切り貼りデジカメ実験室
中間距離だけがボケる?「魚眼マクロ写真」
魚眼レンズをティルトさせてみる
Reported by 糸崎公朗(2016/5/18 12:00)
「瞬間露光間ズーム」の中心点をシフトさせてみる
前回の「瞬間露光間ズーム」と同様、KIPON製のシフト/ティルトアダプター(ニコンFマウント)を使った実験を紹介しようと思うのだが、このマウントアダプターはなかなか良くできていて、気に入ってしまったのである。
それで前回は同アダプターの「シフト機能」を紹介したので、今回は「ティルト機能」を使いこなしてみようと思う。
ティルト機能とは、レンズの光軸を斜めに傾ける機能で、その効果は大別して2つある。1つはピントが合った箇所以外を大きくぼかす効果で、これによる「ミニチュア風写真」はすっかりありきたりな表現になり、私としては興味がない。
もう1つはその逆に、レンズ本来の被写界深度を超えて、遠近の両方にピント合わせをする効果だ。この手法は大判フィルムカメラで商品撮影する場合などに多用されてきたが、私はデジタルカメラと魚眼レンズを組み合わせてティルト撮影することを考えていたのである。
魚眼レンズをティルト撮影するとどうなるのか? と言えば、マクロ域と無限遠の両方にピントの合った写真が撮れるはずなのである。魚眼レンズは焦点距離が短く、無限遠からマクロ域までレンズの繰り出し量が少ない。だからより少ないティルト量(傾きの角度)でより遠近のピントの差が激しいダイナミックな写真が撮れるはずなのである。
ところが、手持ちの魚眼レンズ「SIGMA 8mm F3.5 EX DG Circular Fisheye」(ニコンFマウント)とアダプターのティルト機能を組み合わせて撮影してみると、画面の端がケラレてしまうことが判明した。
アダプターにはティルト用に円弧状の溝が設けられているが、この円弧の中心点と、カメラの撮像素子の中心点とが、ズレているのが原因だと思われる。
そこでこのズレを修正するために、「シフト機能」を併用しようと思うのだが、KIPONのアダプターは「シフト」と「ティルト」の動作軸が90度ズレていて、同方向に併用することが不可能なのである。
そこでちょっと思案した挙げ句、以前にこの連載で紹介したシフトレンズ「PC-Nikkor 28mm F3.5」と、アダプターのティルト機能を組み合わせることを思い付いた。もちろん「PC-Nikkor 28mm F3.5」は魚眼レンズではないのだが、そこに魚眼コンバーターレンズを装着することにしたのである。
―注意―- 本記事はメーカーの想定する使い方とは異なります。糸崎公朗およびデジカメ Watch編集部がメーカーに断りなく企画した内容ですので、類似の行為を行う方は自己責任でお願いします。
- この記事を読んで行なった行為によって、生じた損害はデジカメWatch編集部、糸崎公朗および、メーカー、購入店もその責を負いません。
- デジカメWatch編集部および糸崎公朗は、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。
実写作品
今回はレンズの特性を活かして、新宿の街並みで人工物と自然物の対比をテーマに撮影してみた。と言うよりも、私の撮影テーマの1つに「人工物と自然物の対比」というのがあって、それを「路上ネイチャー」と名付けているのだが、その表現のため「手前と奥の両方にピントを合わせる」方法を、いろいろと考えてきたのである。
それは例えばこの連載でも紹介した「二焦点レンズ」や「デジワイド」なのだが、それとはまた違った技法を試してみたのである。
ともかく新宿は都会のど真ん中のようでいて、ちょっと空き地があると草が生えて虫もいたりして、また意外に古い街並みが残っていて植物も大事に栽培されていて、いろいろ見て撮って歩くには面白い場所なのである。
カメラの露出は基本的にMモードで、必要に応じてストロボをマニュアル発光させている。X-T1のストロボ同調シャッター速度は最高1/180秒だが、実際にテストしたところ1/250秒まで同調することが判明した。レンズの絞り値はExif情報に記されていないが、いずれもF8に設定して撮影している。
◇ ◇
新宿ゴールデン街の裏には「四季の道」と言う自然豊かな遊歩道があるが、そこに咲いていたムラサキカタバミの花を撮ってみた。画面右側は遠景の遊歩道に、画面左は手前のムラサキカタバミにピントを合わせている。
次に新宿に残る古い住宅街に行ってみた。バラが綺麗だったので撮影してみたが、ストロボを使用している。左手前のバラから奥に従ってなだらかにピントが合っているのがわかるだろう。
プリムラの花。もう終わりかけの時期でまばらだったが、そのぶん背景が見えて、不思議な奥行きのある表現になった。ストロボ使用。
シランの花。蘭の中では丈夫で増えやすいので、住宅地などでもよく見掛ける。風で花が揺れていたが、ストロボの一瞬の光によってブレずに撮ることができた。
飛んでいるセグロアシナガバチ。ティルト魚眼レンズで飛んでいる虫にピントを合わせるのは至難のワザだが、これは偶然にもピントが合っている。シャッター速度1/500秒でストロボを発光させている。本来ならシンクロ速度の範囲外だが、このように被写体の一部を照明する用途であれば、ケラレを気にせず使う事ができるのである。
ハルジョオンに小さなハムシが止まっていた。種類を確認しようとしたら飛んで行ってしまった。都会のど真ん中にエアポケットのようにできた空き地で、不思議な雰囲気の空間である。
明治通り沿いに咲いていた、ハルジョオンの蜜を吸うハナアブ。ハチに擬態しているが、虫にちょっと詳しい人が見れば、アブであることはすぐに判別できる。ハルジョオンはいわゆる雑草で、街路樹の根元に生えていた。
先ほどと同じ場所で撮ったハナアブだが、少し角度が変わるだけで背景がガラリと変わった写真が撮れるのが、魚眼レンズによるマクロ写真の魅力でもある。
実は、前回使用したX-T10はボディがコンパクトで、KIPONのシフト/ティルトアダプターが大柄のため、その組み合わせがちょっとアンバランスだったのだ。そこで今回X-T1をお借りしたのである。
X-T1は特に大型のカメラではないが、グリップもしっかりして持ちやすく、大柄なレンズを装着しても持ちやすい。また、プロユースの上位機種だけあってダイヤル類のロックもできて、ファインダー倍率も大きく見やすい。
今回のティルト撮影ではピント合わせにコツが必要で、まずピントの拡大モードを使って、画面端を無限遠に合わせる。次にピント拡大のポイントを画面の反対位置に移動させ、ピントリングは固定したまま、カメラを前後しながらピント合わせをする。
そうすると、画面の片側が遠景に、その反対側が近景にピントが合った写真を撮ることができる。X-T1は各種マニュアル操作にも優れているので、このような特殊な撮影にも対応できるのだ。