「SIGMA DP2 Merrill」のマクロシステムを考える

Reported by糸崎公朗

「SIGMA DP2 Merrill」の潜在能力を引き出すために考案したマクロシステム。純正のクローズアップレンズに、社外品のクローズアップレンズを加えて、各種倍率に対応している。いずれの組み合わせもマスターレンズとの相性が良く、新型イメージセンサーFoveon X3 Merrillならではの高画質が堪能できる。外付けストロボとディフューザーも用意したが、全体としてコンパクトなマクロシステムとしてまとまった。

並外れて高画質なコンパクトデジタルカメラ

 シグマは他社に先駆け、デジタル一眼レフと同様のAPS-Cサイズセンサーを搭載したコンパクトデジカメを発売してきたが、その最新機種が「SIGMA DP2 Merrill」だ。

 存じのようにシグマのデジタルカメラは一眼レフのSDシリーズも、コンパクトタイプのDPシリーズも、一般的なベイヤー式イメージセンサーとは構造が異なる、独自の「Foveon X3ダイレクトイメージセンサー」を搭載している。何でも右へ倣えの日本の風潮にあって、独自の方針を貫く企業ポリシーは敬意に値する。

 しかしながら、ぼく自身はこれまでシグマのデジカメは使う機会がなかった。というのもこれまで同社のデジカメは、一眼レフの「SD14」も、コンパクトタイプの「DP1x」および「DP2x」も、カタログスペック上は約1,406万画素(2,652×1,768×3層)であっても、実際の記録画素は470万画素で、今ひとつ食指が動かなかったのだ。

 もちろんそれで画質に不足がない事は、シグマのデジカメユーザーは理解していたはずだが、結局のところぼく自身は“右へ倣え”の高画素信仰にはまっていたのだった。

 しかしDP2 Merrillは、同社の新型一眼レフ「SIGMA SD1 Merrill」と同様の、新型イメージセンサーFoveon X3 Merrillを搭載し、有効画素数4,600万画素(4,800×3,200×3層)、記録画素数約1,500万画素で、画素数で他社に対し引けを取らなくなった。

 するとぼくも俄然興味が出てきて、Foveon X3 Merrillイメージセンサーがどれほど凄いのか試したくなり、コンパクトボディのDP2 Merrillをメーカーからお借りすることにしたのだ。だたしデジカメWatchでは大浦タケシさんがレビューしてしまっている。

 そこでぼくはマクロ撮影を試すことにしたのだが、DP2 Merrillの最短撮影距離は28cmで、今時のデジタルカメラとしてはちょっと物足りない。

 しかし幸いなことに、シグマからは専用のクローズアップレンズ「AML-2」(8,925円))が用意されており、これを装着すると最短撮影距離(レンズ前面から)が19cmまでに短縮され、草花や小物の撮影には便利そうだ。だが、さらに小さな昆虫などの撮影にはまだ物足りない。そこで今回は手持ちのクローズアップレンズのうち、さらに倍率の高いものを装着し比較撮影を行なってみた。

 まぁ、普通にマクロ撮影を楽しむなら、デジタル一眼レフであるSD1 Merrillに、同社のマクロレンズを装着するのが無難だろう。しかしDP2 Merrillにクローズアップレンズを組み合わせれば、撮影システム自体コンパクトになる。それにこのカメラに搭載されたレンズ「SIGMA LENS 30mm F2.8」と相まって、そのポテンシャルを最大限に引き出してみたくなったのだ。


