日本カメラ博物館は、特別展「王国の気品 マホガニー&ブラス イギリスカメラ展」を9月15日から12月20日まで開催する(月曜休館。シルバーウィークを含む9月15日〜9月27日は休まず開館)。本稿では開幕前日の9月14日に行われたプレスプレビューの様子をお伝えする。
協力は英国王立写真協会、英国国立メディア博物館、コバヤシヤスヒト フォトグラフィック コレクションズ(KYPC)。後援は駐日英国大使館。
マホガニーなどの木材と真鍮を用いたイギリス伝統家具のような“気品”を特徴とするカメラを中心に、湿板カメラからロールフィルムカメラ、インスタントカメラまで歴代のイギリス製カメラを一堂に展示する。イギリスは写真の発展・普及にも大きな役割を果たしており、当時日本に伝来した写真技法も多くがイギリス由来。イギリス製のカメラやレンズは写真師たちの憧れだったという。
今回の目玉は、写真発明者のひとり、ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットが1830年代に実験に使用した「ねずみ捕りカメラ」(マウストラップカメラ)。英国王立写真協会からの寄託により、英国国立メディア博物館に収蔵されている品で、英国連合外の国に初めて貸し出された。
開幕前日には、タルボットのカメラのアンベールが行われた 国宝級のカメラを扱うにあたり、展示場所は気圧、温度、湿度の変動幅や、照明の明るさ(100ルクス以下)、展示ケースのガラスの厚さ(12mmの特注品を使用)まで厳しく規程されている。館内の撮影が例外的に可能となるプレスプレビューの同日においても、タルボットのカメラに限ってはフラッシュの使用を堅く禁じていた。
展示されている中でも特に時代の古いものには、特別展のタイトルにもある「マホガニー&ブラス」と称される特徴がまさに現れている。仕上げの美しい木製の箱に、金色に輝く真鍮製のパーツや、赤い蛇腹が目を引く。また、箱を組み立てるネジの向きが全て揃えられている点などには、機能性・実用性を超えた風格が漂う。
湿板カメラ(1860年頃、会社不祥)。スライディングボックスからベローズへの変遷期の1台 ヘーア 湿板ステレオカメラ(1860年頃、ジョージ・ヘーア) ダルメヤー ステレオカメラ(1860年頃、J.H.ダルメヤー)。湿板80×170mm 英国郵便使用カメラ(1906年、ブッチャー&サン。KYPC所蔵)。乾板80×132mm。一度に2枚の写真を撮影。反射ファインダー付き メイフィールド フォールディングカメラ(1900年、J.T.メイフィールド)。乾板83×108mm。当時貴重なアルミニウム製を用いている 四眼カメラ(1895年、会社不明)。乾板32×55mm。4本のペッツバールタイプレンズを搭載。ワンショットで1コマを撮影 サンダーソン レギュラー(1902年、ホートン。KYPC所蔵)。乾板83×108mm。黒革張りのモデル デーヴォン マイクロテレスコープ(1910年、F.ダビッドソン)。乾板83×108mm。マイクロ撮影から超望遠レンズ撮影まで行なえるという ステレオパノラミック社使用カメラ(1913年、ロンドン・ステレオスコピック。KYPC所蔵)。乾板112×160mm アカデミー1号(1882年、マリオン)。乾板30×30mm。形式上はボックスカメラ、ファインダー形式の分類では二眼カメラとなる1台 ローバー(1892年、ランカスター&サン。KYPC所蔵)。乾板83×108mm。手提げ付きの革ケースも用意されたディテクティブカメラ(カモフラージュされたカメラ) ソホレフレックス ステレオ(1905年、マリオン。KYPC所蔵)。乾板75×165mm。一眼レフ型のステレオカメラ。ファインダースクリーン上で立体効果を確認しながら撮れる ソホレフレックス(1910年、マリオン)。乾板65×90mm。日本で大正〜昭和前期にかけ最も人気の高かったという大型一眼レフ パーマ スペシャル(1937年、ハンター)。127フィルム32×32mm。カメラを縦や横にして構えると3速のシャッタースピードを選べる樹脂製カメラ ソルントン-ピッカード 射撃カメラ マークIII(1915年頃、ソルントン-ピッカード)。120フィルム45×60mm。第一次世界大戦中に英空軍用に納入された射撃訓練用カメラ。飛行機などに積んで、実弾を使うかわりに目標物の写真を撮るといいう レイフレックスI(1950年頃、レイ・オプチカル)。135フィルム24×32mm。ライカ判より長辺が4mm短いフォーマット。ポロミラー方式の一眼レフカメラ リードI(A)(1959年頃、リード&シグリスト)。135フィルム24×36mm。英国製のライカコピー機。市場での販売は未確認 イルフォード アドボケート(1953年、イルフォード・リミテッド)。135フィルム24×36mm。固定式35mmレンズを搭載 ウィットネス(1951年、イルフォード・リミテッド)。135フィルム24×36mm。レンズ交換式の連動距離計透視ファインダーカメラ。装着レンズはダルメヤースーパーシックス2インチF1.9 サットン パノラミックカメラ(1858年、コックス)。湿板38×87mm。中に水を入れた画角120度の水球レンズで、ガラス湿板も半円状に製造 ヒル全天カメラ(1924年、R.&J.ベック)。乾板65mm円形。世界最初の魚眼レンズ付きカメラ。雲量観測に用いた。日本など各国でも使用 ホートン レディースバッグカメラ(1907年、ホートン&ブッチャー)。127フィルム40×65mm。女性用ショルダーバッグの中に「ベスト・ポケット・エンサイン」カメラを隠した Six-20 ブローニーF(1955年、コダックUK)。620フィルム60×90mm ボーイスカウト コダック(1931年、コダックUK)。127フィルム40×65mm。イギリス製はダークグリーンの結晶塗り仕上げ 右:コダック オートスナップカメラ(1950年、コダックUK)。127フィルム40×40mm。左:コダック オートカラースナップ35(1962年、コダックUK)。135フィルム24×36mm ポラロイド EE22(1976年、ポラロイド)。インスタントフィルム70×73mm ワトキンスのBEE METER(露出計)もパッケージとともに 解説パネルと展示カメラの写真を収録した図録。1,600円 なお日本カメラ博物館では、世界初の市販カメラとして知られ、世界に数台が現存するという「ジルー・ダゲレオタイプ・カメラ」(フランス)を常設展示しており、今回の特別展会期中は、1830年代に写真技術の開発に寄与したタルボットとダゲールに関連する貴重なカメラを一度に見られる。
日本カメラ博物館の所在地は、東京都千代田区一番町25番地 JCII一番町ビル(地下1階)。開館時間は10時〜17時(11月7日は12時開館)。毎週月曜休館(9月15日〜9月27日は開館)。入館料は一般300円、中学生以下無料。
9月27日までは、日本カメラ博物館に隣接する「JCIIフォトサロン」において幕末・明治の高名写真師 内田九一 Part1「皇城と西国・九州巡幸」を併催。