新製品レビュー

ライカQ(外観・機能編)

最新ライカを“いいとこ取り”したフルサイズコンパクト

35mmフルサイズの撮像素子を持つレンズ一体型デジタルカメラ、ライカQ(Typ116)が登場した。ライカを代表するシステムである、レンジファインダーのライカMシステムと、APS-CサイズのCMOSを搭載するライカTシステム、ライカXシリーズの間に位置するカメラだ。発売は6月20日、価格は税込58万6,440円。

ライカらしいフォルムに、EVFやタッチパネルなどの先進UI

外観はライカX(Typ113)に近い雰囲気。本体はマグネシウム合金、トップカバーは無垢のアルミニウムからの削り出し。とても美しい仕上がりだ。こうしたこだわりの製法はライカらしさが感じられると同時に、クラフトマンシップが伝わってくる。

レンズ鏡筒を除く本体部分の大きさはライカM(Typ240)より幅が狭く、重さもライカMより46gほど軽い。特にライカMにレンズを装着した状態だと、ライカQが圧倒的に軽く感じる。とはいえ、金属らしい重さもあり、デジタルカメラというより精密光学機器という印象だ。

ライカQ(左)とライカM(ライカ エルマリートM f2.8/28mmを装着)。フルサイズでEVFやAF、タッチパネルを搭載している割にはコンパクトだ。

特徴的なのが、背面のサムレスト部分。これまでライカMシリーズやライカXシリーズでは、親指を掛ける部分が盛り上がっていた。ところがライカQでは、逆に窪ませている。指がしっかり掛かるだけでなく、ホールドしていると、ボディが薄く感じるのだ。そのため軽快感が強くなっている。またボディ前面に貼られているシボ革は、ライカXバリオのシルバーカラーのものに近いテクスチャー。モダンな雰囲気を持ち、滑り止め効果も高い。

背面のサムレストは窪んでいる。見た目もスッキリしているが、ホールドしたときにもボディが薄く感じられる。またその左には、サムボタンを装備する。
サムボタンの機能の割り当て。デジタルズームは後述するクロップのこと。その他AEロックとAFロックの同時ロックや、AFロックのみ、AEロックのみが選択できる。
レンズフードが付属。先端のリングを外し、フードをネジ込む。
いっぱいまでネジ込むと、ちょうどいい位置になる。フードは、現行のライカ ズマリットMレンズに近いデザイン。このままレンズキャップも装着できる。

ライカQはEVFも新たに内蔵した。368万ドットもあり、とても滑らかで快適な視認性だ。アイセンサーも装備し、ファインダーを覗くと自動で背面モニターからEVFに切り替わる。そのアイセンサーの感度はメニューから高低2種類の選択が可能。もちろん、背面モニターのみ・EVFのみの表示に設定することもできる。

EVFはアイセンサーを持つ。それでもアイカップは薄く仕上げてあり、ライカQのデザインを損なわない。またアイピースも大きくて見やすい。
ライカQを構える筆者。

背面モニターは3.0型の104万ドット。タッチパネルになっていて、サムホイール(上面ダイヤル)と十字キーによる操作だけでなく、タッチによる操作も可能だ。撮影時はタッチAFによるピント位置の選択や、露出補正、ホワイトバランスの設定がタッチで行なえる。

タッチAFに設定し、手前のリンゴにタッチ。背景のカメラとボトルがボケている。
カメラを固定したままカメラにタッチ。カメラにピントが合って、リンゴがボケた。
AFモード6種類。1点測距では、十字キーで測距点の移動が可能だ。またトラッキングは一度被写体を捉えると、フレーミングを変えても追い続ける。そしてタッチAFは、測距点を選ぶだけでなく、タッチレリーズも可能。

そして再生は、ライカTのように背面モニターを上下にスワイプすることで再生画面の表示が可能。さらにピンチ操作による拡大や縮小、スワイプによる戻り、送り、など、その操作感はまさにライカTであり、スマートフォン的といえる。拡大した画面をダブルタップで戻すのも便利だ。タッチの反応も良く、スムーズな操作ができる。ダイヤルとボタンで操作するか、タッチで操作するかはお好み次第。筆者も撮影中、そのとき使いやすい方法で操作していた。

