシャッター速度優先的な使い方にも適している。
KIPONのシフト/ティルトアダプターは、機能も操作性も非常に良く考えられていて、工作精度も良く感心してしまう。とは言え上記のように使いこなしにはコツが必要で、シフトしたりティルトしたりということの「意味」や「原理」をきちんと理解する必要がある。それだけにこのアダプターは大変な可能性を秘めていて、私もいくつかアイデアを考えているので、またの機会に取りあげてみたいと思っている。