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SIGMA DP2 Merrill(右)は最短撮影距離が28cmで、今時のデジタルカメラとしてはちょっと長めだ。そこで専用クローズアップレンズ「AML-2」(右)が用意されている。1群2枚構成で、やや厚みがある。本体への装着は、49mm径フィルター取り付けネジを介して行なう。また、AML-2の先端にも49mm径フィルター取り付けネジが切ってあるので、レンズキャップなどのアクセサリーも取り付け可能だ。DP2 MerrillにAML-2を装着したところ。撮影範囲は19~32cmとなり、小物や草花の撮影には便利そうだ。しかし昆虫撮影にはちょっと物足りない。
そこでAML-2(左)より倍率の高いクローズアップレンズとして、オリンパス製「IS/L LENS A-LIFE SIZE MACRO H.Q.CONVERTER f=13cm」(中)と、さらに高倍率のレイノックス製「MSN-202スーパーマクロレンズ」(右)を用意してみた。「IS/L LENS A-LIFE SIZE MACRO H.Q.CONVERTER f=13cm」(生産中止品)は、かつてオリンパスから発売されたフィルムカメラ「OLYMPUS L1」および「OLYMPUS L2」専用アクセサリーだ。専用ケース(左)とディフューザー(右)とのセットになっている。
専用ディフューザーはレンズ枠に設けられた溝に、カチリとはめ込むことができる。非常に良くできたアクセサリーだが、残念ながらこれに相当する製品は現在のオリンパスからは発売されていない。このクローズアップレンズの欠点は、先端にフィルターネジが切られていないことだ。これではレンズキャップが装着できず、非常に不便。そこでガラスを抜いたジャンク品フィルター58mm径(右)を用意し、これを先端に取り付けることにした。
まずフィルター枠の裏側に、ご覧のように両面テープ(強力タイプ)を貼る。接着した両面テープの、余分な部分をカッターナイフで切り取る。
先端に、フィルター枠を装着して完成。これで58mm径のレンズキャップが装着可能になる。DP2 Merrillに「IS/L LENS A-LIFE SIZE MACRO H.Q.CONVERTER f=13cm」、専用ディフューザー、サンパックの外付けストロボ「PX20F」を装着したところ。ディフューザーのサイズはジャストフィットで違和感がない。レンズキャップの装着も可能になり、携行性もなかなか良い。
レイノックス製MSN-202スーパーマクロレンズは、43mm→37mm(中)、49mm→43mm(左)、のステップダウンリングを重ね、レンズに装着する。もちろん49mm→37mmのリングが用意できるなら、それを使うに越したことはないだろう。DP2 MerrillにMSN-202スーパーマクロレンズを装着したところ。外付けストロボにはタッパーとコンビニ袋を素材とした自作ディフューザーを装着している。

テスト撮影

 方眼紙をバック紙にしたミニサボテンを被写体に、簡単な撮影倍率の比較撮影を行なってみた。装着するクローズアップレンズの種類を変更し、ピントはMFの拡大モードで距離設定∞と、距離設定28cmの2種類で撮影している。

 その他の撮影設定は、絞り、ISO感度、ホワイトバランスなど同一条件にしている。照明はカメラに装着した外部ストロボと、スタジオ撮影用のスレーブストロボを併用し、これも共通している。

 またカメラによるJPEG画像と、RAW現像よるJPEG画像の比較も掲載する。RAW現像は「SIGMA Photo Pro」を使い、すべてのパラメーターを変更せずJPEGに現像している。

 テストの結果は、今回用意したいずれのクローズアップレンズもDP2 Merrillとの相性は良好で、画質の劣化はほとんど感じられない。さらにカメラによるJPEG画像でも十分シャープに感じるのに、RAW現像よるJPEG画像はさらにベールが取り払われたように解像感が増す。DP2 Merrillのポテンシャルにあらためて感心してしまった。

 比較したクローズアップレンズのうち、シグマ純正のAML-2の画質が良好なのは当然のことと言えるだろう。

 オリンパスの旧製品「IS/L LENS A-LIFE SIZE MACRO H.Q.CONVERTER f=13cm」は本連載では初登場だが、実は装着するレンズによっては十分な画質が得られないことがある。しかしDP2 Merrillとの相性は抜群で、十分に実用になる。

