切り貼りデジカメ実験室

「SIGMA DP3 Merrill」の高倍率マクロシステムを考える

改造クローズアップレンズと改造ストロボを装備した「SIGMA DP3 Merrill」。小型でさりげない外観ながら、実に驚くべき高精細な高倍率マクロ撮影を実現する。この撮影システムはまさにFoveon X3ダイレクトイメージセンサーの開発者であるDick Merrill氏と、ぼく自身との共作であって、なので「SIGMA DP3 Merrill-Itozaki」と名付けることにしよう(笑)


カリカリ描写の高倍率マクロを実現する

 デジカメWatch編集部から「SIGMA DP3 Merrillで、カリカリ描写の高倍率マクロのネタなどどうでしょう?」というようなリクエストをもらった。

 実はこの連載では去年「SIGMA DP2 Merrillのマクロシステムを考える」を掲載している。このさい、レンズ非交換式のDP2 Merrillにクローズアップレンズを装着する方法でマクロ撮影を実現したが、そのシャープな描写に自分でも驚いてしまった。

 そして同様の方式を採用する限り、ライカ判換算45mm相当の標準レンズを搭載したDP2 Merrillより、75mm相当の望遠レンズを搭載したDP3 Merrillのほうがより高倍率のマクロ撮影ができるのは確かで、ぼくとしても興味がある。

 もっともDP3 Merrillに搭載された「SIGMA LENS 50mm F2.8 MACRO」はその名の通りマクロレンズで、最短撮影距離22.6cmで1/3倍の撮影ができる。これはライカ判換算1/2倍相当で、ふつうの意味では十分なスペックだと言える。しかし逆に言えばもともとマクロレンズなのだから、さらに思い切った高倍率マクロ撮影を試してみたくなる。

 もちろんその際は非純正のクローズアップレンズを装着するわけだから、必ずしも高画質が保障されるわけではない。そう言うリスクはありながらも、ともかくDP3 Merrillを編集部から届けてもらったのだ。

 そしてさっそく手持ちのクローズアップレンズをいろいろ装着し試してみたのだが、結果としてはジャンク部品の中から割とあっけなく最適なレンズを見付けることができた。

 そのジャンク部品とは、実はこの連載の第3回『史上初!? 思い付きで生まれた「セミ魚眼付きコンパクトデジカメ」』で取りあげた、前玉をカットすることで「セミ魚眼カメラ」として再生されたリコー「Caplio R7」の、その前玉レンズなのである。

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レンズ改造とカメラへの装着

まずはノーマル状態のDP3 Merrillだが、ライカ判換算75mm相当の望遠マクロ「SIGMA LENS 50mm F2.8 MACRO」を固定装備したその姿は、いかにも“特殊機材”と言った雰囲気があり、なかなか精悍でカッコイイ。
まず手始めの工夫として、いつも通りの外付けストロボ サンパック「PF20DX」とタッパーを改造したディフューザーを装着してみる。これによりマクロ撮影時に起こりがちな手ブレや被写体ブレを抑えることができる。
DP3 Merrillの最短撮影距離22.6mmで撮影すると10円玉がこの大きさに写る。倍率は1/3倍(ライカ判換算1/2倍)で一般には必要十分だが、小さな虫などの撮影にはちょっと物足りないと言える。
そこで、手持ちのクローズアップレンズのうちもっとも高倍率のレイノックス「MSN-202スーパーマクロレンズ」をセレクト。同じくレイノックス製のステップダウンリング52mm>37mmを介して、DP3 Merrillのレンズ先端に装着してみる。
MSN-202スーパーマクロレンズを装着したDP3 Merrill。上手くいけばかなりの高倍率が期待できるが果たして……
左のシステムで同じ10円玉を撮影すると、この倍率で写る。絞りF8で最短撮影距離に設定しているが、高倍率と呼べるマクロ写真で画質もかなり良い。しかしこのクローズアップレンズは昨年掲載した「SIGMA DP2 Merrillのマクロシステムを考える」でも使用しているので、面白味に欠ける。
そこで、次にセレクトしたのがこちらの凸レンズ。小口径ながらかなり曲率が大きく、さらなる高倍率マクロ撮影が期待できる。さて、このレンズは何かというと……
実は本連載の第3回目『史上初!? 思い付きで生まれた「セミ魚眼付きコンパクトデジカメ」』でCaplio R7から摘出した前玉レンズを、37mmフィルター枠にはめ込んだ改造クローズアップレンズなのである。ちなみに魚眼仕様Caplio R7にはリコー製自動開閉キャップを装着し、バージョンアップを図っている。
この改造クローズアップレンズをDP3 Merrillに装着するとこのようになる。
同じ10円玉を撮影すると、確かに倍率は上がっている。しかし残念なことに、拡大して見ると全体にぼやっとソフトフォーカスになっている。この写真はF8に絞っているからまだましだが、実は絞り開放状態で表示されるファインダー像はもっとぼやっとしていて、ピント合わせもままならい。これでは実用にならなず、実験は失敗。やはりレンズには相性があるのだ。
しかし失敗を踏まえて取りあえず別の方法を試してみるのも切り貼り(ブリコラージュ)の方法論だ。そこで単なる思い付きなのだが、前玉クローズアップレンズを前後逆に取り付けてみることにする。というわけでステップダウンリング52mm>37mmの裏側に、改造クローズアップレンズを装着し直す。
さらに、52mm径の薄型中間リングである「ニコンKリング」(生産終了品)を装着。これで本体レンズへの装着が可能になる。
DP3 Merrillに改造クローズアップレンズを逆付け装着したところ。前面がフラットになって、なかなか綺麗に収まっている。さて、その描写は……
驚いたことに、そして嬉しいことに、非常にシャープな描写である。どのような原理でこうなるのかは不明だが、理由は分からずとも結果オーライなのがブリコラージュの精神なのだと、この概念の提唱者である文化人類学者レヴィ=ストロースも書いている。
あらためて撮影倍率を確認するため定規を撮影してみたが、ご覧の通り画面長辺で約11mmの撮影範囲であり、ここから計算するとライカ判換算約3.3倍相当の高倍率マクロ撮影が可能となる。イトマキ状の収差で直線が歪んで写っているのも確認できるが、自然物を撮影する限り問題になることはないだろう。ちなみにワーキングディスタンスは15mm程度で、あまり余裕はないと言える。