再生はPLAYボタンを押すだけでなく、背面モニターを上下にスワイプしても再生される。ライカTと同じ操作だ。
ピンチで拡大。サムホイールで拡大や縮小も可能。
タッチでスクロール。十字キーでも可能だ。
縮小すれば、インデックスにもなる。
ワイプで戻る、送る、ができる。スマートデバイスの操作感だ。
タッチで露出補正も可能。なお絞り優先AEとシャッター速度AE時は、サムホイールで露出補正の設定も可能だ。
こちらはホワイトバランスをタッチで変更。
「PLAY」ボタンは再生ボタン。「FN」は機能の割り当てができるファンクションボタンだ。背面モニターは背面部とフラットで美しい仕上がり。
FNボタンは、このような機能の割り当てができる。ちなみに筆者は、一番上のホワイトバランスに割り当てていた。

フルサイズ+寄れる28mmレンズの可能性

レンズはライカ ズミルックス f1.7/28mm ASPH.。F1.7の明るさでもズミルックスと呼ぶのは、ライカXでも同じだ。ライカといえば、50mmや35mmが定番の焦点距離だが、28mmを選んだのは意外だ。

レンズはライカ ズミルックス f1.7/28mm ASPH.。第1面が凹面だ

しかしライカMシステムのユーザーなら、50mmか35mmのいずれかは所有しているだろうし、フルサイズ機で軽快に撮影するなら28mmは扱いやすい焦点距離といえる。しかもフルサイズ28mmでF1.7の大口径。広角レンズで浅い被写界深度の写真が楽しめるのがポイントだ。

AFはコントラスト検出方式のみだが、とても速い。最短は30cm。マクロに切り替えると17cmまで寄れる。その切り替えがユニークで、鏡筒付け根のリングをMACROにすると、距離指標がスライドして近接用に切り替わる。昔ながらの距離指標があるのもライカらしいが、このギミックは精密機械の雰囲気があって楽しい。

またピントリングには、ライカMレンズを彷彿させる指掛けを装備。指掛けについたロック解除ボタンを押しながらピントリングを回転させると、AFからMFに切り替わる。MFはピントリングを回すと自動で拡大。ピーキングも可能だ。ファインダーを覗き、指掛けに指を当ててピントを合わせていると、まるでライカMシステムで撮影しているような感覚になる。

まるでライカMレンズのような指掛け。AFからMFに切り替えるときには、ボタンを押しながら回す。
ピントリングを回すと画面が拡大される。ピーキングで確認もできる。拡大は3倍と6倍が選べて、これは3倍。
6倍に拡大。よりシビアなピント合わせの際に有効だ。
ピーキングは4色から選択できる。

レンズ構成は9群11枚。うち非球面レンズを3枚使用している。そしてMADE IN GERMANYのライカでは初めて、光学式手ブレ補正機構を搭載した。いくら広角レンズとはいえ、フルサイズの2,400万画素。ちょっとしたブレでも目立ってくる。しかも17cmまで寄れるので、ブレにはシビアだ。手ブレ補正が入ったのはとても嬉しい。

通常の撮影状態。距離指標の最短は30cmだ。ピントリングや絞りリングのローレットがライカらしい。
鏡筒付け根のリングをMACROに回すと、30cmから17cmまで寄れるマクロモードになる。
レンズ先端に絞りリングを備える。絞り開放よりさらに回すとプログラムAEやシャッター速度優先AE時に使用する「A」に入る。ライカD-LUXと同じ仕様だ。

撮像素子は35mmフルサイズの有効2,420万画素CMOS。フルサイズ2,400万画素といえば、ライカM/M-P(Typ240)と同じだ。しかしライカM/M-PのISO感度がISO200〜6,400(拡張ISO100)なのに対し、ライカQはISO100〜50000。さらに画像処理エンジンは新型の「LEICA MAESTRO II」を採用し、連写の最高速は10コマ/秒を実現している。

画素数は28mmが最大2,400万、35mm相当が1,500万、50mm相当が800万画素。さらにサイズを小さくすることも可能だ。
記録はJPEGとDNG+JPEGのどちらか。ライカTやライカXシリーズと同様に、DNGのみはできない。
JPEG設定から色空間の選択と仕上がりの調整を行う。なお今回のレビューでは、モノクロ以外、初期設定の「中」で撮影している。
モノクロは「彩度」から設定する。黄色や赤などのフィルター機能は持たない。

“ライカ的”なクロップ撮影

28mm単焦点レンズのライカQだが、35mm相当(1.25倍)と50mm相当(約1.8倍)にクロップも可能だ。画素数は35mm相当が約1,500万画素、50mm相当は約800万画素。十分実用的な画素数といえるだろう。

