ミラーレス向けZEISSレンズ、その魅力と実力を探る
第3回:レトロな外観に現代的な高画質…「Loxia」で撮る!
高級感あふれる外観と気持ちのよい操作感 操る楽しさが撮影意欲を高める
2016年6月2日 07:00
第1回、第2回に続き、第3回はカールツァイスのフルサイズEマウント用マニュアルフォーカスレンズ、Loxiaシリーズについて実写インプレッションする。使用したカメラボディは前回のBatisシリーズ同様、ソニーα7R IIだ。
第2回:流麗なデザインのAFレンズ「Batis」で実写 ZEISSらしい抜けの良さと緻密さ 階調やボケにも注目!
第1回:ZEISS新潮流「Batis」「Loxia」とは AF vs MF、有機EL vs 距離目盛…キャラクターの違う2シリーズを俯瞰する
Loxia 2.8/21
ソニーα7R Ⅱに装着して構えると、このレンズのルックスがとても美しいことに気がつくはずだ。ソリッドでムダのない外観デザインはボディにとても良くマッチしている。
またマニュアルフォーカスリングのトルク感と、絞りリングの節度感もほどよく、操作していて気持ちいい。指先でフォーカスリングを繰り、EVFでジワッと被写体が合焦していくのが何ともいえない。
レンズ構成は9群11枚のDistagonタイプで、非球面レンズ、異常部分分散性の特殊ガラス製レンズをふんだんに使用している。最短撮影距離は25cmだ。
発売日 | 2016年1月22日 |
希望小売価格 | 19万4,000円(税別) |
焦点距離 | 21mm |
開放F値 | F2.8 |
レンズマウント | Eマウント |
AF機構 | なし |
レンズ構成 | 9群11枚 |
最短撮影距離 | 0.25m |
フィルター径 | 52mm |
外形寸法 | 62.1×85mm(ピントリング最大径×レンズキャップ含む全長) |
重量 | 394g |
21mmという広い範囲を歪みなく四角い空間に閉じ込めることができるレンズがこのLoxia 2.8/21だ。肌のトーンから服のディテールまで、カールツァイスらしいきめの細かさで写しとられている。マニュアルでピントを合わせるということと、絞りリングを操るという、カメラの基本的動作を改めて確認しながらシャッターを切ったが、そのプロセスを含めて「写真撮影」なんだなと再確認することができた。
独特な意匠のビルに思い切り寄ってシャッターを切った1枚。そのクリアかつクールな印象をイメージ通りに撮ることができた。このような被写体はシャドウ部が落ち込んでしまうケースが多いのだが、このレンズはハイライト部までキレイなグラデーションを見せてくれた。
21mmという画角は都会ではとても重宝する。なぜなら引きが取れない場所が多いからだ。ワイドなこのレンズならば狙った被写体をあますところなくフレーム内に収めることが可能だろう。もちろんもう一歩踏み込んでパースペクティブを活かした表現を楽しむのもアリだ。
このレンズは植物のグリーンと建物のメタリックな感じを、実に緻密でシャープに写しとった。オートフォーカスレンズなら一瞬で撮影が完了するが、EVFを覗きながら自分の指でピントを合わせ絞りを決めるのが楽しい。指先に伝わってくる各リングの感触が心地よいのだ。写りも楽しめるが、撮影のプロセスも楽しめるのがLoxiaである。
Loxia 2/35
扱いやすい準広角ともいえる画角を持つLoxia 2/35。引いてワイドレンズ的に、寄って標準レンズ的に使えるこの距離感は、初めてのLoxiaレンズとして最適かもしれない。
開放F値がF2ということもあり、フルサイズセンサーを活かしたボケ味を楽しんだり、光量が少ないシーンでの撮影でも大いに活躍してくれるはずである。
Loxiaシリーズに共通していえることだが、レンズフードの緻密な造りも見逃せない。装着時にレンズ鏡筒との段差が少なく、とても美しい佇まいだ。逆付けしての収納時も同様である。
発売日 | 2014年12月12日 |
希望小売価格 | 13万6,300円(税別) |
焦点距離 | 35mm |
開放F値 | F2 |
レンズマウント | Eマウント |
AF機構 | なし |
レンズ構成 | 6群9枚 |
最短撮影距離 | 0.3m |
フィルター径 | 52mm |
全長 | 62.1×66mm(ピントリング最大径×レンズキャップ含む全長) |
重量 | 340g |
