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【CES】シグマ山木社長に聞く「DP3 Merrill」の狙い

 2013 International CESにブースを構えたシグマは、開幕にあわせて「DP3 Merrill」を発表した。標準域の「DP2 Merrill」、広角域の「DP1 Merrill」に加え、新たに中望遠域をカバーするDP3 Merrll。その意図を会場にいた山木和人社長に聞いてみた。(聞き手・写真:桃井一至)

DP3 Merrillを手にするシグマ山木和人社長

DPシリーズは「3」で完結?

−−APS-CのFoveonセンサーを搭載するDP Merrillシリーズに中望遠のDP3 Merrill(75mm相当)が新たに加わると発表されましたが、今後の展開はどのようになるのでしょうか?

山木:DP3 Merrillは、DP1 Merrill(28mm相当)、DP2 Merrill(45mm相当)と合わせて3つでシリーズ完成のような形になります。

75mm相当でF2.8(実焦点距離50mm)を搭載したDP3 Merrill。発売は2月

−−じゃあ「DP4 Merrill」はないんですか?

山木:そこはあまり突っ込まないでいただければなと(笑)

−−DP1 MerrillとDP2 Merrillの市場評価はどうですか?

山木:デジタル一眼レフカメラの「SD1 Merrill」と同じAPS-Cセンサーに加え、専用レンズを搭載しているのである意味当然といえば当然なのですが、どちらもボディサイズ的には大きいものの、コンパクトカメラのカテゴリで「ここまでの解像度が出るのか」という驚きをもって評価していただいたと去年実感しました。

 また、去年は“高画素”もキーワードでした。これまでコンパクトカメラというと手軽さばかりクローズアップされていましたが、高画素のカメラに対してある程度手軽にアプローチできるという意味で「ミラーショックがない」「レンズシャッターでショックが少ない」といったコンパクトならではの点が見直されたのではないしょうか。高画素の一眼レフでちゃんと撮ろうとすると、ブレ要素に対する配慮が求められ、気軽ではない部分もあります。

−−望遠域への要望は大きかったのでしょうか?(※取材を行なったのはDP3 Merrillの発表当日)

山木:DP1 MerrillとDP2 Merrillを出した頃に、中望遠と超広角に対する要望がありました。今回は使い勝手とラインナップのバランスを考えて中望遠にしました。

−−DP3 Merrillは最初からDP Merrillシリーズの構想にありましたか?

山木:正直に言うと、決めてはいませんでした。

−−Merrill以前のDPシリーズは広角と標準の2種でしたが、市場の様子を見ながら検討していたのでしょうか。

山木:そうですね。DP1 MerrillとDP2 Merrillの開発を始めた時はまだ決めていなかったのですが、発売以後ファンの方に評価していただいたので、そのファンの方に提案したいなと製品化を決めました。

−−ソフト面は基本的にDP1 MerrillやDP2 Merrillと一緒ですか?

山木:はい。DP3 Merrillには顔認識など多少新しい機能を入れていますが、それもファームアップで同じ機能になります。

−−そのファームウェアのリリース時期はいつぐらいを予定していますか?

山木:DP3 Merrillが2月発売予定なので、その前後になるかと思います。

−−これまでミラーレスカメラ用にDP1 MerrillやDP2 Merrillと同じ焦点距離の交換レンズを発売していますが、DP3 Merrillにも同様の構想はありますか?

山木:評価もいただいているので検討したいです。レンズシャッターかフォーカルプレーンシャッターかの違いがあるので、ミラーレス用は焦点距離は同じでもそれぞれレンズとしては別の設計です。ただ設計コンセプトは同じで、DPのイメージをそのまま交換レンズにしました。

ブランドイメージが変化

−−一眼レフ用の「35mm F1.4 DG HSM」の市場評価はいかがですか?

山木:とても高い評価を頂いています。特に海外での評価が高いです。これまでずっと品質を磨いてお客様に愛されるような商品を目指し、ただ単に“いいもの”だけではないプラスαの要素に取り組んできたつもりだったのですが、それが形になり評価を頂いているというのを感じます。自分たちでは変わったつもりはありませんが、「シグマは変わった」とよく言われます。

新プロダクトライン「Art」の第1弾として登場したSIGMA 35mm F1.4 DG HSM。キヤノン用とシグマ用が発売済み。1月18日にニコン用が発売される。価格は12万3,900円

−−それは画質面でしょうか、それともコンセプトでしょうか?

山木:基本的には画質面のようです。テスターの方がいろいろテストをして、まずは画質に強い印象を持たれています。

 ただ今回の反応を見ると、それにプラスαのものもあるのかなという気もしています。全体的な製品の完成度や、愛着を持ってモノとしての完成度を高めたいという思いもあり、デザインなどいろいろ工夫をしました。そうした我々の製品に対する思い入れのようなものも含めて高い評価をいただいているのかなという気がしています。

 例えばFoveonセンサーを使った専用のMTF測定器で全数検査を行なうなど、総合的な部分でも評価をいただいているのかと思っています。海外でもシグマが変わったという言われ方をしていて、自分でも意外に思っています。

−−DP Merrillへの評価なども追い風になって相乗効果で、という部分もありますか?