 レイノックス製「MSN-202スーパーマクロレンズ」は口径が小さく厚みがあり、メーカーでは100mm相当以上の望遠ズームと組み合わせることを推奨している。しかしDP2 Merrillに装備されたSIGMA LENS 30mm F2.8はレンズ径が小さく、そのため45mm相当の準標準レンズにもかかわらず、ほとんどケラレが見られない。画質も素晴らしく、DP2 Merrillで気軽に高倍率マクロが楽しめる。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
クローズアップレンズ未使用 / 撮影距離設定28cm / DP2 Merrill / 約7.2MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:晴れ / 30mm
クローズアップレンズ「AML-2」使用 / 撮影距離設定∞ / DP2 Merrill / 約7.7MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:晴れ / 30mm
クローズアップレンズ「AML-2」使用 / 撮影距離設定28cm / DP2 Merrill / 約6.9MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:晴れ / 30mm
クローズアップレンズ「IS/L LENS A-LIFE SIZE MACRO H.Q.CONVERTER f=13cm」使用 / 撮影距離設定∞ / DP2 Merrill / 約6.3MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:晴れ / 30mm
クローズアップレンズ「IS/L LENS A-LIFE SIZE MACRO H.Q.CONVERTER f=13cm」使用 / 撮影距離設定28cm / DP2 Merrill / 約7.3MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:晴れ / 30mm
クローズアップレンズ「MSN-202スーパーマクロレンズ」使用 / 撮影距離設定∞ / DP2 Merrill / 約7MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:晴れ / 30mm
クローズアップレンズ「MSN-202スーパーマクロレンズ」使用 / 撮影距離設定28cm / DP2 Merrill / 約7.5MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:晴れ / 30mm

実写作品と使用感

 DP2 Merrillを最初に手にしたときの印象は“懐かしい”というものあった。なぜかを考えてみたら、角張って厚みのあるボディが、1970年代のライカ判フィルムコンパクトカメラの感触に、よく似ているのだ。確かにちょっと持ちにくくはあるが、ほどよい抵抗感にモノとしての主張があり“撮る道具”として悪くない印象だ。

 カメラとしての操作性はなかなか良好で、シャッターボタン周りの電子ダイヤルのクリック観も心地良く、QSボタンなどのインターフェイスもわかりやすい。シグマのDPシリーズが代を重ねるごとに、ユーザーの意見を反映しながら改良を重ねてきただろう事が感じられて好印象だ。

 さて私事で恐縮だが、実はこの7月から10年以上住み慣れた東京都国分寺市を離れ、神奈川県藤沢市に引っ越した。ということで、今回の撮影は新天地の藤沢市で行なった。近所の雑木林周辺を散策すると、国分寺とは生物層が微妙に異なっていて、なかなか新鮮だ。

 各種クローズアップレンズを持ち歩き、倍率に応じてDP2 Merrillにとっかえひっかえ装着しながら撮影するのは、なかなかに楽しい。もちろんマクロレンズで撮影した方が便利だが、この場合もまず被写体の大きさに応じて撮影倍率を決め、ピントを固定して撮影することが多い。だからクローズアップレンズ交換方式のマクロ撮影は、それなりに合理的な方法なのである。

 MFの際、DP2 Merrillはピント拡大モードを備え精密なピント合わせが可能だ。しかしシャッターの半押しで表示が解除されてしまう方式で、マクロ撮影にはちょっと不便だ(もとよりその用途のカメラではないので仕方のないことだが)。一方でAFは特に高速ではないものの、きちんとピントが合うのでマクロ撮影でも実用になる。

 おおむね良好な操作感のDP2 Merrillだが、戸惑ったのは画像の書き込み速度の遅い点である。特に撮影直後に画像がプレビューできない点は、ピントチェックを頻繁に行うマクロ撮影では不便を感じた(バッファに余裕があるので撮影そのものは可能だが)。

 またバッテリーの持ちが悪く、撮影した1日目は予備バッテリーをうっかり忘れてしまい、かなり焦ってしまった。しかしその分、目が醒めるようなシャープな写真が得られるのだし、フィルムのように1枚1枚大事に撮るカメラだと思えば、納得できるものがある。

