デビュー当時に改造したマクロストロボを、新たなアイデアで改造する
思い起こせば、ぼくの「カメラライター」としてのデビューは、「デジタルカメラマガジン」誌で2004年10月から連載した「LOMG TERM TEST リコーCaplio GX」だった。
当時の新鋭機Caplio GXをネタに、毎号何らかの工夫や改造を紹介し、本連載「切り貼りデジカメ実験室」の原点とも言える内容である。
この連載の第4回目に「改造マクロストロボ」を紹介している。パナソニックのストロボ「PE-28S」(生産中止品)をベースにし、発光部を切り離しコードで延長する改造を施している。そして発光部はCaplio GXのレンズ先端に、自作の専用アダプターによって装着できる仕組みになっている。
しかし、この「改造マクロストロボ」を他のカメラで使うためのアダプターは、ついに製作しないままに終わっていた。いや、いつかやろうとは思っていたのだが、ついつい先延ばしになっていたのだ。せっかく苦労してストロボを改造したのに、これは非常に勿体ない事である。
そこで今回は、過去に製作したマクロストロボに、さらに新しいアイデアを加え、より汎用性を高めた改造を施す事にした。ポイントとなるのは「フレキシブルアーム」のパーツで、これにより発光部を自在な位置に固定しようと目論んだのだ。
使用するカメラは「OLYMPUS OM-D E-M1」で、「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO」と組み合わせる。高性能を謳ったPROラインのこのレンズは最短撮影距離が20cmと短く、望遠マクロでも広角マクロでも非常に描写力が高い。この性能を十二分に活かすため、ストロボによる照明を工夫しようと思い立ったのだ。
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まずご覧に入れたいのはデジタルカメラマガジン2005年1月号に掲載した、高倍率マクロ仕様のリコーCaploi GXである。もちろんぼくの手による改造品で、レイノックス製クローズアップレンズ「MSN-500」と、マクロ仕様に改造したストロボを装着している 後ろから見たところだが、背面液晶モニターには35mmフィルム用スライドビューワーを改造した「ファインダールーペ」を装着している。このように、Caplio GXをベースに様々に工夫を凝らす内容の連載を、ぼくはデジタルカメラマガジンに2004年10月よりスタートさせている。「デジカメライター」としての初仕事で、もう10年近くもこんな記事を書いてきたのだった 今回はこの改造マクロストロボを、さらに改造しようと思うのだが、その前にもうちょっと当時の工夫について述べてみたい。ベースとなったストロボはパナソニック「PE-28S」(生産中止品)で、発光部を取り外しコードで延長する改造を施している。PE-28Sは通常の「外光オート用調光センサー」の他に、「マクロオート用調光センサー」(矢印部分)を備えているのも特徴だが、この箇所にも改造を施している この写真ではわかりづらいのだが、これ以上分解してお見せすると壊してしまいそうで、申し訳ない。実はストロボ発光部の反射鏡に穴を空け、その内側に本体から取り外した「マクロオート用調光センサー」を取り付けている。これによってセンサーはストロボ光を“直”に受ける事になり、発光量は常に最小に制御される。このセンサーの改造は、当時の連載ではスペースの都合上書く事ができなかった内容で、今回はどうしても書きたかったのだ(笑) PE-28Sの背面操作パネルだが、通常はダイヤル操作で「オート」「マクロオート」「マニュアル」「スレーブ」のモード切り替えが可能で、さらにそれぞれの発光量を「1EVステップ3段階」に調節できる。しかし調光センサーの改造後は「マクロモード」が「微弱発光モード」となり、通常のマニュアルモードと合わせ、6段階の発光量が調節可能になったのだ これは参考までに、高倍率マクロ仕様のCaploi GXにて当時撮影したクロクサアリの写真だが、今見てもなかなか良く写っている。というわけで「オールドデジカメの凱旋」の糸崎版ミニコーナーはこれくらいにして(笑)本題に移ろう さて今回新たな改造に使用するのは、ご覧のフレキシブルアームである。これは数年前にヨドバシカメラで買ったもので「LOC-LINE」の刻印があるものの詳細は不明だ。フレキシブルアームとしての構造は「ゴリラポッド」に似ているが、こちらの方が腰が強くより重いパーツを支えることができる。しかしぼくが持っているのはこのアーム単体のみで、取り付け方法を考えなければならない そこでいろいろと作戦を練った挙げ句、まずボルトをコンロで軽く熱することにした 熱したボルトをフレキシブルアームの穴にジュワッと溶かしながら差し込むと、かなりしっかりと固定する事ができる ストロボ発光部と、ストロボ本体のそれぞれにフレキシブルアームを取り付けるための「基部」を製作する。