実写作品と使用感

 今回も藤沢市の自宅近所で植物や虫を撮影してみた。しかし植物の場合、高倍率マクロで撮影するとそれが何であるのかわからなってしまう。そこで同じ種類の植物を、クローズアップレンズを装着しないDP3 Merrillで撮影した写真も並べて掲載してみた。一方、虫についてはもとより異形の存在であるので、高倍率マクロ写真のみ掲載する。

 いずれの写真も肉眼を超えた高倍率マクロで、さらにMerrillセンサーの超高精細な描写と相まって、微小世界に隠された自然の驚異と言うものが堪能できるだろう。

 しかしこの写真を撮るのは実に大変で、ワンカットを撮るだけでへとへとに疲れてしまう。というのもDP3 MerrillのRAWで撮影すると、書き込み時間が掛かって撮った画像をすぐモニターで見ることができないのだ。

 この特徴はDP2 Merrillも同じだが、マクロ撮影の場合にこそ撮った直後に画像を見てピントの確認をしたくなる。さらにシビアな高倍率マクロ撮影の場合、それができないとなると非常にイライラして疲れてしまうのだ。

 しかしそのような苦労の甲斐あって、他のデジカメでは得られないシャープな写真が撮れるのだから嬉しくなってしまう。感覚としてはボディは小型ながら、ワンカットごと丁寧に撮影する中判や大判フィルムカメラに近いものがある。

近所の駐車場に生えていたオオイヌノフグリで、春に花を咲かせるいわゆる雑草の代表格だ。しかし高倍率マクロで拡大して見みると、米粒のような花粉と雌しべの神秘的形状に驚いてしまう。(左:クローズアップレンズ使用、右:クローズアップレンズ未使用)
ハコベの花は肉眼で見ると小さくて地味だが、こちらも拡大すると雄しべや雌しべに付いた花粉が宝石のように美しく、息を飲んでしまう。(左:クローズアップレンズ使用、右:クローズアップレンズ未使用)
ナノハナに似て紫色の花を咲かせるムラサキハナナ、そのつぼみの先端を拡大撮影してみたが、細胞の1つ1つがはっきり写し出されている。まさにぐんぐん成長する生命の勢いを見ることができる。(左:クローズアップレンズ使用、右:クローズアップレンズ未使用)
ツクシは花ではなく、スギナから生える胞子嚢だ。規則正しく六角形に割れた外殻の内側から胞子を放出する器官が見えているが、そのディテールはまるで怪獣を思わせる。(左:クローズアップレンズ使用、右:クローズアップレンズ未使用)
自宅の室内に迷い込んだキアシナガバチ。さんざん飛び回った挙げ句、一休みして脚の手入れをしているところをすかさず撮影した。本来は比較的攻撃性の強いハチだが、この季節に見られるのは女王バチで、実のところ滅多には攻撃してこない。(クローズアップレンズ使用)
勢いよく飛び回るヒメアカタテハだが、この個体はなぜか大人しく地面に止まっていて、至近距離でマクロ撮影することができた。複眼にピントを合わせると、そこにはたくさんの毛が放射状に生えているのが分かって驚いてしまう。恐らくゴミの付着の防止策で、昆虫ならではのダストリダクションシステムだと言える。(クローズアップレンズ使用)
リュウキンカの花を撮影しようとしたら、ヨコバイの一種が止まっているのに気が付いた。まだ幼虫で羽も生えていない。極小ながら意外にも立体的な形状で、ピント合わせには苦労してしまった。(クローズアップレンズ使用)
里山の水たまりに浮いていたムラサキトビムシ。子供のころの図鑑には原始的な昆虫と記載されていたが、最近では昆虫とは別の生物に分類されている。1mm程度の小さな虫だが、拡大すると着ぐるみの怪獣のようで、なかなか可愛らしい。三つ巴になって交尾をしてるようにも見えるが本当のところは分からない。(クローズアップレンズ使用)
葉っぱに止まったワカバグモを正面から撮影。カメムシの一種を獲物として捉えている。クモの仲間は目が複眼ではなく単眼で、それがいくつか顔面に並んでいる。(クローズアップレンズ使用)
コナラの樹液に来ていたハエの一種。肉眼で見ると地味な虫に過ぎないが、拡大すると球状の複眼が宝石を埋め込んだ工芸品のように美しい。頭頂部には3つの単眼も確認できるが、昆虫類は複数の異なるセンサーを使って、世界認識しているのだろう。(クローズアップレンズ使用)

糸崎公朗

1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。「非人称芸術」というコンセプトのもと、独自の写真技法により作品制作する。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ ミノルタフォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。ホームページはhttp://itozaki.fc2web.com/ Twitterは@itozaki 「前衛実験NETART」所属。