 なお、今回の撮影には外付けストロボと、これに同調するスレーブストロボ「モーリス ヒカル小町Di」を併用した。またRAWからの現像の際は、適宜補正を加えている。

 実写作品はRAWで撮影し、SIGMA Photo Proで現像した。必要に応じて現像パラメーターを変更している。

縮緬のような花びらがユニークな、サルスベリの花。純正クローズアップレンズAML-2を装着し、ピントはAF、露出はプログラムモードのお気軽撮影だ。しかしストロボをしない撮影なので、風による被写体ブレに気を遣ってしまった。クローズアップレンズ「AML-2」使用 / DP2 Merrill / 約8.4MB / 4,704×3,136 / 1/200秒 / F5 / +0.7EV / ISO200 / プログラム / WB:オート / 30mm毛むくじゃらの変わった花を咲かせるガガイモの花。小さい花なので純正より倍率の高いクローズアップレンズを使用。植物の場合はストロボ無しの自然光で、絞りを開け気味に撮ると雰囲気が出る。クローズアップレンズ「IS/L LENS A-LIFE SIZE MACRO H.Q.CONVERTER f=13cm」使用 / DP2 Merrill / 約8.8MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F4 / 0EV / ISO200 / プログラム / WB:オート / 30mm
木の芽のように見えるが、実はアオバハゴロモという昆虫で、集合することで擬態効果を高めている。その様子を捉えるため、倍率が低めの純正クローズアップレンズを装着し撮影した。クローズアップレンズ「AML-2」使用 / JPEG / カラーモード:スタンダード / DP2 Merrill / 約9.6MB / 3136x4704 / 1/80秒 / F3.5 / -0.3EV / ISO200 / プログラム / WB:オート / 30mmイチジクの木で見付けたキボシカミキリで、その名の通り黄色の斑文と長い触角が特徴。背景がうるさい条件だったので、絞りを開け気味にし自然光で撮っている。クローズアップレンズ「IS/L LENS A-LIFE SIZE MACRO H.Q.CONVERTER f=13cm」使用 / DP2 Merrill / 約9.9MB / 4,704×3,136 / 1/640秒 / F4 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 30mm
同じキボシカミキリの顔面を、高倍率マクロレンズで撮影。ストロボを使用し、絞り込んだおかげで、肉眼を超えたディテールがクッキリ描写されている。クローズアップレンズ「MSN-202スーパーマクロレンズ」使用 / DP2 Merrill / 約8.1MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / WB:晴れ / 30mmモモスズメというガの一種の頭部を、高倍率クローズアップレンズで拡大。ピクセル等倍で鑑賞すると、鱗粉の形や触覚のディテールなどがハッキリ分かる。クローズアップレンズ「MSN-202スーパーマクロレンズ」使用 / DP2 Merrill / 約9.7MB / 3136x4704 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:晴れ / 30mm
黄色に黒い縞模様の、その名もヨツスジトラカミキリ。ハチに擬態しているカミキリムシの仲間だ。国分寺市ては見たことなかったが、藤沢のではたびたび見かけることができた。クローズアップレンズ「IS/L LENS A-LIFE SIZE MACRO H.Q.CONVERTER f=13cm」使用 / DP2 Merrill / 約10MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / WB:晴れ / 30mm違う虫のようだけど、キバラヘリカメムシの幼虫(左)と成虫(右)。成虫は原が黄色いのでこの名前があるが、幼虫は羽が短いので背中も黄色い。派手な色なのは臭い臭いを出すことをアピールし、鳥などの天敵から身を守るため。クローズアップレンズ「IS/L LENS A-LIFE SIZE MACRO H.Q.CONVERTER f=13cm」使用 / DP2 Merrill / 約10.1MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:晴れ / 30mm
キリギリスの一種のヤブキリ。雑食性だが前足は他の昆虫を捕らえるためのトゲが発達して、怪獣のような迫力がある。クローズアップレンズ「IS/L LENS A-LIFE SIZE MACRO H.Q.CONVERTER f=13cm」使用 / DP2 Merrill / 約9.9MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:晴れ / 30mm長さ30cmほどのシマヘビの子供。こちらを威嚇し首を持ち上げているが、無毒のヘビだ。実は体を靴で軽く押さえながら撮影しており、その後は逃がしてあげた。クローズアップレンズ「IS/L LENS A-LIFE SIZE MACRO H.Q.CONVERTER f=13cm」使用 / DP2 Merrill / 約8.5MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / WB:晴れ / 30mm






糸崎公朗
1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/Twitterは@itozaki

2012/8/10 00:00