特に35mm相当なら、1,800万画素のライカM-EやライカM9シリーズと併用しても近い感覚で扱える。なおクロップでもライブビューの画面は拡大されず、レンジファインダーのブライトフレームのような枠が表示されて、切り取られる部分が確認できる。MFでクロップ撮影は、まさにライカM気分だ。

フル画素28mm。通常の撮影の状態だ。
28mmの記録イメージ
35mm相当にクロップ。枠が出て、切り取られる部分がわかる。
35mm相当の記録イメージ
50mm相当にクロップ。これで28mmの約1.8倍。
50mm相当の記録イメージ

DNG形式のRAWでも撮影すると、クロップでもフル画素を記録。Lightroomで展開すると、そのままではクロップされた状態だが、クロップを解除すると28mmに戻る。クロップしても画面が拡大されず、枠しか出ないのは、ライカMの気分が味わえるだけでなく、28mmに戻すことも想定したフレーミングをする際にも有効なのだ。

DNGでも撮影し、Lightroomに読み込んだ。左が28mm、中央が35mm相当、右が50mm相当。28mm以外は右下にトリミングされていることを示すマークが表示されている。
50mm相当の現像画面。「切り抜き」ボタンをクリックすると、フル画素で記録されていることがわかる。「初期設定」にすると、28mmに戻る。

電子シャッター、無線LAN機能など

シャッターはレンズシャッター。最高速は1/2,000秒。しかし電子シャッターも利用可能で、最高は1/16,000秒だ。これだけの高速シャッターが切れれば、明るい場所でもF1.7の絞り開放を活かすことができる。シャッター速度優先AEやマニュアル露出時に1/2,000秒より速いシャッター速度にする場合は、サムホイールで設定する。

軍艦部は電源とドライブレバーを兼ねたシャッターボタンとシャッターダイヤル、サムホイール、そして動画ボタン。カメラらしいレイアウトだ。シャッターダイヤルの2000に「-」があるのに注目。1/2,000秒以上のシャッター速度はサムホイールで設定する。
撮影モードはマニュアル、サムホイールで1/16,000秒に設定したところ

そして無線LAN機能も搭載した。しかもNFCにも対応。無線LAN機能といえば、すでにライカTにも採用されているが、アプリは「Leica App T」ではなく「Leica App for iOS」を使用する。スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスに転送したり、スマートデバイスからリモート撮影が可能だ。

無線LAN機能の設定。NFCにも対応しているので、NFC対応のスマートデバイスとタッチするだけで接続できる。

最新ライカを“いいとこ取り”した1台

ライカQは多機能ながら、昔ながらのカメラらしい操作も、タッチパネルによる現代的な操作も楽しめる。しかもどちらの操作もシンプルで使いやすい。ライカMシステムの伝統と、ライカTのタッチ操作、ライカXシリーズの軽快さのすべてを盛り込んだカメラだ。

トップカバーはストロボを内蔵せず、シンプルだ。アクセサリーシューの手前には、動画用のステレオマイクを持つ。動画はフルHDに対応。
右側側面には、HDMI端子とUSB端子を装備する。
バッテリー。小型ながら、DNG+JPEGで600ショット以上撮っても、まだ撮影が可能だった。またSDカードスロットもこの場所に備える。
ライカQのメニュー画面。フォントも見やすい。クロップ機能は「デジタルズーム」と表記されている。

さらにライカMシステムと同じ35mmフルサイズフォーマットで、ライカMシステムより近接撮影に強い。手ブレ補正や最高感度ISO50000の強みある。そのため、これまでのどのライカとも異なる表現が可能になった。ライカQはライカの伝統と革新が直に伝わってくるカメラに仕上がっていることを感じた。

「OIS」が手ブレ補正。オンとオフはメニュー画面から設定する。
電子水準器も搭載。
傾いていると赤に、水平は緑で表示。左右と上下の傾きに対応。
全自動を含め、13種類のシーンモードも搭載している。ジオラマやパノラマ、タイムラプスも可能だ。

次回の「実写編」では、ライカQの実写作例や画質の印象についてお届けする。

藤井智弘

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になる。現在はカメラ雑誌での撮影、執筆を中心に、国内や海外の街のスナップを撮影。公益社団法人日本写真家協会会員。