重厚な雲が近づく浜辺。その波打ち際を歩く2人。このレンズは微妙な空模様と、砂利が多い浜の様子を克明に写しだした。空と海の難しいトーンをしっかりと捉えることができたのには驚いた。素直でナチュラルな画角は、スナップから風景など様々な被写体を撮影するのに向いている。
消波ブロック上でこちらを見上げるモデル。少し険しい表情をリクエストしてシャッターを切ったが、海風で乱れる髪の毛一本一本、服の立体感、艶めかしくクロスした足まで、実にクリアに撮ることができた。背後で白く砕ける波のハイライトも、実によく粘っていると思う。
太陽光が直接モデルを照らしているところを、ストレートにシャッターを切ったカット。モデルの髪や眉毛、睫はもちろん、産毛までカールツァイスらしく、ありのまますべてをメモリーカードに定着してくれた。F8と絞り気味のカットではあるが、フルサイズセンサーなので背景はほどよくボケて、モデルが浮かび上がって見える。
少しだけ絞って東京駅のドームを撮影。窓から差し込む光を見せるため、ややアンダー気味の露出とした。ドーム内の装飾や鳥よけのネット、窓までとてもよくシャープに描写してくれたのが嬉しい。マニュアルレンズだがLoxiaシリーズは撮影データをExifに残せるので、撮影時を正確に振り返ることができるのだ。
Loxia 2/50
手に馴染む絶妙なバランスを持つ標準レンズがLoxia 2/50だ。開放F値はF2となるが、その分スリムかつコンパクトに仕上がっている。
Loxiaシリーズはマニュアルフォーカスとなるが、そのピント合わせがとても快感なのだ。α7 Ⅱシリーズに装着し絶妙なトルク感のフォーカスリングを回すと、フォーカシングの過程がEVFに拡大されて表示されるので正確なピント合わせが可能になっている。
絞りリングも「カチカチ」と小気味よいクリック感でF値を変えることが可能だ。もっともマウント部に設けられた調整ネジを付属のツールで操作すれば、それをなくすこともできるので動画撮影時にも安心である。
カールツァイス伝統のシャープでクリアな写りを、上質なマニュアル操作で楽しめるのがこのLoxiaシリーズなのだ。
発売日 | 2014年10月24日 |
希望小売価格 | 9万7,300円(税別) |
焦点距離 | 50mm |
開放F値 | F2 |
レンズマウント | Eマウント |
AF機構 | なし |
レンズ構成 | 4群6枚 |
最短撮影距離 | 0.45m |
フィルター径 | 52mm |
外形寸法 | 62.1×66.2mm(ピントリング最大径×レンズキャップ含む全長) |
重量 | 320g |
教会の尖塔をバックにモデルの瞳にフォーカスしてシャッターを切る。絞り開放F2だがLoxia 2/50のキレ味には驚いた。実にシャープで立体感がある描写ではないか。イヤな収差もなく開放から安心して使っていける性能を持っていると感じた。素直なボケ方も好印象だ。
絞り開放時の前ボケも後ボケもとてもクリーンで自然に感じる。それでいてコントラストも十分だし、浅いピント面の描写も実にシャープ。この薄いピントをマニュアルフォーカスで合わせるのが、このLoxia 2/50の醍醐味と言えるかもしれない。この快感を一度味わうと離れられないだろう。
適度に絞ってやることで、その描写はより固くシャープさが立ち上がり、立体感がきわまってくる。モニュメントのザラザラとしたメタルの質感や、ボルトの固さが画面から伝わってこないだろうか。鈍い光の反射は見た目の印象そのままに捉えられている。
城壁を背景にモデルをサイドから。絞り開放でのピント面の際立ち具合には本当に恐れ入るほどである。それでいて欄干による前ボケと、城壁の端正なボケ味には驚かされる。やや傾きかけた曇りの日の微妙な色合いもきちんと捉えている。このレンズ、かなりスゴい。
まとめ:同じZEISSでも異なるキャラクター。お気に入りの1本と出会いたい
最後にBatisとLoxiaの違いについて述べておこう。
Batisはカールツァイス製レンズをソニーのネイティブレンズのように、高速かつ正確なオートフォーカス撮影で楽しみたい人向けの製品だ。
一方、Loxiaはピント合わせから絞りの操作まで、撮影というプロセスをじっくりと味わいたい人向けの製品となっている。どちらも上質な写真を手にすることが可能だが、その”過程”をどう味わいたいかによってチョイスが異なる。
両レンズ群ともボディ側と通信しExif情報を残せるなど、ソニーと協業しているメリットを享受できるもの見逃せない点だ。自分の撮影スタイルに合わせて、これぞという1本を選んで使い込んでみて欲しい。
モデル:高実茉衣
協力:カールツァイス株式会社