ABS板をカットしたパーツを、ABS樹脂専用接着剤で組み立てている フレキシブルアームを各パーツにボルト止めし、さらにドリルで穴を明け、ネジ止めした。実はこのフレキシブルアームは接着しにくいポリプロピレン製のため、固定方法にはずいぶんと悩んでしまった。可動部分の固定は、それなりに頑丈にする必要があるのだ すべてのパーツを組み立てると、このようになる。ちょっと機動戦士ガンダムに出てきた水陸両用モビルスーツ「ゴック」に似てるかも知れない(笑) 専用のディフューザーも製作してみた。材料は100円ショップで買ったタッパーと、コンビニ袋。取り付けはマジックテープ(面ファスナー)で行う 新たに改造した「フレキシブルアーム付きマクロストロボ」をE-M1に装着したところ 文字通りフレシキブルに発光部の位置を変える事ができる。しかし試写の結果、このストロボ1灯だけではどうも物足りない事が判明した そこでストロボを2灯式にすべく、さらに一計を案じることになった。まず、E-M1のホットシューのストロボをニコン「スピードライトSB-30」(生産中止品)に付け替える。発光部にはフィルムケースを改造したディフューザーを装着。SB-30は小型軽量ながらマニュアル調光や発光部の角度変更が可能で、マクロストロボとしても非常に重宝する 次に、ご覧のストロボブラケットを用意した。これも数年前にカメラ店のジャンクコーナーで買ったもので、詳細は不明。しかしアクセサリーシューが回転して固定できない仕様で、どうも使いにくい そこで、アクセサリーシューを固定するためのパーツを製作。材料はABS板である ブラケットにアクセサリーシュー固定パーツを取り付け、さらにホットシューアダプターを装着。ここに「フレキシブルアーム付きマクロストロボ」を装着する事にする。また、ホットシューアダプターのコードは、E-M1ボディのシンクロソケットに装着する。汎用規格のシンクロソケットを装備する点も、オリンパスの最高機種であるE-M1の特徴だといえる。 すべてのパーツを装着するとこのようになる。マクロ撮影において正面からの照明と、逆光気味の照明の2灯式システムとなった 背面から見たところだが、E-M1の露出モードはマニュアルにセットする。2つのストロボもそれぞれマニュアル調光で制御する。複雑なようだが、デジカメだと撮った結果がすぐ確認できるし、慣れると意外に簡単だ カメラの使用感
完成した「マクロ撮影システム」を携え、藤沢市内の自宅付近で“身近な自然”を探してみた。その効果は絶大で、通常はセッティングに手間の掛かる2灯式のストロボ照明によるマクロ撮影が、手持ちで実に簡単に行えるのだ。しかし見た目が異様過ぎるカメラのため、人前で堂々と出して使う事が今ひとつ憚られるのが欠点だろう(笑)。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROの描写は素晴らしく、接写においても専用のマクロレンズに引けを取らないシャープな描写に、あらためて驚いてしまう。またズームの操作で望遠マクロと広角マクロの両方が可能で、1本のレンズで実に多彩な表現を楽しむ事ができる。レンズとしての質感も極めて上質で、ワンタッチでMFに切り替え可能なピントリングも、なめらかに操作できる。
欠点をあげるとすれば、レンズが多少大きめな分、最短撮影距離でのワーキングディスタンスが短い点だろう。特に付属ストロボ「FL-ML2」使用時にはレンズの影が写り込む場合があり、照明には何らかの工夫が必要になる。その意味で今回の改造マクロストロボは、なかなか上手く行ったといえる。
使用カメラE-M1は、小型軽量の新機種「OLYMPUS OM-D E-M10」が発売されてもなお、オリンパスの最高機種としてのアドバンテージはまだ十分にある。特に約236万ドットの高精細EVFは、マクロ撮影で多用するMFにおいて、非常に重宝する(E-M10のEVFは約144万ドット)。
ただ不可解なのは、オリンパスのデジカメにはいまもってモードダイヤルにいわゆる「ユーザー設定モード」が存在しない点だ。しかしこうした仕様はメーカー独自の思想というか宗教観の現れみたいなもの? であり、ファンとしては素直に受け入れるのが良いのかも知れない。(2014年6月20日追記:E-M1のモードダイヤルには「ユーザー設定モード」はないが、「マイセット」に登録した設定をダイヤルの「ART」及び「iAUTO」に割り当てることができる)
いずれにしろオリンパスのデジカメは、レンズをはじめとするシステムを含め非常によく考えられていて、その中でE-M1はやはり最高の機種である事を、今回の撮影であらためて実感する事ができた。
実写作品
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
