切り貼りデジカメ実験室

世界初!? 老眼鏡から生まれた「二重焦点ズーム付きデジカメ」

100円ショップで売られていた「二重レンズ老眼鏡」をレンズに装着したリコー「CX6」。これによって1つの画面内に近距離と遠距離の両方にピントのあった写真が撮影できる、特殊カメラに変身した。以前この連載で、ライカレンズに倣って「FinePix X100」を“メガネ付きファインダー”仕様に改造という記事を書いたのだが。今回のカメラの方が正真正銘“メガネ付き”と言えるだろう(笑)。

老眼から生まれた撮影のアイデア

 こんにちは、糸崎公朗です。さて私事で恐縮なのだが、最近すっかり老眼になってしまった。はじめ、デジカメの背面液晶モニターや、携帯電話の画面が見づらくなって「あれっ?」と思ったのだが、遠くは普通に見えても近くのものがピンボケに見えるようになってしまった。

 こうした場合に必要なのが老眼鏡なのだが、これを掛けると今度は遠くがピンボケに見えるので、掛けたり外したりするのが面倒だ。この不便を解消するために、二重焦点レンズ老眼鏡(遠近両用メガネ)というものがある。これはレンズの一部だけに老眼の度が入っているメガネで、掛け替えることなく遠近の両方が見える便利アイテムだ。

 もちろん、こうした老眼鏡は昔から存在していたのだが、イマドキは100円ショップでも売られているから驚いてしまう(200円商品だが)。しかし実はぼくはもともと強度の近視で、これを掛けたところで全体がピンボケになり、全く用をなさない(笑)。

 ところがここで閃いたのが、この二重レンズ老眼鏡を、デジカメのレンズに掛けさせるアイデアである。そうするとつまり理屈の上では、同一画面内に遠くと近くの両方にピントが合った写真が撮れるはずである。

 遠近両方にピントが合った写真は、昆虫写真家の栗林慧さんが開発した、虫の目レンズ(超深度接写)が有名だ。そしてぼく自身も、マクロから遠景までピントをずらしながら撮影した写真をコラージュした「昆虫ツギラマ」を発表し、これによって「2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞」と言う大変に栄誉ある賞をいただいている。

 まぁ手前味噌はともかく(笑)、上記2つとはまったく別の方法によって、遠近の両方にピントを合わせるアイデアが生まれたわけだが、その効果は果たして……以下、実験過程とその結果をご覧頂ければと思う。

―注意―
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メガネレンズをカメラに装着する

素材となるのは100円ショップで購入した「二重レンズ老眼鏡」。しかし200円商品なのでちょっと高級だ(笑)。度数の違いで数種類が売られていたが、いちばん度が強い+4をセレクトしてみた。
パッケージから取り出した二重レンズ老眼鏡。レンズの一部だけが度の入った老眼鏡になっており、遠近の両方を見ることができる便利アイテムだ。実はぼくも最近老眼になってしまったのだが、もともと強度の近視なので、このメガネは全く役に立たない。
二重レンズ老眼鏡を純粋な“二重レンズ”にするため、片側だけをベンチで切り取り、ツルの部分をネジを緩めて取り外した。
さて、この二重レンズをどのカメラに装着するかが問題だが、今回はリコーCX6をセレクトした。理由は、「コンパクトデジカメなのでレンズ口径が小さい」、「10.5倍ズームで焦点距離による効果の違いが試せる」、「ステップズームやMFなどマニュアル機能が充実している」の3点だ。
二重レンズと、CX6のレンズ回りのそれぞれ2カ所に、細切りした面ファスナーを貼り付ける。
二重レンズをCX6のレンズ先端に装着すると、世界初!? の「二重焦点ズーム付きデジカメ」が誕生する。先端のレンズはもちろん着脱可能で、通常の撮影もできる。

テスト撮影

 テスト撮影は、わかりやすい被写体と言う事で、路上で手に持った10円玉を撮影してみた。また画角による効果の違いを確認するため、CX6をステップズームに設定し、各焦点距離ごとに撮影した。

 ピントはMFモードで無限遠に固定したが、これによって画面右半分は無限遠にピントが合い、左半分は老眼鏡の効果により近距離にピントが合った写真が撮れている。

 このテストでわかった事は、まずズームの広角側では“二重焦点写真”としての効果があまり得られない、ということだ。コンパクトデジカメの広角レンズはもともと被写界深度が深く、これを考えれば当たり前の結果だと言えるだろう。

 その変わり、望遠側ではこれまで見た事がないような、面白い写真が撮れる事が判明した。広角より望遠の方が、老眼鏡レンズによる撮影倍率が高くなり、二重焦点レンズとしての効果がより明確になる。それに、望遠写真でありながらマクロ域と無限遠の両方にピントが合った写真は、少なくともぼくはこれまで見た事がない。

28mm相当
35mm相当
50mm相当
85mm相当
105mm相当
135mm相当
200mm相当
300mm相当

実写作品と使用感

 作品はすべて85mm相当以上の望遠で行なったが、テストでも触れたようにこれまで見たことがないような、なかなか面白い写真になった。

 近景がマクロ写真並みにクローズアップされ、遠景も望遠の効果でクローズアップされるから、この両者の関係性を考えながら撮影するのが、この写真のコツのようだ。

 しかし撮影はかなり難しく、特にピント合わせが大変だ。今回はすべてMFモードで無限遠に固定して撮影したのだが、液晶モニターで近距離のピントチェックをするのがかなり難しいのだ。というのも、二重焦点老眼鏡は撮影用ではないので、正直ピントがあまりよろしくなく、従ってピントの山もどこなのか非常にわかりにくいのだ。

 画質の面は改良の余地があるものの、“カメラのレンズに眼鏡を掛ける”という即物性も含め自分では気に入っている。

 最後にCX6の使用感だが、普及タイプのコンパクトデジカメなのにもかかわらず、MFモードやステップズームなどマニアックな機能を搭載し、今回のような実験にもフレキシブルに対応してくれる。メーカーがペンタックスリコーイメージングとなってから、この機種の後継機は発表がないようだが、ぜひともこうした“カメラのことがわかった人のカメラ”の開発も継続していただきたいと思っている。

105mm相当
135mm相当
135mm相当
135mm相当
85mm相当
105mm相当
135mm相当
85mm相当
135mm相当
105mm相当

糸崎公朗

1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。「非人称芸術」というコンセプトのもと、独自の写真技法により作品制作する。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ ミノルタフォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。ホームページはhttp://itozaki.fc2web.com/ Twitterは@itozaki 「前衛実験NETART」所属。