小林幹幸の “フィルデジ” トーク

“フィルデジ”とは? その由来を解説しよう

写ルンですを始め、フィルムでの撮影が若い世代にブームの昨今。女性ポートレートで人気の写真家・小林幹幸さんも、フィルム撮影の楽しさを提唱する一人です。

フィルムのアナログ画像をデジタル画像にする“フィルデジ”を巡るこの連載。

今回は小林さんの“フィルデジ”作品とともに、“フィルデジ”への想いを語ってもらいました。(編集部)

写ルンですのデータを雑誌で見た時、これは新しい表現手段だ! と感動したことを覚えている。露出がアンダーになったところの粒子の荒れがフィルムの魅力とも言える。どこか未完成なものに惹かれてしまう。フィルムはそんな魅力があるように思える。(モデル:ちゃんめいさん)
写ルンです シンプルエース

ハーフサイズのカメラのオリンパスペンで撮影。記憶の中の1ページという感じに写り込む。これはこれでありだと思う。逆に大伸ばしにした方が良い味が得られた。(モデル:山崎マリアさん)
OLYMPUS PEN-F / 38mm F1.8 / 1/250秒 / F4/ FUJICOLOR業務用ISO100

どんなに高性能なデジカメが発売されても、イメージセンサーが正方形のデジカメは未だ発売されていない。ローライなどの二眼レフの愛用者が多いのもその辺に理由があるように思う。中判フィルムで撮影すると思ったほど粒子は目立たない。(モデル:霞さん)
Rolleiflex 2.3E / 80mm F2.8 / F2.8 / 1/125秒 / FUJICOLOR PRO400H 120

これはアグファのカラーフィルムを使った写真。コントラストが最初から高くビビッドな色再現ができる。若干シアンに転んだ色味も、少し荒い粒子感もフィルムで撮影する良さを味わえる。最近はこのように、日にち、時間などを入れられるカメラも人気だという。(モデル:佐野小波さん)
Nikon F6 / 50mm F1.4 / F2 / 1/250秒 / AGFA vista 200

フィルムを使う良さの大きな利点は中判カメラが使えることではないだろうか。15年前の僕はこれと同じ機材で仕事をしていた。色味が変わっていくのも時代の変化だろう。(モデル:kinokoさん)
PENTAX 67 / 135mm F4 / 1/125秒 / F4 / FUJICOLOR PRO400H 120

中判カメラの6×7cmで撮影すると、細部は35mmで撮影したものより、細かくスキャンされる。デジタルカメラで撮影したと言ってもわからないだろう。(モデル:ツナマヨさん)
PENTAX 67 / 75mm F2.8 / 1/500秒 / F4 / FUJICOLOR PRO400H 120

––“フィルデジ写真館”より(撮影:小林幹幸)

“フィルデジ”って何?

フィルデジって何ですか?ってよく聞かれるんですよ。

これは僕が作った造語で、昔からあるフィルムをデータ化しCDにしてくれるフォトCDサービスを今風に言い換えただけなんです。

カメラがデジタルへ向かう過渡期、当初は写真のインデックスとして使われるだけだったのですが、最近の写ルンですブームから、フィルムのデジタルデータが静かな脚光を浴びてきたんです。

インスタグラムなどのSNS利用に、手軽に面白い写真が撮れるフィルムが若い女子を中心にブームになってきました。

中古カメラ屋さんにも若年層が増え始め、中古カメラ店も増え始めるなどフィルムカメラの周りも盛り上がってきました。

写ルンですで撮った写真が雑誌にで始めると、これは僕らプロでも十分実用になるぞ! と閃いたのです。

著者近影

フィルデジは僕が昔からあるものを見つけ出しただけなんです。

「写ルンです」もネーミングが素晴らしいですね。フォトCDも良いネーミングが付いていたら事情もちょっと違ってきたのかと思います。

フィルデジが最高のネーミングとは思ってないのですが、根っからネガカラープリントで生きてきた世代の僕らには、フィルムはプリントしてこそ、素晴らしさが味わえるものと、固定観念に縛られていたんです。

良い画質を求めるならデジタルで良い。今の若い人たちは画像が悪くても、もっと新しいものを求めていたんです。

最初は冗談半分、フィルデジって……とツイッターでつぶやいていたら、なぜか広まってしまいました。

記録性より記憶性

画像の綺麗なデジカメはいくらでもあります。

でもフィルムの良いところは、フィルムにしか出せない味、立体感や、粒子感。高価なフィルムを使うからか、今しか写せない刹那感なども感じるんです。

画質の良いデジカメが記録性が高いのに比較すると、フィルムは記憶を喚起させる力があったりするんです。

デジタルカメラとフィルムカメラの違いは何でしょう。

デジタルカメラで撮ると絵を自然と意識している自分がいます。プロとしての仕事のクセなのかもしれません。

でもフィルムで撮ると、記憶の1ページというか。何もしなくてもそこに立っているだけで良いと思ってしまうところがあるんです。

過剰な演出や演技を要求しなくても、そこにいる光と空気がフィルムの粒状性と相まって絵を創ってくれるというか。

もちろんフィルデジも画像編集ソフトをかけることによってデジタルに近い状態にすることもできますが、ここではあえてフィルムのデータが上がってきたそのままの設定でコントラストなど微妙な調整だけで仕上げています。

まだフィルム写真を試したことのない人もこれを見て興味を持ってくれたら嬉しいです。

現在は現像屋さん頼みのスキャニングも手軽に高画質な画像ができるスキャナーが出るともっと裾野は広まっていくと思います。

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ショートムービー「谷中・日暮里レトロカメラ店の謎日和」から。7月6日から始まる企画、柊サナカさん、三葉堂寫眞機店との共同開催で行う合同写真展用の1枚。(モデル:まみこさん・武田迅人さん)撮影:小林幹幸
PENTAX 67 / 105mm F4 / 1/250 / F4 / FUJIFILM PRO400H 120

フィルデジ作品を鑑賞!「谷中・日暮里 レトロカメラ店の謎日和 写真展」

中古カメラ店を舞台にした柊サナカさんの小説「谷中・日暮里 レトロカメラ店の謎日和」。この小説の世界をテーマにした写真展が始まります。小説に関係するテーマで公募された作品は、すべてフィルムカメラで撮影されたもの。フィルデジ形式の作品を見るチャンスです。

会期中の各土曜日(7月8日・7月16日・7月22日、18時30分〜20時)には、小林幹幸さん制作のショートムービーが上映されるほか、柊さんが参加するトークショーも実施されます。

開催期間:7月6日(木)〜7月11日(火)、7月13日(木)〜7月18日(火)、7月20日(木)〜7月25日(火)
開催時間:11時〜19時
会場:三葉堂寫眞機店ギャラリー

(編集部)

小林幹幸

1963年生まれ。東京工芸短大卒業。APA会員。写真集、スクールガールシリーズでNYのエージェンシーART+COMMERCEから世界の13人の写真家に選ばれる。主にファッション広告、写真雑誌、アイドル雑誌等で活動。”東京シャッターガール”を監督するなど映像、映画監督としても活動している。