ラミーカミキリという綺麗なカミキリムシを、80mm相当の望遠マクロで撮影。体長20mm程度の小さな虫だが、十分な大きさで撮影できる。描写も非常にシャープで、マクロレンズと較べて全く遜色がないのが驚きだ。しかしこの照明はテスト段階の1灯式で、自然な光ではあるがちょっと単調で物足りないともいえる。1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 40mm 同じラミーカミキリを24mm相当の広角マクロにて撮影。照明も同じく1灯式で、自然な感じに照明されている。画質もこれまた充分にシャープで、被写界深度も深く昆虫とその周囲の環境も描写されている。1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 12mm 今度は2灯式での撮影だが、近所の畑に咲いていたジャガイモの花である。正面からの弱めの光と、トップ気味の逆光とが相まって、花の透明感やてかりが綺麗に表現されている。野菜の花も、こうして見るとなかなか味わいがある。1/250秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 40mm 夕方から花を咲かせるマツヨイグサ。不定型な花粉や、花弁の細胞の粒立ち迄もが描写されている。路傍の草むらに咲いていた。1/60秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 40mm 強い香りを出すスイカズラの花。本体はつる性植物で、茂みに絡みついていた。ピントはマニュアルで中心の雌しべに合わせたが、E-M1のEVFは非常に高精細で、ピントの山もはっきり見分けられる。1/250秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 40mm 多肉植物のベンケイソウ科の花が咲いていたが、種類はわからない(エケベリア属?)。望遠マクロでの撮影だが、絞り込んでいるので多肉の葉の雰囲気も描写された。1/60秒 / F13 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 40mm 広角24mm相当で、路上に咲く花を撮ってみた。背景の露出をアンダー気味にして、手前の花をストロボの照明によって印象的に浮かび上がらせてみた。これはアスファルトに生えていたオニタビラコ。1/320秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 12mm 駐車場の片隅に生えていたカタバミ。どこにでも生えている雑草の代表だが、それだけにどこに生えているのかを選んで撮るかがポイントとなる。1/640秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 12mm 自動車が行き交う道路脇に生えていた、アカバナユウゲショウ。ストロボのディフューザーをあえて外して、硬めの光でエッジの立った照明をしてみた。1/320秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 12mm 水を張ったプラスティックの桶に咲いていた睡蓮の花。夕方になると花弁が閉じてしまい、朝になると再び開くという運動を数日繰り返す。水面にストロボ発光部が映り込まないよう、調整しながら撮影した。1/320秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 12mm 一見、シロツメクサの花を撮った写真のようだが、実は画面左上に飛んでるセイヨウミツバチが写っている。構図的にはちょっとズレ過ぎかも知れないが、ピントはばっちりで、隅々までに渡るレンズ描写の高さにあらためて驚く。1/250秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 12mm 路傍に生えていたエノキの葉に、テントウムシの幼虫がたくさん付いていた。しかしエサとなるアブラムシを食い尽くしてしまったようで、よく見ると同じ種の幼虫同士で共食いしている。テントウムシは幼虫も成虫も、見かけによらず結構凶暴なのだ。高性能レンズによって“小さな世界のドラマ”がはっきりと写し取られている。1/320秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / 12mm 「
糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」が開講中です。内容は「フォトモ」や「ツギラマ」などのワークショップと「岡本太郎批判講座史」など学問的講義の2本立て。日時は毎週土曜日。時間は10時~12時、13時~14時の2コマ。会場は「一般社団法人 TOURI ASSOCIATION」(東京都新宿区新宿5-14-3 有恒ビル6F 竹林閣内)。