山木:そうですね。しかしDPはどちらかというと日本での評価が高く、海外はまだ認知されていないところも多いです。アメリカやヨーロッパなどはまだまだこれからだと思います。

−−それは難しいカメラと思われているからなのでしょうか。

山木:それもあるかもしれませんが、そもそもシグマがDPのようなカメラを作っていることを知らない方も多いと思います。日本、韓国、中国、台湾あたりでは感度の高いユーザーが広めてくれることもありますが、ヨーロッパやアメリカでは、アジアに比べてそうした部分が弱く、認知が広がりません。取り扱ってもらえない販売店さんも多く、これからの課題と考えていて、もう少し頑張らなければいけなかったなと反省しています。

−−今回のDP Merrillシリーズは急な盛り上がりでしたね。

山木:販売数量そのものは予想の範囲内ではあるのですが、発表時の日本での反応は予想以上でした。

期待がかかる「Monochrome Mode」

−−DP MerrillシリーズやSD1シリーズで使える「SIGMA Photo Pro」のモノクロ現像モード(Monochrome Mode)は、SIGMA Photo Proのアップデートという形になるのでしょうか。

山木:そうです。カメラのファームウェアをアップデートすることで、RAW記録時にモノクロームモードで撮影することも可能です。カメラ内のJPEG生成にはその処理が実装されておらず、その時のJPEGは今まで通り、カラー画像から彩度だけ抜いたモノクロになります。

 新しいモノクロームモードで撮影すると、RAW画像に「これはモノクロームモードで撮影した」とタグが付き、最初からその状態で展開されます。すでに普通のカラーで撮っていても、RAWであればモノクロームモードで処理できます。

現像ソフトSIGMA Photo Proに追加される「Monochrome Mode」

−−モノクロームモードのメリットはどういったところでしょう?

山木:まずFoveonセンサーそのものがハイエンドのモノクロ撮影に向いているという特徴があります。既存のモノクロ専用デジカメのメリットは、カラーフィルターと色補間がなくシャープで、ローパスフィルターがない、という2点が大きいですが、Foveonセンサーは元々そうなので、条件が同じになります。

 今までのカラー画像から色を抜いただけのモノクロ画像と違うのは、専用の画像処理を行なうようになるので、いわゆるモノクロ画像でとても重要になるトーン、グラデーション、ディテールをきちっと残すことができます。モノクロ写真に必要な要素をより追い込んである点が大きいです。

 また、低感度域ではダイナミックレンジが若干広くなり、高感度域ではノイズが劇的に改善されていて、それも彩度を抜いたカラー画像とはだいぶ異なります。Foveonだと高感度時の色ノイズが厳しいのですが、モノクロだとそれがなくなるため、高感度に強くなるのもメリットです。

 いわゆるモノクロ専用デジカメというのは色情報を持っていないのですが、Foveonセンサーで撮影したデータは色情報を持っているので、モノクロ写真らしいカラーフィルター効果も使えます。ベイヤー配列のカラーセンサーとモノクロ専用センサーのいいとこ取りで、モノクロ画像に理想的なカメラシステムになっていると言えるのではないでしょうか。

−−モノクロが世界的にトレンドになっているから、という狙いはあるんですか?

山木:いえ、実は昔から構想があったのですが、プライオリティの関係でなかなか着手できませんでした。しかしFoveonにいる1人の“モノクロ大好き男”から「絶対にやらせてくれ!」と提案があり、色々なプロジェクトを遅らせずにできるなら面白いからやりましょう、という流れでできました。

 Foveonセンサーの基本性能としてモノクロの強みを認識していたので、どうしても弊社製品のユーザーにモノクロ現像を提供したいという気持ちが強かったのは事実です。

−−ライカMモノクロームについて、内部の反応はいかがでしたか。

山木:流石だな、と思いました。それだけモノクロを大切にするんだなと。あの会社にはアウトプットから写真機を見る「写真ありき」の文化がまだありますよね。そうすると、当然ベイヤー配列のカラーセンサーでは弱い部分があり、Foveonのテクノロジーを持っていないとなれば、ああするしかない。そこからああいうカメラを作ってしまうのはすごいと思いますし、おそらくそういう商品を出しても買ってくれるお客さんがいると確信できるからでしょう。ある意味、羨ましいですし、すごいと思います。

−−ここ数カ月でライカMモノクロームが出てきたり、モノクロが盛り上がりつつあるのかなと感じたのですが、どうお考えですか? Mモノクロームのようなモノクロ専用デジカメが追い風というより、モノクロ愛好家が増えているような気がしますが。

山木:海外では根強いですね。モノクロ専用の写真専門誌があったり、モノクロならではの表現にファンが多いのだと思います。

−−今までのモノクロモードとSIGMA Photo Proの新しいモノクロームモードで現像したものを比較すると、どうでしょう?

山木:色を抜いて現像したモノクロ画像と、モノクロームモードで現像したものをお客様が比べれば明らかだと思います。特に、高感度のノイズは違って見えてくるはずです。

−−SIGMA Photo Proの動作要件は変わりませんか?

山木:変わりません。プログラムの中に画像処理のモードが追加された形になるだけです。既存ユーザーさんなら投資なしでモノクロームモードを楽しめるので、今まで撮りためたものもこのモードで現像できます。

 被写体によって「これはモノクロがよかったな」というカットがあれば、モノクロームモードでよりハイクオリティに現像できるので、いろいろ楽しんでもらいたいなと思います。

−−ゆくゆくはカメラ内でもモノクロームモードで現像できるように?

山木:できればそうしたいと思っています。現状ではカメラ内の処理だけで行なおうとすると、カラー用の処理とモノクロ用の処理を両方入れることになりパワーや容量の問題で難しいのですが、今後研究していきたいです。カラーもモノクロもいいとこ取りできるのはFoveonセンサー最大の特徴だと思うので、そこを活かさない手はないと思っています。

−−CP+2013(2013年1月31日〜2月3日)にはこれ以外のネタも期待していいですか?

山木:新しい方向性のものなど、いくつか新製品を用意しています。ご期待いただければと思います。

(デジカメWatch編集部)